10.今日も推しがメロい!!
はわ〜〜〜!!
結婚式の案内状だ〜〜〜!!
私はオリビアから届いた手紙を握りしめたままベッドに全力でダイブした。普通に嬉しい。ちょっと泣きそう。
「良かったね……! 良かったね、オリビア……!!」
本当によく頑張ったね……!!
明らかに精神的に参ってた時期あったもんね!?
もう、何回か泣き言を通り越して『呪いの手紙かな!?』って内容の手紙送りつけてきたこともあったもんね!!
脳内BGMが世にも奇妙な感じになったこと結構あったもん!!
「原作だと逃げ出しちゃうけど、やっぱり今のオリビアは大丈夫だったんだ……!」
セドリックがそこそこ年齢行くまで婚約者未確定だったから、やっぱり王太子妃教育RTAになっちゃったみたい。そうなるだろうなって思ってたけど。
本当なら小さい頃からやるものを、無理矢理2年ちょっとでやりきったんだもんね。フォーサイス公爵家である程度はその手の教育やってたとはいえ、すごくしんどかったと思う。
そんな目に遭ってたらそりゃ呪いの手紙にもなるよねって思いながら、辛そうなオリビアに対して私はひたすら「王太子の顔を見ろ」って送り続けた。
これでもかと「王太子の顔をガッツリ眺めろ」と送り続けた。
いや~~~、オリビアも面食いで良かった~~~!!
どうも、腹黒フェアリーの顔を見てたら頑張れたっぽいからね!!
普通に尊敬する。でもごめんね! 私は特に何もせずルーファスの顔面眺めてた!!
「……後は、ルーファス連れて城に乗り込む準備をしないと」
まさか腹黒フェアリーがルーファスを誘っていないとは思えない。
あるとしたら、ルーファスが問答無用で誘いを断る流れだ。血塗られた獣が親友の晴れの舞台に居合わせるべきじゃないとか言って拗らせ散らかす流れだ。
そんなの嫌すぎる。
だって私、ルーファスの礼装とお揃いになるようなデザインのドレス着たいもん。あわよくばルーファスの色を纏いたいもん。
あとルーファスにもアリシアの色を纏って欲しいもん。絶対に尊いことになるから見たいもん。
私は招待状を手に、ルーファスの部屋のドアを叩く。
とんでもないイケボが聞こえてくると同時に扉が開いた。そんなルーファスもやっぱり招待状持ってた。
「ああ、君にも届いていたか。ちょうど良い、ドレスの類も用意しないとな。……久しぶりの本土だろう? 今の流行りについて聞いておこうか? それとも、何か希望はあるか?」
「ルーファスとお揃いの装いにしたい」
「そうか。……って、ん!?」
本土に行くなら、心の押し入れの中にしまい込んだドアマットを引っ張り出しておかないとなぁ。
「ルーファスの色が入ったのが良いな」
「えっ、あ、アリシア!?」
そんなこと考えてたら、さらっと口説き文句みたいなの口走っちゃった☆
ルーファスが顔真っ赤にしちゃった☆
推しの照れ顔、きゃわ~~!!
「ルーファスも誘われてるんでしょ? 一緒に行くよね?」
「いや、俺は……」
「行くよね?」
20万字に渡って拗らせ続けた男は、その20万字を突破した後も結構拗らせている。
私が行け行けドンドンしてたら結構短縮されたような気はするけど、もうちょっと短縮したい。
——何故なら、推しのメロさを社交界に広めたいから。
2年くらい前から変な小説出回ってるけど、私はどうでも良いとして、ルーファスはもっとメロいよ。そのメロさをちゃんと書けって作者に言いたかったもん。
ルーファスのメロさを世間に広めるために、自分で色々書いてこっそり自費出版しようかと思ったくらいには作者に言いたかったもん。
あとは純粋に、対面してみると拗らせすぎてるのが不憫に思ったってのもある。流石にね。
……ってことで、ルーファスがこの後に発する言葉はどれか。
ひとりで行けって言われるのは確定として……。
⑴ 君が晒しモノになってしまうから行きたくない。
⑵ 親友の晴れの舞台を邪魔したくない。
⑶ 俺が本土でなんて呼ばれているかは知っているだろう?
さーて、ルーファスはなんて言うかな~。
「君はそれで良いのか? 恥ずかしく……無いのか?」
あれ!? 思ってたのとちょっと違うこと言った!!
