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Philistia  作者: 桜田文也
第一章
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1-11 警鐘

「拾ったんだもん。そんなの知らないわよ。」

 ミランダからの回答は期待外れであり、そして予想通りでもあった。

「ただ、鉄じゃないのは確かでしょうね。魔力の通りが良いし、何より重たいから。」

 そう言って目の前に出された料理を口に運ぶミランダ。直後に、あ、おいしいわね。と呟いた。

 魔石とファンナの槍(ロンゴミアント)に何か共通点は無いかと、古代遺跡でこの槍を発見したと言うミランダに聞き取りを行っているのだが、やはり有益な情報は得られそうにない。

 ヴァン、ラディアス、ファンナ、エリオにマリットを加えた五人は、ミランダの自宅で会食を行っていた。因みに料理はファンナが担当した。

「それで、わざわざこのメンツでそんなこと聞きに来るなんて、何か特別な事情でもあるんでしょ?」

「はい、実は……。」

 ファンナに続いて皆が代わる代わる説明する。新種の敵、その敵の攻撃、体内に内包されていたであろう魔石、魔石の特性、魔石と槍の材質……。

 出された料理を次々に口に運びながら話を聞いていたミランダだが、何か思い立ったのか、ふと手を止めた。

「拾ったときから鉄じゃないって思ってたけど、いい重さだったからそのまま使ってたのよね。」

 得体の知れない材質の武器を『いい重さ』という理由ひとつで振るう胆力に半ば呆れてしまう。

「ザックスには聞いてみたの?彼の剣も同じところで見つけたのよ。」

 槍よりちょっと軽かったけど。と付け加えながら、また料理を口に運ぶ。もう皿には殆ど料理は残されていなかった。味覚は正常なのよね、とファンナはザックスの食生活向上についての対策に思いを巡らせる。

「当時は、伝説の霊銀じゃないかなんて話してたんだけどねー。」

「霊銀!?」

 この言葉に大きく反応したのはヴァンだった。

 霊銀は古エルフが好んで使用したと言われる金属だ。鉄よりも頑強で、魔力をよく通し、そして重たい。戦士ならば霊銀製の武器、鍛冶師ならば霊銀そのものに憧れるのは常だ。ただし、それが語られるのは伝説の中だけでの話だ。

「ありえなくないでしょ?」

「やめてよ。そんなの証明できないじゃない。」

 マリットが不満気な声を上げた。

「だって誰も本物を見たことが無いのよ?」



「ザックスさんの剣?」

 翌日、ヴァンとエリオはヴァンスにある鍛冶工房を訪れていた。

「そりゃ見たことあるけどよ……。」

 ザックスが相変わらず不在で捕まらなかったため、彼が懇意にしている鍛冶工房に聞き取りに来たわけだ。

()()に手入れなんているのか?とんでもねぇ代物だぞ?」

「うーん、親父さんがそう言うのなら、そういうモノなのかな。」

「いや、アンタが見てもそういうモノだと思ったんじゃないのか?」

「まあ、確かに。」

「一度なんて、岩に叩きつけたから様子を見てくれなんて持ってきたけどよ。歪みどころか刃こぼれ一つしてないんだよ。」

「それは初耳ですね。」

「アンタが弟子入りする前じゃないか?それでデュランダルなんて大層な名前まで付けちまって。」

 多分名付けたのはミランダだろう。伝説に語られる岩裂きの剣の名前だ。

「ちょっといいっすか?」

 ヴァンと店主の会話を聞いていたエリオが口をはさんだ。

「ヴァンさんって、剣の目利きも?」

「ああ、実家が鍛冶屋だったんだ。」

「おいおい、鍛冶屋でもただの鍛冶屋じゃない。かの有名な鍛冶屋『炎の炉』だぞ?」

「えっ、マジっすか?……って俺その鍛冶屋知らないんすけど。」

「あー、まあ、もう無いからな。残念なことだ。武器は滅多に打たねぇが、ただの農具や包丁ですら、今じゃ高値で取引されてる。プレミアってやつだ。」

「ははは。お世辞でも嬉しいですね。」

「世辞なもんか。商売敵としては勘弁願いたいが、アンタには今すぐにでもうちに来てほしいぐらいだぜ。」

「そんな有名な鍛冶屋なのに潰れちゃったんすか?」

「まあ、そうだな。親父が死んで、俺はギルドに入った。」

「あ、すみません……。」

 また自分の知らないヴァンの一面を知った。

「っと、話が逸れちまったな。そんなわけで、あの剣を実質的に触ったことは無いんだ。持ってみた限りでは、見た目より重たかったけどな。」

 やはり普通の剣よりも重たいようだ。であれば、魔石やロンゴミアントと同じ材質で作られているのだろうか?

