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紅蓮姫  作者: 西蜜梨瓜
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後編




 今年の武術大会は、例年以上の盛り上がりを見せていた。

 既に国民には第一王女アルテアの婚姻は知らされており、それ故に人々は彼女にとって最後になるだろう、武術大会を大いに盛り上げようと一丸となっていた。

「アルテアよ、今年はなかなかの強者揃いのようだぞ。気を引き締めて挑まねばならん」

 ベオニートル国王が厳かな顔で告げる。鎧を身に纏うアルテアがゆっくりと一礼した。その隣には同じように鎧に身を包んだヴァンゲリオス王太子が立っていた。

「ヴァンゲリオス殿も、存分にその腕を振るうことを期待しております」

 言われて王太子も一礼する。そしてヴァンゲリオス王太子は、アルテアのガントレット包まれた手を取り、わざとらしく口付けた。

「あなたと戦わずに済めば良いのですが、もし相対したとしても、手を抜かずに戦いますがよろしですか?」

 美麗なアイスブルーの瞳がアルテアの真紅の瞳を捉えながら言う。アルテアは引き攣りそうになる頬をなんとか抑えつつ、ほほ笑みを返した。

「もちろんですわ。私もあなたと対戦することになっても、全力で戦うと誓いますわ」

 できるならば自分が彼を叩きのめして、その嘘くさい笑顔の裏に隠れた本心を暴いてやりたいと、アルテアは物騒なことを考えていた。

 そうして二人は既に始まっている武術大会の闘技場へと向かったのだった。




 会場は異様な熱気に包まれていた。

 応援する者も戦う者も、皆が気迫に満ちている。アルテアは闘技場の控室で、怒号のような歓声を聞いていた。

 次々と勝者と敗者が生み出されていく。喜びの雄叫びを上げるもの、悔しさに涙するもの様々だった。

 そのような中、アルテアの名が呼ばれた。

「アルテア様、次の試合です」

 剣を握ってアルテアは立ち上がった。そして闘技場へと繋がる出入り口を潜ろうとしたその時、ちょうど試合が終わったのだろう人物とすれ違った。

「リオン……」

 アルテアが立ち止まると、リオンも同様に立ち止まった。二人の間に沈黙が降り立った。

「黙っていて、ごめんなさい」

 開会式に王族として出席したのだから、すでに自分の身分はばれているはずだった。騙すつもりはなかったが、真実を明かさずに接し続けてきたのだから、全くの否がないとはアルテアにも言えなかった。

 アルテアはどのような言葉を投げつけられるのかが恐ろしくて、身を強張らせて俯いていた。

「――俺が言ったことは覚えているか?」

 想像していた以上に穏やかなリオンの声に、アルテアは思わず伏せていた顔を上げた。するとリオンは少しだけ口角を上げた、あの悪戯っぽい笑みでアルテアを見下ろしていた。

「いまでも俺の願いは変わらない」

 そう告げると、リオンはその場から去っていった。アルテアは呆然としていたが、闘技場から自分の名を呼ぶ観客の声に気づき、急いで闘技場へと向かった。どうしてだろうか、アルテアの心はこの時、とても軽やかだった。




 リオンの一言のお陰か、それとも噂に違わなぬ実力のお陰か、アルテアは危なげなく大会を勝ち進んでいた。

 意外なことに、ヴァンゲリオス王太子も勝ち進んでいる。闘技場の出入り口からそっと伺い見ただけだが、豪語していただけあってか、王太子はかなり強いとアルテアは判断した。

 そしてリオンも順調に勝ち星を上げていく。その事実が、アルテアの心を一層高ぶらせた。

 武術大会は準決勝までがその日に決められ、翌日に準決勝以降の試合が開催される運びとなる。

 準決勝まで勝ち残ったのは、イルトニアフ王国第一王女アルテア、同国騎士団副団長レイド、そしてヴァンゲリオス王太子に、リオンだった。

 その日の大会が終わり、熱気冷めやらぬ闘技場を後にしたアルテアは、食事もそこそこに自室へと篭った。窓辺に椅子を用意し、そこから夜空に浮かぶ月を眺めていた。

 すると部屋がノックされ、侍女が弟達が会いたいと言っているがどうするかと訪ねてきた。

「入れてあげてちょうだい」

「かしこまりました」

 一旦侍女が部屋を出て行くと、すぐに双子の弟達が騒がしく入室してきた。

「やぁ、姉上。今日は見事な戦いっぷりだったね」

「そうだね、強すぎてこの国の男たちじゃあ、騎士団長と父上以外は太刀打ちできないんじゃないかな?」

 けらけらと二人して笑う弟達に、アルテアはあからさまに嫌な顔をした。

「何なの、嫌味を言うためにやってきたのなら出て行ってちょうだい。明日は大事な決勝戦なのだから」

「そんな冷たいこと言わないでくれよ姉上。僕達は姉上が理想の人と結婚できそうで良かったと、祝福しに来たんだよ」

 双子の兄アフリンザスが赤みがかった茶色の瞳を猫のように細めて言う。

「良かったじゃないか、ヴァンゲリオス王太子があんなにも強くて。これでなにも憂うことなく、ケラビノス王国へと行くことができるね」

 双子の弟アフラスタイドが、兄と同じ色の瞳をこれまた同じように細めて言った。

 アルテアは二人の弟を見比べたあと、これみよがしに溜息を吐いた。

「私、あなたたちには良くしてきたつもりだったのだけど、思ってた以上に嫌われていたようね」

 悲しそうに言うアルテアに、弟達はびっくりして同時に眉を吊り上げた。

「どうして! 僕たちはこんなにも姉上のことを慕っているのに! そんなことを言われるなんて心外だよ」

 アフリンザスとアフラスタイドが本気で怒っているのが分かり、アルテアは首を傾げた。

「だって、あなた達は私がヴァンゲリオス王太子と婚姻を結ぶことが、嬉しくて堪らないといった風だもの。よほど私を城から追い出したいのでしょう?」

 アフリンザスとアフラスタイドは互いの顔を見合わせ眉をしかめると、脱力したように肩を落とした。

「ラス、僕達の姉上は、やっぱり鈍感だよね」

「あぁ、そうだねリン。これじゃあ、将来夫となる人も大変だろうね」

 なにやら失礼なことを言う双子に、今度はアルテアが眉を吊り上げた。

「なによ、二人して私の悪口を言わないでちょうだい」

「違うよ姉上。それより、姉上はまだヴァンゲリオス王太子と結婚することを躊躇っているの?」

 アフリンザスが突然核心を突いてきて、アルテアは思わず口をつぐむ。

「その様子だと、合っているみたいだね。ねぇ、そんなに嫌だと思っているなら、断っても良いんだよ?」

 アフラスタイドが真剣な顔でアルテアに訴える。だがアルテアはとんでもないと、頭を振った。

「私個人の好き嫌いで、どうにかなるような物ではないのよ。それはあなた達もよく分かっているはずよ」

 双子の弟に本当のことなど言えるはずもない。婚姻の話が決まってから、まさか人生初めての恋に落ちてしまったなどと。しかもその相手が、どこの誰とも分からぬ旅人だということも。

