Anber 1-1
3-1
入学式が終わり昼食の時間となった。広い食堂の二階堂達は移動した。
「食事は食券を購入し、行うように。」
「それから、新入生のビロウは0だ。みんな頑張って人間としてのスタートを切れることを俺達も祈ってる。」
そう言って田淵はどこかへ行った。その説明の少なさに非難の声を上げるものは誰もいなかった。その慇懃さは巨大な権力を持って押し通されたのだった。それだけならまだましだったが、新入生達はそのことにどこか感じいってるようだった。我先にと食券販売機へと駆けつけた。
「弱く、愚かなやつらめ・・・」
その声に二階堂は振り向いた。その男は椅子に腰掛けてこちらを見ていた。野生の獣が獲物を狙ったギラつかせた目のまま噸死したらこんな目になるだろうと想像させるような目をしていた。鋭い端正。その男もまたボロの服を着ていた。そのことから低ビロウ保持者であることがわかった。
「いや・・・こんな異常な状況で何の説明もなければ状況を理解しようと必死になるのが人情だろ?」
そう二階堂が言うと男は意外そうな顔をした。だが語気は嬉しそうな色を帯びていた。
「現状を正しく認識していないようだな。」
そう男が言うと二階堂は黙った。新入生達はもはやヒューマンスクール教の信者になってしまったことは紛れもない事実だった。
美濃はやや緊張しているようだった。
「さて、二階堂琥珀・・・・この場所について、ヒューマンスクールについてどう思う?」
1番核心的な質問をした。二階堂はこういう措置をして、こういう質問をすることから目の前のこの男がこのヒューマンスクールに対し敵対する存在であることにあたりをつけていた。
「全部ぶち壊した方がいい場所だ。」
思い切って真っ直ぐに目の前の男の目を見て言った。
「そうか・・・・」
彼の内心は昂っていた。これまで欲しくて欲しくてたまらない協力者が現れたかもしれない。
「頭がおかしくなりそうなんだよ。」
「全部ぶち壊したい。おかしいことだらけだ。教師たちもここのシステムも矛盾だらけの教義も。どいつもこいつもまともじゃない。だが圧倒的な力の差がある。その差だけさ。問題なのは。」
「俺は美濃だ。」
「待ってくれ。ここのやっていることは法にも世間のモラルにも反することだろ?警察やマスコミに通報するだけで、人権団体、NPO,PTA各位で反応があるだろ。」
「ここは島だ。そして外部との連絡手段も移動手段も全くない。」
「何?そんなことがありうるのか?」
「ない。電話は島の内部に通じるものだったし、島の外に出るための船も何も無い。」
「じゃあどうするつもりだったんだ?」
「それがわかったらとっくにそうしてる!」
美濃は興奮気味だった。
「ただ・・・頭がおかしくなりそうだったんだここにいて。もう本当にどうにかなりそうだった。あいつらみたいに信者のままでいた方が楽だったって思う時すらある。」
「二階堂は反省室に四十日も閉じ込められたんだってな。よく正気を保てたな。それに信者にならずにすんだ。正直入学式でのあの演説を見なければ、勧誘リストから1番に外してた。あの洗脳フルコースでよく自分を保てたな。」
「ああ。確かに辛かった。」
「なんで洗脳されずにすんだんだ?その秘訣は?」
「ああ・・・前に一度同じような目にあっていたことかな。初見じゃあれは弾ききれないよ誰しも。」
「そうか・・・・・」
それから少し美濃は沈黙した。
「・・・生きてた時のことか。」
「そのことだが。俺達は本当に死んでいるのか?ありえないだろうそんな。例によってそう思い込まされているんじゃないのか?」
「・・・・死んだ時のことを覚えてないのか?」
「いや・・」
「記憶が無いやつはたまにいる。大体のやつは覚えてるが。どうかな。そのことに関しても自信が無い。ハッ。低ビロウ保持者のやつにセットなのか自身のなさと自尊心の無さと、やる気の無さだ。」
「でもそれはそう仕向けられているんだろう?システムを作って人から自尊心も自信も奪う。あいつらの言う綺麗な言葉で飾って人を縛り付けるようなとことでやる気など出るわけがない。」
「そう。このシステムを信じ従うやつのみが・・・・・・・・」
「信じるものは救われる。信じないものは地獄に行く。キリスト教もこんな風だったと思う。キリスト教の歴史はよく知らないけど。宗教史って言うんだっけ。ダーウィンは言った。強い者が生き残るんのではない。賢い者が生き残るのではない。環境に適応する者が生き残るのだと。この通りなのか。」
美濃はこの三年間の暴風雨のような虐待と洗脳の嵐の日々でダメージを受けている。
「俺は人の科学の力を信じてる。科学は日々進歩してる。ダーウィンは四百年前の科学の人間だ。盲目の時計職人の存在に人がなれる時代が来るだろう。その時はその呼称も変更になるな。」
二階堂は科学に興味があった。その探求の機会はヒューマンスクールにとって奪われていた。
「システムは絶対じゃない。俺達は必ずこの状況を変える。」
「出来ると思うか・・・・?」
「出来る。」
きっぱりと二階堂は美濃に言った。
「根拠は・・?」
「俺達がここにうんざりしているように誰しも心のどこかでは嫌だと思ってる。その心に訴えて反乱を起こす。ここを変えるんだ。俺達の手で。」
美濃の顔に笑みが浮かんだ。
「それは反乱じゃなくて革命だ。」
その時トラブルが起きた。