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努力戦士 〜彼女の為に俺は身一つで最強へと辿り着く〜  作者: ペペロンp
3章 青年期

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45 捜索するエリナ

 今回はエリナ視点です。

 朝日が昇ると同時に目が覚める。


 机から体を起こしてまだ完全に覚醒していない眼をこする、とギリギリのバランスを保っていたであろう書類がその卓上から崩れ落ちる。既に目を通した種類だがこれは数少ない情報をまとめた物である。


 書類を拾おうと椅子から立ち上がろうとした時、いつの間にか肩にかけられていた毛布も滑り落ちる。


 きっと家の誰かがいつの間にか眠ってしまった私にかけてくれたのだろう。


 毛布、書類の順に拾い上げ整えた形できちんと机に並べられる。


 その時、部屋の扉が叩かれ名を呼ぶ声がかけられた。


 「起きてる? 準備したら今日も行くわよ」

 「うん、分かってる!」


 何を、誰と、どこで。そういった細かい名詞が語られる事は無い。なぜならここ一か月の間ほぼ毎日のように行われている事。もう既に習慣となりつつある事に細かい事を伝える必要はないのだ。


 扉が開かれ一人の少女が入って来る、その自信に溢れ真っすぐな人柄はあらゆる人を惹き付ける。斯く言う私もその一人だろう。この四年半ずっと彼女には助けられた。


 「エリナ、今日こそ”彼”の手がかりがつかめるといいわね」

 「うん、彼は…ススム君はきっと近くにいる」


            〇


 私の従妹であるリナリーが少し前を歩きながら商業街にあるギルドまで歩いていく。本来、貴族の娘が護衛を連れずに町を歩く事は少ない。だが私達にはその護衛は必要無い。なにせ『勇者』と『魔導士』なのだ。


 「見ろよ、フォードの娘さん達だ」

 「噂どうり二人とも美しいな」

 「美貌だけじゃなくて実力もあるなんてな」


 街を歩くといつも人の目が集まって来る。未だに人の視線というのには慣れず嫌悪とまではいかないがあまりいい気持ちはしない。


 「エリナ、いい加減慣れなさい。これも貴族に生まれた者の宿命みたいな物よ」

 

 民衆の視線に反応しているのに気が付いたのかリナリーがこちらを向きながら喋っていた。


 「私はリナリーみたく大胆に生きてないんだよ」

 「あら、それはこのリナリー・フォードががさつとでも言いたいのかしら」


 フフ、と笑いながら嫌味っぽく返すリナリー。心の中で「実際にがさつなんだけどね」とエリナも言い返す。この商業街は朝からひとで賑わい露店で人を呼ぶ声、値段交渉で店主との口論、荷馬車の車輪と蹄鉄の音、そういった音は騒音と呼ばれるが不思議と悪い気はしない。それはこの場の生命力そのものにも感じられる。


 「それにしてもススムはどこにいるのかしら」


 ふと思い出したようにリナリーが私達が探しているススム君の所在の疑問を問う。


 「やっぱりこの王都にいる可能性は大きいと思う」


 昨日徹夜で目を通した書類からの情報を伝える。この王都のありとあらゆる情報屋から仕入れた情報だがどうやら『彼女』は秘密裏に誰かと会っていると報告書にはあった。


 そう、私の幼馴染にして大切な人。ススム君は今王都にいる可能性が高い。


 あの日、王城の披露宴から帰って来た私達は叔父のフレイドから信じられない事を聞いた。


 『ススムに会った』


 それと同時に告げられた事も私の心を揺らした。


 『ススムの保護者であるマーサさんがつい先日亡くなられた』


 彼が最初に目撃されたのはなんと私とススム君の故郷のタタカ村だそうだ。マーサさんの容態が良くないとはお父さんから聞かされていたから一刻も早く彼を探し出して連れて行こうと思っていたのに…まるでどこかから全て見ているように彼はマーサさんの死に際に現れて看取って行ったそうだ。


 ススム君とマーサさん、その二人が一緒にいることはもう無いのだと思うと胸が苦しくなる。彼はマーサさんの死に落ちこんでいないだろうかと。


 でもその後、お父さんとお母さんは彼を正式なフォードの庇護下に入れるための提案をしたが、それを拒否したススム君は次に王都のフォード邸に現れる。


 伯父様からその時の内容は教えてもらった。


 フォードの剣を返しに来た彼は私達に会うつもりは無いと言ったそうだ。そしてあの言葉を残して行った。


 『”大丈夫”です』


 昔、彼がそう言って私の前から去って行った事が今でも頭から離れない。あの日、私は彼に言ってはいけない事を言ってしまった。その時の彼の顔が脳裏にこびりついて離れない。あの日、あの瞬間から彼の何かが変わってしまったのではないかと……


