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89話 試作品の出来

 遅くなりました!やっと更新です。

新しいアイテム考えるの楽しいけど時間かかる……orz



 ことん、と軽い音を立てて置かれた黒い塊。


握り締めた自分の両手の平に汗が滲むのが分かる。

ゴクリ、と乾いた口の中を無理やり潤す為に生唾を飲む。

艶々とした円柱状のソレを見ながらリアンが疲れた様にため息を吐いた。



「もしかして失敗してた? 黒い煙も変な匂いも音も爆発もしなかったから、大丈夫だと思ったんだけど」



木炭もどきと心の中で呼んでいる謎のアイテム。

 おばーちゃんのレシピにもないソレは、間違いなくオリジナル調合と呼ばれるものだ。


 採取旅の最中にリアンから『オリジナル調合』について聞いたことがあった。

なんでも、オリジナル調合は“基礎”がきちんとしていないとできないらしい。

素材の選択から手順まで完全に手探りだから、理論を立てて、検証して漸く完成するというのが殆どだとリアンは話してた。


 学院では、オリジナル調合ができるように理論という名の講義も設けられているらしい。

参加できるのは二年生の成績優秀者と三年生…って話なんだけどね。



(私は理論って言われても作りたいものが作れそうな素材を選んで、近いレシピの手順参考にすれば大体どうにかなるって教えて貰ったんだけど)



勿論、例外は多い。

 分類でいえば薬に関する調合や高度な道具などを作る時、前例のないアイテムを作るならば理論は学ぶ事を推奨された。



(おばーちゃんはそういうのなしで作ってたし、人によって方法が違うのかと思ったんだけどな)



恐る恐るリアンの顔色を窺うように視線を向けると、リアンは眼鏡の位置を正してから小さく首を横に振った。



「いや。アイテムとして成立している。名前はついていないが、効果はきちんと出ているからな―――……参考までに聞くぞ。コレはどういう意図を持って作ったんだ」


「油素材って今の所買うしかないでしょ? いい油は高いし、料理にも使うから勿体ないと思ったんだよね。安い油って言えば獣油くらいだから何とかして使えないか考えて、臭いさえなくなれば問題なく使えるかなーって。ほら、原材料費は抑えた方がいいって聞いたから」


「なるほど。このオリジナル調合をするにあたって、理論はどういうのを使ったんだ? 資料があるなら見せて欲しいんだが」


「理論? そんなのないない! おばーちゃんも使ってなかったし。こういうのは勘で素材選んで、後は元々あるレシピと素材の性質とかを見て、調合方法を決める感じなんだよ。使うのは使用する素材関連の辞典くらいだし。流石に薬とかレベルの高い道具とかはこの方法じゃ無理だけど」



やだなー、と笑いながらパタパタと手を動かしてみる。

……リアンの視線は一向に逸れない。



(あ、あれー。なんか、ちょっと雰囲気が怖いんだけどなー。私なんか言ったっけ)



冷や汗が噴き出るのと同時に、笑顔は引っ込んだ。

何かまずいこと言ったっけ、と必死に考えてはみたけど、他人―――しかも学年首席のリアンが考えることなんて私にわかる訳もない。



「か、鑑定結果聞いてもいいかな」


「鑑定結果は、これだ」



サラサラと手元にあったメモ用紙に書かれた内容を見て私は眼を瞬かせる。

鑑定結果は下の通りだった。



【???】

吸臭効果のある練り炭。悪臭に限らず匂いだけを吸い取る性質がある。

効果がなくなると白くなる。一度吸った匂いは吐きださない。



 簡潔かつ単純な説明文に首を傾げる。

消臭じゃなくて吸臭ってどういうことだろう、と考えてみるけど使ってみなくては分からないという事で香油を調合することにした。



(確か、オマケでもらった獣油があった筈。香草もミントからたっぷり貰ってるし、ミックスハーブの香りでチャレンジしてみよう)



