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Reincarnation -Record of memories-  作者: 斗真
第三章 戦乙女たちの招待状

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第四十八話 リトルたちの合同訓練

大会の翌日。


闘技場ではなく、テリア王国の外れにある訓練場に、三国の旗が並んでいた。


昨日まで歓声に包まれていた大会場とは違い、ここは少し静かだった。


広い砂地。

木製の障害物。

魔法訓練用の標的。

結界で囲まれた小型の模擬戦区域。


本来なら、各国のヴァルキリーが個別に訓練を行う場所だ。


だが今日だけは、そこに三国のリトルヴァルキリーたちが集められていた。


シェイン王国からは、ノア、ミア、ユナ。


ベイル王国からは、キリカ、メル。


テリア王国からは、ルチア、フィナ。


七人のリトルヴァルキリーが、顔を合わせる。


その周囲には、各国のヴァルキリーたちもいた。


シェイン側にはロイド、レナ、ソル、そしてトーマ。


ベイル側にはリン、ガーネ、カノン。


テリア側にはアリス、ロイ、イリス、そしてテリア女王。


ベイル女王は「面白そうだから見に来た!」と言い張っていたが、治療師に半ば強制的に休養へ戻された。


その代わり、遠くの特別席から大声だけは飛んでくる。


「全員、思いきりやれ!」


アリスが額を押さえた。


「休養って言葉、知ってるのかしら……」


リンが微笑む。


「声だけで参加しているようなものですねぇ」


カノンが淡々と言う。


「声量が戦力」


ガーネが頷く。


「うるさい」


テリア女王は愉快そうに笑った。


「ベイルらしいのう」


ロイドは記録板を手に、訓練場の中央へ出る。


「本日の合同訓練は、リトルヴァルキリー同士の交流と戦術理解を目的とします」


ミアが手を上げた。


「つまり戦うんだな!」


「半分正解です」


キリカが腕を組む。


「半分って何よ。訓練でしょ? 戦えばいいじゃん」


ルチアがすぐに反応する。


「ただ戦えばよいというものではありません。訓練には品格と目的が必要ですわ」


キリカがじろりとルチアを見る。


「出た、品格」


ルチアの眉が跳ねる。


「何か?」


「別に? 品格で罠が避けられるなら便利ねって思っただけ」


「罠など、見抜けばよいだけです」


メルがふわっと言う。


「キリカちゃんの罠、見抜いても踏む時あるよぉ」


キリカが振り向く。


「メル!」


「だって二重罠にするもんねぇ」


フィナがにこにこ笑った。


「二重罠いいねぇ。踏んで避けた先に魔法を置きたいなぁ」


ルチアが妹を見る。


「フィナ、発想がすぐ追撃に向かいますわね」


「追撃しないと逃げちゃうよ?」


「逃げ道を全部消すのはやりすぎです」


「ちょっとだけ残すね」


「ちょっとでは足りません!」


ミアは目を輝かせていた。


「なんかすごそうだな!」


ユナが静かに言う。


「ミアは最初に踏む側」


「なんでだ!」


「突っ込むから」


「むむ……」


ノアは七人のやり取りを見て、小さく笑っていた。


トーマはその横で、同じように彼女たちを見ていた。


「賑やかだな」


ノアは頷く。


「うん。昨日より近い感じがする」


「国が違うのに?」


「うん。でも、名前を知ったから」


その言葉に、トーマは少しだけ胸を押さえた。


名前を知る。


それだけで、相手は遠くの誰かではなくなる。


大会で自分が感じたことと同じだった。


ロイドは咳払いをする。


「まずは組み替え訓練を行います。各国ごとではなく、別の国の者同士で組みます」


キリカが眉を寄せる。


「別の国と?」


「はい。普段組まない相手と連携することで、自分の癖と相手の強みを知るためです」


ミアが拳を握る。


「面白そう!」


ルチアは少し緊張したように背筋を伸ばす。


「異国の戦士と組むのですね。責任重大ですわ」


