アデールとナゼル
アデールからすぐに返事があり、三日後に会いたいとあった。
ユベール様も同行してほしいとあったので、スケジュールを調整するようにお願いする。
三日後――私とユベール様はオーベルジュ大公家の別邸に向かった。
前回とは異なり、今回はアデールとブルジェ伯爵が揃って出迎えてくれた。
「ナゼル、お前もいたのか」
「いやー、なんかアデールに話したいことがあるとか言われてねえ。すぐにでも聞きたかったんだけれど、ユベールとメーリス嬢が来ないと話せないって言ってさー」
アデールはまっすぐ私を見つめ、淡く微笑んでいる。
おそらくイビル・フェアリーの呪いについて、打ち明ける勇気が出たのだろう。
「メーリス、お会いしたかったです」
「私も」
アデールと手と手を取り合って微笑む。
早く彼女に皮膚シールについて報告したかった。
そんなやりとりをしていると、ブルジェ伯爵がいてもたってもいられない挙動を取り始める。
「わ~~~~、話ってなんなんだ!! 気になって、夜しか眠れないよ!!」
「きちんと眠っているではないか」
ユベール様の指摘も耳に入っていないようだった。
早く打ち明けたほうがいいだろう。
客間に案内してもらい、お茶とお菓子が運ばれたあと、アデールはすぐに本題へと移った。
「今日はナゼルに、結婚できないと言ってしまった理由について、打ち明けようと思いまして」
「はあ……アデール、やっと話してくれる気になったんだ」
「ええ」
アデールは神妙な面持ちで話し始める。
「実はわたくし、十一年前に妖精の呪いを受け、背中に火傷のような痕ができてしまいましたの。それがあまりにも酷い見た目で、この体でナゼルと結婚するわけにはいかない、と思ってしまい……」
結婚式の背中が開いたドレスを目にした瞬間、アデールはその気持ちが高まって、結婚を取りやめたいと言ってしまったと告白する。
「まさかそれが理由だったの?」
「ええ」
ブルジェ伯爵は頭を抱え、「は~~~~~~~!」と盛大なため息を吐いた。
「他に好きな人ができたとか、俺が嫌いになったとか、結婚がどうでもよくなったとか、そういうことじゃなかったんだ」
「ええ、本当にごめんなさい。あなたへの気持ちは、今も昔も変わりませんわ」
そんなアデールの言葉を聞いたブルジェ伯爵は、ハッとしたように顔を上げる。
瞳が潤んでいて、今にも泣きそうだった。
「アデール、ずっと辛かったんだろう? なんでもっと早く言ってくれなかったんだ?」
「あなたはわたくしの苦しみも、自らの苦しみにするような、優しいお方でしたから」
同じ苦しみをブルジェ伯爵に与えるわけにはいかない。アデールはそう考えていたという。
「それに、ないとはわかっておりましたが、あなたに嫌われることも怖くて」
「嫌うわけないよ! アデールのすべてを愛しているのに!」
「でしたら、呪いごと、愛してくださるのでしょうか?」
「そのつもりだよ!」
互いに想い合うお似合いの二人だ。話を聞きながら思ってしまう。
「アデールが嫌だったら、結婚式なんてしなくてもいいんだよ」
「その件ですが、メーリスが解決してくださるそうで」
「メーリス嬢が?」
ここでブルジェ伯爵に皮膚シールについて打ち明ける。
「アデールの呪いを隠せるかもしれない、皮膚シールの作成に成功しました」
まだ試していないのでわからないが、きっと上手くいくだろう。
「もしも、皮膚シールで呪いを隠せるのならば、当初の予定通り、背中の開いたドレスで結婚式を挙げたいと思っていますの」
「アデール、いいの?」
「ええ」
まずは試してみないといけない。
そんなわけで、ブルジェ伯爵とユベール様には退席してもらい、侍女達を部屋へ呼び寄せる。
アデールのドレスを寛がせてもらい、皮膚シールを貼ってみた。
「いきますよ」
「はい、お願いいたします」
アデールの背中に、そっと皮膚シールを貼る。
魔法陣が浮かび、輝きに包まれた。
「――!」
どうか上手くいきますように。
そんな願いと共に瞼を開く。
「まあ!」
「素晴らしい!」
アデールの背中は、シミ一つない、美しい状態になっていた。
「成功です! 成功しました!」
侍女達が合わせ鏡を作り、アデールにも背中の状態を見せてくれた。
「ああ……なんてことでしょう……!」
アデールは涙を浮かべ、私を振り返る。
「メーリス、ありがとうございます!」
私達は抱き合い、感動を分かち合ったのだった。
それから一ヶ月後――アデールとブルジェ伯爵は結婚式を挙げる。
二人とも本当に幸せそうで、結婚っていいものだな、と思ってしまった。




