34 一方的な再会
ガタガタと揺られる馬車の中ではススムとリーシャ王女他愛の無い会話が進んでいた。
「ガドーさんのお師匠様はとても厳しい方だったんですね」
「そうですね、「お前は覚えが早いから何でもやっとけ!」とか言って剣術から狩りの仕方、棒術、弓術までいろいろな事を覚えさせられましたよ」
「ふふふ、お師匠様は多才な方だったんですね」
師の無茶ぶりのお事を話すとリーシャは笑ってくれていた。御付きのメイドも表情には出さないがつられて笑いそうになっているのが丸わかりである。
シロは今現在王女様の膝の上で硬直していた。
なんでもお姫様が触ってみたいと言ったのでメイドの忠告も無視して膝の上で頭や羽を撫でられている。そんな愛玩にシロも慣れないようで体が石のように硬直していた。
「それにしてもドラゴンの従魔なんて初めて見ました。どのようにテイムなされたのですか?」
「まぁいろいろありまして」
師が実はアーク、シロが『神』と交信するための生物型携帯端末などといった真実は教えるわけにもいかない。
「それにしても貴方は”普通”に接するのですね……」
「……?」
その言葉の意味はススムには分からなかった。その時視界に端に王都の壁が映る。
「そろそろ馬車を降りようと思います」
「そうですか……止めていただけますか?」
そうリーシャがメイドに伝えると窓を開け手綱を握る方へと伝わり馬車の移動が止まる。
「行くぞシロ」
「キュイ!」
待ってましたと言わんばかりに勢いよくススムの頭に乗るシロ。よっぽど居づらかったのだろう、シロがため息をついていた。
「貴族とはあまり関わりたくはありませんか?」
「……」
そう問うリーシャにススムは答える事ができなかった。
ススムも困っている女の子を捨てるほど非道ではない。だが今回ばかりは話が別である。
ここでススムが表舞台にでてレイガストを糾弾したとしよう。きっと暗殺や闇討ちなど今のススムには怖くない、だがきっとフォード家は無関係ではいられないだろう。
あの事件はそもそもレイガスト家がフォード家を貶めるために仕組んだ事。皆はそう思っている、が実際はリリスがススム一人を殺す為に仕組んだことなのだ。いつどこで彼女が狙ってくるか分からない。そのために表舞台にはススムの名はあまり出したくはないのだ。
「貴方が貴族と関わりたくないのはわかりました、ですがガドーさん。貴方はお強い、貴方のお力私に貸してもらえないでしょうか?」
振り向くとリーシャが頭を下げていた。御付きのメイドが拳を堅く握っているのも視界に入った。
いくら強いとはいえ道端で出会った冒険者に協力を申し出る現状は彼女の陣営の脆弱さを示しているようだった。
完璧で隙一つも無い大陣営の第一王子、強引で時には法に触れる事もするが力のある冒険者を囲っている第二王子、優しいだけで後ろ後ろ盾が少ない脆弱な第三王女。
少し話しただけだが彼女の優しさは伝わって来た。助けてもらったとはいえただの冒険者に高圧的な態度もとらない。そんな彼女を無下にすることは少し気が引けていた。
(まるでエリナやリナリー様みたいだな……)
「はぁ、わかりました。考えておきます」
「本当ですか!?」
ギュッとススムの手を握ってリーシャの顔が近づく。
「気が変わりましたらいつでも王城を訪ねてくださいね!」
「は、はい」
何故か彼女にこうぐいぐいお願いされるとついつい引きずられてしまうススムであった。
王女に別れを告げ馬車から降りると騎士の隊長が頭を下げてきた。
「我々を助けてくれてありがとう。本当に助かった」
王女の護衛をしているってことは貴族の次男や三男といった家督を継げない貴族なのにこのように見ず知らずの冒険者に頭を下げていた。
あのお姫様にしてこの騎士ありと言ったとこだろうか。
ススムを一人置いて馬車は王都へと向かっていった。
「さてと……シロこれは『神』の仕業か?」
「キュイ(さぁ?)」
とでも言いたそうな答えが返ってきた。
あまりにも出来過ぎた出会い。そしてあの時感じた『運命』の力。リリスか『神』か……どちらか分からないがもうちょっと待ってほしいものだ。
「まぁいいさ。おかげでするべき事を思い出したし」
そうつぶやくとススムは王都への道を歩き始めた。
〇
「あのような者に話してもよかったのですか?」
ススムが去った馬車の中でメイドが姫に問う。
「それにこちらの陣営に入れるには信用がまだ足りないと思いますが……」
