66:心の闇
部屋に戻り、服を着替えた。王都に向かう……ランスに会えると分かっているので、昨日のナオミではないが、ドレスっぽく見えるワンピースを選んだ。
ピンクブラウンの優しい色味のワンピースは、元はシンプルなものだった。でも寄付の端切れ布の中で見つけた飾りレースを襟元に、パールを模したトンネル足の飾りボタンを、自分で縫い付けた。さらに蝶が刺繍されたチュールを去年、マーケットで格安で手に入れた。これをオーバースカートのように重ねる。そしてナオミがくれたブラウンのベルベットの紐を、ウエストでリボン結びをして完成だ。
鏡に映る私は、とってもオシャレに思える。
あとは髪をハーフアップにして、装飾のないシンプルなヘアピンで留めた。
着替えを終えると、トランクに荷物を詰める。これで二度目になるので、手際よく準備を進めることができた。するとそこに思いがけない人物の来訪を告げられる。突然の訪問者、それはジルベールだ。
修道院のロビーで、ジルベールと会うことになった。
「おはよう、アリー。事件のことは聞いたよ。まずは怪我がなくて良かった」
マリンブルーのセットアップを着たジルベールは、お見舞いにと自家製のシブーストを渡してくれた。既に私が王都へ向かうと知っていたジルベールは、旅のお供にできるタルトをプレゼントしてくれたのだ。気遣いに感謝し、ソファに座るようすすめる。
「僕がナオミと二人の時間を楽しませてもらっている間に、アリーに危険が及んだと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。一緒にいれば、危険な目に合わないで済んだかもしれないのに……」
ホリデーマーケットが行われている町は、サンタベリー子爵の領地に含まれている。当然、そこで起きた出来事は、警察署を通じてサンタベリー子爵に報告され、ジルベールも知っていたわけだ。
特に昨日は途中まで一緒に行動をしていたのだから、詳細を彼が把握していても、おかしくない。
「でも王都からアリーを訪ねてきてくれた聖騎士が、助けてくれたのだろう? しかも先日、アリーを村まで送ってくれた聖騎士。今回はアリーの両親を探すのを手伝い、王都まで案内してくれると聞いたよ。むしろ僕とナオミがいなくて、正解だったのかな?」
そこまで知っているのね!と少し恥ずかしくなる。さらに。
「今日が昨日以上にオシャレなのは、その聖騎士のためなのかな? おませな修道女だね、アリーは。しかも相手は聖騎士なのに」
「ジルベール様、あまりからかわないでください!」
顔を赤くして抗議すると、ジルベールは「ごめん、ごめん」と笑い、そして真面目な顔になる。
「マイは今、留置所にいるし、このまま裁判を経て、病院刑務所で収監となると思う。たまたま部屋が同室になり、アリーは怖い思いをすることになったけれど、もうマイと関わることはないだろう。だからもう知る必要もなければ、知りたいとも思っていないかもしれない」
そう言いながらジルベールは手にしていた書類ケースから羊皮紙を取り出し、ソファの前のローテーブルに置いた。
「サンタベリー子爵家では領地内で問題が起きると、その解決のために探偵を動かすこともある。今回、その探偵に依頼したところ、すぐに一部調査結果をあげてくれた。昨晩の事件はその探偵も知っていたから、急ぎ報告書を仕上げてくれたようだ。マイ・ドラクブラッドについては、地元では有名人だったようで、話題には事欠かなかったようだよ」
そう話しながら、何枚もの羊皮紙をめくり、そのうちの一枚を、私の目の前に差し出す。
「アリーのペンダントの件。悪い噂が広まらないよう、関係者の間でも限られた者にしか明かされていないけど、シャドウマンサー<魔を招く者>に関係する物かもしれないのだろう?」
「そうなの。みんな、私の両親がそんな恐ろしいペンダントとは知らず、残したと言ってくれているけど……」
するとジルベールも「僕もそう思うよ」と微笑み、こう続ける。
「この報告書にも書かれていたけど、シャドウマンサー<魔を招く者>が作り出した、聖女を傷つけるための武器や道具は、ペンダントなどの装飾品になっている物も多くあったというんだ。それを神殿などに出入りしている宝飾業者に握らせ、聖女の手元に送り込む……なんてこともしていた。でも必ずしも聖女の元に渡るわけではない。貴族や町人のところに流れることもある。だから僕もアリーの両親はそうとは知らず、そのペンダントを残したのだと思うよ」
ジルベールの説明には「なるほど」と納得だ。怪しい者から送られたら、聖女だって手を出せないだろう。でも馴染のお店の人間から受け取れば、うっかり身に着けてしまうことがありそうだ。
そう考えると、シャドウマンサー<魔を招く者>の手口は怖いわね……と思ってしまう。
「それでペンダント自体の詳細は、やはりうちの探偵でも分からなかった。でもそのペンダントの絵が載っていたとマイが証言した『魔こそこの世の美徳なり』。この書物を書いたと言われるダモクレス伯爵。彼もまたシャドウマンサー<魔を招く者>の一人として知られ、既に処刑されているが、彼とマイ・ドラクブラッドはつながっていた」
私はジルベールが目の前に置いてくれた羊皮紙を手にしていたが、今の言葉に、それを落としそうになっていた。






















































