83:そうと決まれば……
廃城の手前は、昔は濠があったようだ。
でも今は、水は枯れ、吊り橋だけが残っている。
その吊り橋の手前は草木もない、広場のようになっていた。
相当踏みなされた結果、雑草も生えないようだ。
ゴロゴロと石ころが転がるだけ。
一方、広場の後方は、手入れされていない草木が生い茂っており、そこにランス達聖騎士は、静かに潜んでいたのだ。
こんな場所で何時間も待機しているなんて!
驚き、これは絶対に今日、終わらせないといけないと思った。
私が皆を激励するためにやってきたと知ると、聖騎士達は喜びつつも、困惑した。それはそうだろう。まず、こんな時間だ。そして場所が場所。いくらなんでもやりすぎだと、皆、引き気味なのが分かった。
仕方ない。そうなることは分かっていたのだから。
ところが。
「すまないです、アリー様。自分の我がままをきいて、こんな時間にこんなところまで来てもらって、本当に申し訳なく思います」
ランスはとんでもなく男前な性格だった。
私が皆から白い目で見られないよう、自身が悪者……というか、彼がここに私を呼び出したことにしてくれたのだ。この気遣いは嬉しいが、次期団長候補でグランドナイトの名声に関わるのでは!?と、私は心配になってしまう。
すると。
「いやあ、アリー嬢もランスもどちらも悪くはない。二人をたきつけたのは、この俺だからな!」
ロキがそう言いだすと、その場にいた聖騎士達は「ああ、ロキの奴が」「ロキ様ならそーゆう悪戯をしかねない」と納得顔になっている。その様子を見たロキは嬉しそうに話し続ける。
「ランスには、こうアドバイスした。女の本気を試すなら、夜中に廃城まで来いと提案してみろと。これで来たら、女は本気だとな。その一方でアリー嬢には、本気を示すなら夜中だろうと関係なく、請われた場所に行くべきだと進言した。その結果、二人は俺の甘言にのり、こうやって逢引きをしたわけだ」
ロキはどうやら悪者になる役目を、引き受けてくれるようだ。
「だが諸君。これで二人の愛は、間違いなく深まった。こんな場所に深夜に駆け付けてくれる女がいるだろうか? しかも彼女は自ら馬を駆けてきた。自身で馬具をセットして。もしいつか聖騎士を引退し、遅ればせながら嫁をとろうと考えるなら。こちらのアリー嬢のような、献身的な妻を娶ることだ。今宵はいい勉強になっただろう?」
そう言ってロキがウィンクすると……。
「素晴らしいです、ロキ様! さすが聖騎士なのに“女泣かせ”の異名を持つだけありますね! 名言です」
アンリがそう言うと他の聖騎士も「アリー嬢はまさに女の鑑だ」「アリー嬢のような献身的な方と婚約されるランス指揮官が羨ましい」としみじみ感動している。
ここにいる聖騎士はみんな、ピュアだった。
聖女候補だった私を迎えに来た聖騎士達とは、全然違う。
同じ聖騎士でも、指揮官が変わると、こんなに違うものなのかしら……?
聖騎士達が口々にロキを誉め、ロキを皆にまんざらでもない顔をしている間に、兜を外したランスが、小声で話しかけた。
「アリー様は、四天王ランクの魔物と今晩決着をつけろと、私に伝えに来たのですね」
「そんな上から目線ではないですが、皆さまを解放したいと思ったのは事実。毎晩のように無駄足になりながら、廃城に通う日々は終わらせたいと。ここが片付けば、皆、他の任務に就くことができます。それに団長はもう、宮殿に戻っていると聞いています。禁書でこのペンダントのことを、ランス様に確認いただきたいのです」
私の言葉を聞いたランスの全身が輝く。
「アリー様、あなたは本当に……。今、輝く自分のことをお許しください。でもこんな言葉を聞かされたら、どうしてもアリー様を思う気持ちが高まります。決着をつけましょう。今宵。どんな魔物であろうと、四天王であろうと、必ず自分とアリー様とで倒しましょう」
「ええ、そうしま……待ってください、ランス様。ここは大勢の聖騎士と倒すのではないのですか!?」
「聖騎士と倒すつもりでいましたが、それはアリー様がここにいないからです。でもせっかくいらしてくださったのですから。自分は今、気持ちがどんどん高ぶっているので、四天王でも、自信を持って倒せると断言できます」
そう言った後のランスの行動は早かった。
今日は満月で辺りも明るい。
魔物はこんな夜には活動しない。
連日、夜明けまでここで見張りを行っている。
今日はこれで引き上げ、体をゆっくり休め、また明日から頑張ろう。
念のため、自分とロキは残るが、皆は気にせず帰ってほしいと告げたのだ。
これには皆、驚き、でも喜んだ。
さすがに今日で8日目だった。
昼夜逆転のこの生活に、疲れも出てきていた。
よってランスの指示に従い、皆、村へ戻る準備をすすめる。
皆が撤退すると、ランスはロキと私に作戦を手短に話した。
「吊り橋を渡り、廃城の中のベイリー(広場)で、自分とアリー様で囮になる。アリー様は魔物が見える。それは前にも話したと思う。だから今回、アリー様には囮にもなってもらうが、主な役割は、自分の目になってもらうことだ」
なぜ私がランスと行動を共にするのか。その理由は、魔物が見えない彼の目に、私がなるためだと、ランスはロキに説明した。さらに。
「もし四天王やそのランクの魔物が現れたら、自分の生命力で倒す。ロキ、君は吊り橋の手前で見張りについてくれ。君は自分の万一に備えてほしい。もしもの時は君が村に戻り、今後の指揮をとってくれ」
ロキは私が魔物を引き寄せることは知らないが、ランスの生命力のことは知っていたので、この作戦に「分かった。最初からこうするつもりだったんだな」とニヤリと笑う。そして――。
「見張りにはつくが、もしもの時については、従うつもりはない。ランス、お前が仕損じた魔物はいないはずだ。今回はアリー様もいる。むざむざアリー様の魂を、魔物に喰わせるつもりはないだろう? 四天王だろうと、必ず倒せ。アリー様のことは絶対に守れ」
ロキがそう言うと、ランスはフッと不適に笑う。
「分かった。任せておけ」
【御礼】
12/5 日間恋愛異世界転生ランキング11位☆感動
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全8話完結です!
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