54:怖い
昨晩。
部屋に戻り、消灯してからマイに話しかけることも考えたが……。
だが、部屋が暗い状態でマイと話すのは……それはそれで“怖い”と思えたので、翌日話すことにした。
昼休みに図書室で魔物の召喚について調べ、少し知識を仕入れた上で行動したいと思った。
私が何か言えば、マイはまた魔物の召喚を引き合いにし、私を脅す可能性があったからだ。
今日は、キャリーはお昼当番に選ばれていた。当番になると、お昼休憩はずらしてとることになるので、昼食を終えたナオミと私は、二人で図書室へ向かうことになった。
ちなみに今日、孤児院の子供達は全員、村長の家の昼食会に招待されていた。これがなければ子供達の世話に追われ、昼食を食べている以外の休憩時間は十五分ぐらいしか取れなかったので、ついていたと思う。
キャリーは、ブローチの件が気になっているだろう。まさか魔物の話が出ているとは思わず、食堂で昼食の配膳をしながら、ナオミと私に笑顔で手を振ってくれた。
魔物の件は、このままキャリーに話さない方がいいのかしらと思いつつ、ナオミと昼食を終えると、図書室へ向かった。
「さすがに魔物の召喚に関する本はないわね。でも見て、こんなのがあるわ」
ナオミが一冊の本を手に、私に駆け寄った。
その本に書かれていたのは、聖女に敵対し、魔物を崇める集団がかつていた、という情報だ。彼らは「シャドウマンサー<魔を招く者>」と呼ばれ、徹底的な弾圧を受け、現在は存在しないが、魔物を表す“黒”と人間の血を示す“赤”をシンボルカラーとして身に着けていたという。
魔物を呼ぶために人間を囮にしていたと書かれており、挿絵が添えられている。その絵では、幾何学模様が描かれたシャドウサークルに、ロープで結わかれ座らされている男性の絵が描かれていた。
「召喚……なんてやっぱり魔物相手にできない気がするわ。こうやって身動きできない状態にして、魔物が魂を喰いに来るのを、待つしかないんじゃないかしら?」
ナオミの言葉には「そうね」と思うしかない。魔物と意思疎通を図るなんて、無理だと思ったし、“召喚”なんて都合のいい言葉を使っている……としか思えなかった。
その後もいくつか書物で確認したが、魔物を召喚するなんて情報は見つからず、でもシャドウマンサー<魔を招く者>についての記述は、いくつか見つかった。
彼らは聖女を貶めるため、いろいろ悪さを画策した。過激に活動していた時代には、徒党を組み、神殿を襲撃している。身の回りを世話する神職者の女性になりますし、毒を盛ろうともしていた。そのことごとくが失敗しているわけだが……。
「ねえ、見て、アリー。これ、もし本当なら驚きじゃない?」
そう言ってナオミが見せてくれたのは、比較的新しい本で、聖女に関して書かれているものだった。
アリアナ・マドレーヌ・ローゼル。
現在、聖女は不在であるが、現時点で最後の聖女となっているのが、このアリアナ聖女だ。18歳で聖女の証の薔薇の痣が胸に現れ、聖アグネス神殿で行われた聖女の確認の儀式で、すべてをクリア。第101代目の聖女として迎えられていた。
だが、彼女が25歳の時、流行り病によって亡くなったとされているが……。
実は、シャドウマンサー<魔を招く者>に攫われ、行方不明の可能性もあると、その書物には書かれていた。
その根拠として、当時の流行り病とされているシフリーという病気は、聖女が感染する病気ではなかったのだ。つまり男女が肉体関係を持つことで、その多くが感染すると言われていた。聖女には聖騎士同様、純潔が求められており、シフリーに感染するはずはないというのだ。
対して、当時言われていたことは……。
聖女は魔物が現れ、被害を受けた村や町を慰問することがあった。魔物の襲来で逃げ惑い、怪我をした人たちを励ましていたわけだが、そこで怪我人と接触、シフリーに感染したとされていた。
さらに、シャドウマンサー<魔を招く者>が関係しているというもう一つの根拠として、聖女が亡くなった寝室からは、深紅の薔薇と黒い布が発見されたこと。神殿から黒いローブを被った集団が、聖女が亡くなったとされた日に目撃されたことなどが、挙げられていた。
どれも驚きの情報ではあったが、マイに関して分かったことは。どうやらシャドウマンサー<魔を招く者>を信奉しているらしいこと。魔物の召喚はできず、結局は魔物が出そうな場所に、囮を用意するしかないこと。そしてこの修道院にいる限り、魔物の召喚などできない、ということだ。
誰もがそうだと思う。
知らないこと、未知のことに対し、恐怖を覚える。
なぜ恐怖を覚えるのか?
それは分からないからだ。
マイの言葉も同じだった。
魔物を召喚できるのか? 魔物を操り誰かを害することができるのか? それを知らないから恐れを感じたが。
そんなことはできないと分かった。脅しだと理解した。
だからといってマイは危険ではない……とは言い切れない。魔物ではなく、自身が刃物を手に、何かする可能性もある。よってそこは慎重に。でも毅然として、ブローチのことを聞くしかない。
今日の私の奉仕活動は、幸運にも、村の病院へ修道院で作ったお菓子を届ける、だった。病院へのお見舞いだと、骨折などで入院している患者と会話することもあり、時間がかかる。だがお菓子を届ける場合は、文字通り届けて終了。
これならマイと明るい時間に会話を持てる。
ナオミによると、マイは奉仕活動の時間は、村の公園にいることが多いと言う。そこで病院へ行った帰りに、公園によることを決めた。






















































