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聖女ではありませんでしたが、聖騎士様に溺愛されそうです  作者: 一番星キラリ@商業ノベル&漫画化進行中


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75/142

74:明日には

 明日には帰ります。


 ランスはそう言っていたはずなのに。

 その明日になったら、手紙が早馬で届いた。


 昨晩、廃城にいた小物の魔物の討伐は終わった。

「楽勝だった。これならもっと早くに討伐して、土地を売ればよかったのに」と、多くの聖騎士が言っていたのだが……。


 それは一瞬だった。


 すさまじい魔力を感じた。


 姿は見ることはなかったが、でも確かに近くに、かなり強力な魔物がいることが分かった。ゆえに寝ずにその魔物を探すことになったが……。


 結局見つからないまま、朝を迎えた。


 今回の魔物討伐は、完璧を求められている。

 魔物の完全排除。

 だが部隊の多くの聖騎士が、魔物の気配を感じた。

 ということは、まだ魔物はいるはず。


 その結果。滞在の延長が決まった。


 これにはもう正直、がっかり。

 ランスが帰ってくると思い、ジンジャークッキーを焼いたのだ。

 焼き立てを食べたがるロキにもお預けしたのに。

 でも仕方ない。

 任務なのだ。

 我慢することになったのだが……。


 滞在はずるずると延長することになる。

 そう、魔物が、現れないから!


 帰る予定から一週間も経つと、心配になってしまう。

 ランスから手紙は届いている。

 王都のはずれではあるが、近くに村もあり、そこに宿屋もあった。

 部隊はその宿に滞在し、必要な物は村で調達できている。

 だからランスからの手紙も届いていた。

 よって滞在が延びることに、問題はなかった。


 問題はない……ことはないだろう。

 王都に残る聖騎士は、彼らがいないことで、一人当たりがこなす任務が増えていそうだ。


 それに私のように、帰りを待つ者もいると思う。

 それが恋人とかではなかったとしても。


 何よりも魔物は、本当に再び現れるのかしら?

 もしこのまま待ち続けて、時だけが無駄に流れては……。


 売れる土地も売れなくなるし、アトラス大公国からの信頼も失いかねない。


 魔物は廃城の近くにまだいるの?

 既にどこか遠くへ逃げ、廃城に戻ってくるつもりはないのではないか?


 それが分からない。


 これではいつまで経っても、みんなは戻ることができない状態だ。

 かつて国同士で戦があった時。

 戦いに出た男たちは数か月、数年、数十年帰ってこないこともあったという。


 たかが一週間、ランスが戻って来ないぐらいで、不安になる必要はないと思っていたが……。


「アリー嬢はすごい。お菓子も作れるが、料理も完璧だ。自身は食べないのにお試しで作ったというミントの葉入りのミートボール、あれはさっぱりして絶品だった。骨を取り除いて食べやすく仕上げたフィッシュパイは、まさに開眼だ。俺にとってパイと言えば、肉だったからな」


 ランスが戻らないため、作った料理の数々は、すべてロキの胃袋に収まっていた。


「それに添え物に過ぎなかった赤キャベツのマリネ! 見た目の鮮やかさとあの噛み応え! 実に美味しかった。どれもランスのために用意したのだろう? だが奴が帰ってこないおかげで、すべて俺が楽しませてもらった。もはや俺は……完全にアリー嬢に胃袋を掴まれた気がするぞ。もうアリー嬢は俺の嫁も同然。どうだろう。ランスのことは忘れ、俺と」


「嫌です」


 そんな会話を朝からロキと繰り広げていると。

 ロキは腕組みして、私をしみじみと見た。


 私に服装の乱れを指摘されたロキは、身だしなみを変えるようになった。

 白シャツのボタンは全部とめ、今は明るいレモン色のタイをつけている。鮮やかなキャロットオレンジのズボンと、同色の上衣のボタンもしっかり留まっていた。中に着ているバニラ色と白の縦縞のベストのボタンも、すべて留められている。


「アリー嬢、マッシュルームとエビのパイ。あれは今日のお昼にも食べられるよう、多めに焼いていたよな?」


「ええ、そうです。一人分サイズの小さめのパイなので、三十個ほどあります」


「それとバタークリームの濃厚なカップケーキもある。赤キャベツのマリネも作り置きがあるよな?」


 ロキが、私が最近作った日持ちできる料理やお菓子を思い出しながら、口を開いた。


「その通りですが……まさかお昼に全部食べるつもりですか?」


 警戒心むき出しの私を見て、ロキは「まさか」と笑う。


 服装の乱れがなくなったロキは、そこにおとなしく座っていれば、赤髪の美男子だった。だが話し出すと、やはりワイルドさが前面に出る。だがそれはそれで、魅力的。今も快活に笑うその様子に、メイド達は頬を赤くしている。


「アリー嬢。パイとマリネとカップケーキを持って、鉄仮面に会いに行こう」


「えっ!」


「今から出発すれば、お昼に間に合う。差し入れをしよう。それに顔を見たいだろう、ランスの」


 これは想定外の提案だった。

 自分からランスに会いに行くなんて、一度も考えたことがない。


「い、いいのですか? 突然会いに行っても……?」


「問題ないさ。戦場に足を運ぶわけではない。しかも昼間。美味しい料理とお菓子を持っていくんだ。部隊の聖騎士はみんな、アリー嬢に一目惚れだろうな。ランスも落ち着かないだろう」


 最後の言葉を口にしたロキは、完全にいたずらを思いついて、実行したくたまらないという表情の子供みたいに見える。


 ランスが私のために聖騎士を辞めてはいけない――そう思っていても。

 好きな気持ちをないことにはできなかった。

 気持ちは日々高まり、そして彼に会いたいと思っている。


 よってこのロキの提案を断る理由はなかった。

 つまり。

 サプライズでランスに会いに行くことにした。

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