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そんなことよりカレーが食べたい。  作者: すけさん
第四章 その種はメイプルのような香りがありどこかほろ苦く……
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 4章幕間

「浩二くんの目から見て、佳奈はどうだった?」

「正直オレには人の機微は難しいのだ。いつも通りのいいんちょに見えた。違うのか?」

「……そうね。正直ちょっとおかしな感じがしているわ。あんまりよくない兆候かもしれない。」

「……そうか。」

成美との二人きりのやり取りの中でそんなふうに意見を交換し合う。


王宮の一室、豪奢な天蓋付きのベッドの前で、椅子に腰かけた浩二の向かいには、艶めかしい薄絹の寝間着をまとった成美が、しなを作るようにその身をくねらせつつも相対していた。


浩二としては目の毒なのでせめて何か上着でも羽織ってほしいと切に願うものなのだが、対する成美は「恩人の浩二くんを楽しませるための衣装なんだから、好きなだけ視姦してくれていいのよ?」などと訳の分からない理屈をこねて一向に取り合ってくれない。

相対する浩二としてはどうしてよいかも分からず、視線を適当に泳がせつつも、ただただ赤面するくらいしかすることがない。


正直自分はからかわれているのだと浩二は思う。あるいはひょっとして、本気で誘ってくれているのかもしれないと信じたくなる瞬間もある。



かつて高校で同じクラスの一員だった頃、はみ出し者の浩二からしてみれば柿野坂 成美などという極上の美少女はまるで縁のない高嶺の花であった。


ときおりクラスの入口などですれ違う折に、不意に目が合い慌てて浩二が視線を逸らすと、すれ違いざまにクスクスと笑われているような、そんな劣等感を覚えたものだ。


むろん今になってしまえばそれが浩二の被害妄想であった事はよく分かっている。

この少しばかり毒のある愛くるしい柿野坂 成美という女性はそんなふうに他人を悪く扱うような人物ではない。少しでも気に入らないことがあれば直接本人に文句を言うべきだ、そんな剛毅な気質に支えられ、明るくサバサバした人の好い人間であることを、今の浩二はよく知っている。

だがそれでも、遥か昔の学生時代に味わった得も言われぬ劣等感が、この可愛らしい美少女の姿かたちをした女性を前に浩二に気後れをさせてしまうのだ。



そんな浩二の気を知ってか知らずか、続けて成美が話をする。

「佳奈は元来、もっと落ち着いた性格で色んなものを客観的に評価できるバランスの取れた人間だったはずよ。

それが今の佳奈は違う。感情のぶれ幅が大きく、些細な事で笑ったり泣いたりのアップダウンが激しすぎる。

聖王国のやつらの呪いの影響かとも思ったけれど、解消された今でも変わらないどころか、むしろ以前よりひどくなっている。

どうしてだと思う?」


浩二にはさっぱり分からない。だからその通りのことを相手に伝えるしかない。「分からないな。オレにはいいんちょは昔からのああいう人物だとしか思えないんだ。済まない。」

肩を落とす浩二がおずおずと成美の方へ顔を向けると、彼女は楽しそうにコロコロと笑っていた。

「まあ、浩二くんの場合は仕方がないとも言えるわね。だってあなた、私ともそうだけれど、佳奈と仲良くなったのだって実際には異世界に来てからでしょう? 日本にいた頃の佳奈を知らないんだから、今の佳奈を自然だと感じてしまうのも仕方のない事だわ。」


それは全くその通りであった。浩二は高校生だったあの頃から佳奈の事を気に掛けてはいたが、では特別に仲が良かったかというとさっぱりであった。

浩二はいつも楽しそうに友達と笑い合う佳奈の事を遠くから眺めるばかりで、たまに授業などで席が近くなった際に二言三言会話を交わす程度だったのだ。


「済まない。」頭を下げる浩二に向かって、「いいのよ、浩二くん。」と成美は優しい声を掛けてくる。「だって浩二くんが気付けない現状こそが、佳奈の問題の本質だもの。」


それから成美は滔々と状況を語り始める。

「そもそも佳奈が情緒不安定になったのも、私が不思議と童心に帰ったかのごとく楽しかった子供時代のことばかり思い出すようになったのも、多分全ては『女神の加護』に寄るところだろうと私は睨んでいるの。


