75:サプライズ
「聞きましたよ、アリー様! ランス様に会いに行かれるのですよね!?」
「差し入れをされると聞きました。きっとランス様は泣いて喜ぶと思います!」
出掛けるため、ドレスの着替えをお願いすると。
二人のメイド、リリスとララは目を輝かせ、喜んで支度を手伝ってくれた。
「このターコイズブルーと白のグラデーションのドレス。まるで海と白い砂浜を想起させ、とても素敵だと思います。この身頃の左半分を包み、スカートの右半分を覆うようなドレープも、とってもインパクトがありますよ。これに着替えましょう!」
ララが選んでくれたドレスは確かにデザインが斬新で、色合いが美しい。身頃の右半分とスカートの左半分に散りばめられたビジューもキラキラと輝き、とても秀麗。
実際に着てみると……。
「サイズも何もかもピッタリで、まるでオーダーメイドしたようです!」
ララは絶賛し、リリスは「髪は左側でまとめてポニーテールにしましょう。白のリボンがあるので、それを飾れば、ドレスとの相性もバッチリです!」と、髪をセットしてくれる。
その後はほんのり淡いローズ色のチークとルージュをのせ、眉毛を整え、仕上げのパウダーを軽くはたいて完成だ。
「日中ですし、アリー様はお化粧がいらないぐらいお肌も綺麗。これぐらいシンプルなお化粧でも問題ありません!」
リリスの言葉に後押しされ、屋敷を出発することにした。
料理とお菓子は、調理人が籠に既に詰めてくれている。
ロキはエントランスで私を待っていたが、着替えた私を見て「……ランスに見せるのが勿体ないな。やはり料理とお菓子は使いに届けさせて、アリー嬢は俺とデートを」「嫌です」と短く会話をして、馬車へ乗り込んだ。
馬車の中でロキが何か余計なことをしないか警戒したが、変なことは起きなかった。
ただ、散々ロキからは口説かれ、それを断り続けているうちに、村に到着した。
村は私からすると懐かしい場所。
どこの村も似たような作りをしていた。村の中心に噴水の広場があり、その水は飲み水であり、洗濯のために使われる水だ。村長の屋敷があり、役所や宿は他の建物より少し立派で、あとの村人の家は似たり寄ったり。畑や牧草地、家畜小屋、厩舎、鶏小屋などがあり、商店や飲食店がぽつぽつあって……。
村のはずれにはお決まりで孤児院・修道院・教会・墓地。もうこれでワンセット。
「ではアリー嬢、宿を訪ねてみよう。どうせ夜通し、魔物を警戒し、夜明けと共に宿に戻りバタンキューだ。お昼過ぎに起きて、この日最初の食事になるはずだ。まさにベストタイミング」
ロキに言われ、宿の前で馬車を止め、降りることにした。
従者が料理やお菓子が入った籠を持ち、ロキは私をエスコートして、宿の中へと進む。
フロントのスタッフにロキは、公爵家の紋章が刻まれた指輪を見せ、ランスについて尋ねると、彼の予想通り。まさに早朝に戻り、休んでいる最中だが、そろそろ起きる時間とのこと。声をかけるので、ロビーのソファに座り、待つように言われたが……。
「大丈夫、大丈夫。自分達で起こすから。俺もね、同じ聖騎士の一人。だから無礼なことでは……なんて気にしないでくれ」
ロキが自身の聖剣を示すと、フロントのスタッフは「分かりました」と鍵を手に、私とロキを、ランスの部屋に案内してくれることになったのだけど……。
「ロキ様、そんな風に部屋を訪ね、ランス様を起こすのは、可哀そうでは!?」
スタッフの後ろを並んで進みながら、ロキに尋ねると、彼はあっけらかんと告げる。
「構わないさ。サプライズで来たのだから。『客人がいます』って予告されて再会するのと、目覚めたらそこにアリー嬢がいる――では与えるインパクトが、格段に違う」
それはそうかもしれない。でも……。
「それにもう、昼は過ぎている。起きる時間だ。問題ないさ」
結局、部屋についてしまい、宿のスタッフがカギを開けてくれると……。
「ではどうぞ、アリー嬢。俺はここで待つ」
「え……、あ、ロキ様は一緒に入らないのですか?」
「俺は鉄仮面の寝顔を見ても、なーんも嬉しくはないからな」
それはそうね……と妙に納得し、部屋の中に入る。
聖騎士の次期団長候補であり、グランドナイトだとしても。
ここは小さな村の宿に過ぎない。
どれだけ“いい部屋”を用意しましたとなっても、少し広く、ちょっとだけ調度品やベッドの質が良かったとしても、安宿であることは変わりない。どれも年季が入り、よく言えばアンティークなものばかり。
そんな部屋に足を踏み入れると。
もうすぐ13時。
カーテンは閉じられているが、部屋の中は明るい。
これは?
色あせてシミも多い絨毯の上に、隊服の上衣が落ちている。
拾い上げ、少し広げると、少し小さめのサイズに感じた。
ランスはきちんとしているから、一緒に宿へ泊まった時も、服を脱ぎ散らすようなことはなかった。
でも……。
ベルトも落ちている。
上衣は椅子にかけ、ベルトはテーブルの上に置き、ベッドに近づく。
脱いだブーツが、きちんと揃えられて置かれている。
そこはもう、ランスらしい、だ。
久々に見たホワイトブロンドのサラサラの髪。
今は少し乱れている。
ちゃんと白い寝間着を着たランスの背中が見えた。
「ランス」と声をかけようとさらに近づき、声を発することができなくなる。
ランスの胸の中に誰かいる。
こちらに背を向けている姿勢なので、顔は見えない。
だがアイスブルーの長い髪と小柄な体が見えていた。






















