「僕たちはまだ幼い。だけど、将来国を背負う覚悟は持っている。だから、本当に姉上が嫌がるような相手なら、僕たちは姉上のために剣を交える覚悟があるよ」

 弟達がじっとアルテアを見据える。小さな男の子だと思っていたのに、いつの間にこの子たちは一端の男の顔をするようになったのだろう。アルテアは感慨深さを感じると同時に、揺れていた気持ちを改めて見つめなおし、そして決意した。

「私はアルテア・レジャール・ロゼアとして、イルトニアフ王国第一王女として、ケラビノス王国第一王太子、ヴァンゲリオス様と結婚します」

 弟達が姉の真紅に瞳の中に、偽りや迷いがないかを見定めるように見つめてくる。そして二人で顔を見合わせると、姉に向き直った。

「姉上、僕たちはいつだって姉上の味方だということだけは、覚えていてね」

 そう告げると、二人はアルテアの頬に口づけ、部屋を退室した。

 アルテアは窓辺から月を見上げた。その横顔にはすでに迷いはなく、戦いの女神と讃えられる凛とした強さを感じさせるのだった。




 翌日、闘技場は前日よりもさらなる盛り上がりを見せていた。

 アルテアは控室で柄頭に額を寄せ、じっと目を伏せていた。

 準決勝の組み合わせは、アルテア対副団長レイド、ヴァンゲリオス王太子対リオンとなっていた。なんとも皮肉な組み合わせである。

「アルテア様、お時間です」

 案内役が声をかけてきた。アルテアは閉じていた瞳を静かに開けると、悠然と立ち上がった。

 闘技場へと足を踏み入れると、観客たちの悲鳴のような歓声が耳をつんざく。すでに副団長のレイドが審判と共に待ち構えていた。

 アルテアはレイドの前に立つと、審判は彼女の持っている剣を検分し初めた。きちんとブレード部分が潰されているか、改造などされていないか等を確認するためだ。

「また貴女様と剣を交えることができ、この上ない光栄ですよ」

 レイドが本当に嬉しそうな顔で言った。

「そうね、去年はあなたが怪我をしていて、大会に出場できなかったものね」

 去年のちょうど武術大会の直前まで、同盟国であるラギル王国からの要請で、イルトニアフ王国騎士団は遠征をしていたのだった。その時、副団長であるレイドは負傷し、大会に出ることが叶わなかったのだ。

「ですが、今年は私も万全の状態で挑むことができました。貴女様はどうでしょうか?」

 審判から剣を受け取りながら、アルテアも笑みを返した。

「それは私と戦えば、分かると思うわ」

 審判が二人から距離を取る。アルテアとレイドが剣を構えると、審判から合図が出され、試合が始まったのだった。




 思いの外苦戦してしまったが、アルテアはなんとか副団長レイドから勝利をもぎ取った。

 レイドは先程、アルテアの攻撃によって左腕を負傷したので、医務室へと運ばれていった。

 一方アルテアは、レイドの攻撃を防ぎきれずに脇腹を負傷したのだが、彼女はそれを押し隠し、次のヴァンゲリオス王太子とリオンの試合を闘技場の端でじっと見守っていた。

 二人が対峙するのをアルテアは静かに見守っていた。ヘルムの向こうの表情は見えないが、アルテアに接していたような柔らかな雰囲気は、今のヴァンゲリオス王太子には全く見受けられなかった。

 リオンの方は、アルテアと軽口を交わしていた時のように、気負った様子もなくごく自然に、その場に立っているように見えた。

 審判が合図を出すと同時に、二人の剣がぶつかり合う。体格ではリオンの方が優っているが、ヴァンゲリオス王太子も決して打ち負けてはいなかった。直ぐにリオンから距離を取ると、それを見越したようにリオンがヴァンゲリオス王太子の方へと踏み込んでいく。しかしそれも予想していたのか、ヴァンゲリオス王太子が斜め上から振り下ろされる剣をブレード部分で受け流し、空いている脇腹を狙うように斬り上げた。

 だがここでリオンが受け流された剣を瞬時に持ち替え、ブレード部分を持って柄の部分を思い切りヴァンゲリオス王太子のこめかみへと打ち込んだ。脇腹へとヴァンゲリオス王太子の剣が到達するのとほぼ同時だったが、ダメージはリオンよりもヴァンゲリオス王太子のほうが受けていると思われた。ヘルムを被っているとはいえ、頭を殴られる方がより衝撃が強いからだ。

 一旦ヴァンゲリオス王太子は後退しようとしたが、リオンはそれを許さず、ブレードを持ったままガード部分でヴァンゲリオス王太子の首を引き倒そうとした。慌ててヴァンゲリオス王太子は剣を突き出しリオンの喉を狙った。リオンはそれを見て直ぐにヴァンゲリオス王太子から離れた。

 闘技場が二人の戦いに沸いた。アルテアも固唾を呑んで、二人の戦いの行く末を見守った。

 ヴァンゲリオス王太子は前日までとはまるで違い、攻撃的な戦い方になっていた。闘争心を隠そうともせず戦う姿は、アルテアに気障な言葉を投げかけていた時とは全く違った。別人のようなヴァンゲリオス王太子に、アルテアは違和感を覚えた。

 それとは対照的に、リオンは淡々とヴァンゲリオス王太子の剣を受け止め続けている。そして冷静に、相手の隙を見つけては、その部位を狙って攻撃を仕掛けた。

 一進一退の攻防に見えたが、アルテアは気付いていた。リオンは初めと変わらない動きをし続けているのに、ヴァンゲリオス王太子の動きが僅かだが鈍り始めているのだ。

 このままでは勝負が付かないと思ったのか、それとも体力が切れる前に決着を付けようと思ったのか、ヴァンゲリオス王太子はリオンの剣を弾いた直後、勢いをつけてリオンに向かって体当たりをしたのだ。

 リオンとヴァンゲリオス王太子がもつれるように倒れこむ。観客たちも思わず息を呑んだ。

 ヴァンゲリオス王太子が馬乗りになって、リオンの首元へ剣を突きつけようと両腕を振り上げた。アルテアは咄嗟に叫んでしまった。

「リオン!」

 歓声にかき消されたその声は、届くはずもなかったのに、呼応するようにリオンがヴァンゲリオス王太子の剣先を掴んで押し返す。思わぬ反撃に避ける暇などなく、ヴァンゲリオス王太子の首元へと柄頭が直撃する。

 恐るべき膂力で、リオンが自分の上からヴァンゲリオス王太子を投げ飛ばすように退かすと、すかさず彼の剣を奪い取って追撃しようとした――だが、そこで審判が止めに入った。

「この勝負、リオン・グラシェスの勝ち!」

 闘技場が歓声に包まれる。倒れたままのヴァンゲリオス王太子に衛生兵たちが駆け寄って行く。

 アルテアは痛いほどに鼓動する胸を鎧の上から抑えながら、自分を見つめるあの闇色の瞳と相対していた。

 リオンはヘルムを外すと、アルテアを見て微笑んでいた。まるで勝つことが当たり前のように、その場で泰然と立っていたのだ。

 アルテアはどうしようもなく背筋が粟立つのを感じた。早くヴァンゲリオス王太子の元へと駆け寄って、無事かどうかを確認しなければいけない。せめて、声を掛けなければいけない。そう頭では分かっているのに、体はその場に縫い止められたように動かず、ただリオンの深い闇のような瞳に縛られ続けていた。

