60:邪魔者は消えます!
昼食は、魚肉で作ったソーセージ、カリカリの生地にたっぷりのチーズとキノコが乗ったパン、蜂蜜をかけて食べるジャガイモのパンケーキ、スパイスの効いた魚のトマトソース煮、とろりとろけるチーズがたっぷりかかった温野菜を食べた。
三人でシェアして食べたが、お祭り気分も相まって、実に美味しく感じてしまう。
ジルベールは高級食材の料理を食べなれているはずで、こんな庶民的な料理、大丈夫?と思ってしまうが、毎年喜んでホリデーマーケットの料理を楽しんでいる。
昼食の後は、様々なショーを楽しむのが恒例。
演劇小屋、人形劇、演奏会、ダンスなど大きな広場の一角で、様々なショーが開催されている。これらを見て回るだけでも、一日が潰れてしまう。
丁度良く、これから上演が間に合う演劇があったので、それを観劇することになった。
マッケンという伝説の騎士の物語で、彼が様々な国を旅した物語が演劇になっている。時にコミカル、時にシリアスで、とても楽しめた。王都で演劇を見たことがあるジルベールも「面白かったよ」と言っていたので、移動巡業している劇にしては、きっと質が高いものだったのだろう。
その後は、ホリデーシーズンに相応しい楽曲を披露すると聞き、演奏会に足を運んだ。町の大きな教会の聖歌隊も参加しており、その歌声は修道院のみんなで歌うレベルより、うんと上だ。
そんな中、町の有志というメンバーが歌った曲に驚く。
だってそれは、ランスが聞かせてくれた歌と同じだったのだ。
馬車を走らせていたランスが歌った曲。
ジルベールによると、これは古い失われた民族の曲らしく、歌詞の意味はほとんど分からないという。一説によると、戦地に赴く戦士が、恋人に贈った歌らしい。明るく陽気な中、時折、哀愁が漂うのは、戦争が見え隠れする曲だからなのね……と実感することになる。
同時に。
無性にランスに会いたい気持ちがこみあげる。
まだランスと別れ、一週間も経っていないのに。
こんなに会いたい気持ちになるなんて……。
でも演奏会の後、ジルベールが甘い物を食べようと提案してくれたので、悲しい気持ちが和らぐことになった。
購入したのは、鉄板に挟んで表面はカリカリ、中はもっちりするように焼いたお菓子。ジャムや蜂蜜、フルーツをつけて食べる。ジルベールはスパイスの効いたホットワインと一緒にこの焼き菓子を食べ、ほんのり頬が赤くなっていた。
ナオミと私は紅茶でいただき、ティータイムを満喫。
その後、今年のホリデーシーズンを記念したスタンプやレターセットを売っているお店を発見した。ナオミは弟と父親に、私はランスに手紙を書くため、素敵なデザインのスタンプとレターセットを手に入れた。
この時間になると、まだ空は明るいが、夕方の営業モードになり、お店はみんなランタンを灯し始める。広場から少し離れた場所にある水路は、アーチ型の橋がかけられ、ベンチが並び、街頭も灯り、これから訪れるブルーアワーをカップルで過ごす者も多い。
バイオリンやギターを持ったソロの演奏家は、恋人達のためだけに演奏を披露し、毎年この場所はムード満点になる。
私はあえてこの場所に行くことを、二人に提案した。
表向きは、ソロの演奏家の演奏を聴きたいから。
裏向きは……ナオミとジルベールを、二人きりにするためだ。
こうなることを想定し、私は村へ行く乗合馬車が多く止まっている場所も既に調べてあった。だから水路に着くと……。
「私、王都でお世話になった人に、ギフトを贈ろうと思っていたの。ゆっくり一人でお店を見て、村には乗合馬車で帰るわ。ごめんなさい、後は二人で楽しんで」
私のこの言葉にナオミは、目を白黒させているが、ジルベールの瞳は輝いている。
そこで確信する。
ジルベールはナオミとこの場所で、二人で過ごせることを喜んでいると。
なんとなく、二人は相思相愛ではと思っていたけれど。
これは間違いないわ。
私は二人に手を振り、歩いてきた道を一人、戻ることにした。
すると。
恋人に人気の水路に向かい、沢山のカップルがこちらへと向かって歩いてくる。
今の私は完全に逆流している状態。
そこでなるべく通りの端を歩き始めた時。
誰かに名前を呼ばれた気がした。
今日は日曜日で、ここではホリデーマーケットが行われている。
キャリーだって里親と来ているぐらいだから、孤児院の子供達や修道院の仲間が来ている可能性は大だった。でもこれだけ人が多いと……人探しは困難を極める。
きっと、聞き間違いね。
そう思ったまさにその時。
「ねえ、アリー」
その声を聞いた瞬間。
瞬時に鳥肌が立った。
恐怖で体がすくむとは、まさにこのこと。
逃げた方がいい。
そう思ったが、体が動かない。
名前を呼ばれた。
そう思ったが、まさか私の名前を呼んだのは――。
がしっと右手首を掴まれ、そのまま細い路地に引っ張られる。
その瞬間、心臓がものすごく反応し、その音をみんなに聞かれてしまったのではと思った。
かろうじて出すことができた「や、やめて……」という声は、情けない程、か細い。
細かく震えながら、手首を強く握っている相手を見る。
違っていたらと思う願いはむなしく。
そこには昨日、見たままの人物がいる。
バサバサしたボブの髪に、フードを被っている。
裏地は赤、表地は黒のフード付きローブ。着ているのは黒のワンピースだ。
その目を見ると、ここが細い路地ということもあり、真っ黒に見える。完全に目が座っているように感じた。しかもよく見ると……。
あちこちに。
なにかシミがついている。顔は何かをぬぐった後までついていた。






















































