85話 思いついた調合と完成した薬
立て続けにごちゃーっと書いていると、書く側の方が頭こんがらがってくるっていう……ハイ。
すいません、おそくなりましたーー!!(いつものこと
イオとエルが工房を去るのと入れ違いに、サフルが戻ってきた。
げっそり草臥れているサフルに首を傾げつつ温かいスープや温めたパンを食卓に出す。
テーブルの隅っこで体を縮める様に座るサフルは温かいものを口にして、泣きながらお礼を言い、次々に食べ進めていく。
昼食は食べたのか聞けば「大変美味しく頂きました」と食い気味に返事が返ってきて、私は曖昧に笑いながら頷いた。
「そういえば今日は髪、綺麗に撫でつけてるんだね。さっぱりしてて似合うよ。邪魔にもならないだろうし」
「っ……そ、そうですか?」
「うんうん。凄く仕事出来そう」
実際、サフルはウォード商会に通い始めてから綺麗になったんだよね。
長く伸びっぱなしだった髪は清潔感のある長さに切り揃えられたし、サイズが大きかった服も体の大きさに合ったものへ変更されていたっけ。
体を洗うのは毎日って決めたから嫌な臭いもしないし。
(少し余裕ができたら揃える気だったとはいえ、もっと早くちゃんと揃えればよかった。見た目だけじゃなくて、言葉遣いとか動きとかも丁寧になってきて驚いたっけ、そういえば)
ただ、お礼の言い方がどんどん過激になっているような気がする。
奴隷の人って皆こうなのか?と内心疑問を持ちつつ笑顔を浮かべた。
「まだスープ飲む? 明日の分はちゃんと確保してあるから、もう一杯くらいなら飲んでも大丈夫だよ」
「いえ、あの……おれ、いや、私は……」
申し訳なさそうな顔でスープ皿を見て否定とも肯定とも取れない態度をとるサフル。
自分から食べたいと言い出せないらしく、しびれを切らした私は食べられると判断してスープを入れた。
その結果、涙声でテーブルに頭を打ち付けながらお礼を言われることになったんだけどね。
流石に狂気じみていて若干引いたことはサフルには言えそうにない。
後片付けは自分にやらせてくださいと椅子から降りて床に座って頭を下げ始めたので、慌てて止めて後片付けを頼んだ。
あと、湯浴みを済ませたらついでに軽く掃除しておいてくれると助かると言うと、凄く嬉しそうな顔を向けられる。
「私は調合でもしようかな。思う様に調合できなかったし」
「お手伝いすることがあれば何なりとお申し付けください」
「え。いや、特にないよ。サフルも疲れただろうし自分のこと優先で終わらせてね。暇だったら後片付けちょっと手伝う位で全然いいし」
「………わかりました。では、片付けをお手伝いさせていただきます」
しょんぼりと肩を落として食器を片付けるサフルの背中からは寂しさに似た何かが滲んでいた。
不思議に思いつつ私は手帳を開く。
魔石ランプを使っているから明るいけど、それでも細かすぎる作業は無理だ。
(でもどうせ調合するなら新しくて商品になりそうなのがいいよね)
結局、調合できなかったベルの【虫よけ香】に使う錬金素材を用意しておく、というのも有りだ。
リアンの見立てだと、店を開いて三日は忙しいだろうってことだし、お客さんが何をどれだけ買っていくのか分からないからとりあえず作っておこうっていう方針なんだよね。
なにも思いつかなければストックを作ろうと決めて、改めて「何かないかな」と考えてみる。
「あ。そういえば幾つか消費したいものあったっけ」
思い浮かんだのは地下の食料置き場に積まれた食材たち。
夕食の食材を取りに行ったとき目に付いた木箱には、規格外だったり熟した食べごろの野菜や果物が沢山保存してある。
普通なら買わない量なんだけど、ここの地下は劣化しないから買い溜めにはもってこいだった。
錬金術の素材として食品を使うことも多いので無駄にはならないし、させない。
もったいないし。
「確かゴロ芋の在庫が結構あったな。劣化することはなくても、場所も取ってるし長期間放置してたのを使うのってなんか嫌だもんね。どうせならゴロ芋を使った保存食的なものを作ってみたいなぁ」
ぶっちゃけ、芋は安い。
一つ植えると沢山収穫できるものや、長期保存が効く物は国が多めに作るよう各領地に言っているらしくて安定して安いんだよね。