 ヴァンゲリオス王太子が抱えられるように闘技場から退場していく。アルテアは震える手を握りしめた。どうしようもなく、高揚する気持ちを抑えきれない。ただただ今は、この強い男と戦いたい。恋や不安などを凌駕する闘争心が、アルテアを支配していたのだった。




 決勝を控え、一時休憩が挟まれた。しかし観客たちは席を立たずに、今か今かと最後の試合を待ち望んでいた。

 アルテアは控室で一旦鎧を外し、脇腹の様子を見た。どうやら骨まで折れているようで、どす黒く内出血して腫れ上がっていた。だがアルテアは布できつく胴回りを締め付けると、再び鎧を着込んだ。この国で最後になる戦いなのだ、辞退する気など毛頭なかった。

 闘技場に向かうと、地面が揺れるほどの歓声が上がっていた。すでにリオンはそこに立っていた。

 アルテアはヘルム越しにリオンを見据えた。やはり彼のどこにも気負いはなく、静かにアルテアを見つめ返していた。

 審判が手を挙げる。アルテアとリオンが剣を構えた。決勝戦の開始を告げる合図がなされた。

 アルテアは恐れ知らずにも、いきなり相手の懐に踏み込んだ。試合を長引かせれば、自分が不利になると分かっていたからだ。

 リオンは冷静にアルテアから繰り出される剣を受け止めていた。アルテアが女であるからと言って、その剣の衝撃は決して軽くはなく、むしろ重すぎるほどだった。

 アルテアは剣だけに拘らなかった。相手を打ち負かすことが出来るのならば、手も足も、反則にならない限り体の全てを使って相手に攻撃をしかけていく。それはジーク騎士団長から学んだことでもあった。アルテアは騎士ではない。ましてや男でもない。ただ勝つために強さを求めれば、それで良いと体に叩きこまれてきたのだ。

 リオンの顎を狙ってアルテアの拳が唸る。だが既のところで避けられた上に、密着しすぎていたのを逆手に取られ、突き上げた腕を剣で固定するように捻り上げられた。

「ぐっ!」

 鎧は関節までは守ってはくれない。リオンが容赦なく自分の腕をへし折る勢いで、力を込めていくのをアルテアは感じ取った。

 アルテアは勢い良く地面を蹴ると、掴まれている腕を軸にして強引にリオンの首へと足を絡み付かせた。掴まれていた腕を逆にアルテアがリオンの剣ごと脇腹に挟み込んで固定し、がら空きになった顔面に躊躇なく拳を叩き込んだ。

 ヘルム越しとはいえ、避けることも出来ずに頭を殴打され続け、さすがのリオンも体が大きく揺らぐ。だがまだ倒れない。

 アルテアの連打に耐え切れずに、ついにリオンのヘルムが破壊される。小麦色の肌に黒髪のリオンの顔が現れた瞬間、アルテアは心臓が鷲掴みにされたような衝撃を受けた。

 リオンが笑っていたのだ。獰猛な獣が獲物を食らう直前のような、ぎらぎらとした笑みだった。

 アルテアがゾッとする間もなく、リオンは己に絡みついていた彼女の体を腕ごと振り上げた。奇妙な浮遊感を感じたと思えば、背中から地面へと一気に叩きつけられた。頭を守るヘルムが衝撃で外れ、中からアルテアの赤い髪が燃え広がる炎のように地面に広がった。

「はっ……」

 一瞬息ができなくなった。リオンが落ちた剣を拾い上げるのを視界の端で捉えた。本能でアルテアは体を動かしていた。だが先の試合で受けた脇腹へのダメージと、つい今しがた受けたダメージとで、その動きは自分で思う以上に鈍かった。

 リオンがゆっくりと剣を振りかぶったように見えた。いや、実際にはとんでもない速さだっただろう、だがアルテアにはその時、世界のすべてがゆったりと時を刻んでいるように見えた。

「アルテア」

 リオンの口が、確かに自分の名前を紡ぎだすのを耳にした。それはとても甘くて、蕩けるほど心地の良い響きだった。

「そこまで! 勝者、リオン・グラシェス!」

 あと毛の一本分かと思われるほど目の前で、リオンの剣がぴたりと静止した。

 地響きが鳴った。呆然と膝を着いたままのアルテアは、それが割れんばかりの歓声だとしばらく気付けなかった。

 リオンが剣を地面に突き立て、アルテアの前に跪く。

「アルテア、俺が勝った。約束を覚えているか?」

 ガントレットに覆われた指先が、アルテアの頬をゆっくりと優しくなぞっていく。

「俺と、結婚をしてくれ、アルテア」

 試合の結果に沸き立つ歓声の中でも、リオンの深く低めの声がしっかりとアルテアの耳に届いた。

 どうして、よりにもよって今、そんなことを言うのだろう。

 アルテアは滲む視界を瞬きで振り払い、試合で負った痛みではない痛みを感じて顔を歪めた。

「駄目よ、リオン……。私には、あなたの気持ちを受け入れることは、できないの」

「どうして?」

 リオンがアルテアの目尻を拭いながら、静かに尋ねた。

「だって、あなたは旅人で、私はこの国の王女で――なにより、もう決められた相手がいるのだもの」

 溢れる涙を隠すことすら忘れ、アルテアは頭を振った。リオンはそんな彼女の両頬を掌で包み込んだ。

「それは、俺のことが好きだが、立場が違いすぎるから受け入れられないということか?」

「意地悪な人ね、あなたって……そんなの答えられるわけないじゃない」

 紅玉のような瞳が涙に濡れ、幻想的な光を放つ。アルテアの煌めく紅い瞳を覗き込みながら、リオンが精悍な顔に男らしい笑みを浮かべた。

「俺が好きなんだな、アルテア」

 言えない。言えるわけがない。初めて知った恋心を暴くことは、アルテアには許されていないのだから。

「言え、アルテア。俺が好きだと」

 まるで神の如き傲慢さで、リオンがアルテアに命令する。

「アルテア」

 夜の闇よりも尚も濃い、深淵の底のような瞳で見つめられると、アルテアは自分の全てが絡め取られて動けなくなる。でもその引力に逆らわなければ、待っているのは双方にとって不幸な結末だけだ。なのにアルテアの唇は、誘い出されるように言葉を紡ぎだす。

「す……き、あなたが、好きよ」

 アルテアの震える唇が、吐息とともに恋情を吐き出した。それと同時に、目の前が黒一色になる。

 すぐにそれがリオンの瞳の色だと気付いた。なぜなら唇に燃えるような熱いリオンの唇を感じたからだ。

 アルテアが震えながら抵抗しようと身を捩る。それを許さないとばかりにリオンがアルテアの頭をしっかりと抱え込む。

 だめ、こんなに大勢の人の前で、いや民の前で、婚姻を決めた相手ではない男と口付けるなんて――そう思って逃れようとするのに、堅牢過ぎるリオンの腕がアルテアを開放してくれない。