 『大丈夫』。彼は心配性の私を落ち着かせるように言っていた。でも今思えばあれは全部私にではなく自分に言い聞かせていたのではないかと今になって考える。


 『大丈夫、まだいける』、『大丈夫、まだ頑張れる』、『大丈夫、まだあきらめてない』。


 彼の『大丈夫』はまだ続いているのだ。今もどこかであの日、あの時に私が言った事を『頑張って』いる。


 彼が、ススム君が自分の知っているススム君ではなくなりつつあるのではないかと思ってしまう。彼の中にまだフォードはあるのか、あのタタカ村での日々はあるのか、いつかの約束も残っているのか、まだ……私が残っているだろうか。


 彼の事を思うと更に胸が引き裂かれるように苦しい……。本当なら生きていてくれただけでも嬉しいはずなのに、いつも見えていた彼の背中は今もうその影すら見ることはできない。


 「きっとススムは”あの事件”を一人で片付けるつもりなのね」


 リナリーが言った事件とは『王立騎士学校殺人事件』。きっとリナリーはあの事件について重く責任を感じているのだろう。フォードとしての責任感は私よりも重い。


 「表向きにはフォードは蚊帳の外だから手出しできなくて歯がゆいわね」

 「でもリナリーのことだから何もしてないわけじゃないんでしょ?」

 「当り前じゃない! 今も”もしも”の時の為に学院とパイプは作ってるんだから」


 リナリーは私と歳は変わらないのにもう既に大人の貴族のような振る舞いと行動、流石は伯父様の娘と言ったところだろう。周りの貴族や学院の教員からはフォードの将来は安泰だといわれるほどだ。


 「でも私の方は一つ分からない事があるわ」

 「わからない事?」


 私のススム君の情報集めは王都内担当、リナリーは外を担当していて王都で彼が目撃されるまでの足取りを追っている。

 

 「実はススム、タタカ村に現れた”翌日”に王都に来てるのよ」

 「えっ!? だってタタカ村から王都までどれだけ急いでも二日は掛かるよ!? 何かの間違いじゃない?」

 「えぇ、私もそう思っているんだけど……どう調べてもお父様が連絡を受けた翌日なのよ」


 まるで”超高速”の移動手段でもあるかのような速さ。でも一切の力を持たない彼、レベルすら上がらないのに、何かカラクリがあるのだろうか。


 「とにかく今は考えるより本人を探し出して直接聞いた方が早いわね」

 「そ、そうだね」


 とりあえずの疑問を頭から拭い去り私とリナリーはギルドへと到着しその中へと入っていく。ギルドの中はここ数年で大きく変わってしまっていて平民用のギルドでは前の宴会のような大騒ぎが嘘のように静寂が流れている。


 そんな中、この王都で唯一ススム君と接触する可能性のある人物、受付嬢でエルフのニアさん。


 彼女のカウンターの前へと二人で赴く。カウンターへ歩いて行く途中でニアさんはこちらを視界に入れ確認すると深々とお辞儀をする。


 「ようこそ。エリナ様、リナリー様」

 「こんにちわ、ニアさん」

 「ニアさん、ごきげんよう」


 ここ一か月毎日のように顔を合わせていればこちらの要件など決まっていた。


 「それで? 話してくださる気にはなりましたか?」


 リナリーが高圧的に話を始めた。”話す”とはもちろんススム君の所在。彼女はこの世界で一番ススム君に近い人物と言っても過言ではない。


 「申し訳ありません。いくら言われましても私の意志では…彼との約束ですので」

 「……やっぱり教えてはくれないんですね」


 だがこの一か月彼女からススム君の情報は聞き出せていない。彼に口止めをされているようで詳しい事は教えてくれないのだ。でも私達にとっては残された数少ない手がかり。こんな近くにあるのなら黙って下がるわけにはいかない。


 「お願いします…せめて彼が元気なのかだけでも」


 私はニアさんに深く頭を下げる。


 「……」


 だが帰って来るのはいつもと同じ沈黙のみ。やはり彼女の口は堅い。しびれをきらし始めているリナリーは全く喋ろうとしないニアさんにもっと強引な方法で聞き出そうと提案するほど全くススム君の事は聞き出せていないのだ。


 一目だけでも彼を見たい。ススム君が王都を去ったあの日、彼の部屋の惨状のせいで心配で心が挫けそうになる。一目だけでも、一言だけでも、ススム君が無事だと…本当に生きていると私が確認できればこの焦燥感は薄れるだろう。


 やはり今日も彼女から聞き出せない、ニアさんは美人で人当たりも良く好印象を持たれる人だがここ最近毎日会っているせいか…彼女の目が私を見ていないように感じることがある。それはかつてのススム君がしていたここでは無い”どこか”を見ている瞳のようだ。


