82:彼で良かった
絶対に反対されると思った。
だがロキはあっさり、こう言ってくれた。
「ランス達の様子が気になると。こっそりでいいから見に行きたい……。いいだろう。連れて行ってやるよ」
そうなったら善は急げで、あっという間に用意が整った。
ロキは村で手に入れたブラウンのセットアップに深緑のマント、私はランベンダーのワンピースの上にドレスの上に羽織っていたウールの厚手のロングケープ。フードがついていたので、それを被るようにロキに言われ、馬に乗ることにした。
「アリー嬢が乗馬は得意というのは驚きだが、ラッキーだ。通常、馬に大人が二人乗りはしないからな。かといって馬車で行くと目立つ。もしアリー嬢が馬に乗れないなら、夜の外出は止めていた」
どうやらランス達の様子を見に行くことを認めてくれた決め手は、私が馬に乗れるかどうかだったようだ。しかもちゃんと自分で馬に馬具をセットできる点も、評価された。
さらに聞いて驚いたのだが、廃城は遠い、と思ったがそんなことはなかった。
馬にさえ乗れれば、廃城は村から30分で着くという。
勿論、馬を全力で走らせた上だけど。
つまり機動力のあるロキにとって、村から廃城は“ちょっと夜のお散歩”ぐらいの距離感だった。
おかげで提案をして1時間後には、廃城が見えるあたりまで来ることができたのだから、もうビックリだ。
「おう、おう、見えてきたぞ、アリー嬢。立派だな」
丁度、月が頂点に達し、星が見えにくくなった代わりに、月明かりで辺りが照らされていた。月光を受け、石壁が銀色に輝く姿は、実に美しい。とても廃城には思えない。
「さて、ここからは馬を降りて、徒歩で行こうか。優秀なランス指揮官は、魔物だけではなく、人に対しても警戒を怠らない」
ロキに言われるまま、馬を降り、手綱を引いて、街道を歩いて行く。
「50名は聖騎士がいるはずなのに、全然見当たりませんね」
「もっと廃城に近い位置に、待機しているのだろうな。それに魔物は明かりを嫌うから、ランタンも消しているはずだ。既に闇夜に慣れているだろうし、それでも問題ないはずだ。その結果、そんな大勢の聖騎士が潜んでいることは、普通なら気づかない」
夜の魔物討伐。
明かりもなく行うのか。大変だと思う。
魔物が見えないランスは、相当神経を研ぎ澄ましていると、想像できた。
「ここまでだろうな。この先をこれ以上進むと、見張りがいるはずだ。ランスに見に来たことがバレたくなければ、ここで折り返す必要がある」
「え、でもお城はまだ先ですよ……?」
「俺が指揮官なら、あの先の大きな岩陰に見張りをたてる。ここは街道沿いで、王都と隣の街の境になるからな。こんな時間でも往来はゼロとは限らない。早馬だって通るかもしれないし、犯罪者がうろつくだろうからな」
そう言われると、反論できない。
もしこの位置でペンダントはずした場合。
ランス達が気付くより先に、ロキと私が魔物に襲われそうな気がした。
もう少し、廃城やランス達に近づきたいと思った。
「もしランス様に気づかれてもいいのなら、もっと前に出られますか?」
「気づかれていいのなら、ランス達が待機しているところまで行けるだろうよ。というか行くことになるだろうな。『どうしてアリー様がこちらに!? しかもこんな時間に!? おい、ロキ、お前、殺されたいのか、俺に!?』というお叱りを聞くためにね」
そうなるだろうと思う反面。
でもランスは気づく――とも思っていた。
廃城の様子が気になって来た――なんて話、まず信じないだろう。
私が魔物を引き寄せるためにやってきたと、ランスは見抜くはずだ。
せっかくここまで来たのだから。
何もせず戻っては、ただの無駄足になってしまう。
それにこの場所に毎日、優秀な聖騎士たちが足を運び、手ぶらで宿に戻り、休息をとり、またやってくる……を繰り返させるなんて、それこそ時間の無駄。
今晩、四天王クラスの魔物の討伐には、蹴りをつけてもらおう。
そしてみんなは王都に戻り、次の任務について欲しいと思った。
さらにランスについては、禁書でペンダントの情報を確認してもらいたい……!
「ロキ様」
「はい」
「怒られる時は、私も一緒に怒られますから、よろしくお願いします」
「それはつまりアリー嬢は、ランスに見つかるつもり……ということか」
ロキは「それは困る。戻ろう、アリー嬢」と言うかと思いましたが。
「アリー嬢は潔いね。怒られるなら共にと。いいだろう。アリー嬢が一緒に怒られてくれるなら、喜んでランスの懐に飛び込もう。だがしかし。君にゾッコンのランスだ。君に対して怒るのだろうか、本気で。それは……見てみたい。実に興味深いぞ」
ロキは変わっているな~と思う反面。
私の護衛についてくれたのが、彼で良かったとも思ってしまう。ロキが非常識人だから、ここにも来ることができたと思っていたから。
ということで。
こそこそするのをやめたロキと私は、堂々馬に乗ると、街道を進む。
するとロキが予想した通りだ。
まさに大きな岩陰から二人の聖騎士が現れ、ロキと私は馬を止めることになった。






















