 恥辱と混乱で、アルテアの頭の芯が痺れ始めた頃、観客たちの声に負けないくらいの怒声が闘技場に響き渡った。

「ヴァン! いい加減にしてください!」

 余りにもの迫力に、観客たちも思わず静まり返る。随分と掠れていたが、聞き覚えのある声にアルテアは霞みそうになっていた意識を何とか持ち直した。

「ちっ……小煩いヤツが来た」

 名残惜しそうにアルテアの唇を開放すると、リオンが煩わしそうに言った。

 アルテアはふらつく頭で声のした方を見遣ると、そこにはヴァンゲリオス王太子が立っていた。首元に包帯が巻かれているのは、先の試合で受けた傷なのだろう。

 ヴァンゲリオス王太子が鬼のような形相で、リオンとアルテアに近づいてくる。アルテアは自分がしでかした事の重大さにようやく気付き、急いでリオンから離れようとした。だがそれに気付いたリオンが、逆にアルテアを自分の胸元へと引き寄せた。

「や、やめて! 離してちょうだいリオン!」

 アルテアの抗議も無視してリオンが腕の中に彼女を匿っているうちに、ついに目の前までヴァンゲリオス王太子がやってきた。

「どういうことですか、ヴァン」

 アイスブルーの瞳は今や氷のように冷たく二人を――いや、どちらかと言えばリオンを見下ろしていた。アルテアは妙な違和感を覚えた。

「なんだ、邪魔をするなよお前」

 一国の王太子になんて物言いをするのかとアルテアが肝を冷やすと、ヴァンゲリオス王太子が端正な顔をこれでもかと歪めた。

「邪魔ってなぁ、お前よりにもよって、こんな大勢の観衆の前で姫様になんてことしやがる」

 あれ? あの優雅で優しげな青年だった王太子はどこにいったのかな? ――アルテアは混乱の極みにいた。

「ほれ見ろ! 姫様が固まっちまってんじゃねぇかクソが!」

 まるで別人のヴァンゲリオス王太子を呆然と見つめていたアルテアの顔を、リオンが強引に自分の方へと向けた。

「こんな奴より俺を見ろアルテア。俺はお前のものなんだからな」

「こんなヤツだと! このクソやろ――げっほ! ごほっ!」

 包帯の巻かれた喉を押さえて、苦しげにヴァンゲリオス王太子が咳をする。

「ちくしょう、手加減なしに打ち込んできやがって……俺の喉が潰れたらどうするつもりだったんだ」

「だったら幸運だったのにな。お前の小煩い説教を聞かずに済んだだろうに」

 なぜか言い合いをする二人に、アルテアはもう訳が分からずただ唖然と見つめるしかなかった。

「アルテア? どうした……あぁ、そうか、脇腹をやられていたんだったな。それに俺がさっき投げ落としたから、それも障ったのかもしれん。よし、今すぐ医師に診てもらおう」

 そう言うとアルテアを抱き上げようとする、リオンの逞しい腕をアルテアは慌てて押さえつけた。どうして自分が脇腹を負傷していたのを知っていたのか、いやそんなことどうでもいい。今問題なのは、もっと別の大きなことだ。

「リオン、あなたは一体何者なの?」

 震える声で尋ねると、リオンが少し気まずげな顔をした。だが直ぐに真剣な表情を浮かべると、アルテアを真っ直ぐ見つめ返した。

「私はリオンではなく――ケラビノス王国第一王太子、ヴァンゲリオス・ユレノール=バジリアスと申します、アルテア姫」

 先程までの荒々しさはどこへ行ったのか、優美な仕草でアルテアのガントレットに包まれた手を取ると、そっと口付けた。

「すまない、アルテア。決して君を騙そうとしていたわけじゃなかったんだ。だがこうなって――」

 リオン――もといヴァンゲリオス王太子が最後まで言葉を紡ぎ終えることはなかった。なぜならアルテアの拳が綺麗に彼の顔面の中心にめり込んだからだった。

 渾身の力で殴りつけたにも関わらず、忌々しいことにヴァンゲリオスはまったくダメージを受けた様子はなかった。それどころか、鼻血を流して嬉しそうにアルテアを見ていた。

 そうしてアルテアはついに力尽きてしまった。傷のせいもあるだろうが、世の貴婦人方が衝撃で失神するのと同じように、生まれて初めて彼女も混乱と衝撃で気を失ったのだった。




 思ったよりも傷は酷かったらしい。

 医師に診てもらうと、なぜ直ぐに診せなかったのかと、こっぴどく叱られた。あと少しで肋骨が内蔵に到達するところまで骨が折れていたらしい。

 絶対安静を言い渡されたアルテアは、ベッドの上で憮然としていた。

「アルテア、この果物美味いぞ? 食べてみろ」

「要りません」

「あぁ……じゃあ、こっちのリゾットはどうだ? お前の好みに合わせて料理人たちが作ってくれたそうだぞ」

「要りません……」

「むっ、そうか。では……あ、このハーブティー! 傷の治りを良くするハーブが入っているそうだ」

「……要りません」

 むっつりと拒否するアルテアに、ヴァンゲリオスは片眉を上げる。しばし何かを考えこむように顎に手を当てると、なにやら懐から取り出した。

「血の流れをよくし過ぎるから、あまり良くはないんだが――」

 そう言うと、取り出した小瓶の中身をハーブティーに数滴垂らす。蒸気に含まれた芳醇な匂いがアルテアの鼻腔をくすぐる。

「これなら飲めるだろう? ほら、受け取れ」

 ヴァンゲリオスが蒸留酒入りハーブティーが注がれたカップをアルテアの前に差し出す。アルテアは芳しい匂いに、思わず鼻をひくつかせてしまった。

「冷めない内に飲んだらどうだ?」

「い、いらな……うぅ、もう!」

 誘惑に耐え切れずに、アルテアは差し出されたカップを受け取り、口を付けた。ハーブティーの爽やかな風味と蒸留酒の濃厚な香りが鼻に抜けていく。そして喉を潤し、胃に到達すると体をじんわりと温めてくれた。

 思わず吐息をこぼすアルテアに、ヴァンゲリオスが嬉しそうに笑った。

「よかった、傷を治すにはよく寝てよく食べることが、一番の早道だからな」

 別にアルテアは食事や睡眠を拒否していたわけではない。ただヴァンゲリオスが寝室に現れてから、何食わぬ顔であれこれ世話を焼く姿に苛立って、拒否するような態度をとっていただけである。なにせ彼からは、まだ事の真相を聞けていないのだから。

