72:廃城
翌日、ランスは任務で王都のはずれにある、廃城に向かうことになった。
そこはまだ魔物がいない時代、人間同士の戦闘のために使われていた城で、王都を守る砦としての役割を持っていた。その役目を終えた後は、牢獄として使われていたが。十数年前、大規模な火災があった。復興には相応の費用がかかるということで、そこは打ち捨てられてしまう。
場所が悪かった。
王都のはずれということで、売りに出しても買い手もつかない。
盗賊が住み着いたり、不法入国者が占拠していたりする時期もあった。
だが……。
いつしか魔物が出ると噂が立ち、度々、その廃城では遺体が発見されるようになる。
こうなると、いよいよ人は寄り付かなくなってしまった。
ところが!
この土地を買い上げる人物が現れたのだ。
それはなんと、海を渡った先にあるアトラス大公国。肥沃な大地を擁する国で、ランスが見せてくれたコットンフラワーで財を成した国だ。最近、さらに国力をつけており、王都のはずれとはいえ、ローゼル王国の土地が格安に手に入るということで、購入を決めた。購入した土地には、大使館を置くつもりなのだという。
アトラス大公国の大使館は、エルンスト伯爵家の本邸から、馬車で十五分ぐらいの場所にあるが、その広さは猫の額ほど。公爵家の二つの邸宅に挟まれ、舞踏会ができるようなホールもない状況。そこで廃城を撤去し、改めて土地を整備し、広々とした大使館をその場所に設置することにしたのだ。
ただ、勿論、魔物の噂を聞いている。よって言い値でその土地は購入するが、魔物は討伐して欲しい……というのが、アトラス大公国が出した購入条件だった。そして現在その廃城と土地を管理しているのは、国だ。
その結果、魔物の討伐に聖騎士が向かうことになった。
買い手は国内の貴族ではなく、アトラス大公国。
万一があってはいけない。
そこで確実に魔物を討伐するため、ランスを筆頭にデュアルナイトを中心に部隊が組まれた。
「今日はロキに客間に泊まり、アリー様の護衛につくよう頼んでいます。ペンダントをつけていれば、問題ないと思いますが、万一の時は、ロキを呼んでください。部屋の中にあるこの紐を引けば、ロキの部屋にある鐘が、鳴る仕組みになっていますから」
昼食を終えたランスは甲冑を着ることになり、私はそれを従者と共に手伝っていた。
ランスとこのまま婚約して結婚するか。
それは私の中で未知数になっていた。
彼の立場を思うと、私とは結婚しない方がいいとは思っている。
それでもランスの傍にいると……どんどん彼を好きになっていた。
だからこの甲冑を身に着ける彼のことも……自然と手伝いたい気持ちになってしまう。
もしランスの家でメイドをやるとしても、甲冑を着る手伝いができることは役立つ。
そう言い訳をしながら、彼を手伝った。
そんな私の胸の内を知らないランスは、私が手伝うことをとても喜んでくれた。
ランスが用意してくれたミルキーブルーのドレスを着た私は、従者が彼の肩にのせたマントを、銀細工の留め具で固定した。
こうして準備が終わると、ランスはロキが、私の護衛につくことを教えてくれたのだ。
「分かりました。……ランス様は、明日には戻られるのですか?」
「ええ。今晩討伐が終われば、朝には出発し、明日の昼頃には帰ってこられると思います」
「そうなのですね……」
せっかく王都に来たのに。
ずっとランスと一緒にいられるわけではないのね。
……。
彼のメイドになる……と心の中でどんなに思っても。
気持ちはランスを好きで、好きでたまらない。そして彼の不在を寂しいと感じてしまう。
「自分がいなくて寂しいですか?」
ランスがその細い指で私の頬に触れ、ターコイズブルーの瞳で顔をのぞきこむ。
間近で見ると、彼の肌は透明感があり、とても美しい。
その透き通るような肌にドキッとしながら「……寂しいです」と素直な気持ちを吐露してしまう。
するとランスは「自分もアリー様の元を離れるのが寂しいです」と私を抱き寄せる。
サーコート越しに感じる甲冑に、いくら寂しいと言っても彼が魔物の討伐へ向かうことを実感してしまう。
「どんな魔物がいるか、分かっているのですか?」
「事前にシングルナイトが現地調査に入っていますが、小物の魔物が数体現れ、その討伐は済んでいるそうです。もしかすると、もうそれで魔物はいない可能性もありますが……」
「もう魔物がいないといいですね」
そうすればランスは早く帰ってこられるだろうし、討伐に向かう聖騎士達も危険な目にも合わないだろう。
「いたとしても、アリー様に会いたいので、すぐに片付けます」
その言葉に思わず尋ねてしまう。
「私がいなくても、大丈夫ですか?」
するとクスッと笑ったランスが、不意に私の顎を持ち上げるので、ドキッとしてしまう。
「アリー様がいてくれれば、魔物の討伐はすぐに終わると思います。でも大丈夫ですよ。ビースト・デビルベアのような魔物は、そう簡単に現れませんし、それにこのクラスの魔物であれば、シングルナイトでもさすがに分かります。すぐに報告が上がってくるはずですから」
そう言った後、ランスが私の耳元に顔を近づける。
息が耳にかかり、心臓が大きく反応してしまう。
「……でも、アリー様の協力を仰げるのなら。いつでも自分は協力を仰ぎたいと思ってしまいます」
「ランス様、とても眩しいです!」
「当然だと思います。今、自分はそういう気持ちになっていますから」
開き直ったランスに、どう反応していいか分からない!
ここはいつもみたいに、照れてもらわないと困るわ。
心臓が爆発しそうになりながら、あわあわしていると。
ものすごく輝きながらも、一瞬見えたランスの顔は、真っ赤だった。
しかも必死に深呼吸を繰り返している。
口では強気なのに。
いつも通り照れている彼に、笑みが漏れてしまう。
「何はともあれ、気を付けて行ってきてください」と、甲冑で硬いその胸に顔をつけ、ぎゅっと彼に抱きついた。
お読みいただき、ありがとうございました!
今さらですが今日から12月でしたね。
寒さが厳しくなり、北の方ではいよいよ本格的に雪が。
皆さん、風邪などひかないよう、お気を付けくださいね。
では明日またよろしくお願いいたします☆彡
今週もお疲れ様した!






















