「そうですね。自分でも思い切ったとは思います」
もしかしたら兄のどちらかがわざと野盗から救わせ信用させてスパイとして近づけさせた刺客かもしれない、それぐらいの事を第一王子の兄ならやりそうなのだ。だが――
「最初に馬車の中から彼を見た時、なぜかガドーさんは信用できる…力になってほしいと思ってしまいました。たしかにススムさんだと思っていましたが違うと分かった今でもガドーさんには私の力になって欲しいんです。こんな直感に従う私を卑下しますか?」
「いえ、そんな事は……」
彼は自分が王女だと分かったあとでも普通だった。”普通”だったのだ。皆傅いたり、取り入ろうとしてくるののだがガドーはそうではなくただ敬語でただの女の子と話しているようだったのだ。
そのような人は初めてだった。
「冒険者『ガドー」か……彼の事は秘密にするよう騎士の方にも伝えておいてください」
ガドーが王女である自分と関わりを持ちたくはなさそうだった事から第三者には知られたくはないのであろうと思ったリーシャの配慮であった。
「かしこまりました……姫様、見えてきました」
メイドが馬車の前方の様子を伝える。
「そうですか、彼女達はもう王都に付いていましたか」
「そのようです」
前方にあった馬車に寄り添うように止まった馬車から王女が降りる。
その馬車の前で膝をついていた者に声をかけた。
「久しぶりですね、”エリナ”、”リナリー”」
〇
ススムは王女とは別の王都への入り口に向かっていた。平民や冒険者が使う入り口、かつて自分が王都から逃げる時に使用したものである。
「四年半ぶりか……」
ススムはローブに付いているフードを深くかぶる。リーシャ王女の話しから自分の存在が広く広まっているのを危惧したススムは目立つ自分の髪を隠すようにフードを深くかぶった。
その上にフードが動かないようにシロを乗せる。このほうがシロも息苦しくないだろう。
「止まれ、通行所を出せ」
門兵が槍を構えてススムの前に阻む。前はこんな風に検問はされていなかった、この数年で変わったのだろう。
「えっとこれでいいですか?」
ススムはギルドカードを門兵に出した。どうやら頻繁に出入りする冒険者のギルドカードでも問題なかったようでその内容に兵が目を通す。
その時ススムは詰め所の中の張り紙が目に入った。
その色と書き方から手配書であることは分かったがその内容が最悪な物であった。自分の名前がでかでかと書かれた手配書には黒髪の男性とだけ記載されていて賞金までかかってる。
「ん? あの張り紙が気になるのか?」
「え、あ…はい。このススムって人は何をしたんですか?」
何も知らない人を装ってこの場をやり過ごそうとするススム。
「実はこれ手配されている奴は何も悪い事はしてないんだよ。でも無理やりお偉いさんがこの手配書を作ってな」
「お偉いさん……」
きっとレイガスト家かレイガストを守ろうとする第一王子あたりの仕業だろう。相手は平民の男の子、無理やり手配する事だっけできるわけだ。
「それでも手配せれているからには俺らも捕まえなきゃならない……こいつには悪いがな。貴族さまにはさからえねぇのさ」
「怖い話ですね……」
「おっとお前さん従魔の登録がされてないじゃないか!」
門兵が頭上のシロを指さして指摘する。
「つい最近テイムしたもので……」
実際のところテイムしたわけでも従魔のわけでもないのだがそういった枠組みがあるのならそれを使わせてもらおう。
「なら仮登録書を出しといてやるよ」
そう言って詰め所の中から登録用紙を一枚持って来てススムに渡す。
「直ぐにギルドで登録しとけよ、期限切れで衛兵に見つかると罰金で払えなかったら最悪従魔は処分されるからな気をつけろよ」
「はい、この足で直接向かおうと思います」
その話の流れでススムは王都の門をくぐる事ができていた。意識がシロに向いていたおかげでススム自身には注意が向いていなかったためだ。
門を通ると懐かしい景色が広がっていた。奥に見えるのはそびえ立つ白亜の城、目の前にあるのは平民が暮す平民街。四年半前のままだった。
「帰って来た……どうだシロ?」
「キュイ!キュイ!」
頭上のシロも初めての人の町に大層ご満悦のようで喜んでいた。とりあえず門兵の言うとうりにギルドでシロの従魔登録とやらを済ませるべく中央街、商業区へと歩みを進めて行った。
その途中で気が付く物がある。
(あれは奴隷か?)