「……お父様からは、あなたに話しをしてもらえと言われたわ」

 不機嫌さを滲ませた低い声で、アルテアがヴァンゲリオスに言った。ヴァンゲリオスは頭を掻くと、アルテアをしっかりと見つめ返した。

「どこから話せばいいかな……アルテアは何から知りたいんだ?」

「私は……あなたがどうして身分を偽っていたのか知りたい」

 それを言うならアルテア自身もそうなのだが、ヴァンゲリオスの場合はアルテアと会見した時にさえも身分を偽っていたのだ。

「ふむ、まぁなんというか、成り行き上というか、別に初めからそうするつもりでいたんじゃなかったんだ」

「どういうこと? そもそも酒場にいたのはどうしてなの」

 詰問するような口調のアルテアに苦笑しつつも、ヴァンゲリオスは答えた。

「柄にもないと笑われそうだが、どうにも緊張してしまってな。それで城へ向かう前に、一杯引っ掛けてからにしようと思ったんだ」

 思わぬ告白にアルテアが目を丸める。

「そうしたらどうだ、なんとこの国の王女様が酒場で呑んだくれてるじゃないか、あれには俺もびっくりしたよ」

 カッとアルテアの頬が赤く染まる。慌ててアルテアは言い訳をする。

「ち、違うのよ、いつもあぁじゃないのよ私……」

「いや、別に恥ずかしがることじゃない。それに酒の飲めない女より、飲める女の方が俺は好きだからな」

 意地悪くにやりと笑うヴァンゲリオスに、アルテアはもう首筋まで真っ赤になっていた。

「話を戻すが、酷く落ち込んでいるアルテアを見てると、どうにも打ち明け辛くなってな。そんなに俺と結婚するのが嫌なのかと悩むほどにはな」

 だがそれも直ぐに事情が分かったから良かったのだが、ヴァンゲリオスの方も人知れず落ち込んでいたのだった。

「それで翌日だ。前日のこともあるし、なんとなく顔を合わせるのも気不味いというか、それならいっそのこと旅人リオンのままで、しばらくアルテアと接してみようと思ったんだ」

「でも、そのせいで私は”ヴァンゲリオス王太子”に対して不実を犯してしまったわ」

 リオンもヴァンゲリオスも同じ人物だったのだが、アルテアにとってはいまだに心に引っかかるのだ。

「アルテアは、”俺”を好きになってくれたんだろ? それともヴァンゲリオスだったエルも好いていたのか?」

 エルとはエルキティス・シーモスのことである。彼は今回の件でヴァンゲリオス王太子としてアルテアに接してきた人物であるが、本当はヴァンゲリオスの側近でもあり護衛でもあったのだ。

「そんなわけないでしょ! 私はあなたが……その、すっ、好きなのよ」

 消え入りそうな声でアルテアが告げると、ヴァンゲリオスの顔がだらしなく緩む。苛烈な見た目とあの戦いぶりからは想像もできないほど、アルテアという女性は酷く色事に疎いのだった。

「それだったら何の問題もないだろう? それともヴァンゲリオスとしての俺は嫌いか?」

 分かっていて尋ねるこの男はなんと狡いのだろうか。アルテアは悔しそうに唇を噛み締めた。

「それにしても、お父様はよく今回のことをお許しになったわね。お父様はこういう事をあまり好む方ではないのに」

「あぁ、それなら心配ない。よほど君のことを心配していたんだろうな、多少難色は示されたが、普通に会見しても君は王女としては婚姻を納得するだろうが、アルテアとしては納得しないだろうと見越していたようだ。それに君の双子の弟君も、快く協力してくれたしな」

 初めて聞く事実にアルテアが衝撃を受ける。

「あ、あの子たち、今回のことを知って――なんてこと!」

 どうりで何かにつけて自分に会いに来たのだと、ようやく合点がいく。もしや街に出る度に都合よくヴァンゲリオスと出会ったのも、あの弟達がアルテアの動向を彼に報告していたからだったのだろうか。

 アルテアがそれを尋ねると、あっさりと頷き返された。

「勿論だ。俺がいくら君を想っていても、さすがに俺の目の届かない所で、君が何をしているかまでは分からんからな」

 脳裏に瓜二つな顔を持つ双子の弟達が、悪戯が成功したと喜ぶ姿が浮かんだ。昔から悪戯を仕掛けるのが大好きな弟達の性質を、アルテアはすっかり忘れていた。

「でも分からないわ。我が国と国交のない国の王太子であるあなが、どうして私と婚姻を結ぼうと思ったの?」

 一番の疑問であった。険しい山々に囲まれたはるか北方にあるケラビノス王国は、どの国ともほとんど交流を持っていないのに、それがどうして南西に位置するイルトニアフ王国の王女を娶ろうとしたのだろうか。武芸に秀でた国であったとしても、特別目の引く産業や農作物があるわけでもないのに、どのような利益があって自分を見初めたのかがアルテアには分からなかった。

 不思議そうに首を傾げるアルテアに、ヴァンゲリオスは珍しく頬を染めた。健康的な小麦色の肌に薄らと朱が差すのをアルテアは見逃さなかった。

「笑わないと約束できるか?」

「聞いてみないと約束できないわ」

 意趣返しとばかりにアルテアが不敵な笑みを浮かべると、ヴァンゲリオスはむっつりと口を閉ざした。

「だったら言わん」

「嘘よ、大丈夫。笑わないって約束するわ」

 拗ねるヴァンゲリオスが物珍しくて、内心可愛いと思ってしまったが口には出さなかった。表向きは真剣な様子のアルテアに、ヴァンゲリオスは観念したように溜息を吐いた。

「……じつは、君に会ったのは今回が初めてじゃないんだ」

「え! そうだったの? ごめんなさい、私まったく覚えてなくて……」

 動揺するアルテアをヴァンゲリオスは慰めた。

「覚えてなくて当然だ。なにせあの時、俺は闘技場の観客席にいたんだからな」

 彼が言うにはこうだった。

 六年前、彼は諸国を旅している途中、このイルトニアフ王国へと立ち寄ったという。その時、ちょうど武術大会が開催されている時期と重なっていて、国民が大いに盛り上がっているこの催しを、旅の土産話にでもと観戦することにしたらしい。

 そこでヴァンゲリオスは衝撃的な出会いをした。

 平均的な男性よりも幾分華奢な体格の人物が、見る見るうちに相手を打ち負かしていったのだ。なるほど、さすが武の国と言われるだけはあると感心していたら、ヘルムの中から出てきた人物の容貌に更に衝撃を受けた。

 透き通るような白い肌に、燃える炎のような赤い髪と瞳の美しい女性が現れたのだ。まさかその様な人物が、屈強な男たちを倒して勝ち進むとは思ってもいなかったのだ。

 ヴァンゲリオスはさほどこの国に長居をするつもりはなかったのだが、赤髪の彼女がどこまで勝ち続けるのかをどうしても見届けたくて、結局決勝戦まで滞在を延期し続けたという。

「観客席にいた俺に、他の観客が言うんだよ。”あの紅蓮の髪を持つ女性が誰だか分かるかい? あの人は、俺たちの国の王女様なんだ”とな。これにもまた、俺は驚いたもんだ」

 そして気付けば、もうすでにヴァンゲリオスはその美しい赤髪の姫君に恋をしていたのだ。

 アルテアが知らない頃から自分を想っていてくれたヴァンゲリオスに、彼女は胸が熱くなった。だが同時に恥ずかしさも感じた。

「私その頃に初めて大会で、決勝まで勝つことができたの。でも、きっとみっともない戦いだったと思うわ」

 王家の者だからと言って、特別扱いなどされないのがイルトニアフ王国の武術大会である。実績のなかったアルテアは、選定会から一般市民と同じように勝ち進む必要があったのだ。そしてようやく本大会へと出場したものの、並み居る強者たちを倒すのは、容易なことではなかった。

