103:王都観光
『猫の隠れ家』で食べたエッグベネディクト、カスタードプリン、どちらも本当に美味しかった! 何より、朝からカフェには沢山の夜勤明けの騎士や兵士に加え、着飾った貴族もいるので、驚いてしまう。
みんな絶品エッグベネディクトを求め、お店に足を運んでいるようだ。
「満腹になったと思うので、公園の散歩をしましょうか」
朝食を終えると、ランスが笑顔で散歩を提案してくれる。
彼がエスコートしてくれるのだ。
勿論、喜んで散歩へと向かう。
ランス、ロキ、私の三人で『猫の隠れ家』から公園へ徒歩で向かうと、そこにはまた、沢山の貴族がいる。従者を連れ、きちんと素敵なドレスを着た貴婦人達が、ちょっと立ち話をしたり、ベンチに座って会話をしたり。
ゆったりと、朝のひと時を楽しんでいる。
「貴族のご婦人達は毎朝こうやって、社交をしているのですよ、アシュリー様」
これは村に暮らしている私には、未知の世界だ。
村でも早朝から女性は活動している。
でもそれは、こんなに優雅に会話をするためではない。
中央の広場の水汲み場で、煮炊きに使う水を汲みながら、ちょっと会話をするぐらいだ。
そんな朝の公園を散歩する貴婦人達の目に、ランスやロキは、いい目の保養になるようだ。皆、扇子で顔を隠しつつ、二人のことをじっくり見て、ため息をついたり、その姿を褒めたり。王都で一番、二番目に人気の男……とロキは自身とランスのことを評していたが、それはあながち嘘ではないと思えた。
ただ、任務中は兜に甲冑のランスだから、きっと今の姿を見ても……。
イコール聖騎士のランスとは、みんな、結びつかないだろう。
公園の散歩の後は、その公園を抜けた先にあるセレン川沿いをそのまま歩き、王族の婚儀や即位も行われる大聖堂へ向かった。
セレン川には、朝から沢山の絵描きがいた。この川沿いの景色は、王都名物。地方の貴族は、この景色を絵画という形で、屋敷に持ち帰る。季節ごとにこの川沿いの絵画を集め、屋敷に飾る――これが地方貴族達の間では、一つのブームなのだとか。
大聖堂はもう、本当に静謐で洗練されていた。
中央の祭壇のステンドグラスの美しさと言ったら……。何より、王族の行事が行われるだけあり、とても広く、天井も高く、圧倒されてしまう。
その大聖堂の後は、そのまま再び徒歩でサン・ローゼル塔に向かった。
王都を代表する、抜群の眺望を誇るサン・ローゼル塔。朝8時から展望台へ行けるようになっており、到着すると既に行列ができている。ここでは最新技術であるエレベーターが設置されており、五階分までの高さを、階段を使わずに移動できるのだという。
せっかくなのでと、生まれて初めてエレベーターに乗ってみたが……。
行列に並んでいる間に、階段を使えば、五階に行くことはできてしまいそうな気がしたものの。自分の体を動かすことなく、ゆったりとした速度で上昇し、五階へ到達するというのは、実に不思議な体験だった。
何より、五階という高さは普段、体験しない高さ。王都に広がる貴族達の屋敷を見下ろすことになり、これにはビックリ。
「アリー様、自分達の屋敷がほら、そこに見えます」とランスが教えてくれた時には、感動してしまう。確かに屋敷の右手から、このサン・ローゼル塔も見えていたが、塔から屋敷を眺めることができるなんて!
感動しながら、帰りは階段を下った。
「今日は朝からずっと歩きっぱなしですが、足は疲れていませんか、アリー様?」
ランスが優しく尋ねてくれる。
修道院にいる時は、祈りを捧げている時をのぞき、何かと忙しく動き回っていた。それに今日はドレスを着ているが、歩きやすさを優先し、ヒールは低めのものにしてもらっていた。よって足はあまり疲れることはなかった。そこは一般的な令嬢と違うのだろう。ランスもロキも驚いていた。
でもこの順番で散策することは、あらかじめ馬車の御者に伝えていたようだ。
サン・ローゼル塔の見学を終えると、馬車が迎えに来てくれていた。
馬車に乗り込み、移動した先は、王都で有名なホテル。
タウンハウスを持たない地方貴族がよく利用するだけあり、併設されているレストランはその美味しさで大人気なのだという。つまり、そこで昼食というわけだ。
レストランは一階、テラス席に加え、二階にも席があり、窓からはサン・ローゼル塔を目線の高さで眺めながら食事ができるという。
その二階席に案内してもらい、着席すると、確かにサン・ローゼル塔がバッチリ見える。
この席へ案内されたのは、間違いなく、エルンスト伯爵家とベネット公爵家の名が効果を発揮した結果だろう。
「アリー様、お好きな物をお好きなだけ、注文してください」
そうランスに言われ、広げたメニューを見ると……。
どれもこれも美味しそうで、盛大に悩んでしまう。
すると「任せとけ、アリー嬢。はずさない料理を俺が選んでやろう」と、このレストランに通いなれているロキが、本領発揮で注文をしてくれる。
こうして運ばれてきた食事は……どれもとても美味しい!
特にサーモンとキノコのキッシュが、サクサクとした生地、厚みのあるサーモン、バターが染み込んだキノコが絶妙にマッチし、たまらない旨さ。
さらに松の実を使ったケーキは表面にたっぷりの松の実、ケーキの中には甘味のあるチェリーと干しブドウで、食感、風味、食べ応えが揃い、思わず感動してしまう。
大満足し、この後の王立ローゼル美術館に向かうに当たり、一階にあるレストルームに行くことにした。大理石の床の、清潔感のあるレストルームから出た時、思わぬ人物とバッタリ出会う。
珍しい黒髪に、髪と同じブラックパールの瞳。
高い鼻に血色のいい唇。
肌は雪のような白さで、真っ白なシャツに黒色のタイ、ワイン色の上衣にズボン、ベルベットの黒のベスト。ボルドー色のマントを留めているのは……ガラス玉。
ガラス玉を販売するファブジェ氏のお店で会った、実業家のブラック・バーナードだ!
お読みいただき、ありがとうございました!
【完結しました】新章全8話、一気読みできますよ~
『悪役令嬢、ヅラ魔法でざまぁする【読者様の声を反映:改訂版】』
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