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猫と、雨  作者: 周防駆琉
13/31

4 Month Later (1)

そろそろ恋愛モードに!!

「やぁ、色男。俺にも一本くれる?」



 衣替えで重い制服のジャケットがなくなったのはいいけれど、きっと彼女達にとっては密かに、俺にとっては明白に向けられる熱のこもった視線を防ぐものを失った気がする。そんな視線の中吸う煙草は何とも言えない。というか、視線がイタイ。


 その視線の原因である男はいつも通り整った顔で制服を着崩していた。



「ロセット補佐官と一緒にいるといい気分になるね」


「色男はあなたです、ヒューズ団長」



 仕方なく一本差し出すと、ヒューズ団長はそれを咥えると俺の顔に自分の顔を寄せる。なんで男同士で煙草の火を分け合わなければならないんだ。俺はそっぽを向いてそれを拒む。



「やめてください。俺は彼女達に楽しい噂を提供する気はありません」


「ちぇっ、残念だなぁ。こうでもしないとそのキレイな顔を近くで見る機会なんてないんだけどな」


「だったら俺じゃなくてあなたの悪友にしたらどうですか。あの人のほうがずっと整った顔してるじゃないですか」


「……まだ死にたくないよ」



 ヒューズ団長は煙を吐き出すと、まるで煙草がまずいかのように眉をひそめた。団長の悪友であり、俺の上司であるラース・クヴァント宰相と火を分け合う想像でもしたのだろう。あの人がほほ笑みかければ飛ぶ鳥どころか、流れ星まで落ちてくるという噂まである容姿を持つ上司だが、穏やかな態度の下で何を考えているのかは図り知れない。



「ところで、よくも横取りしてくれたね」


「リタ・ロセットのことなら俺のほうが先です。あいつに秘密で宰相補佐室への仕官を手配していたところにあなたが割って入ったんですから。あの人だってそう言いませんでしたか?」



 結局、あの数日後にリタは宰相補佐室付きの下官として働き始めた。いろいろ面倒な手続きもリタのために頑張ったし、あの人も「やっと会わせてくれますか」と怪しげな笑みを浮かべながら手伝ってくれた。


 身分は俺の遠い親戚ということにして、わざわざロセットを名乗らせた。多少の虫よけにはなるだろう。



「あーあー…久々にいい人材に巡りあったと思ったのに」


「そういえば、団長はリタとどうやって意気投合したんです?」


「聞いてない?そっかぁ、じゃあ言えないな。先に言っとくが、俺はあの子を気に入ってるから君がどんな条件を出しても言わないよ。じゃ、楽しませてくれてありがとね」



 ヴィル・ヒューズ。彼は女癖の悪さがなければ、素晴らしい人だと思うんだが。


********************************************************************



 宰相補佐室で働くようになってから、シェイドの事を全然知らなかった事に気付いた。当然だけど、家にいる時には見たこともない厳しい態度や口調には最初はドキドキしたし、シェイドが私が思っていた以上にたくさんの仕事を抱えていることにも驚いた。


 そして、一番気になるのがシェイドが煙草を咥えている姿を良く見ることだ。流石に補佐室にいる時には火がついていないことが多いけど、書類を片手に外で煙をくゆらせる光景は補佐室の日常風景らしい。服についた香で喫煙者だとは知っていたけど私の前では全く吸わなかったから、ヘビースモーカーだなんて知らなかった。


 「どうして家では吸わないの?」って聞くと、どうやら仕事の時だけ吸いたくなるらしい。それだけ大変ってことなんだろう。今もシェイドはどこかに出ていて部屋にいない。ついついシェイドのその姿を探したり、目で追ってしまう。



「リタちゃん、さっき頼んだ資料出来てる?あとこっちの書類だけど、クヴァント宰相を探してサインをもらってきてくれる?多分他の部署を見回ってると思うんだ」



 渡された書類を持って、補佐室からでると回廊でシェイドとヴィルさんが話を終えたところのようだった。補佐室とは逆方向に立ち去りながら、私に気が付くとひらひらと手を振ってくれた。アルバイトを断る形になってしまって申し訳なく思う私に、彼は「リタちゃんのせいじゃないからね。いつでも団長室に遊びにおいで。手合わせをしよう」と言ってくれた。


 そろそろ仕事にも慣れてきたし、ヴィルさんはすごい強い人だから是非あの技を取得したい。



「どこにいくんだ、リタ」


「クヴァント宰相を探しに」



 ヴィルさんにお辞儀をして顔を上げると、すぐそばにシェイドがいた。休憩後のはずなのに、どうしてか機嫌が悪い。二人は仲が良くないのかもしれない。



「なんでリタが?お前はこっちを処理しといてくれ。エル、クヴァント宰相にサインもらってこい」



 シェイドは私の持っていた書類を取り上げると、その代わりに自分が持っていた書類を押し付ける。そして私が行くはずだった仕事は別の下官の手に。


 いつもこう。シェイドは私を補佐室から出したがらない。最初は補佐室から出ると視線を感じて素性がばれたのかも、とびくびくしていたけど、どうやらそれは私がフェグリット人だからだったらしく、最近は堂々と出歩けるようになった。よく考えれば唯一会ったことのあったシェイドやクヴァント宰相が気付かなかったのだからばれるはずもない。


 なのに、なかなかシェイドが外に出るのを許してくれないから、私はリズダイクの王城では補佐室の周囲と帰り道しか行ったことがない。かなり不満だが、シェイドはここでは私の上司で後見人だ。大人しく口をつぐむとぐりぐりと頭をなでられた。



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