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聖女ではありませんでしたが、聖騎士様に溺愛されそうです  作者: 一番星キラリ@商業ノベル&漫画化進行中


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94/142

93:超人

 毒針が刺さったと分かっている状態で。

 パニックにならずに行動する。

 ただそれだけでもすごいことなのに。

 毒を可能な限りだし、メッセージを残し、膝をつく。

 その一連の行動を、意識が失うまでのわずかな時間で、やってのけるなんて!


 ランスが超人に思えた。


 本人は油断したと言うが、たとえ油断したとしても、その後の行動は、最善を尽くしていたと思う。こんな風に冷静に対処できる人間は、そうはいない。


 尊敬の想いがこみ上げ、抱きつきそうになるのを抑えるのが、どれだけ大変だったか。


 ロキがそこにいなければ、間違いなく抱きついていたと思う。


 少し恨めしく思いながら、対面に座るロキを見ると、彼はランスに尋ねた。


「それで、ダモクレス伯爵の『魔こそこの世の美徳なり』は見たのだろう? アリー嬢のペンダントについて、分かったことは?」


「ああ、それなんだが……」


 ランスによると私のペンダントは、表向きは「ナイト・スカイ」という名のシリーズとして販売された、宝飾品の一つだった。ペンダント以外にも、ブレスレット、髪留め、ピアスが存在していた。


 ブレスレット、髪留めは、別の一般の宝石職人が作ったものだ。シャドウマンサー<魔を招く者>の息がかかった宝石職人が作ったのは、「ナイト・スカイ」シリーズのペンダントとピアス。そしてそれが聖女に献上されていた。


 勿論、この二つには、それぞれ魔力と毒が込められていた。


 魔力。


 魔力を持つ魔物が存在し、聖なる力を持つ聖女が存在するこの世界では、魔力を持つ人間も稀に存在していた。魔力を持つ人間……魔物と人間の間に生まれた子供だ。


 魔物の四天王(ダークキング)は、“最強”であるビースト・デビル・ベア、“最大”であるセント・ポイズン、“最悪”であるブロッド・バット、そして“最厄”と呼ばれたのが、残酷な魔物<クルエルティ・ヴィラン>。


 このクルエルティ・ヴィランは、人間の魂を喰らうこともなければ、吸血もしない。その代わりに人間の女性を襲う。


 つまり、クルエルティ・ヴィランは唯一人型をとる魔物であり、人間の女性を襲い、生まれた子供は魔力を持つと言われていた。シャドウマンサー<魔を招く者>は、しばし女性を生贄としてクルエルティ・ヴィランに捧げ、魔力を持つ子供を手に入れたと言われている。


 この魔力を持つ人間に、聖女を害するための道具を作らせていたのだが、それが魔力を込めた道具や武器だった。


 魔力が込められた「ナイト・スカイ」のペンダント。

 ただの人間がつけても、一切の影響はない。

 でも聖女が身に着けると、魔力の作用により、聖なる力が著しく弱まるのだという。


 ちなみにピアスの方には、毒が塗られていた。


「うん……アリー嬢は聖女候補だった。でも聖女とは認定されず、村に修道女として戻されることになったわけだが……。もしやアリー嬢は、本当は聖女で、そのペンダントで聖なる力を抑えられていたのか!?」


「その可能性もある。アリー様は魔物を見ることができるし、魔物に関する知識も学ぶことなく持っていた」


「とんでもない事実が発覚したな。今すぐ神殿に行き、そのペンダントを外し、もう一度聖女であるか、確認をしてもらった方がいいのではないか!?」


 興奮気味に話すロキに対し、ランスは冷静だ。


「アリー様。こうなってしまったので、そのペンダントに関わる自分とアリー様しか知らない秘密をロキに打ち明けても? 彼は軽薄で信用するのは難しいと思いますが、自分のことを裏切ることは絶対にありません。もし裏切れば、その時は自分が始末します」


「おい、おい、待ってくれよ! 俺の言われ方、ひどくないか!?」

「君は黙っていろ。いかがですか、アリー様?」


 つまりランスはロキに、私が魔物を引き寄せるかもしれないことを話すつもりね。


 ここ数日ロキと過ごしたが、ランスが言う通り、軽薄と思われるところはある。だがそれは、そう見えるように、仕向けているにすぎないと思った。自らピエロを演じ、いざという時に悪役を引き受ける。そうやってランスを守ろうとしている――それがロキに思えた。


 自分はどう見られても構わない。でもランスは……と考えるロキが、信用できない人間、裏切る人間とは思えない。


「ロキ様になら、話していただいて構いません」


 そう私が答えるとランスは、ペンダントを外すことで起きた出来事を話した。つまり、ビースト・デビル・ベアとセント・ポイズンは、私がペンダントを外すと現れたと。


 四天王(ダークキング)だけではなく、怪鳥のような姿の魔物<シャドウ・ガーゴイル>、イノシシのような姿の魔物<タスクド・ボア>、蜘蛛の姿の魔物<ヴェノム・スパイダー>、大蛇の魔物<スネイク・スリザー>、狼の魔物<ウルフ・リッパー>なども引き寄せた可能性があることを話した。


「な……、それは……! 聖女は魔物が見えるし、遠く離れた場所にいる魔物の気配も察知できる。でも魔物を引き寄せるなんて、聞いたことがない。そうなるとアリー嬢が、実はペンダントで力を抑えられていただけで、本当は聖女だった……という可能性は消える。むしろ……魔物が寄ってくるなんて、自身が同じ魔物であるか、魔力持ちの人間ぐらいでは……?」


 そこまで話し、ロキは口をつぐんだ。

 ランスはハッとして、目を大きく見開いた。

 今、ロキが言った可能性を、ランスも私も想定していなかった。

 だって、自分は被害者(人間)という視点に立っていたから。


 でも今の一言で、分かってしまった。


 聖女でもないのに魔物が見える。魔物の名前をスラスラ言える。さらには魔物が引き寄せられる。それはつまり、私が魔物ということでは? もしくは魔物と人間を両親に持つ、魔力持ちの人間なのでは……?

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