4話
「お疲れ様~!!」
街の酒場で、冒険者一行が乾杯を交わす。
「いや~ギッシュ君!今回もお手柄ですなぁ!」
「そうそう。天才ゴーレム技師のリッシュ君が居れば、討伐指定の魔物だってちょちょいのチョイよ!」
他のメンバーから褒められる、ギッシュ・アンバーは、紛れもない天才だった。
鉄や土の塊であるゴーレムに命令を与える『コア』。コアの製作には特殊な資格が必要で、世界でも指折りの魔術師しか取得できない・・・そんな資格を彼は弱冠15歳にして取得した。
しかし、彼の才能はそれだけにはとどまらなかった。
ギッシュの血継魔力は、無機物を変形させることが出来る。この力をもってすれば、完全に彼一人でゴーレムを作り、動かすことが出来た。当時の彼に、怖いものなどなかった。
今回も大型の魔物の討伐に成功、山のように素材を持ち帰ってきた帰りだった。
「そんなこと・・・それに、今回の探索の成功は皆のおかげでもあるし。」
「な~に言ってんだよ!ギッシュ君が一人で全部やっつけちまうんだから。俺らは見てただけ!」
「僕は・・・皆には安全にいてほしいだけだから・・・」
祝勝会は、周りの冒険者を巻き込んで大宴会となっていった。
「いや~ぶっちゃけさぁ・・・」
ギッシュがトイレから戻ろうとしたその時、それは聞こえてきた。
一番親しくしている、メンバーの声だった。
「俺らのいる意味って何なんだろうな。」
自嘲気味に話す彼の声が耳に突き刺さる。
「あんなバケモノと一緒に居たら、自分が無能に思えて仕方ないぜ。最近は冒険が楽しくないよ。」
「そんな・・・」
ギッシュは小さくつぶやいた。
完璧であることは、仲間の為ではなかった。彼の前に現れた孤独は、今まで見たどんな魔物よりも恐ろしく立ちはだかった。
その後は、パーティーを辞め、名前を変え、血継魔力を封印した。そうしてのらりくらりしている間にユリウスのもとへ流れ着いた。
ここは居心地がいい。誰もお互いに踏み込まない。
レンガが削り取られる音でリッシュは我に返った。
「まずい・・・手当たり次第に破壊を続けてるぞ。ここが見つかるのも・・・」
メスティーが焦った様子で話す。
緊急回避した壁の中で、ユリウスたち四人はドラゴンをやり過ごす予定だった。
完全に目をつけられた。探されている。
鋭い爪で、牙で、レンガの壁を破壊して回っているようだった。
ユリウスも珍しく焦った様子で考え込んでいる。
リッシュは、深刻なみんなの様子を尻目にレンガの壁に手を当てた。変形できる。今回の探索では前衛に徹してきた。魔力は全身に満ちている。今ならあのドラゴンより大きいゴーレムだって作り出せるだろう。
だがもし、その力を見せてしまえば。戦いが終わった後ユリウスたちはどんな目で自分を見るだろうか。
あの時みたいに、自分のことをバケモノとささやき、追い出されてしまうのではないか。
助けたい。でも、失いたくない。
「みんな、大丈夫だ。」
堂々巡りの思考を、ユリウスの声が遮った。
「俺が、奴をひきつけるよ。だから、大丈夫。みんなは助かる。」
「は・・・ユリウス、何言って・・・」
「お前らは俺が助ける。リーダーだから。みんなはフレイムドラゴンが成体であることを報告してくれ。すぐに討伐隊が組まれるはずだ。」
ユリウスの目は真剣そのものだった。
リッシュは体が熱くなるのを感じた。ユリウスは仲間のために命を懸ける覚悟を見せているのに、僕は。
ユリウスとメスティーが話し合っている間、レンガのかけらに文字を掘っていく。魔力を込めながらレンガをコアに作り替えていく。
出来は悪いが、これなら十分に動くだろう。
「皆、僕が行くよ。」
「リッシュまで!い、いやだよ、誰かを失うなんて。」
「大丈夫、誰も死なない。僕が守るから。」
即席のコアを握りしめ壁に手を当てる。レンガはみるみるうちに変形し、閉ざされていた壁には大きな穴が開いた。
獲物を見つけたフレイムドラゴンは雄叫びをあげる。
リッシュはゴーレムコアを宙に投げ、地面に手を突く。すると、壁が、床が隆起し、コアの周りを取り囲むように形を成していく。みるみるうちに、5メートル程のレンガの巨人が出来上がった。
喉を真っ赤に光らせたドラゴンが大きく口を開ける。その中が太陽のような閃光に包まれた。
「皆!こっちへ!」
リッシュが叫び、それからブレスが通路を覆い尽くす。
先ほどまで隠れていた横穴にも流れ込み、溶けたレンガが針状になってしたたり落ちる。
一行は、ゴーレムに抱きかかえられていた。
空気は確かに耐えがたいほど暑いが、傷一つない。
ユリウスたちには熱は届かなかったものの、ゴーレムの背中は溶け、波打った模様が出来上がっていた。立ち上がる衝撃でボロボロと崩れていく。
「くっ・・・やはり温度には耐えられないか・・・」
ドラゴンに殴りかかるが、耐火温度を超えぐずぐずになったレンガでは歯が立たない。
「絶対・・・みんなを守るんだ!ゴーレム!」
「なあ、メスティー。お前の魔力で、こいつ助けられないか。」
ユリウスが思いついたように声をかける。
「俺の?だめだよ、ゴーレムを溶かすだけじゃないか。」
メスティーは汗だくになりながら反論を叫ぶ。
「お前の魔法が溶かすだけなら、どうやってあの横穴をふさいだんだ?」
「・・・え?」
メスティーの頭の中に無音が訪れる。どうして?溶かしたものを治すことが出来る?