フィナは楽しそうに言う。


「誰と組んでも撃っていい?」


アリスが遠くから即座に叫んだ。


「駄目!」


フィナは笑顔で返事をする。


「はぁい」


アリスは頭を抱えた。


「返事はいいのよね、返事は……」


イリスが穏やかに言う。


「フィナさんは、発動前の確認を徹底した方が良さそうですね」


ロイが短く言う。


「巻き込む」


「そうなのよ」


ルチアが慌てて言う。


「フィナは私が見ますので!」


フィナはにこにこする。


「お姉ちゃん、いつも前で見えなくなるよ?」


「それでも見ます!」


キリカがぼそりと言う。


「大変そうね、姉も」


メルがキリカを見る。


「キリカちゃんも、たまに私が見てないと罠に自分で引っかかるよ」


「引っかからない!」


「この前、半分だけ引っかかったよぉ」


「半分は引っかかってない!」


「それ、引っかかってるよぉ」


ユナが静かに呟いた。


「どこの国も大変」


ノアはまた少し笑った。


⸻


最初の組み合わせは、ロイドが決めた。


第一組。


ミアとキリカ。


第二組。


ユナとメル。


第三組。


ノアとルチア。


第四組。


フィナは単独で、各組の後方支援役を順番に担当する。


発表された瞬間、ミアとキリカが同時に相手を見た。


「おお! よろしくな!」


「いきなり暑苦しいのと組まされた!」


ミアは気にしない。


「キリカは罠が得意なんだろ? 私は走るのが得意だ!」


「見れば分かるわよ」


「じゃあ、私が走って、キリカが罠を置く!」


「それじゃあ、あんたが罠を踏むでしょ!」


「踏まないように置いてくれ!」


「注文が雑!」


二人はすでに言い合っている。


だが、レナはその様子を見て目を輝かせた。


「いい組み合わせだな!」


ロイドは眼鏡を押し上げる。


「どの辺りがですか?」


「勢いがある!」


「不安要素でもあります」


ソルは静かに言う。


「合えば強い」


トーマも頷いた。


「喧嘩してるけど、方向は同じだな」


一方、ユナとメルは対照的に静かだった。


ユナが言う。


「よろしく」


メルはふわっと笑う。


「よろしくねぇ」


「補助?」


「うん。回復、妨害、補助。ユナちゃんは?」


「糸。拘束、補助、少しだけ妨害」


「似てるねぇ」


「うん」


「じゃあ、相手を動けなくして、味方を動きやすくする感じかなぁ」


ユナはメルを見る。


普段のふわっとした空気とは違う。


メルの目は、戦いの形をすでに見ている。


「メル、戦闘になると変わる」


メルはにこにこした。


「よく言われるよぉ」


ユナは少しだけ頷く。


「やりやすそう」


「私もぉ」


その会話を聞いていたカノンが小さく言う。


「あの組、嫌」


リンも微笑む。


「ええ。派手ではありませんが、相手にすると非常に面倒でしょうねぇ」


ガーネが短く言う。


「絡められる」


カノンは頷く。


「動けない」


第三組。


ノアとルチアは、お互いに少し緊張していた。


ルチアは胸に手を当て、礼儀正しく頭を下げる。


「ノア様、本日はよろしくお願いいたします」


ノアは慌てて頭を下げ返した。


「さ、様はいらないよ。ノアでいい」


「では、ノアさん」


「うん。ルチアさん」


ルチアは少しだけ誇らしげに笑う。


「私が前に立ちます。ノアさんは後方から魔力膜で支援してください」


ノアは目を瞬かせる。


「私、うまくできるかな」


「できます」


ルチアははっきり言った。


「テリア女王陛下に学んでいるのでしょう? ならば、あなたは立派な支援役になれます」


ノアは少し驚いた。


ルチアの言葉は少し硬い。


でも、真っ直ぐだった。


「ありがとう」


ルチアは頬を少し赤くする。


「当然のことを言ったまでですわ」


フィナが横から笑う。


「お姉ちゃん、ちょっとお姉ちゃんぶってる」


「フィナ!」


「でも、ノアちゃんと組むの楽しそうだね」


フィナはノアを見る。


