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第二十九話 【ツンドララビットの毛皮】

 俺たちは『猫耳(テト)族のまかない』を訪れていた。

 今後の方針を整理するため、値が張るが個室を利用することに。


 食卓には様々な料理が並べられ、アンジュはスープを音を立てずに堪能している。


 以前から思っていたことだが、アンジュの食事姿はどことなく品を感じる。

 アンジュは辺境の村の出と言ってはいたが、この姿だけを見ると、とてもそうとは思えない。


 そう、それはまるで高位の貴族のような……。


「このスープ、とっても美味しいですね! さすが『猫耳(テト)族のまかない』です!!」

 そんな俺の考えを吹き飛ばすようにアンジュが騒ぎ立てる。


 ――そんなわけない……か。


 ラザリーやエミリアを始めとした、グランフォリア王国の貴族たちと接する機会はままあった。

 しかし、こんなにも思ったことをそのまま口にする貴族は見たことがない。


 貴族は腹の探り合い、化かし合いが上等な世界だ。

 相手よりも、より優位に立つために。


 だが、こんな素直なアンジュでは、貴族なんてものは到底務まらない。務まるはずがないのだ。


 そんなことを考えていると、

「……先生っ! 聞いてますか……って! なんで笑ってるんですか??」

 アンジュが首を傾げながら俺に問いかけた。


「笑っていた? 俺が??」

 とっさに顔を手で押さえ、そう答える。

 全くそんなつもりはなかったのだが……。


「はい! ニヤッとしてました。ニヤッと!」

 アンジュはクスクスと笑うようにそう話す。


 そしてこうも続ける。

「先生が笑っているのなんて初めて見たかもしれません。貴重な一面を見れてよかったです!」


 元からあまり笑う方ではなかったが……アンジュの言葉が本当だとすれば、おそらくは王城を追い出されたことが原因なのだろう。


 俺の思っていた以上に、俺は弱い。

 助けたと思っていたアンジュに、実は助けられていたのかもしれないな……。


 そして俺はこう答える。

「ああ。ありがとう」


 アンジュにとってはとんちんかんな返答だ。

 だがアンジュは満面の笑みでこう応えた。

「はい! どういたしまして!」



 そうして食事を終えたころ、俺は本題を切り出した。

「ミノタウロスもリカルド国王の手によるものだとすれば、何かわかることがあるかもしれない」


「ということは、今度は『グラウスの火釜』を目指すのですか??」


「ああ、そうだ。だが、『グラウスの火釜』は少し特殊な迷宮(ダンジョン)でな……立ち入るには耐炎装備が必要になる」

 あいにく、俺の手持ちは自分の分だけである。

 今までずっと一人で活動してきたから問題なかったが、今回ばかりはそうもいかない。


 ミノタウロスと再びあいまみえるならば、アンジュの魔法の有無は大きい。

 直接的なダメージは期待できなくとも、支援や撹乱にはかなりの効果が期待できる。


 それにまた置いていくと、うるさそうだしな……。


「――耐炎装備……ですか?」

 アンジュはそんな考えなどつゆしらず、無邪気に首を傾げる。


「『グラウスの火釜』は火山の中にある迷宮(ダンジョン)で、そこは灼熱の世界。耐炎装備なしに挑むのは命を捨てるようなものなんだ」

 出現する魔物(モンスター)こそ、そこまで強力ではないが、そこら中に溶岩(マグマ)の川が流れているような危険な迷宮(ダンジョン)だ。


「なるほど……それで、その耐炎装備は先生の【宝貴創造(クリエイトコッファー)】で生成出来るのですか?」


「生成は出来る……だが、今ある素材では作れない。耐炎装備には特殊な素材が必要になる。ここから一月ほどもかかる迷宮(ダンジョン)『ルクリア氷河』にのみ現れる魔物(モンスター)、ツンドララビットの毛皮が」


「――ツンドララビット……ホワイトラビットの親戚ですか?」


「ホワイトラビットと一緒にすると痛い目に遭うぞ。見た目こそホワイトラビットとそう変わらないが、強さは段違いだ。ツンドララビットはBランク。リザードマンよりはるかに強い」

