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第14話 再会

図書室の中は季節はずれなことに冷房が入っていたが、

それでもこの大人数だと物凄い熱気だ。


ありがたいことに、というか、困ったことに、というか、

スゥの話を聞くために、生徒や教師だけではなく、文化祭に訪れた一般客まで図書室に来てくれたのだ。

その中には、井ノ口親子の姿もある。


だが、寿々菜には分かっていた。

純粋に「芸能人をやってる白木先輩」の話を聞きに来てくれた人もいるだろうが、

大半は「『御園探偵』でKAZUと共演したスゥ」を見に来た人たちだ。


それは決して嘆くことではない。

もちろん寿々菜自身が注目を浴びるに越したことはないが、

どんな形であれ興味を持たれるのは芸能人としては強味だ。

それをどう活かすかは、寿々菜次第である。


寿々菜は用意されていた水を何度も飲みながら、話をした。

そして1時間弱に及ぶ講演の最後を、

「これからも、支えて下さっているスタッフの方々と共に頑張って行きたいと思います」という言葉で締めくくった。






「寿々菜さん!」

「武上さん!来てくれたんですね!」


ようやく拍手が鳴り止んで講演会がお開きとなり、

寿々菜が数人から求められたサイン(寿々菜のサインである!)に対応し終えた時、

図書室の一番端に立って手を振っている武上に気が付いた。


「当たり前じゃないですか。寿々菜さんの大舞台ですよ!

