不可解なこと
「叔父上、その流行病とやらについて詳しく――ッ!」
ユベール様の体がぐらりと傾いたので、とっさに支えてしまった。
ズシ、と重たくてびっくりしたが、コゼットも手伝ってくれたので、なんとか倒れずに済んだ。
「ユベール様、大丈夫ですか?」
少しぼんやりしているようで、様子がおかしい。
回復シールや浄化シールなど、状態をよくするシールをユベール様に貼ってみる。
すると、瞳に光が戻ってきた。
「私は何を――!?」
「旅で疲れているのかな? 少し休むといい」
果たしてそうなのか。
魔王討伐の旅から帰ってきたときも、ユベール様は疲れている様子なんて見せていなかったのに。
ひとまず、別室で休ませてもらおう。
セザムさんの案内で、客室まで案内してもらった。
「お茶とお菓子をご用意しますね」
「それよりもじいや、聞きたいことがある」
「なんでしょう?」
「フロンティエールで流行したという病について、詳しく知りたい」
「ああ、〝目眩病〟のことですね。わたくしめも罹ったのですが」
目眩病――初めて耳にする病気である。
「症状は実にシンプルで、くらくらと目眩を覚え、前後の記憶が途切れ、考えていたことも曖昧になるようです」
先ほどのユベール様の症状と似ていた。まさか、目眩病を発症してしまったのだろうか?
もう少し詳しく聞いてみる。
「目眩病を治す薬は存在せず、ひたすら療養するばかりになります」
ゆっくり休んでおけば、一ヶ月程度で症状は緩和するようだ。
「ただ、後遺症もございまして、ときおり強い目眩を感じる他、食べても食べても太らない体質になるようで」
記憶力も低下するので、セザムさんは毎日欠かさず日記を付けるようになったのだとか。
「先ほど、ユベール様にも目眩のような症状が見られまして」
「なんと!! 大丈夫でしたか!?」
「ああ。とっさにメーリスとコゼットが支えてくれたから、倒れずに済んだ」
「それは大変ですね。すぐにでもお医者様をお呼びしましょうか?」
「必要ない。効果的な薬はないのだろう?」
「ええ、そうなのですが……」
目眩病が発病したような症状を聞き、いてもたってもいられないのだろう。
「父はなぜ、目眩病について私に言わなかった?」
「ユベールお坊ちゃまは大切な跡取りでしたので、敢えておっしゃらなかったのかもしれません」
「箱入り息子のような扱いをしてからに」
十一年前に来て以来、オーベルジュ大公はユベール様に領地へ行くように言わなかったようだ。もしかしたら目眩病に罹らないよう、遠ざけていた可能性がある。
「目眩病についての調査書及び報告書の写しがありますが、読まれますか?」
「ああ、頼む。あと、十一年前に行った晩餐会の参加者リストも持ってきてくれ」
「承知いたしました」
セザムさんがいなくなったあと、ユベール様は深く長いため息を吐いた。
「目眩病なんて、初めて耳にした」
「ええ。しかし、どうして私は罹らなかったのでしょうか?」
「それは、竜族の守護かもしれない」
竜族の守護――なんでもそれは、竜族と親和を結んだ者に現れる、鉄壁の守りだという。
「コゼットがいることで、私は目眩病に罹らなかった、ということでしょうか?」
「おそらく」
不思議そうな顔で私を見上げるコゼットを抱きしめ、ありがとうと感謝を伝えた。
そんな話をしているうちに、セザムさんが目眩病の調査書、報告書の写しと十一年前の晩餐会の参加者リストを持ってくる。
セザムさんは下がっていいと言われたので、深々と頭を下げて退室していく。
ユベール様は報告書を読み、私には調査書を見せてくれた。
双方の情報は似たようなものだという。報告書は集約された情報のようだ。
ぱらぱらとページをめくりつつ、目眩病についての調査を読み進めた。
早々に報告書を読み終えたユベール様が、私に質問を投げかける。
「どう思った?」
「その、ただの憶測なのですが、目眩病は病気ではないのでは? と感じまして」
「同感だ」
奇しくも、ユベール様も同じことを考えていたという。
「目眩病は、魔力の枯渇状態に似ている」
「ええ。推測ですが、目眩病というのは、魔力をじわじわと奪われるような状態なのではないでしょうか?」
「私もそのように考えていた。幼竜コゼットと魔力を共有するメーリスが倒れなかったのも、豊富な魔力を所有しているからだろう」
「魔力を、共有、ですか?」
「なんだ、知らなかったのか? 竜族との契約はそういうものだ」
コゼットにそうなのかと聞いても、小首を傾げるばかりだった。
まさか知らぬ間に、竜であるコゼットと魔力を共有していたなんて。
竜の魔力は無尽蔵だと耳にしたことがある。
たしかにそのような状態であれば、いくら魔力を取られていても、気付かないだろう。
「最初の目眩病の患者が出たのは、十一年前」
偶然なのか、晩餐会が行われた翌日だという。
「アデールが接触したフェアリー・リングが無関係とは思えない」
ユベール様の言葉を聞いて、ハッとなる。
そうだ、そうだった。
「でしたら、目眩病というのは妖精族の仕業なのでしょうか?」
「その可能性は否めない」
一度調査しなくては。
ユベール様と一緒に、屋敷の裏庭にある湖へ行くこととなった。