天候不順とかで生育が悪かったり、収穫量が減るとじわじわ値段が上がる物の代名詞でもあるんだけど。
パラパラと食料系のレシピが書かれているページを捲ってみるものの、新しいレシピは増えていなかった。
「新しいレシピがないなら代替え用品的な感じで使う位しか思いつかないや」
代替えとして使うなら、と考えてゴロ芋のスープが思い浮かんだ。
ミルの実とマタネギを使ったゴロ芋のスープで真っ先に思い浮かんだのは、トロミのある白いスープ。
おばーちゃんは “ジャガイモのれいせいスープ” とか “ジャガイモのポタージュ” とか言ってたっけ。
甘くはないんだけど結構美味しいんだよね。
(考えてみるとメイズを使った簡易スープの素と仕上がりが似てる。メイズをゴロ芋に置き換えたら作れちゃったりして)
どちらもご飯の代わりとして使える優秀な食材だし、比較的安価。
保存も効く、なんて共通点っぽい所を考えながらは地下室に向った。
緊張と不安と好奇心でドキドキと賑やかな心臓。
心臓に掌を乗せて深呼吸し、落ち着いてからゴロ芋やミルの実、マタネギなどを用意する。
動揺したまま調合すると失敗することがあるんだよね。大爆発したら片付け大変だし。
エルが寝ていた作業台をざっと拭いて一回分量の材料を処理する。
(まずは、乾燥メイズの代わりにゴロ芋だね。皮を剥くのはいいとして、すり下ろすのは違う気がする……角切りにしておこうかな。マタネギはみじん切りでいいけど、これだけだとぼんやりした味になりそうだから、ゴロ芋には乾燥させた香草を刻み塩と混ぜた香草塩を振りかけてっと)
野菜の下準備は10分もかからずに終わったので続けて、硬いミルの殻を割る。
大きめのボウルにミルの実から出る白く濃厚な果汁を入れた。
スライムの核は、今回私がスライムを倒した時にドロップしたE品質のスライムの核を使うことに。
「念の為にレシピ確認しておこうっと」
手帳を開いて簡易スープの素のページに改めて目を通した。
【簡易スープの素】
乾燥メイズ+ミルの実+スライムの核+マタネギ。
乾燥メイズは予めすり潰しておき、マタネギはみじん切り。
上記の素材を調合釜に入れ、じっくり加熱。混ざったらミルの実を割り液体のみを注ぐ。
しばらく混ぜ、とろみが付いたらボウルに液体を移し、スライムの核を入れる。
スライムの核が水分を吸い取りサラサラの粉末が残るまで一気に魔力を注ぐ。
失敗すると、煮ても焼いても食べられないドロッとした何かが出来上がる。
今回作るのは乾燥メイズをゴロ芋に変えただけのアレンジ調合だ。
心配なのは味。
元々普通に作るスープでも、メイズにはしっかり甘味があるから殆ど味付けが要らないのに対して、ゴロ芋にはちょっと味をつけないと何処かぼやけた味に仕上がる。
私は少しだけコンソメスープを粉末にしたコンソメ粉っていう錬金調味料を加えるんだよね。
錬金術が上手くいかなかった頃は、コンソメスープを濃縮したものを少し加えて、ミルの果汁で味を調整していた。
「完成したら味見してみよう。必要なら味を後で足さないと」
実験として、後で味を足したものと、素材として調味料を加えるのでは味がどう違うのか検証するのも良さそうだ。
考え事をしながら、順番に素材を調合窯に入れて火加減を調整する。
少量だからといって調合時間が短縮できるわけじゃないのが錬金術の不便な所だ。
大量に作っても時間が変わらないって言うのは利点なんだけど、その逆は少し勿体ない気持ちになる。
(根っからの貧乏性なんだろうなー。最小限で最大限の利益が……みたいなこと考えること、時々あるし。リアンに似てきたのか、元々の気質が影響してるのか難しい所だよね)
グルグルと杖にも混ぜ棒にもなる万能武器で釜の中を混ぜていると、息を切らせたサフルが戻ってきた。
「ライム様! 浴室の掃除も終わりました。是非、お手伝いをさせて下さい」
「え。随分と早いね」
「湯浴み場は広くないので掃除は直ぐに終わりました」
「そっか、じゃあ地下からゴロ芋、マタネギ、ミルの実を2つずつ持って来てくれる? その後は、スープ皿を3つ。お湯を沸かす準備をしておいてくれると嬉しいかな」