 諦めてリナリーが出口に向かって歩こうとし、私も頭を上げてまた明日来るといつもの別れの挨拶を言おうとした時――


 「お二人はなぜそんなに彼の事を思っているのですか?」


 ニアの方からの質問は初めての事で少々戸惑う。


 「なぜってそれは……」


 私とリナリーは互いに顔を見合わせて答える。


 「「家族だから」」


 この言葉に嘘偽りは無い。


 私にとってススム君はいなくてはいけない『日常』、当たり前の人。


 リナリーにとってススム君はかつて憧れ、焦がれた『特別』、近くに居てほしい人。

 


 「……ずるいわね。私、悪者みたい……」

 「えっ?」


 ボソッと何かをニアさんがつぶやく。常ににこやかな笑顔を絶やさない彼女がその時だけは暗く思いつめた表情を出していた。


 「そうですね……これだけはお教えしましょう。彼は元気です、ちょと今はやるべき事が多すぎて周りが見えてないだけです。すぐに彼は貴方達の元に戻ってきますよ」

 「……やるべきこと」


 それはおそらくあの”事件”の事だろうと思われる…がなぜだかニアさんの話し方だと別の何かが含まれてそうな気がする。


 「それでは失礼しますね、私は片付けるべき仕事が山のようにあるので」

 「えっ! もう少し詳しく!」


 だが呼び止めは虚しくニアさんはカウンターの奥へと入っていってしまった。


 だがこの一歩は小さいがここ最近での情報では一番重要な物である。


 「エリナ…やっぱり彼女は…」

 「うん、ススム君と定期的に会ってるみたいだね」

 「あの人の近くに居ればススムの情報を得られる可能性は大きいわね。もしかしたら本人が現れる事も――」


 するとその時ギルドの扉が開かれ一人の冒険者が入る。白色の髪、顔を覆う仮面、頭上には白銀の使い魔のドラゴン、その者は一月ほど前に現れて一気に名を上げている冒険者――。


 「おい、見ろよ『白銀』の御出ましだぜ」

 

 ギルドに残って端の方に屯っている冒険者たちの会話が聞こえてくる。


 「あいつ結構な活躍をしているらしいぜ」

 「マジかよ。だって『白銀』はFランクのままなんだろ?」

 「それがさ、あいつが受けているのは全部依頼と呼べない不正規な依頼ばっかりだそうだぜ。んであいつが言った先では凄まじいい戦闘の後ばっかりだとか。嘘か本当か知らないがあの『剣聖』アキスト・メアリスにも圧勝したとか」

 「だけど”不”正規だから未だにFランクね……」


 そんな冒険者たちの話声は彼にも聞こえているだろうけども気にする事なくこちらに歩いて来、私達の横まで来ると近くにいた獣人の受付嬢が対応をする。


気のせいだろうか仮面を付けているのではっきりと分からないが時折こちらを見ている気がする。


 「んにゃ、どうしたギャドー!? 依頼の確認にでも来たか?」

 「……ガドーです、いい加減覚えてくださいよ。ニア姉さんを呼んでもらえますか? その依頼を終えたので来たと」

 

 その獣人の受付嬢が奥に下がると隣にいる私達に軽く会釈をしたのでつられてこちらも会釈を返す。入れ替わるように先ほどまで私達と話していたニアさんがカウンターまで出て来ていた。


 何故かニアさんがガドーさんを見た瞬間に苦笑いをした。


 「”タイミング”が悪かったね、ガドー君。大丈夫?」

 「ええ、直ぐに終わらせて去ろうかと……昨日の依頼の件終わりました」

 「お疲れさま。これで三つ目ね。”彼女”何を企んでいるのかしら」

 「どうなんでしょう。段々と『運命』を感じる事もできなくなってますし流石に向こうも対策を立てて来たみたいですね」


 ガドーさんはいつもどんな相手だろと一歩身を引いて対応しているニアさんとどうも親し気に話している。彼と話してしるニアさんの表情は営業上作っている顔ではなく素の部分に見えた。


 謎がまだ多い冒険者ガドー。他の人と話している所を見たことも無いがその声色はどこか心が安らぐような気が……。


 「行きましょエリナ。午後からは依頼の為にあっちのギルドに行くんだから」

 「そ、そうだね。高等部に入るまでの期間しか自由にできないしね」


 私達はもう中等部を卒業してもうすぐ高等部に入る。今はその間の二か月間の休み、それを利用して王都の外に依頼という名目でススム君の情報を探しに言っていた。でも彼が王都にいるかもしれない今、少しでも時間を無駄にできない。


 「まってリナリー!」

 



 その二人が去った後、白髪のガドー…ススムが振り返り彼女達を後ろ姿を見つめる。


 「学園……か」 


 前の話でエリナとリナリーとススムの小さいころの話しを書こうかなと思っているのですが……見たいですか?それとも早く先の話が知りたい? 小さいころの話しの内容は全く考えていないので時間は少しかかると思いますけど……どうしよう。


 よろしければブクマと評価をお願いします!


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