「うん、それが良いって言ってるじゃん。でも、嬉しい。ひとりで行けって言われると思ってたから」
「い、一緒に行くって言わないと……その、君は納得しないだろう……?」
「当然! セドリックだって、ルーファスに来て欲しいって思ってるはずだから!」
それは絶対に間違ってない。
セドリックは「うるせぇ黙って来い。祝え!!」くらいに思ってるはずだ。
だから、ちゃんとルーファス連れていかないと私が怒られそう。
「俺も行きたくは、あるが……だが、君とは距離を取った方が……」
「婚約してるのは事実なんだから、一緒にいても良いでしょ? どちらかと言うと、私の方が『距離取らなくて良いの?』って思ってるくらいだし。私、公爵家の代表枠でもあるから……」
——いつの間にかレイモンドが窮国の無能って呼ばれてたし、サラッと貴族社会的にも退場させられてた。
あの屑父がやってきたことに関しては「君には知る権利がある」っていう理由でセドリックから連絡があったし、多分ルーファスの方にもレイモンドのやらかしリストが行ってる。
……そんなだから、ルーファスは何とも言えない顔をして私を見ていた。
「俺は何とも思わないが……その、大変だな……」
「さっさとお役御免したい」
「だろうな……」
手紙読んでビックリしたよね。
まさかレイモンドがアリシアの母親に毒盛ってるとは思わなかったよね。
その母親が国王を助けてた前宰相の娘だったなんて思わなかったよね。
——多分、後継ぎができたらレイモンドは暗殺者か何かに殺られるんじゃないかな?
ルーファスとセドリックの関係性もだけど、その辺も続編で分かったのかな。
小説の続きを読んでみたかったなと思わなくもないけど、今、目の前にルーファスがいるからそれで満足かな。
「だったら『お互い様』ってことにしようよ。だから一緒に行きたいし、そういう恰好をしたいなぁ」
一緒にいるうちに、見た目とか推しとかそういうのじゃなくて、純粋にルーファス・ウィンチェスターって人に惹かれてる私もいるしね。
「……」
ルーファスは目を丸くした後、机の引き出しから小箱を取り出した。
……って、これ、まさか!?
「アリシア、良かったら……これを、受け取ってくれないか?」
きゃ~~~~!!
これアレじゃん!! ウィンチェスターの男が求婚する時に渡してくるブローチじゃん!!
ウィンチェスター辺境伯領の海みたいなブルーダイヤモンドと大粒の真珠があしらわれた、代々受け継がれてる尊すぎるブローチじゃん!!
……とか言ったら、流石に引かれるから……。
「綺麗なブローチだ! ……何か意味があるって、思っても良いの?」
「……。そうだな。ええと、ウィンチェスター辺境伯家では——」
知ってる。全部知ってる。
原作のルーファスはさらに4巻分、40万字掛けて拗らせた末にこのブローチ出してくるって知ってる。
ついでに言えばブローチ渡した後も「本当に良いのか」ってまた20万字分拗らせるし、結婚式挙げるまでも20万字分拗らせてんだよね。
ルーファスの拗らせだけで10巻分あるんだよね。漫画版だと5巻に圧縮されてたけど。
オリビアが王太子妃教育RTAしてるなら、私はルーファスの拗らせ回復RTAしてたんだと思う。
だから私は、たどたどしくブローチの説明を終えたルーファスの手を取って、笑った。
「ドレスの希望が増えちゃった」
「え?」
不思議そうにしているルーファスの目を見据えて、私はニヤリと笑ってやった。
「このブローチが映えるデザインが良いなぁ。大切なものなんだよって、皆に見せびらかしたいの」
ルーファスとお揃いで、ルーファスの色が入ってて、大切なブローチが映えるデザイン。
ここまで言ったんだ。もう拗らせる隙なんて与えない。……逃がさないよ、私の旦那様?
