99:宝石職人
ロキは店の地下の倉庫を見せてもらったが、結局、これと言った発見はなかった。ただ、店主とはじっくり話を聞けた。本来、王立ローゼル聖騎士団の本部に出向き、事件に関する資料をまとめた資料保管室で、集めるべき情報が手に入った。
「ナイト・スカイ」シリーズのデザインを手がけたのは、既に亡くなっているファブジェ氏の妻だった。彼女がデザインした「ナイト・スカイ」シリーズのペンダントとピアスを手掛けた宝石職人が、シャドウマンサー<魔を招く者>だった。ブレスレットと髪飾りは、シャドウマンサー<魔を招く者>ではない宝石職人が作り上げた。
宝石職人であり、シャドウマンサー<魔を招く者>だった人物は、男性であり、名前はミンスク。出身はローゼル王国から遥か遠い北の国で、美大生として彫刻家を目指し、この国にやってきた。ただ酒癖が悪く、酔った勢いで賭け事をして大負けし、多額の借金を背負ってしまった。
ミンスクにシャドウマンサー<魔を招く者>になるよう、声をかけた人物の詳細は不明。用心していたのか、その人物はいつもフードを被り、顔の半分を布で隠し、顔を見せないようにしていたという。
その風貌と衣装から、砂漠の民なのではないかと、ミンスクは思ったらしい。ただ、社交的な人物であり、とてもシャドウマンサー<魔を招く者>に属する人物には思えなかったと、ミンスクは証言したという。
その謎の人物は、ミンスクの手先が器用であったところ見込み、宝石の加工ができないかと尋ねた。試したところ、これがいけると分かった。するとその謎の人物は、シャドウマンサー<魔を招く者>の一員となり、宝石職人になれば、借金を全額肩代わりした上に、金も与えると言ったのだ。
ミンスク自身、シャドウマンサー<魔を招く者>に対する興味はなく、借金の肩代わりに心惹かれ、この申し出を快諾する。指示されるまま、ファブジェ氏の店を訪ね、自身の手がけた宝石を見せた。その結果、ファブジェ氏のお店の宝石職人として採用される。
しばらくは貴族からのオーダーメイドの宝石を作っていたが、さらに店の名を高めるため、ファブジェ氏が今生の聖女への宝飾品の献上を思いつく。そこで彼の妻が「ナイト・スカイ」シリーズをデザインし、ミンスクにペンダントとピアスを作るよう、指示が出る。
これを謎の人物にミンスクは報告した。ミンスクから、聖女に献上する宝飾品を担当することになったと聞かされた謎の人物は、大喜びだった。そしてミンスクに、高級な洋酒や年代物のワインを、沢山プレゼントしたという。
ミンスクがペンダントとピアスを作り上げると、謎の人物はそれを一度預かった。その後すぐ、魔力と毒を込め、ミンスクにそれを返した。
何も知らないファブジェ氏は、それを聖女に献上。クリフォード団長は、ペンダントの箱から魔力を検知して……。
ミンスクが謎の人物とよく会ったという酒場など、捜索は王立ローゼル聖騎士団を中心に、徹底的に行われた。だが結局、その謎の人物が何者だったのか、見つけることはできなかった。
ミンスク自身は、シャドウマンサー<魔を招く者>に対し、関心がないも同然。しかも謎の人物につながる情報も、ろくにもっていない。完全に捨て駒だった。
そのまま牢獄に収監され、聖女を害する事件に加担したということで、終身刑となったが……。本人は食事があり、寝床が確保され、牢獄は快適だといい、奉仕労働で沢山の家具の装飾を彫り上げた。だが元々の不摂生がたたり、37歳という若さでこの世を去ったという。
「アリー嬢。ナイト・スカイ事件は、表向きは解決している。ミンスクというシャドウマンサー<魔を招く者>の宝石職人が逮捕された。自身がペンダントとピアスを用意したと自供もしているし、その宝飾品も押収され、聖女は害されることなく終わったのだから。ただ、黒幕は謎のままだ。ミンスクに指示を出していたシャドウマンサー<魔を招く者>は、誰だったのか……」
ロキは一応明日、資料保管室に出向き、ファブジェ氏が話したことに嘘がないか、確認をするという。
「ただ、結局、どこにもアリー嬢の両親につながる情報がない、ということだ。ミンスクはこの国に来てから女性と関係を持ったというが、その相手との間に子供ができた、という話はない。ミンスクに指示を出していた謎のシャドウマンサー<魔を招く者>が、アリー嬢の父親……というのも考えにくい」
そう言って腕組みして考え込むロキに私は、地下に彼がファブジェ氏と行っている間に考えたことを聞かせた。つまりは模造品やレプリカを、犯罪に使われたものと知らず、私の両親が手に入れ、価値あるものと信じ、私に残した可能性だ。
「それは……その可能性は一理あると思うな。もしペンダントからアリー嬢のルーツを探る必要がないのであれば……それはそれで最善に思える。何せクリフォード団長のあの一言もあるから」
やはりロキも、クリフォード団長が言った「Ignorance is bliss.」のことを気にしている……。
「でもその一方で、謎は残る。なぜアリー嬢は魔物が見えるのか、魔物に関する知識があり、魔物が寄ってくるのか……。これらをうやむやにしたまま、ランスは聖騎士を辞め、アリー嬢は修道女を辞め、二人が婚約する。それでいいのか……」
それは……その通りだ。
でもひとまず屋敷に到着した。そこで夕食をとりながら、ファブジェ・ジュエリー商会で得た情報を、ランスに報告した。
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