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Reincarnation -Record of memories-  作者: 斗真
第一章 小さき蕾、花開く時

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第七話 再開の招待状

数日が過ぎた。


シェイン王国の訓練場には、朝から剣と魔法の音が響いていた。


トーマは木剣を振る。


最初の頃より、動きは少しだけ滑らかになっていた。


荒さはまだ残っている。

力任せな部分もある。

だが、振るたびに体が自分のものになっていくような感覚があった。


記憶は戻らない。


それでも、体は戦い方を覚えている。


トーマはそれを少しずつ拾い集めていた。


【ユナ】

「トーマ、右!」


ユナの声。


トーマは反射的に右へ踏み込む。


直後、レナの木剣がさっきまで頭のあった場所を通過した。


【レナ】

「おっ、避けた!」


レナが嬉しそうに笑う。


【レナ】

「前なら当たってたぞ!」


【トーマ】

「毎回当てに来るな」


【レナ】

「当てないと訓練にならないだろ!」


【トーマ】

「限度がある」


【レナ】

「ロイドにもよく言われる!」


【トーマ】

「直せ」


【レナ】

「努力する!」


レナはそう言って、もう一度突っ込んでくる。


速い。


だが、今のトーマはただ目で追うだけではなかった。


足音。

風。

踏み込みの角度。

レナの肩の動き。


それらを拾いながら、木剣を構える。


正面から受けない。

流す。

一歩下がる。

空いた場所へ誘導する。


ノアが後方で魔力を練った。


【ノア】

「防御、張るよ!」


淡い光の膜がトーマの横に展開される。


レナの進路がわずかに狭まる。


そこへミアが短槍を差し込む。


【ミア】

「こっちだ、レナさん!」


【レナ】

「いいぞ、ミア!」


レナは楽しそうに方向を変える。


その瞬間、ユナの魔力糸が地面すれすれを走った。


レナの足が一瞬だけ止まる。


トーマはそこへ踏み込み、木剣をレナの肩口へ向けた。


届く。


そう思った瞬間、レナは体を沈めた。


【レナ】

「甘い!」


次の瞬間、トーマの視界が回った。


足を払われたのだ。


背中から地面に落ちる。


【トーマ】

「ぐっ……!」


空が見えた。


レナの顔が覗き込んでくる。


【レナ】

「惜しかったな!」


【トーマ】

「今のは、いけると思ったんだが」


【レナ】

「いけると思った時が危ないんだ!」


妙に正しいことを言われ、トーマは少し悔しくなる。


ユナが歩いてきて、淡々と言った。


【ユナ】

「最後に前のめりになりすぎた。あと半歩残しておけば、足払いを避けられた」


【トーマ】

「分かった」


ミアが地面に座り込む。


【ミア】

「でも、だいぶ良くなってるよな! 前なら最初の突撃で終わってた!」


ノアも小さく頷く。


【ノア】

「うん。トーマ、ちゃんと私たちの動き見てくれるようになった」


【トーマ】

「前は見てなかったか?」


【ノア】

「見てたけど、たぶん一人で何とかしようとしてた」


その言葉に、トーマは少し黙った。


自覚はあった。


最初はそうだった。


敵が来れば、自分でどうにかしようとしていた。

守られることに慣れず、任せることもできなかった。


だが、レッドフラッグスの存在を知り、ロイに「空の器」と言われてから、少し考え方が変わった。


一人で戦えば、剣に飲まれるかもしれない。


自分を満たすものが必要だ。


仲間。

約束。

守りたいもの。


それらは、ただ横にいるだけでは手に入らない。


信じて、任せて、共に動いて、ようやく少しずつ形になる。


【トーマ】

「……そうだな」


トーマは起き上がり、ノアたちを見た。


【トーマ】

「今は、見てる」


ミアがにっと笑う。


【ミア】

「よし! もっと見ろ!」


【ユナ】

「言い方」


ユナが突っ込む。


そこへ、ロイドが訓練場へ入ってきた。


手には一通の封書を持っている。


青白い紙。

銀の封蝋。

そこには、テリア王国の紋章が刻まれていた。


ロイドの表情はいつも通り冷静だったが、少しだけ空気が変わる。


ソルも訓練場の端から近づいてきた。


【ソル】

「テリアからか」


【ロイド】

「はい」


ロイドは封書を掲げる。


【ロイド】

「テリア女王陛下より、正式な通達です」


ミアがぴょんと跳ねた。


【ミア】