香油の作り方はもうわかっているんだけど、問題はコレをどのタイミングで投下するか。


 ううむ、と腕を組んでいる私にリアンが何か探るような視線を向けてるのが鬱陶しいから、巻き込むことにした。

チラッと見たベルは虫よけ香の調合に熱中している。



「ねぇ、今から獣油を使って香油を作ろうと思うんだけど、リアンが作る?」


「は? 君じゃなくて僕が作るのか?」


「そう。よくわかんないけど興味あるんでしょ? 一応新しい調合だし、これなら爆発もしないだろうから安全だし。失敗しても温かい油被るだけだから」


「油を被るのは御免被りたいんだが……まぁ、やらせてもらえるなら」


「じゃ、これどうぞ。多分これで一回分」



調合した黒いアイテムを一つ渡す。

四等分にしたから残りは三つで、あと三回は失敗できると言えば呆れられた。



「【香油】の素材になる薬効油からか。薬効油の素材はあるか?」


「ちょっと見に行こうか。えーっと、素材は……」



手元のレシピ帳を開いて【香油】の素材の一つである【薬効油】のレシピを確認する。



【薬効油】調和薬+油素材+薬素材。

効果は素材によって異なる。

基本は油素材と調和薬を人肌(35~40度)で温め、薬素材を入れて魔力を込めながら一時間ほど混ぜる。薄布で濾したら完成。



 パッと見る限り残したい香りがないから、入れるタイミングは問題ないと思う。

問題といえば、吸臭効果が引き継がれないかどうかだ。


 リアンと二人で地下に降りて作り置きの調和薬や品質のあまり良くない薬素材、獣油を持ってリアンが使っている作業台へ向かう。

下準備として薬素材として選んだエキセア草の葉を千切って傷んでいたり変色しているものを選別しつつ、調合窯の周囲を見回してみる。



(リアンの調合釜の周りってやっぱ本が多いなぁ。器具なんかはまだ揃ってないから棚に空きはあるけど、棚が埋まってきたらこの本どうするんだろ。部屋の中にも本沢山あったよね)



そのうち空き部屋の一つを書庫にしたいとか言い出しそうだな、と考えていると棚を見ているのに気付いたらしいリアンが不思議そうな顔をした。



「何か気になるものでもあったのか。随分棚を見ているが」


「あー、うん。薬の調合するなら天秤ばかりと蒸留器そろそろ買った方がいいんじゃないかと思って。自分に合うのが見つかるか作ってもらうまでは私の貸すけど、たぶん、ベルも使うようになると思うんだよね。ほら、爆弾って火薬の調合量とかで威力変わるでしょ? ベルもまだ持ってなかったような気がして」


「そう、だな。開店準備が整ったら道具を見に行ってみるか。君も来てくれるか? 道具の品質や出来は分かっても道具に関する知識は十分とは言えないし、なにか助言があれば聞きたい」


「いいよ。まぁ、道具選びって勘みたいなものらしいから人に聞かれなくても分かると思う。こう、手にしっくり馴染むんだよね。魔力の相性っていうのかなぁ……私の場合はおばーちゃんの調合道具にずっと触れてたからもう馴染んでるけどね」


「そういうものか」



なんだか納得のいかなそうな顔をしているリアンを見て、ふとこの工房に来たばかりの時を思い出した。

 あの時、部屋を選んだのが一番最後だったから調合釡は一番に選んだんだよね。



「調合釡選んだ時の事覚えてる?」


「ああ、覚えている。当時は物の価値を見極めることも出来ないのかと思ったな。理由があるのか?」


「わかってたけど、リアンって相当口悪いよね。これもおばーちゃんの受け売りなんだけど、調合釡だけは古いものの方が魔力の馴染みが良くて扱いやすいみたい。釜を作るのに使われてた素材も今とは違って頑丈らしいんだ」


「ちゃんと根拠があって選んだのか。普通は一番綺麗なものや新しいものに飛びつくことが多いから違和感はあったが」



目利きができない訳じゃなかったんだな、と感心した様な見直したような視線を向けられるけど嬉しくはなかった。

 ムスッと唇を尖らせる私の横で、調合道具や濾し布などを用意し終えたリアンがふむ、と腕を組んだ。



「さて。冗談はこの位にして、調合だが……温度調整さえしてしまえば問題なさそうだな」


「だね。薬効油って結構時間かかるから夕食後にも作ろうよ。結果を見て、だけど上手くいけば結構な量作れるはずだし。私は減ってきた調和薬補充して、夕食作っちゃうね」


「わかった。僕の方は調合して鑑定を済ませておく。結果は食事の後でいいな? 今日は調合してから休むんだろう」



首を縦に振ってリアンの作業台から離れてベルの作業台へ。

ベルにも自分の予定を話すためだ。

こういう報告って結構こまめにするようにしてるんだよね。予定立てやすいし、話すの楽しいし。

 ベルは丁度二つ目の虫よけ香を作り終えた所だったようで、真剣に二つの虫よけ香を見下ろしている。



「ベル、どうしたの? 何か難しい顔してるけど」


「ああ、ライム。丁度よかったわ。私ずっと考えていたのだけれど……コレ、置いておくだけで効果を発揮するような形に出来ないかしら」


「そっか、虫よけアイテムって言えば虫取り香くらいだもんね。アレ、振動とかに弱いし、持ち歩けないし」


「そうなのよ! 効果は確かなのだけれど持ち歩けないのが不便で。野営ってどうしても虫が寄ってくるじゃない? 虫よけ効果のある香を焚いたり、虫が嫌う香りのオイルを塗ったりもあるけど、どうしてもねぇ。快適に野営をする為にも虫よけアイテムを充実させたいの」