「ははっ、気にするところはそこか? 俺がそんなにも前から君を思い続けてきたことを笑われるよりかは良いんだが、まぁ君らしいと言えば君らしい」

「そんな、人の真摯な思いを笑うものですか! でも……」

「でも?」

 アルテアが僅かに顔を伏せた。

「私も、もっと早くあなたと出会っていたかったわ。そうしたら、あなたが私に抱いてくれた想いと同じくらい、私もあなたへ想いを返せたのに」

 至極残念そうに告げるアルテアに、ヴァンゲリオスは動きを止める。そして片手で顔を覆って天を仰いだ。

 アルテアがそんな彼を不思議そうに見ていた。

「りお……ヴァンゲリオス? いったいどうしたの?」

「いや、君はなんというか……それより、俺のことはヴァンと呼んでくれと言っただろう?」

 いまだ瞳より下を覆っているヴァンゲリオスだったが、その目元がなぜか赤かった。

 アルテアはそれに気付かず、恥ずかしそうにヴァンゲリオスの名を囁いた。

「ば、ヴァン……うう、なんだか慣れないというか、恥ずかしいわ。ずっとリオンと言ってたから」

「アルテア」

 促すようにヴァンゲリオスがアルテアの手を握る。じっと黒い瞳で見つめられると、頭がぼんやりとしてしまう。

「ば……ヴァン。ヴァン」

 よくできたと言わんばかりの笑みを向けられ、アルテアの胸の高鳴りが最高潮に達したその時、寝室のドアが乱暴にノックされた。

「は、はい! どうぞ」

 慌ててヴァンゲリオスの手から自分の手を引き抜いて入室を許可するアルテアに、ヴァンゲリオスは残念そうな顔をした。

「失礼します……よっと」

 現れたのは、なぜか両手で双子の首根っこを捕まえた状態のエルキティスだった。

「リン、ラス! どうしたのあなた達」

「あぁ、これっすか? そろそろバカ王子の様子を見ようとやってきたら、扉の前でこの双子が行儀悪く立ち聞きしてたもんですからね、ついでに連れて来ました」

 エルキティスが乱雑に双子を開放すると、弟達は喉元を抑えながらそれぞれエルキティスに抗議の声を上げた。

 しかしアルテアはそんな弟達の方を咎めた。

「こら、あなた達、なんてはしたない真似をしてるの! シーモス様、みっともない所をお見せしてしまって……」

「やめてくださいよアルテア様。それと俺のことはエルとでもお呼びください。それより、もうヴァンから話しはお聞きになりましたかね?」

「え、えぇ。大まかには」

 いまだに乱暴な言葉遣いのエルキティスに慣れないアルテアは、戸惑いながら頷いた。

「ははっ、だったらお分かりでしょうけど、この男の執念というか、六年も同じ女性を思い続ける執念深さに、正直引きますよね? いや、俺はもうそりゃあ引きまくりでしたよ」

 エルキティスの言い様に、ヴァンゲリオスがむっと顔をしかめる。

「こいつ、王位継承権第一位のくせに、ボンクラの弟に王位を譲って、自分は気ままな隠居生活をしようと企んでたんですよ。ですがね、六年前にあなたに出会ったお陰で、そりゃまぁ周りが驚くほど人が変わっちまって。今まで避けてきた公務も真面目にするようになったし、父王殿に認められるようにと、それはそれは周囲が引くくらいに努力したんですよ。今じゃあこいつが未来の国王になることに対して、誰も反対しなくなりましたよ」

 これもアルテア様のお陰っすねと、にやにやと意地の悪い笑い方をするエルキティスに、ヴァンゲリオスは痛みを覚えたかのように額を抑えた。

「……すまん、こいつの口の悪さは生まれつきみたいなもんでな。気を悪くしないでくれ」

「いえ、気を悪くなど……ただ、少し驚いてしまって」

 端正な顔付きに似合う言動をしていた頃の彼と、今の口も所作も乱暴な彼が違いすぎて、ただただ戸惑うのだ。だが、王太子として接していた時よりも、今のエルキティスのほうが遥かに親しみが湧くとアルテアは思っていた。

「よく言われますよ、アルテア様」

 ニッと口角を上げるエルキティスに、ヴァンゲリオスが大きく溜息を吐いた。

「お前、なにか用事があって来たんじゃないのか」

「あぁ、そうだった。ベオニートル国王陛下がお前と話しがしたいそうだ。なんだろうな? まぁアルテア様絡みだとは思うがな」

 からかうようにエルキティスが言う。ヴァンゲリオスは立ち上がると、アルテアの頬をひと無でした。

「では俺は行くが、こいつも追い出しておこうか?」

 こいつと言って指さされたエルキティスが、肩をすくめて目玉をぐるりと回した。

「いいえ、大丈夫よ。気にしないで行ってきて」

「分かった」

 アルテアが軽く手を振って見送ると、ヴァンゲリオスが寝室から出て行った。残された双子の弟達とエルキティスが、同時にアルテアを振り返った。

「姉上、傷の具合はどう? レイド副団長も容赦無いよね」

「でも姉上も容赦なかったよ。だってレイド副団長の肩の骨外したし。あれ痛そうだったよ」

 準決勝でのことを思い出して双子たちが騒ぎ出す。アルテアは双子を交互に見やりつつ、今までのことを問い詰めた。

「あなたたちも今回の件に絡んでいたそうね」

 ぎくりと双子の肩が強張る。途端に二人の目が泳ぎだした。

「私からは何も言わないわ。だけど、あなた達の家庭教師と騎士団の方々に、これから先半年間はびっちりと、お勉強と訓練を強化してもらうように頼んでおいたわ」

「えぇ! そんなぁ!」

「酷い! 姉上の横暴!」

 ぎゃーぎゃーと喚く弟達を侍女たちに頼んで追い出してもらい、控えの侍女とエルキティスだけが残った。

「あー……ここは俺も謝る場面ですかね?」

「謝罪はもう充分よ。それにしても、あなたは自分が身代わりになることに関して、反対はしなかったの?」

 ヴァンゲリオスに対する物言いからそう感じたのだが、エルキティスの物怖じしない態度を見れば、当然反対をしたはずだ。

「しましたよ。俺は王太子なんて柄じゃないっすからね。絶対バレるって言ったのに、あの馬鹿は絶対に大丈夫だって言って譲らないんですよ。それに俺の祖父がこの国出身ってのもあったから、ベオニートル陛下との渡りもつけやすいだろうって」

「あなたのお祖父様、この国の方だったの?」

 意外な事実にアルテアが驚く。

「あれ、ヴァンから聞いてないんですか? あの野郎……あぁ、まぁそういう事っす。元々この国とケラビノスは地味に交流があったんですけどね。あんまり知られてないっすけど」