『女神の加護』は肉体や精神を加護を受けた時点での状態に保とうとする、これはあのハイエルフの女が見立てた予測ではあるけれど、恐らくまず間違いないのだと当事者であるこの私が保証するわ。


例えば私たちクラスの女子はあの日以来生理がまったく来なくなったし、佳奈なんてあの子もともと処女だったから、ちょっとしないだけですぐに処女膜が再生して随分と難義していたわ。」

突然の生々しい告白に思わず顔が赤くなる浩二。この成美という女は浩二がどう反応するか分かっていてわざとこういう話を振ってくるのだ。それもわざわざ二人きりの時に限って!

勘弁してくれと思いつつも、それがこの可愛らしい女性の魅力なのだろうとそう思い直す。

もしかしたら高校時代も柿野坂 成美は同じノリで浩二の事をからかっていただけなのかもしれない。


そんな浩二の様子を尻目に彼女の話は続く。

「そしてこの状態の保全性は恐らく精神にも強く影響を及ぼしているわ。

だってね? 浩二くん。私が初めて異世界に召喚されて、あの日そのまま『女神の加護』を受けて、私あの時、ワクワクしていたのよ。

子供のころ夜になって明かりを消して、真っ暗闇の中で布団をかぶった状態で、「もし私がこのまま異世界に召喚されるような事があったのなら……」なんて取り留めのない妄想に現実逃避していたあの頃の夢が、唐突に目の前に姿を現して!


そしてそのワクワク感そのままに私は『女神の加護』を受けたから、恐らく私は今でもドキドキが止まらないのよ!

本当に異世界に来れてよかったと、私は個人的には大満足しているの。


けれども恐らく佳奈にとっては違ったのでしょうね。

今にして思えばあの時の佳奈は緊張感でいっぱいだった。突然の事態に混乱して、でも動揺しているクラスの子たちを宥めたりと他人のことばかりに気を回して。

おまけにこんな大変な状況なのに伊丹 浩二とかいう問題児は城の外へと飛び出してしまうし。」

「うっ!」と浩二はその場で飛び上がった。「す、すまない……。」

「いいのよ、浩二くん!」成美はケタケタと笑った。「あなたのあの暴挙が、結果として今の私たちを救う元になったんだから、実にいいタイミングで逃げ出したあなたの行動は大正解だったのよ! だから別に私も佳奈もあなたに思うところは何もないの。

でもともかく、あの当時の佳奈はとても混乱していた。自分の心の整理もつかないまま、そのまま『女神の加護』を受けて。


多分あの子、その不安定な精神状態がそのまま加護の力でピン止めされて固定化されちゃってる、そんなふうに私には思えてならないの。」


「そうか……。」浩二は腕組をする。正直呪いだの加護だのといった超常の能力の効能については浩二は門外漢である。今、成美が話した内容の真偽のほどは分からない。

だが同じ『女神の加護』の被験者である成美の言には信じるべきところがあるように思える。

「それで柿野坂よ。おおよその事情については理解したが、その情緒不安定な今のいいんちょの状態は、問題なのか? 何かこのままではまずい事でもあるのか?」


成美は浩二の問いに、力なく首を横に振った。

「それが……。はっきりと問題があるのかどうかは分からないの。

ただどうしても嫌な予感がするの。」


「そうか。」腕を組んだままの浩二はそのまま天井をねめつける。


成美は更に続ける。

「そりゃあ、『女神の加護』のお陰で救われている部分はとても多いと、それは強く感じているわ。

私たちはあれほど多くの残虐な行為に手を染め、本来であれば正気を失ってもおかしくないほどの思いを何度もしてきたはずだけれど、不思議とそこまで心意的苦痛を感じないの。クラスのみんなもPTSDやノイローゼに悩まされる兆候もないし、びっくりするくらい落ち着いた状況なの。

