14:打開策
シリルが屋敷の中に入った後。
窓から少し離れた場所で、シリル、パーク男爵夫妻、使用人たちが固唾を飲んでこちらを見守っていた。
シャドウ・ガーゴイルは、上空や低空から、旋回してと、様々な方法で攻撃をしかけてくる。だが聖剣を持つランスがいるので、これという一撃を加えることができないでいた。
聖なる武器による攻撃を目の当たりするのは、これが初めてだったが、聖剣がただそこにある。それだけで魔物は攻撃することも、近寄ることもできなくなることに驚いた。
でも現状はそれだけなのだ。
魔物は聖剣で攻撃できる間合いに来ないので、こちらからは仕掛けることができない。
つまりは防御一辺倒。
「ランス様、シャドウ・ガーゴイルのような飛行タイプの魔物とは、これまでどのように戦われているのですか?」
「通常は聖弓を使います。ただ、聖騎士で聖弓を扱う者は、限られているのです。というのも飛行タイプは、滅多なことでは現れないので……。実は自分も飛行タイプと遭遇するのは、初です」
これにはそうなの!と驚いてしまう。
なんでそんなにレアな魔物がここに現れたの!?
聖弓はここにはない。
そうなるとこの膠着した状態が続くの……?
「飛行タイプを想定しておらず、聖弓を持ってきていませんが、部屋に聖槍はあります。聖槍であれば、投擲できますので、攻撃も可能です」
「でもそれは一撃勝負になりませんか? 失敗して聖槍の回収のため、前に出ると……」
「その時は自分の生命力を使い、撃退します」
そこでふと思う。
あの閃光は、目くらましにもなるぐらい強い光だと思う。でもどんな魔物でも倒せるのかしら?
「! ランス様、再び急降下で、こちらへ向かってきています」
「了解です」
シャドウ・ガーゴイルの牽制を終えたランスに尋ねる。
「ランス様の生命力で、どんな魔物でも倒せるのですか?」
「どうでしょうか……。現状はすべて倒せていますが……。ただ、自分の力はその強さが変動するので。発動が弱ければ、たいしたことのない魔物でも、倒せないことも……あるのかもしれません」
「……シャドウ・ガーゴイルは巨大ですよ。大丈夫でしょうか……?」
するとランスは微笑む。
「アリー様を守るためなら、必ず倒しますよ」
「……! ランス様にその覚悟があるならば。私、聖槍をとってきます!」
私の言葉にランスは息を呑んだが、すぐに笑顔になる。
こんな状況だが、胸が思わず高鳴る素敵な笑顔だった。
「ありがとうございます。そうしていただけると助かります。ベッドの脇に立てかけてありますので、お願いできないでしょうか」
「分かりました。……私がいなくても、大丈夫ですか?」
「ええ。アリー様がいてくださることで、とても戦いやすいのは事実です。でもこれまでは、アリー様がいませんでしたから。大丈夫ですよ」
そう答えた瞬間、またもシャドウ・ガーゴイルがこちらへ向かってくる。ランスに位置を知らせ、彼は聖剣を振りかざす。
「パーク男爵夫妻やシリル様には、別の部屋に避難するよう、伝えてください。万が一に備え」
「分かりました!」
頷いた私は部屋に入り、パーク男爵夫妻やシリルに、ここではない別の部屋に移動するよう伝える。これから聖槍を使い、仕留めることを伝えると、皆、慌てて部屋を出ていく。
私は彼らとは逆の方向に、駆けだす。
通常、ドレスでこんなに走らないと思うのだけど。履いている靴はヒールもないので、ちゃんと走ることができた。そのままランスの部屋に飛び込み、でも真っ暗なので、慌ててカーテンを開ける。
少し明るくなり、素早くベッドへ向かう。
「あった!」
思わず声を出し、聖槍を掴む。
持って「重い!」と思い、持ち上げて「バランスが取りにくい!」と気づく。
聖槍は私の身長からすると長い。
これを持って走るだけで、一苦労に思えた。
そう考えると……。
ランスは聖剣を扱い、この聖槍も扱い、そして聖弓も扱える口ぶりだった。
すごいな。
自分が転ばないよう、慎重に聖槍を持ち、部屋を出る。
廊下を少し早歩きで進んでいくと。
「!」
もう衝撃。
廊下の正面からこちらへ向け、シャドウ・ガーゴイルが飛んできていた。
どうして!?
しかもどうやって屋敷の中に!?
だがよく見ると、広げた翼は廊下の幅以上ある。
でも途中で止まることなく、こちらへ向かってきているということは。
魔物というのは、実は実体がないのだろうか?
いや、今はそんなことよりも。
聖槍を持ち、シャドウ・ガーゴイルに背中を向け、走って逃げるのは……。
無理、では?
というか。
ランスは、シャドウ・ガーゴイルがここに向かっていることに、気づいていない可能性が高い。
ならば。
「きゃああああああーーーーーっ」
出せる限りの声で叫ぶ。
この声がテラスにいるランスに届くことを願い、そして聖槍を構える。
攻撃をするつもりはない。
聖剣を向けているだけで、ランスはシャドウ・ガーゴイルを牽制できていた。
ならば聖槍をシャドウ・ガーゴイルに向けているだけで、効果があるのでは!?
そう考えた。
シャドウ・ガーゴイルが、どんどんこちらへ迫ってくる。
その大きさ、勢いに、足が震えていた。
だが。
「アリー様!」
ランスが廊下に姿を現した。
気づいてくれた!
「ランス様、シャドウ・ガーゴイルは私の方に向け、ものすごい勢いで向かってきています」
「!」
ランスが勢いよく、こちらへ向け、駆け出した。
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