「ノアちゃん、魔力いっぱいあるんだよね?」


ノアは少し困ったように頷く。


「うん。でも、まだうまく使えない」


フィナはにこっと笑う。


「じゃあ、広くどーんってしたくなったら言ってね」


アリスが遠くからまた叫ぶ。


「フィナ!」


「しないよぉ。言ってみただけ」


ルチアはため息をついた。


「本当に油断なりませんわ」


トーマはそのやり取りを見ながら、ノアの表情が少し明るくなっていることに気づいた。


知らない相手と話す。


別の国の子と組む。


ノアにとっては、それだけでも大きな一歩なのかもしれない。


⸻


訓練は、三対三の模擬戦形式で始まった。


攻撃側。


ミア、キリカ、フィナ。


防御側。


ノア、ルチア、ユナ、メル。


人数が合わないため、防御側は支援二名を含むが、攻撃側のフィナは広範囲魔法を制限されている。


ロイドが説明する。


「目的は勝敗ではなく連携確認です。危険な攻撃は禁止。特にフィナさん、広範囲魔法は訓練用出力に制限してください」


フィナはにこにこする。


「はぁい」


アリスが腕を組む。


「本当に?」


「本当に」


「本当に本当?」


「たぶん」


「たぶんじゃ駄目!」


テリア女王が笑う。


「よいではないか。結界は張っておる」


アリスが振り向く。


「そういう問題ではありません!」


ロイが短く言う。


「壊れる」


イリスも微笑みながら頷いた。


「壊れたら直しましょう」


「イリスまで!」


ロイドは少し咳払いした。


「開始します」


鐘代わりの小さな魔法音が鳴った。


最初に動いたのはミアだった。


「行くぞー!」


予想通りの突撃。


キリカがすぐに叫ぶ。


「待ちなさいって言ったでしょ!」


「言われてないぞ!」


「言う前に走ったのよ!」


キリカは舌打ちしながらも、すぐに地面へ小さな罠札を投げた。


ミアが走る先ではない。


ミアを止めに来る相手の進路へ。


ユナがその位置を見て、即座に糸を伸ばす。


「罠、右」


メルがふわっと手を振る。


「じゃあ左を塞ぐねぇ」


ユナの糸が罠札を避けるように展開され、メルの妨害魔法がミアの足元を緩く鈍らせる。


ミアの速度が少し落ちる。


「うわ、足が重い!」


その隙にルチアが前へ出た。


魔法剣を構える。


「ここは通しませんわ!」


ミアは嬉しそうに笑う。


「じゃあ正面突破だ!」


「正面突破しかないのですか!」


「あるぞ! 斜め突破!」


ミアは少しだけ斜めに走った。


ルチアの眉が跳ねる。


「それはほぼ正面です!」


その瞬間、キリカが横から飛び込む。


「よそ見!」


素早い斬撃。


もちろん訓練用の木剣だが、速度は本物に近い。


ルチアは魔法剣で受ける。


キリカはそのまま連続で斬り込む。


速い。


小さな体を使った鋭い連撃。


しかし、ルチアも崩れない。


妹を守る前衛として鍛えられているだけあり、受けの形が綺麗だった。


「なかなかやるじゃない」


キリカが言う。


ルチアは少し誇らしげに返す。


「当然ですわ」


「その顔むかつく!」


「そちらの口の悪さも大概です!」


二人が打ち合う間に、ミアが横を抜けようとする。


その前に、ノアの魔力膜がふわりと現れた。


「っ!」


ミアはぶつかる前に止まった。


「ノア!」


ノアは少し緊張しながらも、両手を前に出していた。


「止まって」


「むむ……ノアが相手だと突っ込みづらいぞ」


ユナが遠くから言う。


「それも訓練」


メルが頷く。


「味方だった子が相手でも、ちゃんと見る訓練だねぇ」


ミアは頷いた。


「よし、見る!」


そしてすぐに走り出そうとする。


ユナが糸でミアの足元を軽く引いた。


「まだ」


「うわっ!」


ミアは転びかける。


「ユナ、味方じゃないのか!?」


「今は防御側」


「むむ、敵のユナは厄介だ!」


ユナは少しだけ口元を緩めた。


「褒め言葉」


一方、フィナは後ろで小型の杖を構えていた。