呪いによって精神を操られいた事情はあったにせよ、恐らくこれは加護の力が18年前の精神状態へ戻そうとしてくれる作用のお陰だと、私は今まさにそう実感しているわ。


でもね? 浩二くん。仮に心が18年前に固定されていても、この18年の間に培ってきた経験は積み重なって記憶に残るの。

情緒や精神状態はずっと固定化されたままでも、知識や経験は貯まる一方だから、召喚された直後の私たちと全く同じではいられない。

例えば私はあの時には知りえなかった圧倒的な快楽を覚えてしまったけれど、この経験は私の一生に影響を及ぼし続けるだろうと証言できるわ。

私の心は転移直後の童心に囚われつつも、より強い快楽を求めようと浅ましい感情に抗えない新たな自分も、私の中には確かに存在するの。

知ってしまうと前には戻れないものって、世の中にはたくさんあるものよ。」

「そうか……。」またからかわれているのだろうかと内心動悸を早めつつ、浩二としてはそう返事するしかない。


「同じ理由から拷問や強姦に楽しみを覚えてしまった阿久津くんはもう二度と元には戻れないでしょうし、クラスのみんなが少しづつもう戻れないところへ足を踏み入れてしまったのだと私には見えるわ。

そしてそれは、佳奈も同じだと私は思う。」


「そうか……。」浩二としてはそう返事するしかない。


「これ自体は私たち全員の問題だから、一人ひとりがいずれそれぞれに向き合わなければ問題だと私は考えている。

けれども佳奈の問題は少し違うの。佳奈一人だけで特に問題なのは、あの子の感情がネガティブな状態で固定されているところにあると私は考えているの。

いつまでも不安感がぬぐえないまま、感情の起伏が激しい状態で、刺激的な多くの経験を重ねる事それ自体が、今の佳奈にとってとてもよくない結果をもたらすことになる、そんな嫌な予感がしてならないの。

皮肉な話だけれど、王族どもの呪いに支配されていた方が佳奈にとっては幸せだったかもしれない。あれは本当に酷い非人道的な思考操作だったけれど、少なくとも佳奈の悩みが表面化するのを防いでくれていたようにも思えるの。

それがなくなってしまった今の佳奈はとっても危険だと、どうしてもそう思えてならないのよ。」

「そうか……。」浩二は他に出来る返事がない。


「ねぇ? 浩二くん。魔王との会談、少しばかり急いだほうがいいかもしれないわ。色々あって大変な状態なのは分かっているけれど、魔王以上に佳奈の心は残された時間が少ないように思えるの。


この際だから聖王国がどうとか人族同士の争いがどうとか、そういうことは一切考えなくてもいいと私は思う。

あなたの一番は佳奈なんだから、佳奈を救うために出来る最善手を選んでほしいの。

異世界の全人類を秤にかけても、佳奈の心に万一があったらあなたの生涯は報われないものになってしまうわ。

こんな世界、滅んだっていいの。あなたはただ一人の女の子を救う努力をすればいいの。


だからお願い。佳奈の事を一番に行動すると約束して?」


「……」しばしの沈黙の後、浩二は見上げる天井から視線を戻し、成美に向かって「分かった。」と返事をした。


「ありがとう。」対する成美は少しばかり涙目になって、嬉しそうにそう謝意を返してきた。



それからしばしの無言を挟んで、「それにしても。」と成美がため息を吐いた。

「佳奈は浩二くんにこんなに想われているのに、全く気付く素振りもないのは酷い話よねぇ。」

「んっ!」浩二は思わずその場で息を飲んだ。


「これも私の仮説なんだけどね。佳奈はあの子、わりかし大人っぽい見た目してるくせに、多分あれ、初恋もまだっぽいのよね。」

「そ、そうか……。」浩二はとりあえずそう返事をするしかなかった。


「今どきそんな高校生どこにいるのよって思ってしまうんだけれど、どうも佳奈に限っては本当にそうらしいのよ。

それでそんな小学生以下のお子様な恋愛脳のままこの世界に来てしまったようなの。


これもきっと『女神の加護』の弊害なんでしょうねぇ。私たちの心は17歳だったあの頃の状態にピン止めされて動けないから、それまでに得られなかった心の成長はいつまでたっても覚えられないんでしょうね。

