64:ペンダントの謎
副修道院長が部屋を出ていくと、ランスは改めて私を見た。
そしてその端正な顔を緩め、私の緊張をほどく、素敵な笑顔になった。
「……アリー様をおいて王都へ戻ったことをここ数日、深く後悔して過ごすことになりました。何か起きていないかと心配していたところ、案の定、恐ろしいことが……。怖い思いをさせることになり、本当に申し訳ありませんでした」
笑顔の後は一転、表情を曇らせての謝罪になってしまった。
「マイの件は、ランス様のせいではないですから! むしろこんなに早く再会できると思わず、今は嬉しい気持ちでいっぱいです。マイの件は、一旦忘れてください。彼女は警察に捕まっていますし、もう脅威ではないと思うので」
するとランスは「そうですね……」と応じつつも、でもその顔はシリアスなままだ。
「今回、駆け付けたのは、自分がアリー様に会いたいという気持ちが多くを占めています。その一方で、ペンダントが邪悪なる者につながる可能性が高いことも、理由になっています」
これには嬉しいのと驚きと、二つの感情が入り混じる。
私に会いたいからここへ来た=当然、嬉しい!
ペンダントが邪悪なる者につながる=驚き、どういうこと!?と思ってしまう。
「改めて確認します。アリー様を襲ったマイ。彼女は、ビースト・デビルベアを召喚するために、アリー様のペンダントを狙っていた――ということであっていますか?」
そう聞かれると、例のブローチの件を、ランスに話す必要がある。そこでマイが黒い宝石と赤い宝石を欲しいと思い、サンタベリー子爵家の長女オリアのブローチを盗んだこと。このことが公になると、孤児院も修道院も大変なことになると考え、サンタベリー子爵家の長男であるジルベールに協力を仰ぎ、マイが盗んだブローチを返したことを話した。
「なるほど。そのブローチを返したから、代わりとなる黒い宝石として、アリー様のペンダントを寄越せとなったのですね」
その通りなので頷くと、ランスは「ではあのマイという女は、ペンダントの本当の価値に気づいていなかったのか」と呟いた。
「ランス様、このペンダントの謎が解けたのですか?」
「一部、解けつつあります。持ち主は分かりませんが、諜報部の知り合いに、私がスケッチしたペンダントの絵を見せたところ、ある書物で見たことがあると言われたのです」
「ある書物……?」
それは王都にある王宮図書館に保管されている本で、しかも閲覧制限がかけられている。一般人の閲覧は不可。読めるのは、王族、聖女、王立ローゼル聖騎士団に所属する聖騎士であり、団長から閲覧許可を得た者のみだった。
そこまで強い制限がかかっている理由は、それがシャドウマンサー<魔を招く者>の実態に関する書物だからだ。逮捕されたシャドウマンサー<魔を招く者>の聴取内容、彼らの思想や聖女を害するために用意された武器や道具の詳細などが、書かれているのだという。
「その書物に、このペンダントの絵が描かれていた可能性がある……ということなのですか?」
私の言葉に、ランスは頷いた。
「もしシャドウマンサー<魔を招く者>が作ったなんらかの道具なら、聖女に悪影響を与えることになりますよね? ということは、魔物を引き寄せたのは……私ではなく、このペンダントということですか!?」
その考えに至った瞬間。
悲しい気持ちがこみ上げる。
なぜなら魔物を引き寄せるペンダントと共に、私は捨てられていたのだから。
両親は、私が魔物により魂を喰われることを望んでいた……と考えられるからだ。
「魔物を引き寄せたのは、シャドウマンサー<魔を招く者>が作ったペンダント……そうも考えられます。ですが赤ん坊と一緒に置くなんて、おかしいと思いませんか? そのペンダントと赤ん坊を一緒に、孤児院に置く理由が分かりません。荒地や廃墟に、赤ん坊とペンダントを置くなら分かります。魔物に、赤ん坊の魂を喰ってくださいと、言っているようなものですから」
そう言われると……確かにその通りだった。
「ご両親は、それがシャドウマンサー<魔を招く者>が作ったペンダントとは知らなかった。そう考えた方が妥当です。そして現在、そのペンダントをつけていますが、魔物は寄ってきていませんよね? ここ数日、魔物に遭遇しましたか?」
ランスが私を見る。
久々に見るターコイズブルーの瞳に、心臓がドキッと反応してしまう。
「していませんね」
慌てて視線を逸らし、返事をする。
「そうなると、そのペンダントが魔物を引き寄せているわけではない……と、自分は思うものの、何か発動条件があるのかもしれません。そのペンダントをつけた上で、なんらかの条件が重なると、魔物が寄ってくる……」
「なるほど。そう言われると、その可能性は高いと思います。だってペンダントをつけてあからさまに魔物が寄ってくれば、すぐに外されてしまいますよね。複合条件で発動するならば、ペンダントの仕業とは考えない。そもそもペンダントが何であるか知らなければ、疑いもしないですよね」
そう私が言うと、ランスは「その通りです」と答え、さらにこう続ける。
「いずれにせよ、シャドウマンサー<魔を招く者>が関わっているとなると、アリー様を一人にしておくのは危険です。よって王都へお連れしようと考えています」
そうだったのね。私に会いたい気持ちが多くを占めているというから、てっきり大した理由はないと思ってしまった。でもそういうわけではないと。
「ちなみに該当の本の閲覧申請は、既に団長へ挙げています。でも彼は今、王都を離れ、国境付近にいるのです。国王陛下が外遊から戻るに当たり、迎えに行っており……。彼が王都へ戻れば、すぐに許可は出るでしょう。そうすれば、そのペンダントの詳細は、すぐに確認できます。何せ現状では、シャドウマンサー<魔を招く者>の本で、そのペンダントを見たことがある……という情報しかありませんから」
ランスがそう言ったところで扉がノックされ、副修道院長が部屋に戻って来た。
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『ざまぁと断罪回避に成功した悪役令嬢は
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