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ショットバー「パープルナイト」① 紫王院柊太登場!

 ここは京都市北区の某所。桜も散って、そろそろ新緑が芽吹くという4月末のある日のこと、一人のヘルパー(訪問介護員)が仕事を終えて事業所へ帰ってきた。

「四谷所長。今月のサービスも今日で終わりなので、実績表をお届けに来ました。」

年のころは20代半ばのうら若い男性がリュックの中から書類を取り出しながら言った。服装はブルーのデニムパンツに白色系のスウェットを着用していた。靴は黒系のスニーカーで全体的にふんわりとした感じで動きやすそうな印象である。

「ご苦労さま。紫王院君。何か変わったことはあった?」

こちらは、おそらくは40歳代であろうと思われる美魔女的な雰囲気のある少し長めのウェーブがかかった美しい黒髪をした四谷と呼ばれた女性が書類を受け取りながら穏やかに言った。

「いえ、特にはございません。いつもどおりでした。」

「それは良かった。また、来月もよろしくね。」

「分かりました。ぼちぼちやりたいんで、あんまり詰めないでくださいね。」

すると、奥の方のデスクから声がした。

「なるべくそうしたいんだけどね。人がいないから仕方ないのよ。できるだけ配慮するから、どうしても無理なときは言ってね。」

こちらは、20代後半くらいのショートカットで明るい髪色をしたボーイッシュな女性がパソコンに向き合いながら元気な声で言った。

「|楓主任。そう言いながら、サービスを入れてくるでしょ。」

紫王院と言われた男性は笑いながら言った。

「だから言ったでしょ。なるべく配慮するって。なるべくなのよ。」

楓さんと言われた女性が笑いながら応じた。

「分かりました。お手柔らかにお願いしますね。」

紫王院と言われた男性も笑いながら応じた。

「それでは失礼します。」


 俺の名前は紫王院柊太。なんだか物々しい名前だが、何のことはない。ただの人だ。読み方は「しおういんしゅうた」という。名前からして何かしら由来はありそうだが、父母及び祖父母も他界し、兄弟もいないので、そのあたりを確認する術がない。まあ、特に遺産も何もなかったところから見ると、名前だけが物々しいだけなんだろうと思う。年齢は28歳で独身。前年まで民間企業で働いていたが、転勤続きで少し面倒くさくなって退職し、介護職員初任者研修の過程を修了して、今は障がい者福祉の事業所で訪問介護員として働いている。

 生まれも育ちも京都で京都の大学を出ている。今は京都市内でワンルームマンションを借りて生活している。この仕事をして、かれこれ半年余りとなる。収入面では今は非常勤職員ということもあり、額面的にはかなり減ったが、やりがいなどを考えるとかなり充実した生活を送れていると思っている。さて、今から軽く腹ごしらえをして、シャワーを浴びて、いつものバーに行こうと思っている。

「これは、柊ちゃん。いらっしゃい。」

白髪交じりのスラっとしたマスターが声をかけてきた。ここは、俺の行きつけのバー。店の名前は「パープルナイト(Purple Knight)」という。日本語で「紫の騎士」といったところか。店の内装も「紫」を基調とし、調度品も「紫」が入ったものを多用している。俺の名前の「紫」が入っているところも気に入っっているし、何よりもマスターととても気が合うので、たいへん気に入っている。マスターの名前は、「ヒロさん」という。本名は知らないが、今年で65歳になるらしい。定年したら自分の店を持ちたいと思っていて、3年前からここでバーを経営している。

「柊ちゃん。いつものやつでいいかい?」

マスターのヒロさんがシェイカーを振りながら聞いてきた。

「そうですね。いつものやつでお願いします。」

俺はカウンターの椅子に腰かけながら応じた。いつものやつとは、俺の好きなカクテルの一つで「バイオレットフィズ」のことである。「バイオレットフィズ」とは、紫色をした爽やかな口当たりをした比較的飲みやすいといわれるカクテルである。またここでも「紫」が出てくるが、お察しの通り俺は紫色が好きである。京都にも「紫野」や「紫竹」といった「紫」に因んだ地名があるが、俺が住んでいるのもその近くである。

「はい。出来たよ。」

ヒロさんが出来上がったカクテルを俺の前に置いた。

「ありがとう。」

そう言って俺はグラスを口に運んだ。

「マスターの入れてくれるお酒はいつもおいしいね。」

「上手いこと言ってくれるね。仕事はどうだい?」

マスターがつまみを用意しながら聞いてきた。

「相変わらず人手不足で忙しいですよ。ウチの主任は隙あらばサービスを入れようとするから困ったものですよ。」

そこにマスターが出来上がったつまみをカウンターの上に置いた。

「はい、これ。柊ちゃん食べてね。」

「今日はグリッシーニですか。美味しそうですね。いただきます。」

俺はスティック状のパンに生ハムを巻いたグリッシーニを口に運んだ。この塩加減とサクサクとした食感がお酒との相性抜群でたまらない。

「涼子ちゃんも元気にしてる?」

マスターが聞いてきた。涼子ちゃんとはウチの主任のことだ。フルネームで楓涼子(かえでりょうこ)さんという。

「とてもお元気ですよ。どこからその元気が出てくるのか。うらやましくなってきますよ。」

俺はグラスを口に運びながら言った。

「柊ちゃんはもっと若いのだから、涼子ちゃんを助けてやらなきゃだめだよ。」

「分かってますよ。」

その時、入り口のドアが「カラン」と鳴った。そちらを向くと一人の女性が入ってきているところだった。年のころは30歳代半ばぐらいか、薄めに染めた髪を背中あたりまで伸ばし、少し大きめの手提げカバンを持った女性だった。服装は春用の薄めの臙脂色をしたセーターにジーンズという服装だった。

「いいかしら?」

その女性が言った。


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