商業区の手前で首輪などの枷を付けられた人が重い荷物の荷運びをしている光景が目に入った。四年半前では奴隷などこの王都にはあまり見かけることは無かった。だが今は普通の人に対して奴隷が少なからずみられる……十対一の割合だろうか。
その中には人間以外の種族も混じっている。ドワーフ、エルフ、獣人まで……
(この四年半で王都になにが起こったんだ……)
そんな光景を横目に道を進むと大通りに出た。懐かしい道である、毎日この道を走っていたものだ。
すると耳にある言葉が聞えてきた。
その言葉に条件反射的に反応したススムは声が聞えてきた方へと向かう。そこには大勢の人が押し寄せていてそのほとんどが口々にその言葉を発していた。人混みをかき分けて先に進むと一つの通りに出る、そこの真ん中は何かが通るために空けられていた。
皆が顔を向ける先に進むも目を凝らす。すると歓声と共に二台の馬車がこちらへと向かって来た。
「「「リーシャ様~!!」」」
周りの歓声がそう声を上げる。先に来た方の馬車には先ほど別れた王女リーシャが微笑みながら窓からこちらに手を振っている。
「あれが第三王女のリーシャ様か!」
「なんてお美しい方なんだ!」
「それに俺らのような者にも笑って手を振ってくださっている!」
民からの信頼は高いようで馬車が近づくにつれ歓声の大きさは大きくなっていた。
だがススムの目的はリーシャ王女ではない。
二台目の馬車が見えると口々に周りの者はその”言葉”を口にした。
「エリナ……」
屋根がない馬車に立って手を振る彼女がそこに居た。
背中まで伸びた髪が馬車が進むことでなびき揺れる。周りの声に答えながら手を振るエリナは14歳でかなりの美人になっていた。母のアイシャさんに似て美形な顔と子供らしさが抜けて来た体は見る者を釘づけにさせていた。
「おぉ、あれが『勇者』のエリナ様か! お美しい!」
「綺麗……私もあんな風になってみたいわ……」
同性にまで見とれさせるエリナの美貌は幼馴染として嬉しい物があった。
先の台車が進むことで隣の人物も目に入る。
リナリー様だ。
エリナとは違い赤い髪をしたリナリー様は14歳にして体はもう大人びていた。凛と立つその姿からはかつての豪快さが感じられない貴族の令嬢となっている。
特に胸が大きく成長しているようで周りの男どもがそこに視線を送っているのが今のススムには分かる。少しイラッとした。
二人は王女の馬車に続いて王都の町を凱旋していたのだ。
「いつ見てもフォード家のご令嬢はお美しいな」
目の前の男性が詳しそうだったのでススムは声をかける。
「すいません。これは何のパレードですか?」
「あんちゃん知らねえのか!? リーシャ様派閥のフォード家のご令嬢の凱旋だよ」
つまりフォード家は王位継承でリーシャを選んだので王女様のイメージアップ戦略の為に『勇者』と一緒に凱旋しているという話だった。
あの時あのまま王女の馬車に乗っていればエリナとリナリーに合えた……だがそうしなくて良かったとススムは思っていた。エリナには自分に依存することなく自分の人生を歩んでほしいからだ、きっとここで出て行けば彼女たちは快く迎えてくれる。でもそれで本当に彼女を守る事ができるだろうか……。
できることならリリスの脅威を完全になくしてから二人に相対するべきだろうとススムは考えていた。
リリスと戦う事を知ればエリナはきっと付いてくる、心配する。そして彼女に降りかかる危険が増えてしまう。そんなことはエリナにはさせられない……彼女には普通の人生を歩んでもらいたい。