 今現在の虫よけ対策は虫よけ香や乾燥させたアチアの花を焚くしかない。

お金持ちだと、アチアの花を蒸留機にかけて抽出したオイルを振りかけたりして虫よけをしているらしいけど、香りって弱くなるから定期的に塗り直す必要があるみたいで、状況によってはかなり不便だ。



「錬金術で調合したアイテムはどれも効果が強いし期限が来るまで品質と効果は保たれるでしょう。それなら、いっそ常設型の新しいアイテム作れないかと思ったのよ」



作業台の上の虫よけ香を眺めて、ベルは言う。

 あったら便利だと私も思ったので考えてみる、と返事をしてとりあえず調和薬を調合してしまうことにした。

ベルはある程度虫よけ香を作ってしまうらしい。


 その姿を見ながら、置いておくだけで効果が出るアイテムの“元”になるものを考えてみる。

調和薬の調合ならもう気を付けなくても出来るしね。



(気軽に持ち歩けるとなるとやっぱサシェかな。あれ、ドライハーブとか入れて持ち歩くやつだし香りはするだろうけど)



でも、大体見えないように服の内側とかに入れたり、匂いのあるモノの横において消臭するって役割が大きいから……みたいに考えている内に調和薬が完成。

きちんと瓶に一回ずつに分けてから、それらを地下に運ぶ。



(考えなくちゃいけないことはあるけど、先ずはご飯だね。お腹空いてきたし)



 調和薬を置いている場所に補充分をきっちり並べてから夕食に使う食材を持って、地下室を出た。



「結構時間に余裕もあるし少しだけ手の凝ったことしてみようかな」



お肉はハンバーグにしようと決めて、両手に包丁を一本ずつ握って構える。

 ベルやリアンが見てたら驚くかもしれないけど二人とも調合釡の前だから問題はなし!


 まな板の上に乗った大量の肉をある程度の大きさにしたら、刻んで、刻んで、刻みまくる。

腕が痛くなってきた頃、漸く満足いく状態になったのでボウルに入れて置く。

あとは、同じくみじん切りにした野菜やスパイス、塩を入れて混ぜ合わせる。



(お肉屋さんにはミンチ状のお肉、売ってないんだよね)



 王都でもそうなのだから、田舎では勿論見かける事は無い。

実際お肉の塊をミンチ状にするとなると結構な時間がかかるんだよね。

だからお店で注文すると手間賃が上乗せされて高くなる。



「いいけどね、自分でするし。でも、一人分や二人分ならまだしも四人分ってなると結構疲れるし、イライラの解消にってことでベルに手伝い頼んでみよう。サフルでもいいし」



独り言を言いながら、私はハンバーグの下拵えを終えた。

スープはマタネギがメインのアッサリ系で、サラダもつける予定だ。

 今日はいつもより早く支度を始めたこともあって少しだけ張り切ってみた。

大きいのが一人二つに加えて、明日の朝に食べる用として普通サイズを四人分用意したんだよね。


 皆の口に合うかどうかは分からないけど、私はこの料理が好きだ。


余った野菜とか混ぜても分かりにくく、量を誤魔化せるから便利だ。

味もある程度はっきりしているからどんなものを混ぜてもちゃんと「ハンバーグ」になるのが少し錬金術に似てて面白いと思う。

 