 王族であるアルテアでさえ知らないとはどういうことか。

「その様子じゃ、この国に武術を広めた旅人が、ケラビノスの後の国王になる人だったってのも――」

「そんな話し、私知らないわ!」

 思わず声を荒げるアルテアに、エルキティスは苦笑する。

「でしょうね。俺たちの国は基本的に他国との交流を持たないですから。この国は異例中の異例というか、げんにあの岩の鐘なんかが良い例ですよ」

 寝室の窓へと目を向けるエルキティスに釣られるように、アルテアも窓の外を見た。

「あの岩をまさか鐘にするとは、さすがにかつての国王も思ってなかったみたいっすよ」

 にやりとエルキティスが面白がるように目を眇める。

「どういうこと? あの岩がどういう意味で贈られたのか知っているの?」

「俺が知ってるというより、ケラビノスで伝えられてる話によると、当時自分を忌避なく受け入れてくれた上に、教えた武術を恐るべき勤勉さで吸収していったイルトニアフの民に感動した王様が、なにか感謝を示す物を贈ろうということで、あの岩を贈ったらしいっすよ。ただ――」

「ただ?」

「ただ、鋼鉄と同程度の硬さのケラブス岩を、まさか鐘にするとは思ってなかったみたいですけどねぇ」

 ケタケタと腹を抱えて笑うエルキティスにアルテアが目を丸くする。

「もしかして、あの岩は貴重な物だったの?」

「そりゃあ貴重も貴重、上手く加工すれば目が飛び出るほどの金になる鉱石っすよ。どうやら昔のケラビノスの王様は、その岩を少しずつ加工して、国を潤すための材料にでもしてくれたらと思ってたみたいですけど、まさかあんなに豪快に加工して鐘に作り変えるとはねぇ」

 まるで自分に言われているようで、アルテアは申し訳無さに身を縮める。だがエルキティスはそれを優しく笑い飛ばした。

「心配しないでいいっすよ。ケラビノスで伝えられてる話しでは、国王になってから一度だけ、この国に来たらしいんですけど、あの鐘を見て音を聞いた王様は、そりゃあ喜んだらしいっすよ。売るどころか、それを大切に武術を広めた証として、鐘を鳴らし続けてくれているって」

 その言葉にアルテアはほっと胸をなでおろした。どうやら自分の先祖はかなり豪快な人物だったらしいが、心根は純粋だったようだ。

「まぁ、そんなわけで、ケラビノスとイルトニアフは不思議な縁で繋がってたわけです。それが今のアルテア様とヴァンにも繋がるわけでして」

 言われてアルテアの頬が僅かに染まる。

「アルテア様、俺みたいなヤツがこんなことを頼むのはおこがましいですけど、ヴァンをどうか支えていってやってください。アイツは今回のことみたいに、偶にとんでもないことをやらかす男ですけど、あいつの王としての資質は間違いないんです。それにご存知でしょうが、アルテア様のことを気持ち悪いくらいに慕ってます」

 褒めてるのか貶してるのか、だが口は悪くとも、そのアイスブルーの瞳に宿る真摯な思いは確かにアルテアには伝わっていた。

「ヴァンは、良き友に恵まれたのですね」

 アルテアが目を細めてエルキティスを見返すと、彼は少しばかり照れたように鼻先を掻いた。

「それを言うならアルテア様もっすよ。闘技場でアルテア様が気を失った後、観客席に居た民たちが一斉に騒ぎ出して、そりゃあ大変だったんですからね。”俺たちの姫様になにしやがったんだ!”って、もう少しで暴徒と化す寸前でしたよ。ベオニートル陛下が治めてくれたんで事なきを得ましたが」

「まぁ、そんなことが……」

「ヴァンのやつ、これも言ってなかったんですか? まったく、アイツ……。それにしても、いくら戦いの女神と歌われる姫様相手とはいえ、まさかヴァンが最後に本気をだすとは思ってもみませんでしたよ。本当に申し訳ない。俺から謝罪をさせてください」

 膝を折り、自分に頭を垂れるエルキティスをアルテアは慌てて止めた。

「やめてちょうだい。あなたと戦っているヴァンの姿を見ても感じていたけど、彼は本当に強いのだと改めて実感したの。でもそんな彼の本気を少しでも、引き出すことができて嬉しかったの。私もまだ精進しなくちゃいけないと思ったのよ」

 美しく微笑むアルテアに、呆れとも羨望とも取れない眼差しをエルキティスは向けた。

「武の国とは言われてますけど、さすがその国の王女だけはあるというか、ヴァンに負けず劣らずの大物というか……」

「あら、私の国に武術を広めてくれたのは、あなたの国の王様でしょ? ケラビノスでは女性は武術を体得しないのかしら?」

 不思議そうにアルテアが尋ねると、エルキティスは苦笑する。

「嗜み程度にはしますけどね、この国のように老若男女隔て無くというほどではないですよ」

「そうなの。ヴァンのような強い人が、沢山いると楽しみにしてたのに」

 心底残念そうに言うアルテアに、こんどこそエルキティスは呆れた。

「アルテア様、医師から当分の間は安静にと言われてたはずですけど?」

「怪我が治るまでね。それともあなた達の国の人は、私に勝つ自信がないのかしら?」

 わざと挑発すると、エルキティスは氷のような瞳をぎらつかせた。

「まさか。楽しみにしておいてくださいよ、俺たちの国の人間もなかなかのもんですからね」

 そこでエルキティスは表情を緩めると、言い足した。

「だけどその前に、まずはヴァンとの結婚式が先ですよ。でないとアイツ、今度こそ本気で暴れだしちまう」

 思わぬ反撃に、アルテアがさっと頬を染めた。本当にこの男は口が悪い。




 アルテアの輿入れは、当初の予定よりも大分遅れてしまった。なにせ肝心の花嫁が大怪我を負っていたのだから仕方ない。

 ようやく医師から動いても良いとの許可が下り、待ち望んでいたヴァンゲリオスは早速自国へ帰るための手はずを整えた。

「アルテア、君の父上から聞いていたのだが、どうして理想の相手に強い男をと、拘っていたんだ?」

 アルテアの部屋でゆったりと二人で茶を飲んでいると、ふとヴァンゲリオスが尋ねてきた。

 アルテアは目を泳がせた後、ちらりとヴァンゲリオスを伺い見た。

「……誰にも言わないでくれる? 特にお父様には秘密にしておいてほしいの」

「もちろんだ。それで、どうしてだったんだ?」

 促されてアルテアはカップをソーサに戻した。

「私のお母様がね――あぁ、リンとラスを産んで少しして亡くなったのだけど、その前にお母様が私だけに言ったの」

 母の姿を思い出すアルテアの瞳は、懐かしさと僅かばかりの切なさに揺れていた。

「アルテア、強い人と結婚しなさい。お父様のような、立派で強い人と――そう私に言い遺したのよ」

 ヴァンゲリオスは黙ってアルテアの言葉を聞いていた。

「私、それからずっとその言葉の通りの男性を探し続けていたの。だけど、私自身が強くなる度に、お母様が言ったような人がいなくなっていくことに気付いてしまったの。でも気付いた時にはもう手遅れだったというか、この歳になっていたというわけね」

