皮膚シールを試してみよう
しとしと雨が降る朝、ユベール様に皮膚シールが完成したという連絡を届ける。
すると、シール堂へやってきてくれた。
「もうできたのか?」
「はい!」
「まさか、昨日帰宅してすぐに作り始めたのではないな?」
「よく、わかりましたね」
「メーリスのやりそうなことなど、お見通しだ」
どうやら私の行動パターンは読みやすく、単純極まりないようだ。
「一度、試してからアデールに渡したいのですが」
自分で試用できたらよかったのだが、試すような場所がなかった。
幼少期の父がお尻に火をつけて空を飛ぼうとしたときにできた火傷の痕がある、なんて話を思い出すも、確認できるような部位ではない。
「皮膚シールはどういったものを隠せるのだ?」
「火傷の痕だけでなく、お肌の黒ずみやシミ、そばかす、傷痕も消すことができます」
使用者の肌の色に馴染んで、何もなかったかのようにできるのだ。
「ならば、腹の傷痕を隠すことができるだろうか?」
「お腹に傷痕があるのですか?」
「ああ」
なんでも見習い騎士時代に魔獣を討伐中、先輩騎士に盾代わりにされたことがあったという。
「ユベール様を盾にして逃げるなんて、酷い話ですね」
「まったくだ。おかげで八年経っても傷痕が治らない」
「もしかしたらその傷痕、回復シールで治るのではないでしょうか?」
「今は皮膚シールを試したい」
「では先に、皮膚シールを貼ってみましょう」
椅子に座ってもらい、服を捲って傷痕を確認する。
八年前にできたとは思えない、生々しい裂傷のような痕だった。
「これ、痛くないんですか?」
「今日みたいな雨の日は多少痛む」
気候の変化で体調が乱れ、傷痕が炎症反応を引き起こすのだろう。
「では、皮膚シールを貼ってみますね」
「頼む」
完成したばかりの皮膚シールを傷口の上から貼ってみる。
魔法陣が浮かび上がり、輝きを放った。
どうか成功してほしい。そんな願いと共に、輝きが引くのを待つ。
「どうだ?」
「きれいに消えました!!」
ユベール様も手で触れ、確認する。
「ああ、本当に治ったようだ……!」
「その、シールを貼っただけですので、治ったわけではないのですが」
「効果はどれくらい続く?」
「シールを剥がすまでです」
「それはすごい」
傷口を隠すだけでなく、痛みもきれいさっぱり消えたという。
「では、皮膚シールは剥がしまして、傷口に回復シールを」
「いいや、これでいい。効果を試すためにも、貼ったままにしておこう」
「よろしいのですか?」
「ああ」
皮膚シールは大成功だったようで、ユベール様は大絶賛してくれた。
「ここまで上手くできるとは、思いませんでした」
触れてみても、傷口があるとは思わない。
アデールの呪いも、きっと隠してくれるだろう。
「メーリス、そろそろいいだろうか?」
「――!?」
指摘されて気付く。
私はユベール様のお腹をまじまじと見つめていたようだ。
途端に恥ずかしくなり、距離を取る。
「す、すみません!!」
「いや、別に謝ることではないのだが……」
私達の反応を見ていたレディ・ヴィオレッタが、ぼやくように言った。
『いい大人が何をしておるのか』
本当に、その通りである。
「それはそうと、レディ・ヴィオレッタにお知らせしたいことがあったんです!」
『なんぞ?』
ユベール様が報告してくれた。
「我々は正式に婚約を結ぶことになった」
『ほう? マチルドの言った通りになったな』
「お祖母様がそんなことを言っていたのか?」
『ああ、以前からな』
なんでも師匠は、私がマケールと婚約していた時代から、ユベール様とのほうがお似合いなのではないか、とレディ・ヴィオレッタに話していたらしい。
『よいではないか。マチルドもきっと喜ぶぞ』
師匠の帰りが待ち遠しい。今、どこにいるのか。
魔力を頼りに鳥翰魔法で送ってみるのもいいだろう。
何はともあれ皮膚シールは無事完成し、効果も問題なかったのだ。
アデールに早く知らせよう。
「アデールにはこれからお手紙を送りますね」
「ああ、頼む」
ユベール様はこれから用事があるようなので、ここで別れることとなった。




