第65階 対決!九尾の妖狐
「心臓が縮み上がったぞ
ユウヅキの御前では鬼神が
首を垂れてひれ伏させる
無言の圧力があるからのぉ
人の小娘が直に会って
無事な訳ないんじゃ
ほぉー何百年かぶりに
冷や冷やさせおってに!
さぁ巫女の小娘!!
この落とし前はどう付けて
もらおうかのぉ!
呪いが良いか?それとも
その首根を噛み切ってやろうかのぉ
グリモワの孫娘じゃからと
容赦はせぬ」
ちなみにグリモワ様を
ばっちゃと呼んではいるけども
血縁関係では無い
魔物の国に害する存在になる
可能性のある
こいつを放っては置けない
「何をイライラ来ている?
見苦しいぞ、玉藻前
グリモワ様と呼ばないか?」
"怒"と記されたページを
開くのはネクさんだった
「.....私さぁ、魔界に来てから
運動していないんだよね?」
「.....玉藻前、黙って引け」
私の声に何かを感じたのか
ネクさんの声が響く
「儂もじゃ」
「そう?奇遇ね」
「....おい、聞いているのか?
ミリカンテアの勇者を相手に
どうするつもりだ!?」
ネクの声が荒ぐ
「ミリカンテアなぞ知らぬ
"勇者"じゃと?ほんに非力で
無力な勇者がいたものじゃ」
「ネクさん、今さぁこの狐の石像の
扱いに困ってらっしゃらない?」
私は笑みをネクさんに向けた
「むぅ...お灸を据えたいとは
思ってはおるが....」
明らかに止めるのを諦めていた
「いいわ、5秒かかると
思わないでね」
私は空間を指でなぞった
「何をされたのです...か?
ハツミ様...?」
マリアンヌさんの声が小さく響く
空間が捻れていき
より強固に紡がれてゆく
「何を...する気だ?うお!?」
ネクさんの声が裏返って響く
「満ちるぞ、満ちる!!!尾が九本!!
愚か者めが!!!」
完全に勝ち誇った玉藻前の声が響く
「ぜ...全軍!!!!集え!!!...」
ネクさんの叫びが響く
「大丈夫だってぇ?魔本さん!
なぁ?ハツミ」
マスカリアがにししと笑う
「全力で来なさい?九尾の妖狐!
ミリカンテアの勇者いざ参る」
「しゃーーーーーっ.......?」
久しぶりに魔力が戻って
奢ったのか魔力制御を忘れ巨大化し
怒りにかまけて力で押し潰そうと
突進してくる玉藻前は
もうまるっきし無知なケモノ
「遅過ぎる」
私の闘剣「無神」は
闘神エヤスを食らって
巨剣「神竜」から進化していた
「尾が....切断されている...だと?」
ネクさんがへにゃんと床に落ちる
「.....ぐぬっ!おのれぇ!!!」
擬似的に魔力を戻させた
尾が9本全て削がれ
魔力が急速に消失してゆく様が
はっきりと見える
まるで夢の目覚めの様に
「首無し狐様というのも
案外面白いかもしれないわね」
私は首元に刃を突き立てた
「ぬぅぅ..,ひん...やり...するわい..」
玉藻前の手足は氷で枷の様に
動きが制限されていた
「あらお強いのね
その氷は絶対零度を
凍らすのだけども」
玉藻前の瞳から生気が
失われて行くのが分かった
私はただ見守っていた
魔法生物で無ければ
この時点で手足は
世界に溶ける様に失われてゆく
「さぁ?手足が再生しない程に
凍て付かせても構わないわよ!」
玉藻前は笑った邪悪に不敵に
「そう?良いのね?構わないわ?
何かを消すのに大義はいらないわ!」
「やめんか!!!玉藻!!!
引け!引け!!!」
ネクが起き上がり叫ぶ
性質は邪悪そのものだけれど
部下としては買っていたのかも
しれないわね
危うさがもたらす頼もしさに
「これは貴女の試練よ」
「5秒過ぎるぞ?」
玉藻前の勝ち誇った様な
トーンで声が響く
こういう事!
「超えられるの?
人世界の計測方法で
単純に5京年かかるけど
良いんだ?」
玉藻前の顔が蒼白する
これで精神的に屈服したはず
「世界の時間の進みをズラすぐらい
私にとっては訳ないわよ?」
私は嘲笑う様に更に追い討ちをかける
「やはりこの空間は時が
ほぼほぼ進んでいない」
ネクがふむふむと
パラパラとページを開く
「玉藻さん?これは戦いよ?
貴女の選択で終わらせられるわ」
ニコッと私は微笑んだ
「時か?それにしても
逸脱し過ぎている...」
ネクさんがページを閉める
知識には無かったらしい
そうよね、旧世界の知が集まる
魔界に未来の知は無いわ
最も私たるは最先端中の
最先端に座しているのだけれども
「時魔法は魔力行使自体の
限界点をゆうに超えてしまう為に
様々な制限と高いリスクを持って
生み出されてきたわ
何故なら時魔法は
臨機応変型の全範囲魔法行使だから
一部の例えば雨にする魔法等とは
行使する属性の割合が桁外れに多いわ
人に物に精神に整合性を
作用させるという意味がどれだけの事か
お判りかしら?」
「うむ...適材適所の行動を起こさせる
擬似的な世界統一化の魔法を
時魔法と呼ぶのだな?」
「そうよ、その限界が無い
魔法を使えるのが
私といったところね」
私は玉藻前の氷を溶かした
これでネクさんをはじめとして
魔物の国には順応になってくれればと
私は思うわ
私達は元いた場所に帰って来ていた
ネクさんは玉藻前をなだめていた
「........」
「ばっちゃ?」
「見事と言うべきかねぇ
世界創造、創ったかどうかも
分からんかったよ...」
「私が監視していた
大した事じゃ無い」
ネクさんがばっちゃに今回起こった事を
かなり捻じ曲げて説明している
「ハツミ...渡す前に話をしよう
今日は泊まって行きんしゃい」
「えぇ、分かったわ」
むしろ今日はお願いするつもりだった
私はばっちゃに1人ついていった
そして2人は一時、無言で歩いていた
そこは神霊が宿る様な霊験あらたかな
霊樹が所狭しと覆っていた
その小道を私はついて行く様に
歩いた
「ここは"イナマ"の地じゃ
ミコンも未だ入れた事は無い
どの様な場所か分かるかい?」
「俗に言う聖域ね?」
「珍しい、イナマに歓迎されておる...
それにしても良く知っておったの!」
草を踏みしめる音が響き
空気を割く音が微笑む
とにかく空気が澄んでいた
「ついたよ、ハツミ!ここが"イナマ"」
ばっちゃの声が調和して響いた