 自嘲するようにアルテアが言う。ヴァンゲリオスはそんな彼女を慰めるように、彼女の隣へと移動すると、そっとその手を握りしめた。

「この国が武を重んじるのは分かるが、どうして君はそこまで自分を高め続けてきたんだ?」

 母の言うような男を見つけたいなら、アルテアは己を鍛え上げずにいれば良かったのだ。だがアルテアはゆるりと首を振った。

「お母様は、こうも言ったの。”私がいなくなれば、陛下はきっととても悲しまれるわ。だからあなたは弟達の分も強くなって陛下を、そしてこの国の民を守っていくのよ”そう私に託されたの」

 ヴァンゲリオスはようやく理解した。強い男を見つけるのと、自身が強くなることは、まるで相反する事なのだ。アルテアは長年ずっと、母の言葉に縛られ続けてきたのだろう。けれどヴァンゲリオスには、彼女の母親が伝えたかった本当の意味をなんとなく理解していた。きっと今のアルテアも気付いているのだろう。

「私ずっとお母様の言葉通りに強さを求め、強い人を探し続けてきたけれど、本当の強さはそういう事ではなかったのよ。たしかに強さは必要よ。強くなければ国は守れないもの」

 アルテアは自分の手を握るヴァンゲリオスを見上げた。

「けれどあなたと出会って、そして戦って負けた時、武術を極めることだけが強さじゃないと気付いたの。だって、私より強い人なんて、世界にはもっといるはずだもの」

 形だけの強さだけでは、人も自分も――ましてや国も守れない。アルテアはようやく気づくことが出来たのだ。

「ヴァン、私あなたに出会えて良かった」

 自分の手を握るヴァンゲリオスの手に、もう片方の手を重ねた。

「俺も君に出会えて良かった。でなければ、きっとろくでもない男になってただろうな」

 くすりとヴァンゲリオスが笑った。アルテアはそんな彼の肩にもたれ掛かると、目を伏せたのだった。




 明け方、アルテアとヴァンゲリオスたちを国王ベオニートルと双子の弟達、そして数人の側近たちが見送りに来ていた。

「アルテア、くれぐれも淑やかにしているのだぞ? 強い者に出会ったとしても、簡単に戦いを申し込んだりなどしてはならんぞ?」

 ベオニートルが先程からしつこいほどに、アルテアに言い聞かせていた。アルテアはうんざりとした様子で返事をした。

「分かってるわお父様。心配しないでちょうだい」

「心配するに決まっているだろう! これからは勝手に城を抜け出したり、町娘のふりをして城下を出歩くなど言語道断だぞ? それと酒は飲み過ぎるなよ。飲み過ぎて城の調度品を壊しまわるような愚行を犯してはならんからな」

「も、もう! あれは一回だけでしょ! それにリンとラスが酔った私の周りに、置物を置いて回ったせいでしょ!」

 アルテアが真っ赤になって二人の弟を睨みつけると、素知らぬ顔で視線を逸らされた。

「とにかく、イルトニアフの王女として、恥じない行いをするのだアルテア」

「分かっておりますお父様。お父様も無理をなさらないでくださいね」

 それからアルテアは双子の弟達を見下ろした。

「あなた達も、これからは私の代わりにお父様を支えていくのよ。今までのように悪戯ばかりしていては駄目よ」

「わかってるよ姉上。ヴァンゲリオス様、こんな姉上ですが、どうかよろしくお願いします」

「あぁ、任せておけ」

 ヴァンゲリオスは力強く頷くと、アルテアを恭しく抱き上げて馬車へと乗り込んだ。

「もう、馬車くらい一人で乗れるわ」

 アルテアが恥ずかしそうに抗議すると、ヴァンゲリオスは真面目くさった顔で彼女を見下ろした。

「何を言っている。君は俺の大切な花嫁なんだから」

 臆面もなく言い放つヴァンゲリオスに、何も言い返せずアルテアは真っ赤になって黙りこんだ。

 そうして二人を乗せた馬車はゆっくりとイルトニアフ王国を出発した。二人が乗る馬車が見えなくなるまで、国王や双子の弟達はずっとその場に立ち尽くしていたのだった。

 そうして何事も無く国境を越えようとした頃、突然馬車内に犬の鳴き声が響き渡った。

「まぁ! クード、あなた勝手に馬車に入り込んでいたの?」

 座席の下から耳を伏せたクードが現れた。明け方いくら探してもクードの姿が見当たらず、仕方なくそのまま出発したのだが、まさか先に馬車の中に隠れていたとは思ってもみなかった。アルテアがどうしようかと狼狽えていると、ヴァンゲリオスは彼女を宥めた。

「どうしたクード。アルテアが心配で着いてきたのか?」

「わふんっ!」

 まるでヴァンゲリオスの言葉が分かっているかのように、クードが吠える。それに笑ってヴァンゲリオスはクードの小さな頭を撫でてやった。

「そうか、だったらお前も一緒に来るか?」

「うぉんっ!」

「え! そんな、でも……」

 アルテアが躊躇っていると、ヴァンゲリオスがアルテアの頬をなでた。

「君の大切にしていた犬なんだろ? それともこんな場所でクードを放り出すのか?」

「そんなこと出来るわけ無いでしょ! でも、あなたはいいの? クードを連れて行っても」

「犬一匹を拒否するような、そんな小さな男に見えるのか俺は?」

 方眉を上げて覗き込んでくるヴァンゲリオスに、アルテアは真っ赤になって顔を背けた。

「いいえ、私が惚れ込んだ人よ、誰よりも器が大きくて強い方に決まっているわ」

 思っても見なかった言葉に、今度はヴァンゲリオスの方が顔を赤くする。

 そこにわざとらしい咳払いが聞こえた。

「まさか国に着くまでその調子とか、やめてくださいよ。胸焼けで気分が悪くなりそう」

 二人の斜め前に座っていたエルキティスが、これ見よがしに胸を抑えて口に手を当てた。

「気分が悪いなら、外の空気でも吸ったらどうだ? そうだ、お前だけ走って帰ればいいんじゃないか?」

 しれっと言うヴァンゲリオスにエルキティスが怒る。

「馬鹿言ってんじゃねぇよ! ったく、だから一緒の馬車は嫌だったんだ」

 ぶつぶつと文句を言うエルキティスを無視し、ヴァンゲリオスがアルテアを振り返った。

「すまんな、騒がしくて」

「退屈しなくてちょうどいいわ」

 くすりとアルテアが笑うと、嬉しそうにヴァンゲリオスも目を細めた。

「そうよ、まだ時間はたっぷりあるもの、あなたの国に着くまで色んな話しをしましょう」

「ではどんな話しをしようかアルテア」

「まずは、あなたの国について知りたいわ」

 アルテアの好奇心に満ちた赤い瞳が、ヴァンゲリオスの深い黒色の瞳を捕らえる。

「わかった。では――」

 二人はまるで互いの知らない部分を埋めるように、夢中で話し込んだ。そんな二人を一人と一匹が、優しく見守っていた。

 アルテアの胸は弾んでいた。これからの人生をヴァンゲリオスと共に、歩んでいくことが出来るのだから。二人なら、きっとどんなことでも乗り越えていけると、アルテアは確信のようなものを感じていた。

 こうして、二人の旅路が始まったのだった。




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