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努力戦士 〜彼女の為に俺は身一つで最強へと辿り着く〜  作者: ペペロンp
3章 青年期

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33 『運命』のめぐり合わせ

 タタカ村から出て一日、呪いの指輪を付けたススムは疲労が溜まらない程の速度で跳躍する。


 森の中を突っ切るように木から木へと飛び移りながら真っすぐ王都へと向かう。地面では魔物に絡まれることがあるため上を進んだ方が早く済むためだ。


 「さてと……どうするかな。とりあえず王都に向かったはいいけど今後の具体的な予定も無いしな」


 エリナにリリスの危害が及ばないように守る事は決まっている。そんじょそこらの敵には今のススムは負ける気はしない、だがそこらの敵ではない場合はまずい。もし六天のリリスが直接攻めてきた場合アークにすら勝った彼女には今のススムでも勝てはしない……。


 「とりあえずの方針は自身の強化だな……いや、これあんまり変わってないな」


 結局のところ強くなるという方針は昔から変わらない。


 すると突然頭上のシロがススムの頭から離れる。


 「? どうしたシロ!」

 「キュイ!キュイ!」


 パタパタとその場に飛び続けているシロはススムが向かっている方向とは別の方角を向いている。直ぐにシロに近づく。


 「なんだ、そっちの方角に何かあるのか?」

 「キュイ!」


 何かを伝えたがっている様子のシロ。そういえばシロは『神』との通信端末の役目を持つクリスタルドラゴン。この子が伝えたがっている事には何かしらの意味がありそうな気がする……。


 「……行ってみるか」

 

 再び頭に乗っけて先ほどの方角とは別の方に跳躍した。


 ある程度進んでみるとススムの感知圏内に反応を感じる。


 (十、十五、二十……この気は人間か?)


 高めの木に摑まりその方角を注視する、すると200メートルほど先の森の街道に人の集団が見えた。


 「なんだあいつら……」


 どうやら二つの集団に分かれている。気配を消し更に接近を試みると段々と何をしているかが判明してきた。


 一方の集団を囲むようにもう一方を包囲している、囲まれている方は鎧を着込みそれなりに良い身なりをしていて、囲んでいる方の装備は良い物とは言えない。皮のレザーなど比較的安価で手に入る物を身に着けていた。


 「こりゃ……野盗だな」


 騎士達が囲むように守っているのは昔王都へ行くときに乗ったようなフォード家の馬車と同じような豪華絢爛な装飾が施されている。


 「貴族を狙った野盗の襲撃……ってとこかな」


 野盗の方が人数が多いため完全に囲まれることになっているが練度は騎士の方が高いため野盗の方も攻めきれていない膠着状態が続いていた。


 「シロ……あれを助けろって事か?」

 「キュイ!」


 どうやらイエスのようだった。


 でも本当に助けて良いものか迷うススムであった。平民の自分が貴族と繋がりを持つことで起こった事件を思い出すとどうしても手が出しにくい。


 「はぁ……シロを信じてみるか!」


 長身の木を蹴り先頭の渦中の上空に蹴り飛ぶ。


 落下の過程で騎士の強さを比べていた。その者の気の強さや身なり、戦闘スタイルを見て誰が隊長なのか判断し騎士の中でも気の強さが強い者の横に落下のポイントを調整し地面に落下する。


 高所からの落下の衝撃が土煙を巻き上げる。隊長とみられる男性は剣を野盗に構えたまま顔だけこちらに向けていた。

 

 「だ、誰だ貴様!?」

 「えっと……助太刀いたす!」


 隊長の横に着地したはいいがなんて言うか考えていなかったススムは昔見たことがある時代劇のセリフが口から出ていた。


 (うーん、共闘はした事ないし……面倒だ。全部自分で片付けるか!)


 未だ何が起きているか理解できていないであろう一番近い野盗に一瞬で接近し懐に入る。


 (とりあえずこれぐらいの力で!)