常人を超えた神核をもつ『六天』との闘いは自分がすればいいのだ。
「エリナ、リナリー様……綺麗になったね」
この歓声では聞こえるはずもないがススムは小さく賛辞を贈るのだった。
その時、エリナの肩に手が置かれ一人の男性が隣に立った。スカイグレーの髪で黒色の因子をもつ男はエリナの横に並び立つ。
「おぉ、『剣聖』のアキスト様だ!」
『剣聖』、その名は学院に居た頃に何度か聞いた。エリナとリナリーと共にパーティに入る事を許された貴族の男の子。その『剣聖』がいたのだ。
エリナは肩に置かれた手を払うことなく皆に手を振り続けてた。
「やっぱり『剣聖』と『勇者』は映えるな~」
「すいません、あの二人って……そういう関係なんですか?」
ススムは再び目の前の男性に問う。
「う~ん、そういう噂だけどな。『勇者』のエリナ様と『魔導士』のリナリー様、そして『剣聖』アキスト様の三人でパーティを組んでいるわけだし二人とも貴族だし……それに見た感じ嫌がってねえみたいだしな」
ススムの目から見てもエリナに拒絶する様子は見受けられなかった。つまり――
「多分あの御二人は付き合ってるんだよ」
「そう……ですか」
(まぁ四年半もあれば人は変わるか……これは依存が無くなった事を喜ぶべきだな)
ススムが居なくなったことでふさぎ込んでいないか心配だったススムは自分に対する依存を断ったのだとポジティブに考えることで納得しようとしていた、が少しもやもやする部分もあった。
だがススムの決意は変わらない。たとえエリナの隣に誰が居ようと彼女の為にススムはリリスと戦うのだ。要はエリナが幸せであればいい、それがススムのやりたい事なのだから。
エリナが乗った馬車がススムの前を通り過ぎる時、突然シロが何かを伝えたそうに翼をバタつかせた。フードをつまんだまま飛び上がるので髪の毛が一瞬だけ見えそうになる。
「馬鹿、シロ!」
「お、お前さんその髪の色……」
先程まで話していた男性には見られたようで硬直していた。
ススムはすぐに後ろの道へと駆けて行った。
〇
リナリーはエリナの肩に乗った手をはたき落とす。
「メアリスさん、エリナにそういう事をするのはやめてくださいといつも言っているでしょう」
凛とした表情のままリナリーはアキストへの注意を述べる。
「いえいえ、ただ私はエリナと一緒に手を振ってただけですよ、ねエリナ?」
このようになれなれしくエリナに接するたびにリナリーはアキストの事をぶん殴りそうになる。だがそんな事をするわけにもいかないのでその心は内に留めるしかない。
「リナリー……いいの」
「ほらエリナもこのように言ってますし」
「エリナ……」
リナリーにはエリナの本心はわかっていた。『勇者』の冒険者パーティ、その優位性は王国でも高い物となっていた。しかもいまは王位継承の争いの時。そんな時にパーティ内でもめ事を起こすわけにはいかないのだ。
「くっ……」
苦虫を噛んだように顔をそむける。本来そこにいるべき人間はこんな男ではないのだ……。
すると視界の端に一人の人が路地に駆け込んでいくのが見えた。気のせいだろうか……。
(黒色の髪をしていたような……)
「どうしたのリナリー?」
そうエリナに問われたリナリーは――
「いいえ、何でもないわ……」
再び手を振る事を再開した。
(まさか……ね)
ススム王都へ到着です。これキーワードに勘違いとか入れた方がいいですかね……。そこまで長くはしないつもりですが……。
次回もなるべく早く書くつもりです。
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