「はいっ! お任せください」
雑用を頼んだら凄い満面の笑みを向けられた。
ええー、と思わず動きを止めた私だったけど直ぐに調合中だったことを思い出して、再び釜の中に意識を戻す。
丁度とろみがついた所だったので、液体をボウルに移してスライムの核を入れボウルの中に魔力を伝えるイメージで一気に魔力を注ぐ。
水分が減ると同時に膨らんでいくスライムの核はなかなか面白いけど、こっちは加減を誤らないように必死だ。
スライムの核は水分を吸い過ぎたり魔力を注ぎ過ぎると爆散する。
片付けが凄く大変なので必死だ。調合したアイテムも駄目になるし。
水分が完全に無くなり、サラサラの粉になった所で魔力を切った。
一度コルク栓の小瓶に粉を移してからサフルが持って来てくれた素材の処理を済ませて、ゴロ芋に香草塩をまぶさず素材だけを入れて調合し、それもコルク栓の瓶に詰めて出来上がり。
こっちには赤い紐を結んでおく。
三度目の調合では、丁度いいと思われる量の塩を素材として加えてみた。
これは完成後青いリボンを結んでおく。
「あとは味見だけど……ベルはもう寝るって言って部屋に行っちゃったし、リアンは部屋で調べものをしたいって言って戻っちゃったし」
どうしようかな、と考えた所でリアンだけ呼びに行くことにした。
眠ってるベルを起こすのは気が引けたから、まだ起きてるリアンにだけ声をかけてみることに。
(忙しいって言われたら私とサフルで味見して、一番いい味のを明日味見して貰えばいいか)
そうしよう、と決めてエプロンを外すと、いつから隣にいたのか分からないサフルがサッと私の手からエプロンを取り上げた。
「調合は終わりましたか? もしよろしければ掃除をしておきますが」
「う、うん。じゃあお願いしようかな。私ちょっとリアンに声かけてくるから片付け終わったらお湯を沸かしてくれると嬉しいんだけど」
「かしこまりました。準備を整えておきます」
そう言って軽く頭を下げたサフルに見送られるようにして、私は2階への階段を上る。
ベルの部屋とは反対側にある扉をノックするとリアンの不愛想な声が返された。
そっけない言葉は慣れてるので気にせずにドアを開ける。
すると呆れ顔のリアンがため息を吐いて椅子から立ち上がる所だった。
テーブルには魔石ランプや難しそうな本が幾つか。
他にはつい先ほど使っていたらしいインク壺にペンと数枚のレターセットがあるだけだ。
部屋の中には必要最低限の家具やベッドがあって、あとは本棚がずらり。
程度に二人掛けのソファと小さなテーブルには本が積み重なっていた。
「意外に散らかってる」
「訪ねてきて第一声がそれか」
「いや、もっとこう塵一つない空間で寝てるのかと」
「そんなはずないだろう。ここは本棚があまり入らなかったからどうしても入りきらないんだ。で、何の用だ? 態々部屋までくるという事は何か僕に用事があったんだろう」
面倒そうな顔をしながらも卓上魔石ランプを消し、インクやペンを引き出しに戻している。
結局テーブルには封がされた手紙が三通残された。
「実はちょっと鑑定と味見して欲しいものがあるんだよね。ついさっき思い付きで作ってみたんだけど」
「味見という事は食べ物系か。ベルは……ああ、先に休んだんだったか。明日は早くに出かけると言っていたし、声をかけないのは正解だな」
「だよね。実は私もまだ味見してないからパパッと味を比べて出来がいいのを商品に加えて貰えたらなって。サフルにも意見貰おうと思ってるんだ」
「サフル? ああ、それなら丁度いい。すっかり騎士科の一件で忘れていたが、封印病に対する特効薬【解放薬】が完成したぞ。品質・効能共にCだったから効果はあるだろう」
先に降りていてくれ、という言葉を受けて私は先にキッチンへ戻った。
キッチンではお湯を沸かしつつもカップを三つとスプーンを用意しているサフルの姿。
カップやスプーンの準備までは指示してなかったので驚いていると、私が戸惑っているのに気付いて教えてくれた。
「ウォード商会で『主人の要望に応えるのは奴隷として当然だが、先を見越した働きをすることが何より肝心である』と教わったのです。味見用に皿も用意しておきました」