 力み過ぎないように『虎』を放った。


 「ゴハァッ!」


 ススムの拳は野盗の体にめり込み吹き飛ばす。吹き飛んだ男は止まることなく木々をなぎ倒し森の奥へと消えていった。


 「うお、やり過ぎた!」


 自分が弱いと思っていた出力で敵そのものが場から吹き飛ばされる。やり過ぎていた力を抑え相手に対応する時間を与えないため隣の奴にも先ほどより弱めの拳を腹にめり込ませ意識を刈り取る。


 「か、囲め!こいつを囲めぇ!」


 実戦に慣れている野盗は直ぐに体制を立て直すためススムの隔離を仕掛けるが、ススムの体が一瞬ぶれた次の瞬間、取り囲もうとした三人は一瞬で地面に倒れていた。


 姿が掻き消えたススムは次の相手の目の前に現れ一撃で沈めていく。


 一人野盗の意識を刈り取った時に手から滑り地面に落ちる前の銅剣を掴み取るとそれを馬車の後方へ投げ飛ばす。騎士達の間を飛んだ銅剣は気配を消し馬車に接近しようとしていた男に突き刺さった。気によって気配感知をしているススムにはスキルなどを使っていても相当な技量を持っていない限り探知されるのだ。


 「な、なにが起こっているんだ……」


 騎士達自分たちが気が付けなかった気配を殺していた敵が崩れ落ちるのを見て未だ助太刀の登場に理解が追い付いていないようで馬車の周りを固めたまま動かない。


 「最後っと」

 

 最後の野盗は後頭部に打撃を与える、今までよりも数段”弱く”殴ったため意識はまだ有った。


 「よし、これで全員だな……えっとこいつどうすればいいですかね?」

 「ま、待て貴様は…何者だ」


 野盗の襟首を摑んだススムに向けて剣を構える騎士達。突然現れ手こずっていた野盗を一瞬の内に倒してしまった男性、そんな男がもし自分たちに敵意を向けられたらと思うと警戒するのは当然である。


 「えっと……助太刀でござる」

 「それは先程聞いた」

 「あ、えっとすいません。馬車が襲われているのが見えたので」

 「……」


 本当の事を言っても警戒は解いてもらえ無さそうで、未だ怪訝な表情をススムに向け続けていた。


 「名を名乗れ!」

 「……」

 「答えられんか、ならどこから来た」

 「西の方から」

 「西? ここから西だとフォード領か?」

 「あ~、えっとその前は凄く東にいて」

 「どっちなんだ!?」


 要領を得ないススムの返答に騎士達の警戒心は更に高まる。


 助ける事は助けたし拘束などされない内にこの場から離れようかと考えた時馬車の扉が開き中から華麗な服を着た少女が下りてきた。衣装の絢爛さからそれなりに位の高い貴族だという事が分かる。足が足掛けに当たるたびにほどよく育った胸部が揺さぶられススムは視線をそらす。


 気が付くとススムに近い者以外が全員片膝をついて傅いていた。


 「皆さん、どうか剣を収めてください。この方は私達を救ってくださったのです」

 「ですがこのような素性の分からない者を……」

 「いいんです。ですからどうか」

 「……分かりました」

 

 その令嬢の一言で騎士の全員が剣を鞘に納める。


 「そこの御方、私達を救ってくださってありがとうございます」

 

 衣装のスカートの端をひょいと掴み上げ令嬢の礼を向けられる。この貴族の挨拶は久しぶりに見たので懐かしく感じた。


 だがその女性が他の人とは違う特徴がある。髪の色が黒色が入っていたのだ。灰色の髪を持つ少女はリナリー様が纏っていた貴族の雰囲気と同じ物があった。この世界で黒の色を持つ髪を持っている人は共通する事があるのだ。


 英雄『アーク』の血を受け継いでいるという事。師の子孫が目の前にいると思うと少し心を開きそうになってしまう。


 「いえ、お気になさらず。ただ襲われているのが見えたので加勢したにすぎませんよ」


 (最初は見捨てるつもりだったしな……)


 捕らえていた野盗を騎士の人に引き渡すとその場を後にしようと歩き出す。

 

 「それじゃ私はこれで……」

 「どうでしょうこのようなところでお話しするのもなんですから馬車に乗りませんか?」

 「え!? いや私には行くとこがあるので……」

 「どちらに向かわれるのでしょうか?」


 できればこれ以上干渉するのは避けたかったが思いのほか食い付いてくる。まるでススムをどこかへ行かせたくないかのように。


 「……王都…に」


 ついススムは目的地を告げてしまっていた。彼女の邪悪な物のない明るい笑顔を向けられて正直に答えてしまっていた。 


 「でしたら! 私達と同じですね。貴方のようなお強い方と王都への道をご一緒に居てくだされば私達としても安心です」


 ニッコリとその少女は微笑みかける。一度助けてしまった者としては道中の安全という話を出されると少し心苦しい物がある。


 「そ、そうですね」


 あれよあれよとあっという間にススムは馬車に乗せられることになっていた。足を馬車の足掛けに乗せたと同時に馬車の横に先ほど自分が投げた銅剣で失血死している野盗の死体が目に入る。ススムは人生で初めて人を殺したのだ。最初の一撃の相手もそうだ、あの『虎』の時の感触で分かったが少なくとも肺はつぶれ肋骨も完全に折れて内臓に突き刺さっているだろう。もしまだ意識があるとしたらきっと飛ばされた先の森の奥でもがき苦しんでいるだろう……。