殺人事件なんかに手を焼いてる場合じゃありません」

「そ、そうですか」


さすがにそれはどうかと、寿々菜も思う。

すると、その寿々菜の心の声を代弁する者が現れた。

いや、元々そこにいたのだが、気が付かなかった。


「さっさと仕事に戻れよ、武上。殺人犯は待ってくれねーぞ」

「うるさい。今日は非番なんだ、ゆっくりさせろ。今回は出番これだけだし」

「前、孤軍奮闘してたじゃねーか。文句言うな」

「・・・したくてした訳じゃないけどな」


寿々菜は、腕を組んで壁にもたれている低い姿勢の青年を訝しげに覗きこんだ。

青年は上目遣いで寿々菜を見て、ニヤッと笑った。


「・・・和彦さん?」

「おう」

「ええ!?和彦さん!?」


寿々菜が驚くのも無理はない。

和彦は、全く変装していない。

しかし、いつもの小綺麗な格好とは違って、ドラマの中でも着ないようなストリート系のファッションに身を包んでいる。

それだけで、完全に「KAZU」でも「和彦」でもなくなっていて、

寿々菜でさえ分からなかったのだ。


「凄い!でも、こんなとこでバレたら大騒ぎですよ!」

「ま、見てろ。絶対誰も気付かないから」

「そうですね・・・でも、せっかくのお休みなのに、和彦さんまで来てくれるなんて嬉しいです!ありがとうございます!」

「おー。なかなか良い話だったじゃねーか」

「えへへ、そうですか?」


照れる寿々菜。

だが、珍しく武上が寿々菜に文句をつけた。


「まあ、悪くはなかったですけどね・・・僕としてはちょっと物足りなかったです」

「ごめんなさい」

「いや、寿々菜さんが悪い訳じゃ、」

「あれで良かったんですよ」


文化祭の委員と話していた山崎が寿々菜たちの所へやって来た。

満足そうな表情だ。


「山崎さん。お疲れ様でした」

「ああ、スゥも珍しく頑張ったじゃないか。入場料、設ければよかったな」


ケチな門野社長の影響が山崎にも出ているらしい。


「ちゃんと僕が言ったことを踏まえて、話を考えたんだな」

「実は考えたのはついさっきなんですけどね」


寿々菜が小さく舌を出す。



寿々菜の話の内容は、ほとんどがKAZU関係のことだった。

だから武上にとっては「物足りなかった」訳だが、

今日ここに来た人の多くは、KAZUとはどんな人で、普段どんな生活をしていて、

ドラマでどんなNGを出したり、どんなアドリブを入れたりするのか・・・

そんなKAZUの裏話を聞きたかったので、寿々菜の話は充分「物足りる」ものだっただろう。


寿々菜が当初考えていた自分の話が中心の講演内容では、

聞いている方はつまらなかったかもしれない。

なんと言っても寿々菜はまだ駆け出しアイドルで、普段の生活は一般人と変わらないのだから。


しかし、何もKAZUのことばかりを話した訳ではない。

自分が芸能界に入った経緯や、駆け出しならではの失敗談なんかも所々に入れ、笑いも取れた。

そして、今自分がこうして芸能人としてなんとかやっていけてるのは、

家族と事務所を初め、多くのスタッフのお陰であることをしっかりと付け加えたのだった。



「いつかは、『スゥ自身の話を聞きたい!』って言われるようにならないとな」

「はい!頑張ります!」


寿々菜が胸の前で両手でガッツポーズを作った、その時。


「あれー。なんだ、もう終わったのかよ」


懐かしい顔が、図書室の扉の向こうから現れた。


「森田君!」


なんと松葉杖姿の森田が、そこに立っていたのだ。

寿々菜は思わず駆け寄った。


「足、大丈夫なの!?」

「こんなもん、へっちゃらに決まってんだろ」


自慢になるのかどうか・・・

とにかく森田は胸を張った。


「休みじゃなかったの?何しに来たの?」

「白木センパイの失敗談を聞きに。でも、間に合わなかったみたいだなー。

せっかくこっそり病院を抜け出してきたのに」

「な、何やってるのよ!」


時間が昔に戻ったかのように二人でワイワイやっていると、

面白くない顔をした和彦と武上が、寿々菜の後ろから森田を睨んだ。


その視線に気付き、森田が顔を上げる。


「あ。KAZUだ」

「・・・なんで分かるんだよ」

「見りゃ分かるよ」

「・・・」


森田に一発で見抜かれ、和彦は少々傷ついた。



こんな素人のガキにバレるなんて、俺もまだまだだな。



「よく分かったわね!そうなの、この人がKAZUさんで、こっちが刑事の武上さん」


寿々菜が森田に2人を紹介すると、森田は「刑事?すげー!」と言って興奮した。

KAZUより武上に感激する森田に、和彦はますます面白くない。


「和彦さん、武上さん。この子は私の一つ下の後輩で、森田君っていうんです」

「こんちは」


森田が軽く会釈する。

さすがに和彦も武上も、大人として無視する訳に行かず、一緒に会釈を返す。


だが、寿々菜ではないが、和彦は寿々菜と森田の間にある微妙な違和感を感じ取った。



こりゃ、ただの「先輩と後輩」じゃねーな。

もしかして・・・



「おい、寿々菜。まさかコイツが寿々菜のファーストキスの相手か?」

「か、和彦さん!」


寿々菜が赤くなる。

森田とは、キスの話はタブーのように触れていないのだ。


しかし森田の方は、赤くなるでもなくキョトンとしている。


「白木センパイ。あれがファーストキスだったのか?」

「う・・・うん」

「えー、そうなんだ。あんなとこであんな風にやっちゃって、悪いことしたなー」

「いいよ、今更」


だが、「今更」では片付けられない男が2人。

特に、いつでも拳銃をぶっ放せる方の男は、

「今日が非番で本当によかった。もし非番じゃなかったら・・・」

と考えながら、無意識にホルスターのついていないベルトに手を回したのだった・・・







――― 「アイドル探偵7 寿々菜と七不思議編」 完 ―――






「アイドル探偵7」を最後まで読んで頂きありがとうございました。

森田が登場しているせいか?いつもより読んで下さっている方が多い気がします(笑)本当にありがとうございます。

第6弾はすっとばしておりますが、既に第8弾は書きあがり、現在は第9弾も考えております。第9弾にもお馴染みの人物が登場するかも、です。

そちらもお楽しみに!

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