 愛嬌のある見た目とは裏腹に、驚異的な戦闘能力を備えたツンドララビットは、『死の使者』として恐れられている。


「ほえー……って一月もかかったら間に合わないです!!」

 アンジュは突然、素っ頓狂な声をあげた。


 そう、今回の問題はツンドララビットの強さではなく時間なのだ。

「ああ、そうだ。『グラウスの火釜』の麓の街にならば耐炎装備も販売しているだろう。しかし、その街へと最短距離を行くならば『グラウスの火釜』を通らざるを得ない。かと言って迂回するとなるとこれまた時間がかかりすぎる」


 良策がないということがアンジュにも理解できたようで、

「うーん……」

 アンジュはそう言うと、考え込んだ顔で一点を見つめ始めた。


 その時、個室の扉の前から、

「先日のお礼を申し上げたく、お食事中に失礼とは存じますが、ご挨拶に伺いましたにゃ」

 女性の声が聞こえてきた。


 ――先日のお礼? 

 ああ、あの猫耳(テト)族か。


「どうぞ、入ってくれ」

 俺は女性を招き入れる。


「失礼いたしますにゃ」

 その言葉ののち、扉が開かれた。

 するとそこには、チンピラ冒険者にイチャモンわつけられていた猫耳(テト)族の女性が姿があった。


 そして、女性は頭を深々と下げ、

「私はニーアと申しますにゃ。(くだん)の冒険者たちはあれ以来、姿を見せていませんにゃ。お二人のおかげですにゃ。改めて感謝を申し上げますにゃ」


 フランクなミーアとは違い、丁寧で腰の低い話し方をする女性だった。


 そして女性は頭を上げると、

「アンジュさま……何か浮かない顔をされていますが……お食事がお口に合いませんでしたかにゃ?」

 アンジュが一点を見つめたままであることに気付いたようだ。


 アンジュは遠く離れていた意識をとっさに取り戻したように、少し慌てながらこう答えた。

「あ、いえ! とっても美味しいです! ただ、少し考えごとをしていまして」


「考えごと……ですかにゃ?」

 ニーアは首を傾げながらそうたずねる。


「はい! 実はいま耐炎装備が必要なのですが、手に入れる手段が何かないか、と」


「耐炎装備…………私の記憶が間違いでなければ、元の素材ならこの村にもあるかもしれないですにゃ」


「えっ! 本当ですか!」

 アンジュは食卓から身を乗り出すほどの勢いでニーアの話に食いついた。


「あっ、でもこの村には装備の加工所がないので、素材だけあってもダメですにゃ……期待させてしまって申し訳ありませんにゃ」

 シュンと肩を落としたように小さくなるニーア。


 だが、素材さえあれば問題ない。

 俺はこう答える。

「いや、加工は問題ない。よければこの村のどこに素材があるのか教えてもらえないか?」


「それでしたら……村長が毛皮を持っていると聞いたことがありますにゃ。その昔は腕のたつ冒険者だったとか。そのせいもあってか優秀な冒険者には協力的だと聞きますにゃ。ヒュージさまとアンジュさまであれば、村長のお眼鏡にかなうはずですにゃ」

 ニーアは笑顔を取り戻し、こう教えてくれた。


「村長……か。情報を感謝する。話を聞くだけでも聞いてみるとしよう」


「……ただ、とっても()のある方なので、そこだけは気をつけて欲しいですにゃ」

 ニーアは含みを持たせてそう言った。


 ――こうして俺たちはミズイガルム村の村長の下を訪ねることになった。

 しかし、そこで俺たちはニーアの言葉の意味を嫌と言うほど知ることになるのだった。

数多くある小説の中から、こちらの小説を選んでいただきありがとうございます。


また、話の続きが気になる! 面白かった! など、少しでも読者様の心を揺さぶることが出来ましたならば、ブックマークや、広告下の【☆☆☆☆☆】より評価していただけましたら、大変大きな励みとなります。


なにとぞ、なにとぞ宜しくお願いします!

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