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聖女ではありませんでしたが、聖騎士様に溺愛されそうです  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中


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15:シャドウ・ガーゴイル

 シャドウ・ガーゴイルが迫り、それを追う形でランスが廊下を全力疾走している。聖剣を持っているのに。その速さはシャドウ・ガーゴイルに追いつく勢いだった。


 彼の優れた身体能力に舌を巻く。


 聖槍を構えている。

 だから大丈夫と私は思っていたのだが。


 聖剣をランスが構えていた時。

 シャドウ・ガーゴイルは遠巻きにしていた。

 ここまで近づくことはなかった。


 そこで気が付く。


 聖なる力を持つ武器を、聖剣を、授けられたとランスは言っていた。聖なる力を持つ武器は、誰でも扱えるわけではないんだ、きっと。つまり正式に、聖剣、聖槍、聖弓の持ち主と認定されないと、それは聖なる武器にはならないのでは……?


 !


 シャドウ・ガーゴイルの体に、聖槍が刺さっている。

 でもそのまま私の方に降下してきていた。


「伏せろ」


 ランスの声に聖槍から手を離し、その場に伏せると、ビュンというものすごい音がして、ずさっという音が響いた。顔をあげ、音がした方角を見ると、床に聖剣が刺さっている。


 聖剣を投げ、床に刺さるってどれだけの力を!?


 顔を前に向けると、ランスがすぐそばまで来てくれている!


 だが。


 シャドウ・ガーゴイルは飛んでくる聖剣を避けるため、一旦上昇していたが、再び降下してきていた。


「アリー!」


 叫んだランスが私を抱きしめ、その背後からシャドウ・ガーゴイルは迫っているが、ランスから輝きは発動していない。このままではランスとシャドウ・ガーゴイルが接触することになる……!


 聖騎士であるランスは、ここで死んではならない!


 咄嗟に両腕を開き、その体を抱きしめる。

 ランスの頭を左腕で庇い、そして右腕でその背を、ぐいっと強く胸に抱き寄せた。


 少しでもシャドウ・ガーゴイルに触れる瞬間を遅らせたいと思った。

 魔物に触れられると、魂を喰われる――。


 その時。


 今日一番の輝きに、ランスだけではなく、廊下全体が光り輝いた。

 眩しさですぐに目を閉じる。

 勢いよくランスを抱きしめすぎて、そのまま私は廊下に仰向けで倒れる。当然、私が抱きしめているランスも、私に重なるようにして倒れこむことになった。


 輝きは収まらず、私はただただランスを抱きしめ続けた。


 これだけの光……つまりは生命力があれば、シャドウ・ガーゴイルは消滅したと思う。

 が。

 武器なくして本当に魔物が倒れるのか。

 確信がないのでランスを抱きしめたまま、動くことができなかった。


 それに光が……いまだ収まらない。


「アリー様……」


 震えるようなランスの声が聞こえ、目を開けようとしたが、やはり眩しくてそれはできない。


「……!」


 ランスにぎゅっと抱きしめられ、彼の顔、体を感じ、自分がどういう状態か気が付く。


 自分でしたことだ。

 シャドウ・ガーゴイルがランスに触れる瞬間を少しでも遅らせたいと思い、自分の胸に彼を抱き寄せた。胸にランスの顔が埋もれるようになっているのは、彼のせいではない。私がしたこと。そう分かっていても、叫び声をあげそうになった。彼の頭と体を押し返そうとするのを、ぐっと堪える。


 いや、でも。


 もうシャドウ・ガーゴイルは消失したと思う。それに今、ぎゅっと抱きしめているのは、ランスの方だ。私は力をいれていない。ならばそろそろいいのでは……? 私から、彼の体を押し返しても。


 そう思ったまさにその時。


 ランスがゆっくり上体を起こした。


 ハッとして目を開けようとするが、やはりまだ眩しい。

 彼は一体、ど、どうなってしまったの……?

 シャドウ・ガーゴイルは珍しい飛行タイプで、膠着状態が続いていた。

 ようやく倒せる状況になり、絶対に倒したいとランスは思ったことだろう。

 だから最大限の生命力を発動させ、それが……あまりに強すぎて、収まらないのかしら?


 再度、目をこじ開けようとして、でもすぐに閉じることになったその刹那。


 私を見下ろすランスの顔が、あまりにも甘くとろけそうな表情で、それでなくても激しく鼓動していた心臓は……もう大爆発寸前だ。


 ◇


 アリーのことを、絶対に守ると決めていた。


 彼女の生い立ちを聞き、これ以上アリーが苦労する必要はないと思った。それに彼女の人柄の良さ、優しさ、気遣い。そのどれをとっても自分には好ましく感じられた。


 シャドウ・ガーゴイルが現れた後、シリルと共に退避することなく、自分のそばに残り、見えない自分のためにサポートしてくれた。決定代がない中、それを打破するため、自ら聖槍を取りに行くことまで提案してくれたのだ。


 そのアリーの叫び声を聞いた時は。


 心臓が止まるかと思った。


 ランス・フォン・エルンスの名をかけ、絶対にアリーを助けると誓った。

 自分の出せる最大で、彼女の元へ向かうことにした。


 廊下で震えながらも聖槍を構え、天井を睨むアリーを見つけ、神に祈った。自分はどうなってもいいから、彼女を守らせてくださいと。


 聖槍は正当な持ち主ではないと、聖なる武器にならない。


 それを知らず、聖槍を健気に構えるアリーに心が痛み、間に合ってくれと床を蹴る。


「伏せろ」と叫んだ後、聖剣を放つ。


 シャドウ・ガーゴイルがどこまで迫っていたのか。

 それはアリーの目の動き、表情からしか分からないが、ギリギリだったと思う。でも聖剣により、距離をおいたはずだ。


「アリー!」


 その体を抱きしめた瞬間。


 間に合ったと思い、全身が喜びで満ちた。

 あとは力を発揮すれば、近づくシャドウ・ガーゴイルを消滅させることができるはずだ。


 それを確信すると同時に。


 アリーが自分のことを、両腕を広げ、抱きしめた。さらに左手は自分の頭、右手は背中を包み、守るようにして、その胸に抱き寄せた。


 驚いた。


 彼女が自分を庇おうと、守ろうとしていることに。

 少しでもシャドウ・ガーゴイルとの接触を遅らせようと、懸命に自分のことを抱き寄せている――そう思えた。


 聖女なんかではなく、ただの修道女で、でもなぜか魔物が見えてしまうアリーは。か弱い女性に過ぎないのに。聖騎士であり、聖なる武器がなくても魔物を倒せる自分を守ろうとするなんて!


 無謀だ。

 無謀だがたまらなく尊く思えてしまった。


 その結果。


 自分でも信じられない程、強い力を発動することになった。


 もうシャドウ・ガーゴイルは消えている。


 それは分かっていた。

 でもアリーはまだ、自分のことを抱きしめ続けている。

 そんな彼女を感じると……。


 自分からもアリーのことをぎゅっと抱きしめていた。


 そこで改めて彼女の豊かな胸の弾力を感じ、心臓が止まりそうになる。


 なんという触れ心地なのだろう……。


 ずっとこのままこうしていたい……という気持ちになりかけ、慌てて、上体を起こす。


 見下ろすアリーは目をきゅっと閉じ、顔を赤くし、震えている。


 その表情と仕草を見ると、言葉にできない感情が強く喚起され……。

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