「……っ、ありがとう、素晴らしいものを用意するから!」
「ルーファスの服にもこだわってね? 手抜きしないでね?」
一緒に並んで歩くんだ。
放置したら私のドレスだけこだわり抜きそうだから、ちゃんと見張っとかないと。
感極まって抱き寄せてきたルーファスに身をゆだねながら、私は幸せだなぁとぼんやり考えていた。
〇
オリビアとセドリックの結婚式に合わせて、私たちは王都へと向かった。
王都どころか本土に帰ってくること自体が久々だなぁと思う私と、一度も本土に行ったことがなかったと言うルーファス。
……そうだ、この男。
原作だと80万字くらい拗らせてからじゃないと本土に行かないんだった。
読んでる時は何も思わなかったけど、文字数が本当に暴力的だ。
馬車で王都に行って、そのまま登城する。
私たちが姿を見せると同時に、至るところから歓声が上がった。
血塗られた獣って呼ばれてるルーファスの高すぎる顔面偏差値を見て顔を赤らめるご令嬢と、ちょっと悔しそうだけど目を離せない様子のご令息。この顔面見て悪いように言える人間いたら勇者だと思う。
ふふふ、どうだ~~~??
私の旦那様、恰好良いだろ~~~???
もう二度と変な蔑称使えないくらいにメロいだろ~~~????
「ああ……そうか。アリシア様は酷い目に遭ってきたからこそ、物事を正しく見る能力をお持ちだったのですね……!」
「やはり、彼は名実ともにアリシア嬢を救った存在だったんだな……! 悪しきフォーサイス公爵家から解き放たれ、元々美しかったアリシア嬢がますます美しく……!」
「聖女様……! 救世主様……!!」
「何が血塗られた獣だ! あんなにも美しい人が、この国を守ってくれていたのか……!」
「認識を改めなければならない。きっとウィンチェスター辺境伯領は素晴らしい場所なのだろう」
ルーファスの姿を見て手のひら返しまくってるのは笑うしかないとして、それはそれとして。
——なんか、明らかに変なの混じってたぞ?
「聖女? 救世主……?」
どうもルーファスも気づいたっぽくて、一緒に困惑した。
そうこうしているうちに、本日の主役たちがこっちに歩み寄ってきた。めっちゃ馴れ馴れしい感じでこっちきた。
正直セドリックはどうでも良いかな。
相変わらず好みじゃないし。
……って、違う! 大事なの、そこじゃない!!
「久しぶりだね、ルーファス。直接顔合わせるのは何年ぶりだっけ。5年か6年くらいは会えてないよね」
「!? お、おい……!」
「もう良いかなって思って?」
セドリック、もうルーファスとの関係性は隠さないって決めたんだね。
ルーファスの「黙っていた方が良い」って主張は無視するって決めたんだね。ちょっとルーファスは困ってたけど、それでも、最終的には受け入れたっぽいし。
その方が良いと思うよ。ここから先はフルオープンで行こう。
この感じなら、社会的な意味でも絶対に許されるしさ。
……あ、腹黒フェアリーが私に向かって親指立ててる。
うん、ちゃんと連れてきたよ。やっぱり私に期待してたんだね。仕事はしたよ。
報酬はルーファスの子ども時代の話ね。今度手紙で聞くね。最低でも100万字は書いてね。
「アリシア」
真っ白なドレスに身を包んだオリビアが、幸せそうに笑ってる。
……本当に、良かったね。
「お姉様、おめでとうございます」
「……ありがとう」
表向きの会話をした後、私はオリビアを手招きした。
セドリックたちに聞こえないように、こっそり囁く。
「顔見ながら頑張ったんですか?」
「ええ、何よりも効いたわ。あの顔面は特効薬よ」
「顔は大事ですからね」
「そうね。そしてルーファス様の顔の良さにも驚いたわ。まさかあんなに整ってるなんて……」
「でしょう? 取らないでくださいよ?」
「あら。あなたこそセドリック殿下を取らないでよ?」
「大丈夫です。王太子殿下の顔は輝いてるとは思いますが、好みじゃないので」
「ふふ、私もよ。ルーファス様は綺麗な人だと思うけど、私の好みじゃないわ。だから安心して?」
我ながら酷い会話だと思うけど、オリビアに関しては遺伝だ。
その遺伝元も近くにいたから、オリビアと一緒に話し掛けに行くことにした。
「お義母様」
「久しぶりね、アリシア」
メリッサが1、2歳くらいの可愛らしい子どもを抱いていることに対しては「あらあら~!」って思ったけど、それは一旦置いておくことにしよう。
「『ヴェルダンディ伯爵夫人』とお呼びした方が良いですか?」
そう問えば、メリッサは恥ずかしそうに笑う。
「あなたが良ければ、『お義母様』って呼んで欲しいわ。……もう、何の繋がりもないのだけどね」
確かに、もはや何の繋がりもない。
オリビアからすれば母親であることは変わりないが、アリシア視点だともう赤の他人だ。
……でも、
「ふふ。お呼びして良いのなら、このままで。……お義母様。幸せそうで、何よりです」
メリッサの事情も聞いてはいた。
彼女の問題についてはセドリックがレイモンドにすべての罪を被せるような形で決着させたらしい。
そうして彼女は、現在の旦那であるアロイスから再び愛を囁かれ続けるようになったようだ。
しかし、どうやら彼女はアロイスへの罪悪感から婚姻を結ぶ前に真実を語ったらしい——のだが、アロイスは「いや、悪いのはフォーサイス公爵だろう?」と譲らなかったようだ。
アロイスが正しく理解しているのかどうかは分からない。
分からないけれど、実際問題として相当な比率でレイモンドが悪い。
だから、アロイスが良いなら良いのではないだろうか?