私がいつまでたっても利害関係のない男の人をどうしても信用できないのと同じように、あの子は恋だとか愛だとかという感情がうまく理解できないんでしょうね。

私たち、それを学ぶ前に加護を受けてしまったものね。


永遠の17歳だなんて聞こえはいいけれど、中途半端に大人子供してるアンバランスな人格がそのまま何年も続いてるのは正直心に良い事とはとても思えないのよね。


そういう意味では浩二くんはとても自然な良い齢の取り方をしているように見えてちょっと羨ましいわね。」

文字通りの羨まし気な成美の視線を前に、「そ、そうか。」浩二としてはともかくそう返事をするくらいしかない。


「ともかくそんな訳で、恋愛方面の佳奈のレベルは1以下だから今のままではいつまでたってもあなたの想いはあの子に届かないわよ。」


「そ、そうか。」浩二としてはそう返事をする以外にない。


「だからあなたのその思いをあの子に正しく伝えるためにも、まずは魔王を早急に何とかしなければね。」


「お、おう。」どうにか首を縦に振る浩二に「よろしいっ!」の一言とともに、成美は大輪の笑顔を返してくれた。


それから少しばかり真剣な表情に作り変えた成美は、ずいっと身を乗り出すようにして浩二へ顔を近づけてきて来た。

「それで浩二くん? あなたはこの先もずっと佳奈に操を立てて、いつまでも振り向いてくれない女のために人生を投げ打つつもりなのかしら?」


「んんんっ!」浩二は再び思わず息を飲んだ。

「まあ、なんだ。その、それについてはなんというか……。」どうにかお為ごかしの言い訳めいた呻きをつぶやいていると、下から見上げる格好となった成美がじいっと上目遣いで見つめてくる。


思わずごくりと唾を飲み込む浩二。

成美は潤んだ瞳を瞬かせながらも囁くように語り掛けてくる。

「良くも悪くも、それがあなたの生き方なんでしょうね。伊丹 浩二くん。

あなたは高校生だったあの頃からカレーという料理にずっとこだわり続け、異世界に来てからは佳奈という女の子にいつまでも囚われ振り回され続ける。


結果としてあなたはクラスメイト40人のうちで一人だけ料理を武器に自らの力で立身出世を勝ち取ったのだし、佳奈一人を助けるための努力のおこぼれで私も助けてもらったから、あなたには感謝以外の言葉はないわ。


あなたは立派だし、素晴らしい人だと掛け値なしにそう評することが出来る。


けれども浩二くん? 世に料理がカレーだけではないように、世界に女の子は佳奈以外にも沢山いるのよ? 中にはもしかしたら、あなたがカレー以上に夢中になれる料理があるかもしれないし、あなたが心の底から愛し合える素敵な女性がいるかもしれない。


それをヘンなこだわりでたった一つの料理、たった一人の女に決めつけて、自らの選択肢を狭めている様子は正直見ていてとってももどかしいの。


視野狭窄に陥っていないでもっと回りも見てほしいって、そうついついおせっかいを焼きたくなってしまうのよ。」


「あ、ああ。」浩二としてはなんと返してよいかも分からない。


「あの息を飲むほどに美しいエルフの女たち、生命力に満ち溢れた肉感的な獣人の娘たち、針金のように細い足腰を持った麗しい姫君、農村から務めに上がってきた純朴な村娘たち、それに同郷でクラスメイトの、例えばこの私。


あなたに好意を向けている女性はこんなにも大勢いる事を、佳奈ではないあなたがよもや気付いていないとは言わせないわよ?」


「あ、ああ。」何とかうめき声のような返事をするだけの浩二。


「あなたはその病的なまでのカレーや佳奈へのこだわりから、結果として大勢の人々を救ってみせたから、あなたをよく知るものほど却ってあなたの佳奈への想いに配慮をして距離を置くようにしているけれど、決してみんな諦めたわけではないのよ?

