94:もしかして私は……
「あの、もしかして私、人型をとる魔物、魔物の四天王であり、“最厄”と呼ばれた残酷な魔物<クルエルティ・ヴィラン>が、本当の姿だったりします? もしくはクルエルティ・ヴィランが父親で、母親が人間……とか」
特に後者であれば、自分が捨て子だった理由が、よく理解できる。
母親はショックだったはずだ。
できれば生まれてこないでくれ……と思ったことだろう。
でも私は生まれてしまった。
魔物の子供なんて、育てる気にはなれない。
そこで私の出生の秘密をにおわす、シャドウマンサー<魔を招く者>が作った「ナイト・スカイ」のペンダントと一緒に、私を捨てたのでは……?
馬車の中は静寂に支配され、ガタゴトと動く車輪の音。
扉が車体に当たる音。そういった音しか聞こえない状態になった。
ロキは完全に固まり、でもランスは懸命に口を開く。
「冷静になりましょう、アリー様。クルエルティ・ヴィランは人型をとると言っても、男性です。あなたは女性ですから。それは……何度か魔物と戦う時、確認しています」
そう答えるランスは、目が開けられないほど輝いている。
彼がここまで興奮しているということは。
私の胸の中に、何度か倒れこんだ時のことを思い出している。
思い出さないで! 恥ずかしい!と思うけれど。
確かに、私は……女性の体をしていると思うし、ランスやロキとは、明らかに体格が違う。
「それに確かに魔物が見え、引き寄せることがあるかもしれません。ですが自分の生命力を感知しても、アリー様は消滅していませんよね?」
そうだ、確かにそうだ!
あんな至近距離でランスの生命力を感じたら、瞬殺されているはずだ。もし私が魔物であるならば。
「魔力を持つ人間と、遭遇したことはないので、正しい反応が分かりません。それでも自分の生命力を目の当たりすれば、影響はゼロではないと思うのです。でもアリー様は、全く問題がない。よって、魔力を持つ人間とも違うと、自分は思います」
「そう言われると、確かにそうだ。それにシャドウマンサー<魔を招く者>が魔力を込めたペンダントをつけると、魔物が寄ってこないというのもおかしな話だ。魔力に、仲間である魔物が引き寄せられる方が、妥当だと思う。そうなるとそのペンダント自体が、本物を似せて作られたフェイクの可能性だってある」
ようやくロキも口を開き、ペンダントがおかしいのではと、言ってくれた。
「では私は魔物ではない。両親が魔物と人間である可能性は低い……と考えてよいのでしょうか?」
ロキとランスの顔を、順番に見る。
「アリー様が、魔物や魔物を父親に持つ人間のはずがありません!」
強く光を発したランスが、私を抱きしめた。
ロキは驚きつつも、何も言わない。
「今だって自分の生命力で、アリー様は消滅することも、具合が悪くなることもないですよね? 心優しいアリー様が、魔物と関りがあるはずはありません。それにそのペンダントを作った宝飾品店も、判明しています。店は王都にあり、名前はファブジェ・ジュエリー商会。店舗も存在し、営業しているので、今から」
「ランス様、それはダメです! ご自身が今日、どんな状態にあったのかを思い出してください」
私がそう言うと、ロキも援護してくれた。
「そうだ。完全に毒が抜けていない可能性があるお前が動いても、足手まといになる可能性がある。いざとなった時『体が痺れてきた、ロキ、アリー様のことを頼む!』なんてなったら、アリー様のことは俺がもらうぞ!」
「な、ロキ、貴様っ!」
「だからお前は屋敷で安静にしていろ。せめて今日一日は。そのファブジェ・ジュエリー商会には、俺とアリー嬢で足を運んでみる」
ランスはその深みのある水色の瞳を悲しそうに潤ませ、私を見た。その表情を見たら、ぎゅっと抱き寄せ「ランス様も一緒に行きましょう」と言いたくなってしまったが、そこはぐっと気持ちを引き締める。
「ロキ様の言う通りです。ランス様はそのままお屋敷にお戻りください。夕食に間に合うよう、お屋敷に戻るようにしますから」
「アリー様……」
ランスのとんでもない甘い声に、ロキまで体がビクッと反応している。きっとランスが出すこんな声、ロキも初めて聞いたのだろう。顔が赤くなっている。
ロキがそうなのだから、私は顔も体も真っ赤なはずだ。それでもなんとかランスに告げる。
「ランス様が私を心配するのと同じぐらい、私もランス様が心配なのです。ですからランス様は、今日はもう、無理はしないでください。禁書でちゃんと情報を拾ってくださいました。今日はそれだけで十分ですから! また明日、私を助けられるよう、今日は休んでください」
「……分かりました」
捨てられた子犬のようにしゅんとしてしまうランスに、私の心は非常に揺すぶられることになる。「やっぱりランス様も一緒に行きましょう」と何度も言い出しそうになり、必死にこらえた。
でも屋敷に到着し、そこでランスをおろし、ロキと二人、ファブジェ・ジュエリー商会に向かうことになった。
ランスはそのサラサラの美しいホワイトブロンドを揺らし、見えなくなるまで馬車を見送ってくれた。
。






















