「そろそろ撃っていい?」


キリカが叫ぶ。


「まだ! 私がいる!」


「じゃあ、キリカちゃんの後ろだけ崩すね」


「後ろも駄目!」


フィナは少し考えた。


「じゃあ上?」


アリスが遠くから叫ぶ。


「上も確認してから!」


フィナは楽しそうに笑った。


「はぁい」


そして、杖を振る。


広範囲ではなく、細かい光の粒が訓練場の上に広がった。


光の粒は攻撃ではない。


目印。


防御側の動きを見やすくするための魔法。


ノアの膜。

ユナの糸。

メルの妨害魔法。

ルチアの魔法剣。


それぞれの魔力の流れが、光の粒に触れて薄く浮かび上がる。


ロイドが感心したように言った。


「可視化魔法ですか。良い判断です」


アリスも少し驚く。


「フィナ、ちゃんと支援した……」


フィナは笑顔で言う。


「私だって支援できるよぉ」


ルチアが打ち合いながら叫ぶ。


「普段からそうしてください!」


「お姉ちゃんが前にいる時は、どーんの方が早いもん」


「それをやめなさいと言っているのです!」


キリカは光で見えたユナの糸を確認し、罠札を追加で投げる。


「見えたならこっちのもの!」


ユナは即座に糸を引く。


罠札が起動する前に、メルの補助魔法がユナの糸へ薄い膜を張った。


罠の衝撃を逃がす。


キリカの罠が半分だけ発動し、砂が跳ねる。


ミアがその砂を利用して突っ込んだ。


「今だ!」


レナが観覧側で叫んだ。


「いいぞミア! 砂は使える!」


トーマは苦笑する。


「レナの影響か?」


「影響というより、昨日見て学んだのでしょう」


ロイドが記録しながら言う。


ソルは静かに頷いた。


「見たものを使う。悪くない」


ノアは迫るミアを見て、魔力膜を張る。


今度はただ止める膜ではない。


斜めに流す膜。


ミアの突進を横へ逸らそうとする。


しかし、ミアは途中で足を踏み替えた。


「レナみたいに止まる!」


完全には止まれない。


勢いが余って少し滑る。


それでも、ノアの膜の真正面からは外れた。


ミアは拳を突き出す。


ノアの横へ届く。


だが、その前にルチアが割り込んだ。


「ノアさんには触れさせません!」


魔法剣がミアの拳を受ける。


ミアは嬉しそうに笑う。


「おお! ルチア、かっこいいな!」


ルチアは少し顔を赤くする。


「当然ですわ!」


その隙にキリカがルチアの足元へ罠を起動する。


「足元!」


ルチアが反応する。


だが遅い。


足元の砂が沈み、姿勢が崩れる。


フィナが目を輝かせた。


「あ、そこ崩すんだ。じゃあ追撃」


「フィナ、待って!」


ルチアの叫びと同時に、フィナは杖を振った。


ただし、今度も直接攻撃ではない。


ルチアが崩れた足場の外側を、さらに広く崩す。


結果、キリカが踏み込もうとしていた場所も崩れた。


「うわっ!?」


キリカが体勢を崩す。


ルチアも崩れる。


二人同時に膝をついた。


フィナはにこにこしている。


「敵も味方も止まったね」


ルチアが顔を赤くして叫ぶ。


「私も止まっていますわ!」


「でもノアちゃんは守れたよ?」


ルチアは言葉に詰まる。


「そ、それは……そうですが!」


メルがふわっと笑う。


「フィナちゃん、容赦ないねぇ」


「メルちゃんも今、ユナちゃんの糸でキリカちゃんの罠を半分だけ潰してたよね?」


メルはにこにこする。


「うん。全部潰すと怒られそうだから半分」


キリカが叫ぶ。


「それで余計に変な発動したんだけど!」


「結果的に面白かったねぇ」


「面白くない!」


ユナが静かに言う。


「面白かった」


「ユナまで!?」


ミアはその混乱の中でも笑っていた。


「みんなすごいな!」


ノアも少し息を切らしながら、頷く。


「うん。すごい」


模擬戦は、決着という形にはならなかった。


ロイドが手を上げる。


「そこまで。第一訓練終了です」


七人がそれぞれ動きを止める。


息が上がっている者もいれば、まだ余裕そうな者もいる。