「えっ、何!? また会議!?」


【ロイド】

「違います」


ロイドは封書を開いた。


そして内容を読み上げる。


【ロイド】

「一週間後、中立地帯中央演習場にて、リトルヴァルキリートーナメントを開催する。前回の中断に伴う再開催である。各国リトルヴァルキリーは指定時刻までに集合されたし」


訓練場がざわついた。


【ノア】

「リトルヴァルキリートーナメント……」


ノアが小さく呟く。


前回、トーマが空から落ちてきたことで中断された大会。


あの時、ノアたちはまだ戦闘中だった。


シェイン、ベイル、テリアのリトルヴァルキリーたちが、二人一組で拠点を奪い合うはずだった。


その試合が、一週間後に再開される。


ミアの顔がぱっと明るくなった。


【ミア】

「よし! 今度こそ勝つぞ!」


ユナは少しだけ目を細める。


【ユナ】

「前回より状況が複雑」


【ミア】

「複雑?」


【ユナ】

「トーマ、レッドフラッグス、三国会議、ノアの魔力。色々ありすぎる」


【ミア】

「でも大会は大会だろ?」


【ユナ】

「そうだけど、全員が普通の目で見るとは限らない」


ユナの言葉は正しかった。


今回の大会は、ただのリトルヴァルキリートーナメントではない。


三国の代表者たちは、トーマの存在を知っている。

レッドフラッグスが動いたことも知っている。

ノアの魔力に気づいている者もいるかもしれない。


そして、テリア女王が主催者として動いている。


【トーマ】

「俺も行くのか?」


トーマが問う。


ロイドは封書の続きを確認する。


【ロイド】

「直接の出場者ではありませんが、シェイン王国管理下の重要人物として同行を求められています」


【トーマ】

「見学か」


【ロイド】

「名目上は」


【トーマ】

「実際は?」


【ロイド】

「監視と観察でしょう」


ロイドは隠さず言った。


トーマは苦笑する。


【トーマ】

「正直だな」


【ロイド】

「嘘をついても意味がありません」


レナが腕を組む。


【レナ】

「でも、トーマも見た方がいいぞ! リトルヴァルキリーは面白い!」


【トーマ】

「面白いで済むのか?」


【レナ】

「いや、すごく大事な大会だ!」


【トーマ】

「順番が逆だ」


ソルは黙って封書を見ていた。


そして、ロイドに問う。


【ソル】

「参加形式は」


【ロイド】

「前回と同じく、集団戦。リトルヴァルキリー二人一組。ただし……」


ロイドは少しだけ言葉を切った。


その視線が、ノア、ミア、ユナへ向く。


【ロイド】

「シェイン王国のみ、前回から引き続き三人一組での参加が認められています」


トーマは眉を寄せた。


【トーマ】

「三人?」


ミアが元気よく手を上げる。


【ミア】

「私たち三人だな!」


【ロイド】

「そうです」


トーマはさらに首を傾げる。


【トーマ】

「でも、リトルの集団戦は二人一組なんだろ? なぜシェインだけ三人なんだ?」


その疑問は当然だった。


ベイルにはリトルヴァルキリーが二人。

テリアにも二人。

なら、二人一組でちょうどいい。


だがシェインには、ノア、ミア、ユナの三人がいる。


その三人が一組で出るというのは、ルール上どうなのか。


ソルが口を開いた。


【ソル】

「例外処置だ」


【トーマ】

「例外?」


【ソル】

「ああ」


ソルは静かに説明を始める。


【ソル】

「本来、リトルヴァルキリートーナメントの集団戦は二人一組で行う。これは少人数での連携力、判断力、拠点攻略能力を見るためだ」


トーマは頷く。


【トーマ】

「なら、三人は多いんじゃないのか?」


【ソル】

「普通ならな」


ソルの視線が、ノアへ向く。


ノアは少しだけ肩を揺らした。


【ソル】

「シェイン王国は現在、リトルヴァルキリーが三人いる。だが、ノアは正式な戦闘経験が浅く、戦闘に対する拒否感もある。魔力は大きいが、制御が不安定だ」


ノアは俯きかけた。


だが、トーマが横に立っていることに気づき、踏みとどまる。


ソルは責めるような言い方はしなかった。


ただ事実を述べているだけだった。


【ソル】

「もし二人一組に厳密に合わせるなら、誰か一人を外すか、ノアを単独に近い形で組ませる必要がある。だが、それは育成の観点から望ましくない」


ロイドが補足する。


【ロイド】

「今回の再開催は、三国の順位を決める意味もありますが、リトルヴァルキリーたちの成長を確認する意味合いも強い。ノアを外せば経験機会を失います。逆にノアを無理に二人組へ入れれば、片方に負担が集中する可能性があります」