「それは・・・咄嗟にというか、無意識にというか・・・!」
「俺が思うに、お前の魔力は物を溶かしやすくする、それだけじゃない。きっと、溶けやすさを操作できる力なんだ。だから・・・」
「まずい!またブレスが来るぞ!」
ドラゴンと激しい殴り合いをしていたゴーレムはもうボロボロだ。
喉の鱗が白色に光る。次のブレスが最大火力である証だ。
床に手を当て、リッシュは床からゴーレムの補修を行うが、間に合っていないのは明白だ。溶かされ、もろくなった体が削り取られているのだろう。
一瞬、回廊全体が白く光る。直後、轟音とともに周囲が熱で包まれる。息を止めていても肺が焼けてしまうような熱が全身を包み、汗が身体中から吹き出す。
それでも、守るために、修復を止めてはならない。リッシュに意識はほとんど残っていない。
メスティーは暑さで朦朧としながら手袋を外し、ゴーレムに手を当てる。肉が焼ける音がする。ゴーレムはもう全身に高熱が伝わっていた。
「もう、大丈夫。」
魔力を込めた瞬間、ブレスの流れが変わるのがわかった。溶けることのなくなったゴーレムはリッシュの修復により、先ほどまでの大きさを取り戻していく。
新たなレンガが組み込まれていくたび、そのレンガを強化していく。
永遠に感じる数秒の後、ブレスが止んだ。周囲は床も壁も、天井までも飴細工のように溶け、いびつな形で固まってジュウジュウと音を立てている。ゴーレムを除いて。
焦げ一つついていないレンガの巨人はゆっくり振り返りながら立ち上がる。
ドラゴンにとっても初めての出来事なのだろう。驚きからか、恐怖からか、大きな咆哮をあげる。
が、その鳴き声は途中で途切れることになる。
ゴーレムがその巨大な拳で、ドラゴンの顎を真下からカチあげた。
振りぬいた拳は天井にめり込み、ドラゴンは回廊の奥へ轟音を立てて吹き飛ばされ、やがて見えなくなった。
「ハァ・・・ハァ・・・いてて・・・」
メスティーの手のひらからは血が溢れ出している。高温のレンガに素手で触れたことにより、皮膚が貼りつき、はがれてしまったのだろう。
「ひどい火傷・・・待って、今から治療するから。」
ビスタシオンがメスティーの治療をしている横で、ユリウスはリッシュに話しかける。
「リッシュ・・・ありがとな。」
「僕のゴーレムは完璧じゃなかった・・・」
呆然と座り込んだままリッシュが呟く。
「ああ、だから、もう一人で抱え込むなよ。」
ユリウスはメスティーの方を向く。
「誰だって、完璧じゃない。だから、仲間が必要なんだ。お互いにね。」
「そうかも・・・知れない。」
リッシュはそう呟くと立ち上がり、メスティーの方へ歩いていく。
「ナイス、メスティー。助かったよ。」
「あっ・・・うん!リッシュ!ちょっと待って、いま手袋を・・・」
投げ捨てた手袋を探しだしたメスティーの手を強引に掴む。
「いいよ、手袋なしで。」
「・・・うん!」
回廊の熱はゆっくりと冷めていく。リッシュの心に、いつかの孤独はもういなかった。