「ソースは赤ワインベースにしようかな」



 鼻歌を歌いながら料理用の赤ワインを取り出し、鼻歌と共に料理用ヘラを握った。





◇◆◇




 夕食は、四人で食べることができた。



 お肉を焼き始めた所で、工房の扉が開いてそこから手紙と荷物を持ったサフルがよろめきながら帰って来た。

重たい荷物を慎重に私の作業テーブルに置いた後、作業テーブルでベルと話し込んでいたリアンに手紙を渡しているのが視界の隅に映った。



「ライム様、お手伝いさせていただいても宜しいでしょうか」



成形した肉から滲んだ肉汁が熱くなった鉄板によって熱される音が聞こえたのか、ちらっと視線が私の手元へ注がれる。

 ごくり、と小さく喉が動くのが見えて思わず笑ってしまった。



「今日はハンバーグって料理ね。これ、硬い部位のお肉と脂身の多い所を混ぜてあるんだけど、ミンチにしてるから食べやすい筈だよ。ソースは赤ワインソースね」


「お皿はどうしましょうか」


「四人分用意してくれる? いつも通りスープ皿と大皿、パン用の皿、サラダボウルで大丈夫だよ。明日、ハンバーグ煮込んでパンに挟んでいつもの所に置いておくね」



 表面が焼けたらひっくり返して同じように焼く。

ハンバーグに限らず、料理は焼き方ひとつで味が変わるんだよね。


 サフルの手伝いもあって予定より早くご飯が完成したので二人を呼ぼうと思ったんだけど、既に手を洗って此方へ歩いてきていた。



「……早くない?」


「話をしながら様子を窺っていたから当たり前じゃない。これ、何て言う料理なの? 随分美味しそうだけど」


「ハンバーグって言うんだけど、知らない?」


「ミートローフの仲間みたいなものかしら。まぁいいわ、美味しそうだし」


「スープはマタネギと香草が少し入っているんだな」



肉料理が好きなベルはハンバーグ、スープが好きなリアンはスープをチェックして皆で食事の前の挨拶をしてから食事を開始した。


 ハンバーグはみんな気に入ったらしくてベルもリアンも次から肉をミンチにするのは手伝うから、また作って欲しいとのこと。

何時もの様に食事を終えるとサフルが食器洗いの為に席を立ち、次いでベルが紅茶の用意をするため戸棚へ向かう。

リアンはテーブルを拭いて、作業台から小瓶を持って来たかと思えばメモ用紙に何かを書き始めた。


 私はといえばレシピ帳と教科書を捲っているんだけど、これって物がなかなか見つからない。



(持ち歩きできて邪魔にならないもの……か)



香りのある薬草なんかを利用して作る雑貨を思い浮かべる。

 好きな香りになるように薬草や香草を摘んで乾かし、部屋に置いておくのはおばーちゃんもやっていた。


 そんなことを思いつつ、私も安く購入したメモ帳に雑貨の名前を書いていく。



・タッジーマッジー:魔除け・厄除けの花束

・ポマンダー:厄除け病除けの御守り

・リース

・キャンドル

・ポットポプリ:瓶などに塩・香りのある草花を入れて熟成させたもの

・デュールロゥフ:硬い卵と呼ばれる置き型の香り玉。



 この中で使えそうなものは、と考えていると紅茶が完成したらしくベルがそれぞれの前にカップを置き、いつもの席に腰かけた。

 淹れたての紅茶を口にした所でリアンが口を開く。



「まず、ライム宛てに父からお礼の品が届いているからこの後確認してくれ。何を入れたのかは分からないが、君が発見し商会にクラスターを売ってくれた礼だそうだ」


「お金はもう貰ってるのにわざわざ?」


「国王へ献上したクラスターが王と王妃のお気に召したらしい。献上会では優れた献上品を送ったものに直接王が声をかけることがあるらしいんだが、先日呼び出しを受けて大口の注文を受けたと報告があった。元々、王城との取引はしていたんだが、王に直接声をかけられるのとでは意味合いがかなり変わってくる。今後商売がやりやすくなるだろうし、僕からも礼を言わせて欲しい」



何を貰ったのかは分からないけれど取り合えず頷いておいた。

 次に、テーブルに置いていた小瓶を私たちの前に置き直す。



「次は確認して欲しいものがある。これはライムが調合したアイテムを使って作った薬効油だ。瓶に移す際、臭いの有無は確認したが念の為、君たちにも確認して欲しい」



そう言われたので小瓶の蓋を開けて匂いを嗅いでみる。


 油の匂いすらしない完全な無臭。

変な感じだなぁ、と思いつつ瓶をベルに渡す。



「獣どころか油の臭いもしなかった」


「そうね。獣独特の匂いが微塵も無いわ。ちょっと触ってみたけど、本当に無臭」


「僕も確かめた時は驚いたよ。元々、獣油は臭いや腐りやすさ、大量に持ち込まれることもあって捨て値に近い。それを無臭に出来るなら、本格的に素材として取り入れていきたいんだが構わないか」