ミアが胸を張る。


【ミア】

「私は負担でも平気だぞ!」


ユナがすぐに言う。


【ユナ】

「平気でも危ない」


【ミア】

「でも!」


【ユナ】

「ノアも守る。勝ちにも行く。敵も見る。拠点も狙う。二人だと役割が足りない」


ミアは少し考え込んだ。


そして納得したように頷く。


【ミア】

「たしかに!」


ソルは続けた。


【ソル】

「そのため、シェイン王国は前回大会の時点で、三人一組の例外処置を申請していた。条件付きで認められている」


トーマは聞き返す。


【トーマ】

「条件?」


ロイドが答える。


【ロイド】

「シェイン側にはいくつかの制限が課されます。たとえば、初期拠点耐久値の低下。補給地点の使用制限。一定時間ごとの位置情報開示などです」


【トーマ】

「人数が多い分、不利な条件もあるのか」


【ロイド】

「はい。単純に三対二になるわけではありません」


ユナが頷く。


【ユナ】

「だから楽になるとは限らない」


ミアは腕を組む。


【ミア】

「むしろ燃えるな!」


ノアは少し不安そうに言った。


【ノア】

「でも、私がいるから例外処置になったんですよね」


ロイドは静かに言う。


【ロイド】

「あなた一人のせいではありません」


【ノア】

「でも……」


【ソル】

「ノア」


ソルが名前を呼んだ。


ノアは顔を上げる。


【ソル】

「例外処置は弱さの証ではない。今の状況に合わせて、戦う形を整えただけだ」


【ノア】

「戦う形……」


【ソル】

「力を持つ者が、最初から完成しているとは限らない。お前にはお前の段階がある」


ソルの声は静かだった。


【ソル】

「焦るな。だが、逃げるな」


ノアは小さく息を吸う。


そして頷いた。


【ノア】

「はい」


トーマはその横顔を見ていた。


ノアは少しずつ変わっている。


怖がっている。

でも逃げてはいない。


それは、きっと強さだ。


【レナ】

「それに」


レナが明るく言った。


【レナ】

「三人なら三人の強さがある!ミアが突っ込んで、ユナが止めて、ノアが守る!完璧だ!」


ユナが目を細める。


【ユナ】

「雑だけど、方向性は合ってる」


【ミア】

「やった!」


ミアが笑う。


【ミア】

「じゃあ私は突っ込む係だな!」


【ユナ】

「突っ込みすぎない係でもある」


【ミア】

「難しい!」


ロイドが手帳を開く。


【ロイド】

「一週間後の大会に向けて、訓練内容を調整します。目的は三つ。ノアの防御と魔力制御の安定化。ミアとユナの攻守連携の強化。そして三人での拠点攻略訓練」


【ノア】

「トーマは?」


ノアが聞いた。


ロイドはトーマを見る。


【ロイド】

「トーマは同行しますが、試合には出られません。ただし、観察者として戦術記録を取ってもらいます」


【トーマ】

「俺が?」


【ロイド】

「はい。見る訓練です」


トーマは少し意外だった。


【トーマ】

「戦うんじゃなくて、見るのか」


【ロイド】

「戦うだけでは強くなれません。敵の動き、味方の判断、地形の使い方、勝敗を分ける一手。それらを見る目が必要です」


ソルも頷く。


【ソル】

「お前はまだ、自分の戦いだけで視野が狭くなる。大会を見るのはいい訓練になる」


【トーマ】

「分かった」


トーマは頷いた。