 (……特に何も感じなかったな)


 今の感想としては「人を殺した」。ただそれだけ。誰かを守る為だろうと殺人をしたのだ、それなのにススムは感情の起伏は少ししかない。「最初の奴は苦しまないように一瞬で終わらせるべきだったな」などと考えている程だった。


 馬車に上がると目の前には色鮮やかな色彩が飛び込んでくる。中の装飾を見ても素人目でも一流の物だと分かった。中身は侍従のメイドが一人いてススムとメイド、そして貴族の少女の三人を乗せた状態で馬車は進んで行く。


 メイドが一つの箱を取り出すと中から紅茶の入った容器を取り出した。それはどう見ても箱の体積よりも大きな物を取り出したのを見るとあの箱は『アイテムボックス』である。貴重な魔道具を紅茶入れなどに使っているのを考えたら相当な力を持っている貴族だろう。


 メイドがまず貴族のお嬢さんに紅茶を差し出し、次にススムに渡された。


 「そういえば名乗っていませんでしたね。わたくしリーシャ・ド・セントリアと申します」

 

 一口付けた彼女が唐突に自己紹介を始める……が、メイドから紅茶のティーカップを受け取るススムの手が一瞬震えた。だってその名を知らない者はこの国には居ない筈である。セントリア……この”王国”の名を持つ人間、国名を家名として持つ人物なんて……。


 「姫様、このお方が驚かれていますよ」

 

 姫、姫と今このメイドは言った。やはりこの方は――


 「うふふ、私はセントリア王国第三王女です」


 ニッコリと微笑んだリーシャ。それは王女が民に微笑みかける太陽のような明るさがあった。


 「こ、これは…王女様とは知らずとんだご無礼を……」

 「いえ、貴方は私を助けていただきましたし最初に名乗らなかった私が悪いのでしょう」

 

 ススムはまさかあんな所に王女がいるとは思いもしなかった。せいぜい近くの貴族だろうと思っていたがこれほどまでの大物だとは……。


 でも一つ解らない事がある。


 「なぜ王女様があんな所に? それに野盗なんかに襲われて……王女でしたらもっと腕の立つ騎士を連れている筈では?」

 「……そうですね。助けていただいたあなたにはお教えしましょう」


 リーシャがゆっくりと手に持っていたカップを置き話し始める。


 「私は王位を継ぐ為に様々な領地を回っていたのです」

 「王位を継ぐ、王位継承ですか?」

 「はい。お父様は次の王は王国内の貴族からの支持か後見人、自身の保有している力を見て決めるとおっしゃいました」

 

 つまり国王は王位継承権のある子ども達の中で誰が一番力があるかを競わせるという内容であった。王位継承争いはどの国でも大抵酷い内容となる。だが国を治める人物とはそれだけの力量を必要とされるのだ……言ってしまえば合理的な生存競争。


 「私は力を貸してもらえるようにと秘密裏に直接領地に出向き交渉していました。ですので大きな騎士団を動かすわけにもいかず……」

 「なるほど、さっきの野盗はそんな姫様を狙った他の王位後継者の刺客だと」

 「そういうことです。多分あのように暗殺なんて派手な真似をするのは継承権二位の兄でしょうね。貴方が捕まえた野盗が兄様に繋がる証拠を持っていればいいのですが」


 兄弟姉妹で刺客を送る、しかもその相手はススムと同い年ぐらいの女の子だ。やはりこの世界はススムのいた平和な世界と違って血にまみれている。


 「私は兄二人に劣っていますがこの国の民の為王都なる事を諦めていません。第二位の兄が王となれば国は兄に近い貴族が権利を独占しきっと平民は今よりももっと苦しめられる生活になるでしょう。人の上に立つ者は下の者を大切にしなくてはなりません。ましてその者から搾取するなど……」


 この王女様は王族でありながらどうやら聡明な考えの持ち主らしい。助けてもらったとはいえこうやって見ず知らずの男に偏見なく会話している事から優しい心の持ち主であることはわかる。