「難しいこと教わるんだね。私ならまず覚えられないよ……あ、サフルにも意見聞きたいからもう一組お皿用意してくれるかな」
「は、はい! 俺も味見できるんですね……光栄です」
「光栄って大げさだなぁ。あ、そうそうリアンがね薬できたから持ってくるって言ってたよ。良かったね」
ちゃんと品質も効果も鑑定してあるから安心して欲しいって。
そうと笑いかけるとサフルは俯いて、少しだけ湿って震える声で一言「はい」と返事をした。
◇◆◇
二階から降りてきたリアンの手には三通の封筒と一つの小瓶が握られていた。
真っすぐにキッチンへやって来たリアンは、何も言わずにテーブルの上に置かれた小瓶を鑑定し始める。
数分間で三つの小瓶を見終わったリアンは眼鏡をはずし、眉間の辺りを指で揉み解しながら深く息を吐く。
何かまずかっただろうかと思いながらも瓶の中身を味見用のスープ皿に開けた。
開けた傍からサフルが適量の湯を注いで混ぜてくれる。
「とりあえず味見ね。同量ずつ順番に皿に注ぐからそれ飲んで。口直し用にお水は用意しておくから、一つ味見したら一口飲むようにね」
「わかった」
疲れ切った顔をしつつも、素直に味見用の小皿に手を伸ばし出来上がったスープを口に含む。
私も同じようにスープを口に入れて少しだけ驚いた。
完成したゴロ芋のスープは、想像以上の味で思わずサフルとリアンの顔を見る。
二人とも驚いたように目を見開いてマジマジと小皿の中のスープと空になった小瓶を見比べていた。
「なんか思った以上に美味しいような気がする」
トロリとしたスープは滑らかな白い色だ。
微かに香る匂いはゴロ芋とミルの実を合わせた優しい匂い。
何ていうか、家に帰ってきてホッと肩の力が抜けるような、どこか懐かしい感じがする。
口に入れると滑らかな舌触りとミルの果汁でまろやかになったゴロ芋の優しい味と程よい塩気が、じんわりお腹の中から体を温めていく。
「美味しいです、ライム様」
「確かにこれはこれで美味いな。甘味が強いメイズのスープとはまた違うが、メイズの甘味が苦手だという人でも飲めるのが一番の強みだろう」
一つ目の味見を終えて次を口にする。
調合した順に味見した結果、満場一致で塩を素材として混入したものが一番美味しいという事になった。
ほんの少しの差なんだけど、塩を素材として入れたものの方が味が馴染んでいたし、ゴロ芋の味が良く引き出されていた気がする。
「で。どうしてこれができたのか説明してくれ」
味見を終えて、後片付けをサフルに任せた私はリアンに問い詰められていた。
何でだ。
いまいち納得できないものの、作った経緯について話をする。
「寝る迄まだ時間に余裕があったから、何か調合しようって思って色々考えたんだけど、食材として結構スペースを取るゴロ芋のこと思い出したんだよね。メイズのスープもそうなんだけど、ゴロ芋のスープも似たようなトロミがあって雰囲気が似てるから、素材を入れ替えたらスープになるんじゃないかと思って実験したらできちゃって」
「よし、聞いた僕が馬鹿だった。そんな思い付きでオリジナル調合をポンポンされて堪るか!!」
「そんなこと言ったって元々の料理に当てはめれば割と簡単にできるよ。多分だけど、料理してて素材の特性とか知ってる人なら簡単にできると思う。薬とか爆弾、生活用品って色々きっちりしなきゃいけないけど料理って一番 “どうにでもなる” し」
要は素材の組み合わせ方や処理の仕方で料理ができる。
クッキーだって同じでしょ?といえばリアンはすっかり黙り込んで、何かぶつぶつ言い始めた。
頭を使う仕事はリアンに丸投げするのが一番だってわかってるから、口を出さずに水差しからお水をコップに入れて飲む。
空になった小瓶は洗ってから乾かして再利用するつもりだ。
瓶って割れたりヒビが入らない限り何度でも使えるんだよね。
ポイって捨てちゃう人もいるみたいだけど普通は持ち帰って回収業者やポーションなんかを買った店で買い取ってもらう。
鉄貨1枚とかにしかならないけどお得といえばお得なんだって。
そもそも、ある程度のランクに達していない冒険者や階級の低い騎士の懐事情は決して良くない。
装備品や消耗品にとにかくお金がかかるから、ってエルとイオに聞いた事がある。