「いいんじゃないかしら。ただ使用感は確認する必要があると思いますけれど」


「私もいいよ。元々そのつもりで作ったものだし」


「それなら、先ずは量産を頼む。他にも利用価値はありそうだしな。保存は真空瓶の中に入れておけばいいだろう」



おおよその数を聞いて、必要な素材を書き出しているとベルが怪訝そうな表情を浮かべていたので作ったアイテムを見せた。

 感心した様な呆れたような顔で一通り炭のような何かを眺めて、一言。



「アイテム名は何ていうの?」


「え? そう言えば考えてなかった。んー、じゃあ臭い吸う炭だから【吸臭炭きゅうしゅうたん】でいいや」


「ライムって色々と潔いわよね……普通オリジナルアイテムの名前ってもう少し考えるんじゃないの」


「わかりやすい呼び方なら何でもいいとおもうんだけど。あ、レシピ教えとくね」



口頭で構わないと言われているので作成手順や材料を説明し終えた所で、ベルが口を開いた。


 内容は私に話した常設型もしくは持ち歩ける虫よけアイテムについてだ。

ベルが話し終わったのを見計らって書き出した雑貨一覧を見せる。


 こういう雑貨を作れるのも錬金術の強みだと私は思う。

組み合わせ次第では色々な効能や効果を付加できるし、それを看板商品として売り出している工房は多い。

魔力色に応じて得意なものが違うし、その人の腕や考え方によって付加される効果も違うから、同じ商品でも買う店を使い分ける冒険者や騎士は多いらしい。



「(錬金術のアイテムって高いしね。どうせ買うなら少しでもいいものをって考える気持ちはよーくわかる)応用効きそうな雑貨ってこんな感じだけど、キャンドルは却下だよね。持ち歩きにくいし」


「そうね。それで行くとリースとポットポプリは難しいと思うわ。耐久性と持ち運びが不便だもの。タッジーマッジーは大きさと強度次第だけど……」


「量産が難しいものも却下だからな。それを考慮するとポマンダーかデュールロゥフの二択になるが、錬金術で作るとなると何とも言えないな」


「素材の手に入りやすさで選ぶならポマンダーだけど、強度で選ぶならデュールロゥフだよね。どうしよう? 両方作ってみる?どっちにしても色々用意が必要だと思うけど」



ちらっと発案者であるベルを見ると難しい顔でメモ用紙を眺めていたが、やがて小さく息を吐いて緩く首を振った。



「ありがとう、二人とも。まずは今後の目標ができたと思っておくわ。これ、イチから考えて実験して……となると、時間がかかる事だしまずは開店準備でしょ? 私もまだ虫よけ香を作ってストックしておきたいし、レシピ案ができたら意見を聞かせて頂戴」



そういうことなら、と私たちは頷いてこの日はそれぞれ商品の補充に向けた調合をしてから部屋に戻ろうと片付けを終えて部屋のドアに手をかけた時、二階からリアンの声が聞こえる。



「明日の朝、正式に開店日時を決めたい。少しでいいから時期について考えておいてくれ」



一階にいる私は少しだけ大きめの声で返事をしてから自室に戻った。


 寝間着にしている服に着替えながら、ベッドに入る。

心地いい疲れと眠気を感じて眠りに落ちる瞬間……サフルが何か言いたそうに私たちの傍に立っていた事をふっと思い出した。




 

読んで下さって有難うございます!

とりあえず、本編描きつつチマチマ番外編でもかければいいな……(白目

 誤字脱字変換ミスなど例の如く沢山あると思うので、間違い探し的な感じで教えて下さると嬉しいです…毎度ご迷惑おかけしております。


=素材とか=

【エキセア草/薬草】一般的に薬草と呼ばれ、親しまれている草。

抵抗力を高める効果があり、薬によく用いられることから薬草として広く認知されることとなった。

食べることもできるが苦味が強い。

軽い風邪などの場合はこれを摘んで乾かし、粉状にしたものを飲む。

花は一年に一度咲くが花には苦味もなく薬効も高いことから少々高い。匂いは青臭さがある。

【虫よけ香】

アチアの花+香りの粉+水素材。

アチアの花と香りの粉を同量、投下して魔力を加えながら花が香りの粉と混ざる様に混ぜる。混ざったら少量ずつ水を入れていき、纏まったら取り出して成形。

乾燥させると出来上がる。大きさにもよるが1時間~3時間程度持つ。

湿気に弱いので注意。


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