だが、全員の顔に何かしらの熱があった。


⸻


休憩時間。


リトルたちは水を飲みながら、自然と集まっていた。


ミアはキリカへ向かって言う。


「キリカの罠、面白かったぞ!」


「面白がるものじゃないわよ」


「でもすごかった!」


キリカは少し照れたように顔を逸らす。


「……まあ、あんたの突撃も、思ったより悪くなかった」


ミアはぱっと笑う。


「そうか!」


「ただし、罠は見なさい」


「見る!」


ユナが隣から言う。


「たぶん見ない」


「見るぞ!」


メルがふわっと笑う。


「じゃあ、私が罠に色をつけるねぇ」


キリカが慌てる。


「私の罠を見やすくしないで!」


「味方用だよぉ」


「敵にも見えるでしょ!」


ノアはルチアに向かって頭を下げた。


「さっき、守ってくれてありがとう」


ルチアは少しだけ慌てた。


「当然です。前衛として、後衛を守るのは役目ですから」


「私も、もっとちゃんと膜を張れるようになりたい」


「張れていましたわ。少し迷いはありましたが、流す膜の形はとても綺麗でした」


ノアは驚いたようにルチアを見る。


「本当?」


「はい。私が保証します」


フィナが隣から言う。


「ノアちゃんの膜、柔らかいよねぇ。強くしたらすごく広げられそう」


ノアは少しだけ不安そうにする。


「広げすぎるの、怖い」


フィナは首を傾げた。


「怖い?」


「うん。自分で止められなくなりそうで」


その言葉に、少し空気が静かになる。


トーマは離れた場所でそれを聞いていた。


ノアの魔力。


桁外れの力。


大会でも、その片鱗は見えていた。


だが、ノア自身はその力を怖がっている。


ルチアはしばらく考え、まっすぐ言った。


「では、私が前に立ちます」


ノアが目を瞬かせる。


「ルチアさんが?」


「はい。あなたが不安なら、私が前で境界になります。どこまで出してよいか、私を目印にしてください」


フィナがにこにこする。


「お姉ちゃん、かっこいい」


ルチアは少し顔を赤くする。


「茶化さないでください」


ノアは小さく笑った。


「ありがとう」


ルチアは胸を張る。


「当然ですわ」


トーマはその光景を見て、胸の奥が少し温かくなった。


ノアにも、名前が増えている。


彼女の世界も、少しずつ広がっている。


⸻


訓練場の端では、ヴァルキリーたちがそれぞれ意見を交わしていた。


ロイドは記録板にまとめながら言う。


「ミアとキリカは衝突しやすいですが、攻撃圧は高い。ユナとメルは支援同士として非常に相性が良い。ノアとルチアは防御軸として発展性があります」


アリスが頷く。


「フィナは制限をかけても危なっかしいけど、支援の才能はあるわ」


イリスが微笑む。


「相手も味方も含めて場を見ていましたね」


カノンが短く言う。


「見て、壊す」


リンが笑う。


「カノンさん、言い方が物騒ですねぇ」


「でも合ってる」


ガーネが頷く。


「合ってる」


レナは腕を組む。


「ミアは私に似ているな!」


ユナが遠くから聞いていたのか、すぐに言う。


「悪化しないようにする」


「ユナ!」


ソルはノアとルチアを見ていた。


「ノアは、誰かが前に立つと安定する」


トーマは隣で頷く。


「一人で全部抱えなくていいって分かれば、もっと使えるのかも」


ロイドがそれを聞いて、記録板に書き足す。


「重要な観察です」


トーマは少し驚く。


「俺のが?」


「はい。ノアの精神安定と魔力制御には、信頼できる前衛の存在が大きく影響します」


アリスが少しだけ目を細めた。


「ノアの魔力、やっぱり普通じゃないわよね」


テリア女王は静かにノアを見ていた。


その目には、研究者としての興味だけではない、何か複雑な色があった。


「普通ではないのう」


アリスが女王を見る。


「何か分かってるんですか?」


「まだ、断言はできぬ」


「女王様が断言できないって、よほどですね」


テリア女王は答えなかった。


ただ、ノアとトーマを交互に見た。


