スキン・スライム戦
スキン・スライムは泥を纏ったような姿だったが、ぶるぶると身震いする。
大量の泥が飛び散ったが、ユベール様が障壁魔法で防いでくれた。
全身の泥を取り払ったスキン・スライムの姿は、真珠のように美しい。
以前、師匠が見せてくれたスキン・スライムは、すでに瓶詰めされた状態で、素材と化していた。生きている姿を見るのは初めてである。
これが人間の肌に近い生き物なのだ、とまじまじと見つめてしまった。
ユベール様は水晶剣に火魔法を付与させ、斬りかかった。
けれどもスキン・スライムの表皮に付着している粘膜が厚いからか、剣を弾いてしまう。
そうこうする中で、スキン・スライムは再度ぶるぶる震えた。
全身をまとう粘膜を飛び散らせる。
ユベール様自体は回避したものの、水晶剣に粘膜の塊が付着してしまったようだ。
「なっ、これは――!?」
粘膜が水晶剣にまとわりつき、除去できなくなったようだ。
武器を無効化させた状態になると、スキン・スライムは次なる攻撃に出てくる。
ぼよん、と飛び跳ねたかと思うと、波のように高く伸びて、ユベール様に覆い被さろうとする。
私はすぐさま地面に〝植物シール〟を貼った。
すると、地面に埋まっているありとあらゆる種が芽吹き、木々となって成長していった。
木々はユベール様よりも高く伸び、スキン・スライムが到達しないよう守ってくれる。
攻撃を回避できた隙に、ユベール様のもとへ駆けよった。
「メーリス、感謝する」
「いえいえ! それよりもこれを水晶剣に貼ってください」
差しだしたのは〝撥水シール〟。
ありとあらゆる水分を弾き飛ばすシールである。お風呂場の手入れが面倒で作ったものだ。
水晶剣に貼ると、粘膜を弾いて除去できた。
「このシールが作用している間は、スキン・スライムに攻撃を与えることもできるかと」
「なるほど、そういう目論みもあったのか」
ここで植物シールの効果が消えてなくなる。
植物の急成長を促すことができるのは、ほんの少しなのだ。
再度、スキン・スライムは波のように伸びて覆い被さろうとしてきた。
ああやって魔力を持つ存在を取り込み、自らの糧とするのだろう。
そんなスキン・スライムを、ユベール様は撥水シールを貼った水晶剣に火魔法を付与させ、一気に斬りかかった。
今度は粘液を弾き、攻撃を加えることができたようだ。
しかし――。
「なっ!?」
「う、嘘でしょう!?」
ユベール様が攻撃を与えた斬り口から、二つに分裂したのである。
そういえば、スライムという生き物はこういう性質を持っているのだった。
二体に増えてしまったスキン・スライムは、ぼよんぼよん飛び跳ね、ユベール様を踏み潰そうとしてくる。
再度斬りかかっても、分裂するだけだろう。
ユベール様はスキン・スライム達の攻撃を難なく回避しているように見えるが、それを続けることができるのも時間の問題だろう。
なんとか倒す方法を考えなければ。
スキン・スライムの弱点はなんだったのか。
鑑定魔法には表示されていなかった。
考えろ、考えろ、考えろ。
人間の肌に近い性質を持つ、スキン・スライムの弱点とは!?
無意識のうちに、自らの肌に触れる。
すると、いつもより肌がしっとりしていることに気付く。
ここが湿地帯だからだろうか。
冬の間は乾燥しがちなのだが――とここまで考えて気付く。
乾燥!!
湿地帯に生息するスキン・スライムは、きっと乾燥が大敵のはず。
すぐさま叫んだ。
「ユベール様、スキン・スライムの弱点は、おそらく乾燥です!!」
水分を含まない風魔法で攻撃したら、ダメージを与えることができるだろう。
ユベール様は「わかった」と言葉を返し、すぐさま風魔法を水晶剣に付与させる。
襲いくるスキン・スライムに斬りかかった。
風をまとった水晶剣での一撃は、スキン・スライムの表皮を裂いて核に到達する。
『ギュイイイイン!!』
断末魔の叫びを上げ、動かなくなった。
分裂した二体目も同様に、ユベール様はあっさり倒してしまう。
動かなくなったスキン・スライムを前に、安堵の息を吐いたのだった。
「ユベール様、おケガがありませんか?」
「ああ、平気だ。メーリスは?」
「私も問題ありません」
「そうか、よかった」
それにしても、まさか乾燥が弱点だったとは。
湿地帯に生息している理由にも、納得できる。
「メーリスのおかげで倒すことができた。よく、風魔法が弱点だと気付いたな」
「私の肌も乾燥しがちだったので、同じような弱点があるのではないか、と考えついたんです」
と、お喋りしている場合ではない。ここからが時間との勝負なのだ。
「スキン・スライムを採取しますので、しばしお待ちを」
「私も手を貸そう」
「ありがとうございます」
スキン・スライムは核が劣化する前に、保存瓶に詰めなければならない。
時間にして一時間くらいだろうか?
シュシュに預けていた保存瓶を出してもらう。
「こちらの手袋を装着していただき、ナイフでカットして、保存瓶に詰めていただけますか?」
「わかった」
手袋には撥水シールを貼っているので、スキン・スライムを手づかみで握ることができる。作業を手早く進めることができるだろう。
スキン・スライムにナイフを入れると、ゼリーみたいにぷるぷるだった。
保存瓶に入る大きさにカットし、ぐいぐい詰め込んでいく。
太陽の光に透かすと、スキン・スライムはキラキラ輝いていた。
とてつもなく品質の高い素材に違いない。
倒してくれたユベール様に改めて感謝したのだった。
スキン・スライムの核が劣化するまでの一時間、保存瓶五十個分も確保できた。
手を貸してくれたユベール様のおかげである。
一時間経つと、スキン・スライムはどろどろに溶け、地面に浸透してしまった。
「本当に、時間が経過すると採取不可能な状態になるのだな」
「そうなんです。ユベール様のおかげで、たくさん採ることができました。ありがとうございます!」
これだけあれば、アデールが一生分使えるくらいの皮膚シールが作れるだろう。
「王都に戻って、皮膚シールとやらを作らなければならないな」
「はい!」
ユベール様はお役目をしっかり果たしてくれた。
あとは私の腕の見せ所のようだ。