レイモンドとの一件が片付いた時、メリッサはまだ結構若かった。
だからこそ彼女はアロイスとの子を普通に授かり、幸せに暮らしているようだ。
私個人としては別に彼女に対して恨みはないどころか、結果的に私がルーファスと出会うきっかけを作ってくれたようなものだ。だから、純粋に祝福できる。おめでとう。
私はルーファスとお揃いの装いをそれとなく色んなところで見せびらかしたり、公爵家の代表として振る舞ったりして、やるべきことをすべて終わらせてから辺境伯領へと戻る。
流石にもう懲りたから、帰りの船は髪がキッシキシにならないように最初から船室に入って、私はオリビアから貰ったブーケを眺めていた。
参加したのは王太子の結婚式だったけど、作者が日本人で、オリビアが実質平民出身だからかな。ブーケトスっていう概念があった。
……もうルーファスとは結婚してるようなものだけど、次は私たちが祝ってもらわないとね。
このブーケ、品があって綺麗だなぁ。
花の色はオリビアとセドリック、それぞれの瞳の色を選んだんだろうな。
いつの間にか、ルーファスが背後に立っていた。
「そういう花束が好みか?」
「うん。お互いの色が入った花束って良いなって思って」
そう返せば、ルーファスは少し恥ずかしそうに視線を逸らした。
「アリシアはどういう式を挙げたいか、とかあるか? やりたいこと、とか……」
ルーファス、セドリックからひたすら「式には呼べ」って言われてたっぽいし、私もオリビアから散々言われた。
何なら帰り際に私の手を包みながら「絶対に呼んでね!」ってダメ押ししてきた。分かった、分かったから。
王太子夫妻がやってくるってだけで、とんでもないことだと思う。
だから本当は彼らのことを考えて式をするべきなんだろうけど、それでもルーファスは私の希望を通してくれるらしい。
「あなたと一緒なら、どんな式だって嬉しい!」
本当だ。
本当に、そう思ってる。嘘じゃない。
でも、私の言葉に照れて笑う推しを見ていると、その顔面を見ていると、どうしたって思う。
今日も推しの顔が良いな~~~~!!
イケメンって存在そのものが尊いよね~~~~!!!
ドアマットをしていようがいまいが、間違いなく、これは一生変わらない。推しの顔が良いんだから仕方ない。
「アリシア」
余計なこと考えてたら、名前を呼ばれた。
ドアマットはまた心の奥底に片づけたけど、流石に「イケメン尊い」は口に出すべきじゃないから私は黙って笑う。
「……その、本当に俺で良いのか?」
「えっ!? まだ拗らせる!?」
「こ、拗らせ!?」
……や、やっぱり100万字拗らせてる男は一筋縄じゃいかないかぁ。
でも、それでこそルーファスな気がするんだよね。解釈一致というか。
「もう性格面の話したって上手く行かないのは分かってる。だから、今までにやったことない方向性から褒めちぎることにするね」
仕方ないから、思ってることをそのまま口に出すね。
「あのね、ルーファスはとにかく『顔が良い』んだよ」
「か、顔が良い……?」
「顔が良いってだけで、拗らせる必要なんかないの。あなたはメロいの」
「メロい……?」
「メロいの意味を説明しようか。メロいっていうのは——」
アリシア、もはやドアマットヒロイン演じる気が皆無でごめんね?
でもレイモンド・フォーサイスって名前のヤバいのはいつの間にやら退場したことだし、原作と違ってみんな優しいんだ。
だから、私は私らしく、これからもひたすら推しの顔面を堪能して、推しにメロつきながら生きていきます!!
fin.
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!