「似ておるようで、違う。違うようで、どこか繋がっておる」


「何がです?」


「まだ言葉にするには早い」


アリスは不満そうに眉を寄せた。


「また隠し事ですか」


テリア女王は苦笑する。


「隠しておるというより、まだ形になっておらぬだけじゃ」


その会話を、ロイドは少し離れた場所で聞いていた。


テリア女王の言葉。


ノアを見る目。


そして、自分を見る時の、時折の妙な沈黙。


ロイドは記録板に目を落とす。


そこには、リトルたちの訓練記録が並んでいる。


だが、彼女の指は一瞬止まった。


テリア女王の認識固定術式。


自分の記録術式。


似ている。


それは以前から感じていた。


だが、似ている理由を、ロイドはまだ知らない。


知らないままでいいのか。


その問いが、わずかに胸の奥をかすめた。


リンが横から覗き込む。


「ロイドさん、少し怖い顔をしていますねぇ」


ロイドは表情を戻す。


「観察中です」


「それだけですか?」


「はい」


リンはくすりと笑った。


「嘘が下手ですね」


ロイドは眼鏡を押し上げる。


「あなたほど上手くなる予定はありません」


「それは残念」


ロイドは記録板へ視線を戻した。


けれど、胸の奥に生まれた小さな違和感は、消えなかった。


⸻


午後の訓練では、組み合わせを変えた。


ノアとメル。

ミアとフィナ。

ユナとルチア。

キリカは単独で、罠配置役として全体へ介入する。


この組み合わせは、さらに混乱を生んだ。


ノアとメルは、互いに柔らかい支援を重ねた。


ノアの膜をメルが補強し、メルの回復魔法をノアの支える膜が安定させる。


二人の周囲だけ、空気がやけに穏やかだった。


ミアとフィナは危険だった。


「ミアちゃん、あそこに走ってくれる?」


「分かった!」


「そしたら後ろから魔法でどーんってするね」


「おお! 頼んだ!」


アリスが叫ぶ。


「フィナ! 出力!」


「下げてるよぉ!」


レナは目を輝かせる。


「いい連携だ!」


ロイドが即座に言う。


「危険な連携です」


ユナとルチアは、意外なほど堅実だった。


ユナの糸で敵の動きを制限し、ルチアが前で受ける。


ルチアは最初、ユナの静かすぎる指示に戸惑っていたが、すぐに慣れた。


「右」


「承知しましたわ!」


「下」


「そこですわね!」


「止める」


「合わせます!」


ルチアは誇らしげに言う。


「ユナさん、指示が短くて分かりやすいですわ」


ユナは頷く。


「ルチアさん、反応が早い」


「ふふ、当然です」


フィナが遠くから笑う。


「お姉ちゃん、褒められて嬉しそう」


「集中しなさい、フィナ!」


キリカは全体へ罠を仕掛けながら、文句を言い続けていた。


「ちょっと! ミア、そこ踏むな!」


「どこだ!?」


「そこ!」


「そこってどこだ!?」


「足元!」


「もう踏んだ!」


「だから言ったでしょ!」


メルがふわっと回復補助を飛ばす。


「大丈夫だよぉ。軽い罠だから」


キリカが怒鳴る。


「勝手に軽くしないで!」


「危ないからねぇ」


「訓練用だし!」


「でもミアちゃん全力で踏むから」


「それはそう!」


ミアは罠に片足を取られながら笑っていた。


「面白いな!」


キリカは頭を抱えた。


「なんで楽しそうなのよ!」


その様子を見て、トーマは笑っていた。


大会の直後だというのに、訓練場には明るい声がある。


昨日まで敵として戦っていた国の者たちが、今日は互いに教え、笑い、怒鳴り合っている。


名前を知ること。


一緒に動くこと。


それだけで、世界は少し変わる。


トーマは自分の胸に手を当てた。


ここにある名前が、昨日より増えている。


それは温かい。


けれど、同時に少し怖くもあった。


忘れたくないものが増えるということは、失うのが怖いものも増えるということだから。


「トーマ」


ソルが声をかけた。


「何だ?」


「暗い顔をしている」


「そうか?」