【トーマ】

「やる」


ミアがにやりと笑う。


【ミア】

「ちゃんと私たちの活躍を書いてくれよ!」


【トーマ】

「活躍したらな」


【ミア】

「する!」


ユナが静かに言う。


【ユナ】

「ミアの失敗も記録していい」


【ミア】

「やめろ!」


ノアが小さく笑った。


その笑顔を見て、トーマも少しだけ安心した。


だが、ロイドの表情はまだ硬い。


【ロイド】

「もう一つ、注意があります」


全員が彼女を見る。


【ロイド】

「今回の大会は、前回の中断後初めて三国のリトルヴァルキリーが集まる場です。レッドフラッグスが接触してくる可能性もゼロではありません」


空気が変わる。


紅い旗。


セイレン。

ルーク。


その名を思い出すだけで、訓練場の温度が少し下がったようだった。


【ロイド】

「大会そのものは三国の厳重な警備下で行われます。しかし、彼女たちは国のルールに従いません。もし現れた場合、試合は即座に中断。リトルヴァルキリーは退避。大人のヴァルキリーが対応します」


レナが拳を握る。


【レナ】

「今度こそ私が止める!」


ロイドは即座に言う。


【ロイド】

「命令があれば、です」


【レナ】

「分かってる!待つ!」


【ロイド】

「よろしい」


ソルはトーマを見る。


【ソル】

「お前もだ」


【トーマ】

「分かってる。勝手に行かない」


【ソル】

「本当に?」


【トーマ】

「……たぶん」


ノアがじっと見た。


トーマは咳払いした。


【トーマ】

「行かない」


ユナが頷く。


【ユナ】

「言い直した」


ミアが笑う。


【ミア】

「よし!」


ロイドは封書を畳んだ。


【ロイド】

「では、本日から大会用訓練に移行します。休憩後、演習地形を使った模擬集団戦を開始します」


【ミア】

「休憩あるのか!」


ミアが喜ぶ。


【ロイド】

「十五分です」


【ミア】

「短い!」


【ロイド】

「大会まで一週間です」


【ミア】

「急に現実!」


ミアが頭を抱える横で、ノアは自分の杖を握り直した。


不安はある。


怖さもある。


でも、逃げない。


トーマはそんなノアを見て、静かに言った。


【トーマ】

「ノア」


【ノア】

「何?」


【トーマ】

「俺は出られないけど、ちゃんと見る」


ノアは少しだけ瞬きをする。


【ノア】

「うん」


【トーマ】

「危なくなったら、何が悪かったか考える。次にどうすればいいか、一緒に考える」


ノアの表情が柔らかくなる。


【ノア】

「ありがとう」


ミアが横から割り込む。


【ミア】

「私の活躍も見るんだぞ!」


【ユナ】

「失敗も見る」


ユナが言う。


【ミア】

「だからやめろ!」


トーマは笑った。


シェイン王国の訓練場に、少しだけ明るさが戻る。


だが、その空の向こうには、大会という新しい戦場が待っている。


それは殺し合いではない。


ルールがある。

審判がいる。

勝敗がある。


だが、その裏では三国の思惑が動き、レッドフラッグスの紅い旗がどこかで揺れている。


リトルヴァルキリートーナメント。


中断された試合が、再び始まろうとしていた。

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