第279階 良い匂い
お父さんは戻ってきていた。
どこかよそよそしい感じがするかも。
「席を外してわるかった。
ナティラと同じようなこと言うんだから
心臓に悪い、嬉しい意味でな!」
(『素敵だね、キレちゃんっは。
うん、とっても素敵』)
「お母さんと私は似てるんだ」
なんだか誇らしかった。
大好きなお母さんに似ている事。
お母さんと同じ様な言葉を紡げた事。
「あぁ、似ているといえば似ているな
けれどハツミはハツミ、ナティラはナティラ」
私は私。
お母さんはお母さん。
お父さんの言葉に本当に心が喜んでいる。
その、向日葵のような大きな笑みも好きで。
頭を撫でてくれる手も。
たくさんの強い魔物を倒してきた強い手なのにこんなにも優しくて。
「ぜんぶうれしい」
私の心は子供の頃に戻っている。
無邪気な子猫のような気持ち。
猫に産まれたことはないけれど、多分あってる。
「何度だって伝える。
お父さんをいつでも頼っていいんだぞ。
俺もお母さんも何よりもハツミの一番の味方だ」
私の気持ち、心はあたたかい光に包まれていくように
何か強い守護の力が働いたような、お父さんの言霊が
とても強力な魔導士のローブのように私に纏っていく、そんな気がしたわ。
「頼るよ!頼らせて!お父さんとお母さんは最高の味方だね」
自然と笑顔が零れ落ちている。
王院生活は始まったばかり、これからまだまだ
色んな事が起こるだろうけど、私は一人で戦ってはいない。
「あぁ、そうだな!!特に相談事がなければ寝ようと思うけどそれでいいか?」
今、困っている事はあったかな~。
【ソレイール・アンジュ】で貰った刀も渡せた、
私が使っても良かったのだろうけど。
「知っているのか分からないけど、『ルージュ』って名を知ってる?」
ふと思い浮かんだ『ルージュ』の名。
私はお父さんから、その名にまつわる話しを聞いて
私の部屋へと戻っていった。
寝室で綺麗な布団に包まれながら、
お父さんの言葉を思い出していた。
とても重々しい雰囲気で。
「師匠は寝たきりなんだ。その原因を作った月人の男だ。
師匠曰く、月人達の初代皇帝だそうだ、実に厄介な男の名らしい」
お父さんは、なぜ名前を知ってるんだ?と
瞳ではうったえてきていた。
でも私は『ありがとう、おやすみなさい』と言ってその気持ちに蓋を閉じた。
私はそれ以上は考えずに目蓋を閉じて
明日のお母さんの朝食を楽しみに夢の世界への扉を開いた。
身体が静かに音を消失していく、世界に溶けるように染み込んで行く。
あれは、彼女かしら。
一歩一歩石段の様な階段を登って行く。
崩れていくのは彼女の足跡のついた物。
音も無く石が世界に染み込んで溶けていく。
彼女はそれをまったく気にせず登って行く。
最上位には紅い瞳に紅い髪、紅い刀、どこまでも紅が際立つ男。
そうルージュが口元だけを緩めている。
彼女は進まないといけなかった。
そう思わせられている様に意思が囚われている様に見えた。
彼女は殺意と憎悪を一身に受けながら、
歩を進めていた。
紅が際立つ男の横に見知らぬ影が四つ。
顔は見えなかった。
さきほどまで夢の中だったから私の身体は
眠るのを優先していたみたい。
顔を知っても今は意味がないように感じる。
月人が生存しているかどうかなんて今の私には。
まぁ、起きるか。
私はとりあえず身体を横にしたわ。
起きたくないといえば起きたくない。
全身をくるんでいる寝具の寝心地の良さがとても良い感じだから。
あ、でもでも鼻がむずむずする。
漂ってくる心地良い匂いに、身体が反応して起き上がろうとしている。
お母さんにも勝てないわ。
集然を操って、まずは私を起き上がらせて立たせる。
次に寝衣をお出かけようの服に着替える。
本当に良い匂い、鼻が喜んでる。
香辛料の強い匂い。カレーかしら!
寝起き直後だから重いとも思ったけれど、匂いが良過ぎてどうでもいいわね。
食べたい気持ちが勝っている。
私の足は早かった。
起きる時の気怠さが空気の様に軽くて、翼が生えているかの様に軽やか。
鼻に嬉しい匂いが私を喜ばせてくれるわ、お母さんすごい。
楽しみにしている私に隣のお父さんは、
食事を行う部屋に入った時からずっと微笑んでくれている。
たくさん食べるのが好きな事がもうバレてるわ。
昨日はお父さんよりも多く食べてしまったから。
お父さんとお母さんの前に置かれていく、カレー。
お母さんは笑顔で私に受け取る様に笑顔だった。
「お皿大きいよね?」
「ハツミっはたくさんっ食べるでしょ」
はい、そうです。
たくさん食べます。
私の心は感謝で包まれていた。
「そうね、ありがとお母さん。おかわりもあるかしら」
「あるよっ」
安心したわ、えぇとても。
お腹が鳴りそうなほどに
目の前のカレーは美味しそうで。
「みんなで全部食べても大丈夫だ、次は俺が作るから」
「頼もしいわ」
あ、私はたくさん食べても良いんだって。
よし、食べるわって気持ちが高揚してくる。
もう、食べたいんだね。私っていたわれる。
「「「いただきます!」」」