「そうだ」


ソルは訓練場を見る。


「名前が増えるのは、重い」


トーマは少し驚いた。


「ソルもそう思うのか」


「思う。覚えるほど、失うのが怖くなる」


ソルの視線は、リトルたちではなく、遠くにいるロイへ向いていた。


「だが、覚えなければ空っぽだ」


トーマは黙った。


ソルの言葉は短い。


でも、深かった。


覚えれば怖い。


覚えなければ空っぽ。


トーマは自分の手を見る。


「俺は、空っぽだったのかな」


ソルはすぐには答えなかった。


そして、静かに言った。


「今は違う」


トーマは顔を上げる。


ソルはそれ以上言わない。


ただ訓練場を見ていた。


トーマは小さく笑った。


「ありがとう」


「礼を言われることではない」


「でも、言いたかった」


ソルは少しだけ目を逸らした。


「そうか」


その横顔は、少しだけ照れているようにも見えた。


⸻


夕方。


合同訓練が終わる頃には、リトルヴァルキリーたちは皆、砂まみれになっていた。


ミアは笑っている。


キリカは文句を言いながらも満足そうだ。


メルは相変わらずふわふわしているが、目は少し楽しげだった。


ルチアは髪を整えながらも、誇らしげに立っている。


フィナは「もう一回やりたい」と言い、アリスに止められている。


ユナは静かに記録をまとめ、ノアは皆の名前を小さく呟いていた。


「ミア。ユナ。キリカ。メル。ルチア。フィナ」


トーマはそれを聞いて、微笑む。


「覚えたな」


ノアは頷く。


「うん。昨日より、ちゃんと覚えた」


「ちゃんと?」


「名前だけじゃなくて、どういう子かも」


トーマは少しだけ考える。


名前だけでは足りない。


そこに声があり、動きがあり、感情がある。


今日、ノアはそれを覚えた。


自分もそうだ。


キリカは怒りながら罠を置く。

メルはふわふわしながら鋭く補助する。

ルチアは誇り高く前に立つ。

フィナは笑いながら容赦なく場を崩す。


名前に、形がついた。


トーマは静かに言った。


「俺も、書かなきゃな」


ノアが頷く。


「記録帳?」


「ああ」


「今日のことも?」


「今日のことも」


ノアは少し嬉しそうに笑った。


「じゃあ、私も手伝う」


「頼む」


その時、ふいに風が吹いた。


訓練場の端で、砂が小さく舞う。


トーマは何気なくそちらを見た。


黒いものが、砂の上を転がった気がした。


羽根。


黒い羽根。


トーマの胸が冷える。


「……」


一歩、そちらへ向かおうとする。


だが、次の瞬間には何もなかった。


ただ砂があり、夕暮れの影が伸びているだけ。


ノアが気づいて声をかける。


「トーマ?」


「……いや」


トーマはゆっくり首を振った。


「何でもない」


そう言ったが、手は少し震えていた。


ソルが遠くからそれを見ていた。


ロイドも、記録板に視線を落としながら、ほんのわずかに眉を動かす。


テリア女王もまた、訓練場の端を見ていた。


誰も声には出さない。


だが、明るい訓練の終わりに、ほんの一瞬だけ、冷たい影が差した。


名前が増えた。


記録が増えた。


だからこそ。


それを見つける何かも、少しずつ近づいているのかもしれない。


トーマは自分の胸に手を当てる。


「トーマ」


小さく名を呼ぶ。


ノアが隣で続けた。


「ノア」


トーマは彼女を見る。


ノアは不安そうではあったが、逃げてはいなかった。


トーマは小さく頷く。


「書こう。忘れないうちに」


「うん」


二人は並んで歩き出した。


訓練場には、まだリトルたちの声が響いている。


笑い声。

言い合い。

次は負けないという声。

また組もうという声。


その全部が、夕暮れの中でゆっくりと薄れていく。


けれど、トーマの中には残っていた。


名前として。


記録として。


今、刻み始めたものとして。

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