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聖女ではありませんでしたが、聖騎士様に溺愛されそうです  作者: 一番星キラリ@商業ノベル&漫画化進行中


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56/142

55:禁句

 病院にお菓子を届けた帰り、他の修道女と修道士と別れ、私は公園へ向かった。


 私は修道院でも古参であり、それに今日、病院へ向かったのは、仲のいい修道女と修道士。よって彼らは公園に寄ると言う私のことを、詮索することもない。


 こうして公園に向かうと……。


 いる。


 初めて会った時と同じ、黒のワンピースの上に、裏地は赤、表地は黒のフード付きローブを羽織って……何をしているのだろう?


 見ると木の棒を使い、地面に幾何学模様を描いている。


 つまりはシャドウサークルを描いていた。


「マイ、これ、いるかしら? 黒のインクよ。中身は空だけど、容器は黒のガラス製。錫合金(ピューター)の装飾が付いているし、赤いリボンもついているわ」


 赤いリボンは私がおまけでつけたものだが、マイの目は、そのリボンとインク瓶に注がれている。


 そして私の言葉を聞き終わると、マイはシャドウサークルを描く手を止めた。テクテクと私の方に近づき、手を出す。無言だが「欲しい」ということだ。


「渡す前に、私の話を聞いて」


 無反応。でもインク瓶にも手を伸ばさないので、話を聞くつもりだと理解した。だから私は話し始める。


「私達がいる修道院は、貴族の寄付で多くの費用をまかなっているの。もし寄付をもらえないと、数ヵ月で修道院も孤児院もなくなるわ。もし今いる修道院がなくなったら、どうなると思う?」


 マイは無表情に私を……眺めているだけだ。答えるつもりはないのだろう。話を続けることにした。


「この村にはもう一つ、孤児院があったわ。でもその孤児院の子供が、寄付をくれていた貴族の庭園から薔薇を盗んだの。転売しようとして。その結果、寄付をもらえなくなり、孤児院はつぶれたの。そこにいた孤児達は――」


 そこで言葉を止めると、マイは「眺める」から、私を「じっと見る」に変わった。

 答えを……知りたがっている。


「奴隷商人に売られたの。夜の間に。朝になったら孤児達は数名を残し、消えていたわ」


 答えを知ることができたので、マイの目は「眺める」に戻った。


「もしも私達がいる孤児院と修道院も寄付を失ったら、同じ道をたどると思う。でも……奴隷として売られるなら、まだマシだと思うわ。もし人攫いにあって、娼館なんかに売られたら……。魔物の召喚もできなくなる」


 最後の一言にマイは、分かりやすくピクリと頬を動かし、反応した。


「……マイは思い当たることはない? 黒い宝石。しかも透明。滅多に見かけない。珍しいわよね。しかも赤い宝石まで一緒だったら……。欲しくなるかもしれない。でも、もし、それを本人の承諾なしに手に入れたのなら……。大変なことになるわ」


 マイの目が、初めて大きく見開かれた。

 バレていないと、思っていたのだろう。

 でもそれはそうだ。

 あの場で盗んだことに、気づいた人はいなかった。

 気づけば指摘されていたはずだ。

 それだけ、マイの手口は巧妙。

 そして……過去にも同じような手口を使い、成功していたのだろう。


「私は明日、町へ行くわ。そこでそれをうまく持ち主に返すことができると思うの。もし思い当たることがあるなら。黒い宝石と赤い宝石がついたアクサセリー。町の貴族の令嬢がブレザーにつけていたものよ。代々彼女が通う学校に伝わる、由緒正しいもの。紛失日付から逆算し、状況を加味して、疑われる前に。返した方がいいと思うわ」


 マイが私を見た。


「なんで……分かったの?」


「分からなかったわ。盗った瞬間は。でも部屋で……」


 するとマイは「ちっ」と舌打ちをした。そして「分かったわ。仕方ないから、それは返してあげる。だからまず、それをよこしさない」と、私が手に持つインク瓶を、自身の手でひったくるように奪った。


 男爵令嬢だったのに。


 とても手荒だった。


 どうして?と思い、つい尋ねていた。


「なぜそんなに、手荒に扱うの?」


 その瞬間、マイの目が吊り上がり、祈りの書に描かれていた悪魔のような顔つきに変わった。


「あんた……性懲りもなく、またその言葉を言ったわね……」


 低く呻く声でそう言うと、マイは口をカッと開け、唾を飛ばしながら大声で怒鳴り始めた。


「人の物をさんざん奪っておいて何よ! あんたはそうやってなんでもかんでも奪っていったじゃない! うさぎのぬいぐるみも、ペギーも、友達も婚約者も。全部あんたが奪ったのよ!」


 これにはなんのことかと、ぽかんとしてしまった。

 マイの目に、私は誰として映っているのだろう?

 手荒に扱うのかという言葉が引き金になり、マイの中の何かに火がついてしまったようだ。


「盗人はアンタよ! この嘘つき女! 復讐してやる! 復讐してやる! 復讐してやる! 魔物にお前の魂を喰わせてやる!」


 マイがものすごい勢いで、手にしていたインクの瓶を投げてきた。

 当たる!と思い、両手で顔と頭を庇おうとしたが、瓶はぶつからなかった。


「えっ……」


 驚き、顔をあげると、自分の目の前に、男性の後ろ姿があった。


 このミルキーブロンドの髪、そしてスラッとした黒の上質な外套は――。


「君、人に物を投げつけるなんて、やめたまえ。もしも僕がいなかったら、怪我をさせていたところだ。そうなれば君は、牢獄行きだ」


 間違いないわ。この声は!

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