44:虹に願ってしまうぐらい
ランスが聖騎士であり、伯爵家の次男であること。
私が魔物を引き寄せてしまうこと。
このことからランスと結ばれることはできない――そう考えてしまった。
でもランスは私のこの懸念事項を聞くと、すべてに答えを出してくれた。
無論、私が魔物を引き寄せてしまう件については、まだハッキリそうと決まったわけではない。それにもし私が本当に魔物を引き寄せてしまうとしても。
もう心配するつもりはなかった。
だってランスは。
私の存在は、迷惑などではないと言ってくれた。
「アリー様は自分にとって、心から大切にしたいと思える存在です」と言ってくれたのだから。彼を信じ、一人で悩み、暴走するのは止めよう――そう思えた。
「ところでアリー様」
食事を終え、コーヒーのおかわりを飲んでいると、ランスが頬を少し赤くして私を見た。
深みのあるターコイズブルーの瞳の周りも、ほんのりピンク色になっている。
ど、どうしたのかしら?
その顔を見るだけで、心臓がドキドキしてしまう。
「もうアリー様には十分伝わっていると思いますが、自分はあなたを愛しています。短い時間ですが、密度の濃い時間をアリー様と過ごし、すっかり心を奪われてしまいました。アリー様の人柄、特に優しいところに。もう自分の気持ちが止められなくなりました」
ホワイトブロンドのサラサラの髪をかきあげるランスは、とても照れている。照れて、そして……キラキラと輝いていた。
「お互い身分的には許されない口づけを何度もしてしまったのは……魔物を倒すため、というのもあります。ただ、あなたを愛していたので、口づけをする口実にしたというのが本音と申しますか……。そこは猛省しています。ですが……アリー様はどうでしょうか?」
「!!」
「アリー様の口から、返事をちゃんと聞いておきたいのです」
この直後にランスがとても強い光を発していたが……。
もうこれについては、指摘してはダメね。
ますます輝きが強くなるだけだから。
それにしても。
こんな風に言われると、二つの感情が喚起されてしまう。
まずは可愛い……!
だって。
魔物を聖なる武器で華麗に殲滅し、聖騎士としてキリッとして、圧倒的にかっこいいのに。
こんなに照れた表情で、返事を聞きたいと懇願するなんて。
どうしたってお可愛いこと……と、思えてしまう。
その一方で。
あんなに熱烈な口づけをされて、実は好きではないです……なんてことがあるのかしら?という疑問が浮かんだ。
あのランスの口づけは、中毒性がある。
今だって思い出すと、また口づけをしたいと思ってしまう。
まだ身分的には修道女なのに。
魔物を退治するため、仕方なかったとはいえ、戒律を破ることになってしまった。
でも……。
後悔はない。それは私もランスを好きだから。
「ランス様、昨日、虹を見た時のこと、覚えていますか?」
突然、虹の話をふられ、ランスは一瞬、キョトンとした。でもすぐに「ええ、覚えていますよ」と素敵な笑顔になる。
「虹に願い事をされましたか?」
「しましたよ」
やっぱり。虹に願い事は、この国では定番よね。
「私は……叶ったも同然なので打ち明けますと、ランス様と少しでも長く一緒にいたいと願っていたのです。残された旅の時間が少なかったので、ランス様と離れがたい気持ちになって……」
「……! それは……自分も同じようなものです。アリー様と離れたくないと、おそばにまだいたいと願っていましたよ」
これには胸がジーンと熱くなる。
相思相愛、というものだったのね。
二人で同じことを願うなんて。
泣きそうになるのをこらえ、私は話を続ける。
「虹に願ってしまうぐらい、私もランス様が好きです。愛しています」
私の言葉を聞いた瞬間。
本当に輝くような笑顔になったランスからは、ビースト・デビルベアを消滅できそうな光が放たれた。好きという気持ち、愛しているという感情が高まると、ランスは……そういう風に興奮してしまうのね。
「あ、アリー様、目を閉じているということは、自分が……! その、違うんです。いや違わないのでしょうか。でも男性というのは、愛している女性に対し、どうしてもこうなってしまうのです。何も今すぐそういうことを求めているわけではないのですが」
もう顔だけではなく、首や鎖骨、耳まで真っ赤にするランスは、これまた可愛く感じてしまう。美貌の男性がこんな風に照れる姿は……本当にたまらなかった。
「ランス様、大丈夫です。それだけ私を愛してくださっている……ということなのでしょう?」
「そうです」と答えた後、ランスは深みのある水色の瞳を潤ませる。
「どうしてアリー様には見えてしまうのでしょうか。自分の気持ちはアリー様に筒抜け。本当に恥ずかしくてなりません。でも必ずしもいつも興奮しているわけではありませんから! ただ純粋にあなたを思う気持ちが高まっているだけの時がほとんどですから……」
ロマンス小説では相手の気持ちが分からず、女性の主人公はみんなやきもきしているのに。私は……何も心配しなくて大丈夫ね。
思わずニッコリ笑顔になると。
「自分もアリー様の気持ちを知りたいです……」
ランスが拗ねるなんて! とても珍しく、抱きしめたい気分になってしまう。
「私は……顔に出やすいと思います。すぐ赤くなるので……」
拗ねた顔のまま上目遣いで私を見るランスは。
いつもの落ち着いた彼とは別人で、もう私の胸は……ドキドキが止まらなかった。






















