 いずれにせよ、ザックスにも剣を見せてもらう事になるだろう。

 それよりも

「せっかくだから色々見ていくか。」


「これはアネラス。ショートソードの一種だな。使い勝手が良いから、とりあえず持っておいても良いだろう。」

「こっちはサーベル。シンクレアっていう種類のものだな。見ての通り拳護に工夫があるんだ。アルトリアのシンクレア隊長が考案したとの事だ。」

「バスタードソードだな。片手でも両手でも扱える大きさだが、それを中途半端と見るか使い勝手が良いと見るかで評価が分かれる。俺は便利だから好きだけどな。」

「タバール。木こりの手斧を戦闘用に改良したものだ。刃が大きいから投げてもだいたい刺さる。」

 こんなに饒舌なヴァンを見たのは初めてだ。とエリオは思う。

「お、これなんかエリオに良いかもな。フラメアと言うタイプの槍だ。刺突に特化してるから、ただ刺すだけで相応の威力が出るし、盾と同時にも持てる。」

 ヴァンが壁に立てかけてあった長槍を手にし、エリオに手渡した。

 槍を手に持つ。意外としっくり来る。やはり自分には槍の方が合っているのだろうか。この期に及んで剣に拘るのは、ただの愚かな行為なのだろうか?

「ヴァンさん、さすがに詳しいっすね。やっぱり色んな武器を試してみたんですか?」

 手渡された槍の穂先を眺めながら、呟くようにヴァンに尋ねる。

「いや、親父から『自分が作る武器ぐらい使えるようになっておけ』って(しご)かれただけだ。」

「え、そうなんですか?」

 意外な答えが返ってきて、思わずヴァンの顔を見る。

 いつか話していた師匠と言うのは、もしかして彼の父親なのだろうか。だとすれば、その人物は鍛冶屋としても戦士としても一流だったということになるだろう。

 この数か月で痛感した。自分はアカデミー上位で卒業したと浮かれていたが、そんなものは殆ど意味を成さないのだと。

 自分が知るこの数人に追いつくだけで、一体どれぐらいの努力と時間が必要なのだろうか?そして、彼等に追いつき、追い越したところで、更にその上に居る人たちに追いつくにはどれぐらいかかるのだろう?

 悔しいが、自分の知る三人どころか、ザックスさんですら『世界最強』ではないだろう。

 世界最強?そんなものを目指していたっけ?勿論力があれば、できることは増えるだろう。でもそんなものが目的ではなかったはずだ。自分は何をしている?

「ヴァンさんは、ギルドでの目標とかってあるんですか?」

 ぐるぐると回る思考の中、ふと口にした疑問。そう言えば聞いたことが無かった。

「最初は褒められるような理由じゃなかったさ。でも、今は自分の手が届く範囲の人ぐらいは守りたいと思ってる。」

「自分の手が届く範囲……。」

 それは誰だろう?自分に良くしてくれる人たちは、皆自分よりも強くて頼りになる。自分なんかが守るなんて口が裂けても言えない人たちだ。

 もしかすると、これから守りたいと思える人が出てくるのだろうか?

 とりあえず今のところは……。そうだ、姉ちゃんに幸せになってほしい。今まで散々苦労させてきた。

 両親はとっくに死んでて、俺にはその記憶も殆どない。姉ちゃんは生活のためにギルドの入った。幸か不幸か才能に恵まれ、稼ぎも良い。俺が守るなんておこがましいだろう。でも、せめて将来は普通に結婚して、子どもを作って……。

「ヴァンさん、俺頑張ります。」

「え?ああ。」

 手渡された槍の穂先を見上げながら、静かな決意表明をした。


「……何か聞こえないか?」

 斧を持ったままヴァンが外の方を見る。

 “カンカンカンカンカンカン……。“

 鐘の音?

「これは……、警鐘!?」

 聞き覚えの無い鐘の音。

「途切れの無い短音のパターン。……まさか襲撃!?」

 ヴァンが叫ぶ。だが、まさか世界最強と言われたこの城塞都市で?

「エリオ、行くぞ!」

「はい!」

「これも持っていけ!」

 店主がヴァンに先ほどの斧を手渡し、エリオが手に持ったままの槍を指さす。ありがたい。街中なので、最低限の武装しか持ってきていなかった。

「恩に着ます!」

 その言葉を残し、ヴァンとエリオは鍛冶屋を飛び出した。

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