 「ですが本当に強敵なのは第一王子のアラン兄様です。アラン兄様は王国の有力な貴族たちを次々と抱き込み圧倒的な規模となっています。そして何より汚職や裏の取引の情報が全く漏れないのです。アラン兄様には隙がありませんでした……」

 「でした?」

 「ですが数年前彼の人脈の元となっている貴族が事件を起こし弱みに付け込むチャンスができたのです」

 「へぇ~、どんな貴族が?」


 ススムはこの質問をした事を後悔する事となった。


 「レイガスト家です」


 ススムの背中がゾクリと感じた。


 「アラン兄様は完璧な人で弱点や汚職の証拠も一切残しませんがその傘下のレイガスト家にはある容疑がかけられています」

 「へ、へぇ~」


 自分には関係ない話だと言い聞かせながらススムは紅茶を口に運ぶ。


 「王立騎士学校殺人事件、その首謀者がレイガスト家の者です。レイガスト家を失墜させることができればアラン兄様の力を大きく削ぐ事ができるはず……」


 本当に自分に関係ある話であった。ポーカーフェイスを続けながらススムは話しを聞く。


 「で、その殺人事件の被害者は実は行方不明でその人が見つかればアラン兄様を倒す糸口になるわけです」

 「そ、そうですか。見つかるといいですね」


 リーシャの視線がススムの髪へと移る。


 「偶然ですかね……その被害者の”ススム”という少年は真っ黒な黒髪だったそうです……貴方と同じような」


 (まずい、まずいまずい!)


 このお姫様は最初から黒髪のススムが事件のカギを握るススムなのではないかと疑っていたのだ。だから無理に馬車に乗せようとしたし、名前も名乗らなかった。この背中にゾワリときた感じ、『運命』の力を感じた。シロがなぜあそこで方向転換したか分かった。きっとこの王女様にススムを合わせるためである。


 (シロめぇ、余計なことしやがって……)


 とにかく面倒な事に巻き込まれるわけにはいかない。ここは――


 「違いますよ。残念ながら私はその少年ではありません」

 

 王位争奪のごたごたに巻き込まれるのは絶対に良いわけがない。ここはススムがあの”ススム”だと気が付かれないようにしなければ……。


 「本当ですか? もし彼でしたら自分の立場を隠すのはわかります。ですがどうか私に協力を――」


 ススムは一枚のプレートをリリーシャに差し出す。


 「申し遅れました。私は冒険者『ガド―』と申します」


 それはかつて間違いで名字が冒険者名となったギルドカードであった。そのカードを受け取ったリーシャは内容に目を通す。ギルドカードを作るときはステータスを表示する決まりなのでこればかりは偽造できない。


 「『鑑定』ができないようですが……ギルドカードに書かれている内容は本物でしょうし……」


 ススムはギクリとした。『鑑定』の存在をすっかり忘れていたからである。あれをされるとススムの本名から特異なステータスまで丸わかりであるがなぜか『鑑定』は行われていないようだった。


 可能性があるとすれば左手にはまっている呪いの指輪か頭上のシロ、どういう訳かは分からないが多分そのどちらかのおかげでステータスが読まれる事は無いのだろう……。


 「すいませんガドーさん……黒髪の方を探していましたのでもしかしたらと思いまして……」


 そう申し訳なさそうに頭を下げるリーシャ。どうやらススムではないと信じてくれたみたいだった。でも一国の王女まであの事件の事を知っているなどどれだけあのあと事件の話は大きくなっているのだろうか……。


 「そ、そんな頭をお上げください! 私は気にしていませんよ」

 「ですが私は黒髪の少年……『ススムさん』の協力が必要で。どこかでその少年の事を聞いた事などありませんか?」

 「ごめんなさい。つい最近までこの王国から離れていたものであまり何が起きているか知らないのです。王位継承の話も今知ったところですし……お力になれず申し訳ありません」


 落ち込んだ様子の姫様だったがすぐに立ち直り笑みを向けてきた。


 「お気になさらず!改めて今回は助けていただきありがとうございます。何かお礼をしたいのですが何が良いでしょうか?」

 「いいんですよ。お礼なんて……」


 最初は見捨てる気でいたのに礼など貰ったら自分を許せなくなりそうなススムであった。 

 王女リーシャの登場です。


 最近読んでくださる方が増えています。ありがとうございます!


 よろしければブクマと評価をよろしくお願いします!

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