ただ我慢しているだけなの。


だからあんまり蔑ろにされると、どこかで爆発してとんでもない事になってしまうかもしれないわ。」


「あ、ああ。」すっかりどぎまぎとなって早鐘のようになる心臓を抑えつつ、浩二はどうにかそう返事をする位が関の山だった。


「ふふふ。」下から浩二を見上げる成美は妖艶に笑ってみせる。「浩二くんはカレー以外にも沢山の料理を美味しく作れるんだから、きっと浩二くんは佳奈以外の女の子も情熱的に愛することが出来ると思うわ。

そんな浩二くんが私の事も佳奈のように熱烈に愛してくれたなら、きっと私は天にも昇るような幸せな気持ちになれるんでしょうね。」


「……」もはや浩二としてはなんと返事をしていいかも分からない。だから口を結んで押し黙っていると、最後にいたずらっぽくにっこり笑った成美が、ぱっと飛びのいて立ち上がり、その場で大きく伸びをして見せた。


「けれどもきっと、今はその機会ではないんでしょうね。なんだかこのまま押し倒せば浩二くんと素敵な一夜を共に出来そうだけど、多分それをしてはお終いでしょうね。


今の浩二くんはまだまだ佳奈一筋だし、なにより私自身が『クソ女神の加護』のせいで自分の身体の値段と、それに見合う対価をいかに浩二くんに請求してやろうだなんて下らない妄想に振り回されてしまう。」


それから成美は見上げる浩二を前に片手を腰に、もう一方の手を胸に当てて、わざとらしく偉そうにふんぞり返ってみせる。

「もし魔王が倒れ、私の中の『クソ女神の加護』が結びを解かれたら、私はぜひとも浩二くんと利害のない純粋な関係を持ちたいと思ってるんだけれど、その時には私の相手を務めてくれる?」

「あ、ああ。」浩二がどうにか頷き返すと、「ちなみに魔王が死んだらぜひとも私とセックスしてくださいとお願いしてるんだけど、意味わかって返事してる?」と返ってきた。


「んんんっ!?」思わず息を飲みこむ浩二に向かって、「言質は取ったわよ!」と、成美は高らかに声を上げた。それから振り返り、すたすたと歩きはじめる。


「ちょっ……!」追いすがろうとする浩二を振り払うようにして、そのまま風を切るようにして部屋の外へと出て行ってしまう成美。


椅子から立ち上がりかけ、片手をいつまでも上げたままの浩二は、たっぷり5分もの間その場に固まったのちに、ゆっくりとその手を下ろした。


全くびっくりするほど慌ただしい女。時に可憐に、時に妖艶に、あるいは愛嬌たっぷりにその表情は感情豊かにくるくると変わる。

彼女は高校生だった時分から学校でも一二を争う人気の美少女であったが、その美しい見かけ以上に優れているのは、その目まぐるしく変わる雰囲気や機転と皮肉の利いた話術、相手を楽しませるための卓越した技術にあるのだろうと、浩二は今さらながらに初めて気付かされた。

スクールカースト上位に位置する彼女のような女性と懇意にさせてもらっている現状はかつての浩二から見れば信じられないような幸運であり、浩二としては感謝以外の感情はなかった。


成美が整理してくれたおかげで目標は驚くほどにクリアだ。


いいんちょを助けるために是が非でも早期に魔王を打ち滅ぼす。そのためにまずはなんとしてでも停戦交渉のための会談の席を設けねばならない。


よし、やるか。


決意みなぎる浩二の部屋の前で、成美とタリアが何やら言い争いをしている醜い声がかすかに響いていたが、集中し難題に取り掛かる浩二の耳には入ってこなかった。


「またあなたは勝手にコージ様の部屋に押し入って……!」「あら? 愛し合う男女の逢瀬に部外者が口を挟むものではなくてよ?」「なぁんですってぇ!?」


目まぐるしく変化する情勢の中で、浩二にとってこの日この瞬間だけは切り取ったように平和な一夜であったという。



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