19:出発
「寝惚けていた。さらには昔飼っていた飼い犬と勘違いした。でもそれはすべて言い訳です。……未婚であり、修道女であるアリー様と同じベッドで寝るなんて……許されない行為。謝っても許していただけないかもしれませんが、本当に申し訳ありませんでした」
ランスが体を折るようにして頭を下げた。
「ランス様、顔をあげてください。お願いします。確かに私は未婚で修道女ですが、ランス様もまた、聖騎士なのです。私と同じベッドで休むなんて、大迷惑だったと思います。飼い犬と勘違いし、ベッドで抱き寄せられた時。本当は私が起き上がり、ソファへ向かえばよかったのですが、そうしなかったのは私の判断です。ですからこれはランス様だけに非があるわけではありません」
ようやく顔をあげたランスは、不思議そうに尋ねる。
「なぜ、ソファへ向かわなかったのですか?」
「それは……お疲れだと思ったからです。起こすのが可哀そうだと、思ってしまいました。従者兼御者兼護衛として、馬車を走らせ、食事を用意し、盗賊と戦い……。さらに魔物を倒し、パーク男爵への報告もされ……。まさに八面六臂の活躍。椅子に座った苦しい態勢でも眠ってしまうぐらい、疲れているのだと思ったのです。私がソファに行くため、無理矢理起こしたくない……そう思ってしまいました」
私の言葉を聞いたランスの顔は、なんだか感無量となっている。そこまで感動してくれるランスに、今度は私が感動しそうになっていた。
「アリー様は……本当にお優しいのですね」
「それは……多分、ランス様だからです」
「え……」
これは私が常日頃思うことであり、誰かに話ことがあるわけではないが、なぜか自然と口にしていた。
人間と言うのは合わせ鏡のようであり、誰かに優しくされれば、優しくしたい気持ちになる。無論、修道女という立場の私は、基本的に善意を持って生きようとはしていた。それでも嫌な気持ちにさせられる相手に会うと、ツンとした態度をとってしまうこともある。それは後で謝罪の祈りをすることになるのだけど。
でもお互いを尊重しあうことができれば、優しさには優しさを、親切には親切を返すことができると思うのだ。
「ランス様が私を優しいと思うのなら、それはランス様が私に優しくてしてくださったからだと思います。本当に優しいのは私ではなく、ランス様ですよ」
そう言って微笑んだ瞬間。
ランスから輝きを感じた。
ここで光を感じるのは、至極当然に思える。
私の言葉をランスは喜んでくれたのだろうと。
そこでノックの音が消えた。
どうやらメイドが起こしに来てくれたようだ。
ランスは「では朝食の席でまた」と優美に微笑み、サラサラの髪を揺らし、扉へと向かう。彼と入れ替わりで「おはようございます」とメイドが元気よく部屋に入って来た。
◇
「アリー様、ご連絡をお待ちしています。どうか僕と舞踏会へ行くこと、前向きに考えてくださいね」
朝食を終えると、ランスと私は再び村を目指し、出発することになった。シリルはもう一泊泊まらないかと提案してくれたが、それを許せば滞在がずるずると伸びる気がした。よってその言葉はありがたいと思いつつも、滞在は辞退していた。
その結果、見送りのため、エントランスに来たシリルは、泣きそうな顔になっている。
サルビアブルーの上衣の袖からは、フリルたっぷりのシャツが見え、首元もフリルで飾られている。上衣と同色のズボン、ブルーのベストと、今日も王子様という装いのシリルを見ていると……。
やはり弟のように思えてしまう。シリルと王都で開催される舞踏会へ行くことは……ないだろうと思えた。今、この場でそれを告げた方がいいのか迷う。でも見送りをするので泣きそうなのに、追い打ちをかけるような言葉は……言えない。
手紙を書こうと心に誓い、パーク男爵夫妻にも別れの挨拶をし、馬車に乗り込んだ。
馬はパーク男爵の指示でたっぷり餌と水をもらい、美しくブラッシングをしてもらい、元気いっぱい。さらに道中で食べるようにと缶詰や果物、水もたっぷりいただいた。しかも今も着ているドレスもプレゼントしてくれたのだ。それにペンダントも、昨晩のうちに新しいチェーンが届けられ、それは寝ている私の首にランスがつけてくれていた。
スモーキーピンクのドレスは落ち着いた色味だが、身頃のビジューによる刺繍が実にエレガント。ウエストにつけている黒のベルベッドのリボンはとてもいいアクセントになっている。黒いフード付きのロングケープもプレゼントされ、それを羽織ることで防寒対策もバッチリだった。
昨日に比べ、今朝はぐっと気温が冷え込んだ気がする。
晩秋。でも冬はもう、そこまで来ている。
「では出発します」
兜に甲冑にマントと昨日と同じ装備を身に着けたランスの声を合図に、ゆっくり馬車が動き出す。いろいろ重量が増えたので、動き出しがいつもよりゆったりしている。
「アリー様、ご連絡、お待ちしています!」
シリルが大きく手を振り、私たちが見えなくなるまで見送ってくれた。
お読みいただき、ありがとうございます。
さくっと読める新作ですヾ(≧▽≦)ノ
良かったらご賞味くださいませ。
ページ下部にイラストリンクバナー有
『浮気三昧の婚約者に残念悪役令嬢は
華麗なざまぁを披露する
~フィクションではありません~』
https://ncode.syosetu.com/n8030im/
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた。
しかも定番の悪役令嬢ではない
残念悪役令嬢だった。
おかげで婚約者であるこの国の第二王子は
私を蔑み、浮気し放題。
ついに断罪されるとなったその時
私は自ら婚約破棄を申し出て、彼の浮気を指摘するが――。
断罪の場で自ら婚約破棄宣告シリーズ第四弾開幕!






















