金属を加工して作る防具や武器は勿論、万が一の為に持っておきたい様々な薬や治療薬。
他にも生存率を上げる為に購入しなくてはいけないものは多い。
「これって売れそう? 商品似たようなのがあるから駄目?」
「売れる。何の問題もなく売れる。これは乾燥メイズをゴロ芋に変えただけ、なんだな?」
「そうだよ。値段はやっぱりこっちの方が安くなるよね? メイズは粉にしないとだからちょっと値段上がるし」
「いや、同じ値段で売る。似た様な商品だと値段に差をつけない方がいいんだ。利益は回収できるところで回収したいしな。元々乾燥メイズを使ったスープも利率は低めにしている」
念のため作り方を、と言われたので作り方を話すと早速、明日ストックを作って欲しいと頼まれた。
一つ返事で頷いた私にリアンが思い出したように鑑定結果を教えてくれる。
【簡易スープの素】
ゴロ芋+ミルの実+スライムの核+マタネギ。
ゴロ芋を使用して作られた簡易スープ。同量の湯を注ぎ混ぜると完成。
水気に注意。湿気に気を付ければ腐る事が無い。
ゴロ芋の味。
と出たらしい。
名前は変わらないんだ、という呟きにリアンがじろっと私を見る。
「名前が変わらないのは君が “命名” していないからだ。折角だからわかりやすい名前を付けてくれ。商品としても明確な名前があった方が売りやすい」
「命名って私が名前つけるの?」
「そうだと言っているだろう。作成者にしか命名権はないからな。で、どうする」
「じゃあ【メイズスープの粉】と【ゴロ芋スープの粉】で。わかりやすいでしょ。販売価格も銅貨5枚で一回分か」
「【メイズスープの粉】と【ゴロ芋スープの粉】だな。ゴロ芋の在庫は大丈夫か?」
「平気だよ。明日は粉スープシリーズの調合かな。腐らないから大量に作っておいた方がいいよね」
「そうだな。僕も手伝おう。明日何度か調合すれば薬の方は問題なく用意し終わる。それに今後店を開けば基本的に商品を切らすことはできない。僕らの工房で取り扱うものはどれも目新しく、便利なものが多いから、価格もそこそこ高くなる。まぁ、それだと店のコンセプトには合わないから回復薬の系統も器などを工夫して手に取りやすいようにするつもりだ」
商品についてや売り方について話していると、片付けが終わったサフルがそっと私の少し後ろに控えるように立つ。
「片付けが終わったようだな。サフル、コレが薬だ。早速飲んでくれ」
「は、はいっ! ありがとうございます」
震える手で小瓶を受け取ったサフルは「早く飲むように」と促されて思い切り小瓶を煽った。
ごくり、と喉が動くのを確認したリアンは満足そうに頷いて説明を始める。
「とりあえずこれで病が進行することはない。ただ、長い間の栄養不足と進行具合から見るに痣が消える迄数日かかるだろう。良かったな、壊死する前に薬ができて」
壊死した部分に薬は効かないから斬り落とすことになっていただろう、と何でもないことのように告げるリアンにサフルの体がびくりと跳ねる。
「栄養状態に関しては日々の食事と睡眠で随分回復はしているようだが、念のため明日、栄養剤を調合してやる。それを飲めば少しは回復が早くなるはずだ」
「ありがとうございます」
「栄養剤ってどんなの?」
見たことない、とリアンに聞けば遠い何処かを見てふっと口元を和らげた。
珍しい表情に首を傾げればリアンがこくりと頷いて一言。
「クソ不味い。慣れれば意識を飛ばさなくて済むから舌を慣らしておくといい」
「それ毒の間違いじゃないの」
「栄養剤だ。今出回っているのは効果が少ない分濃度がかなり加減されたものだな。昔、僕が飲んでいたのは原液だった」
「………原液飲んでたんだ」
「飲まないと死んでいたかもしれないからな。食事もあまりとれないことが多かったし、ほぼ栄養剤と薬で命を繋いでいた。オランジェ様が現れて薬を処方してくれるまでは、一日4時間起きているのも苦しかったくらいだ」
壮絶なリアンの幼少期の思い出を聞きつつ、私はチラリとサフルの様子を窺ってみた。
明日飲まされるであろう栄養剤に青ざめつつも、何処か嬉しそうに黒く変色した腕を見下ろしているのが何とも言えない気持ちになった。
とりあえず、この日は色々なことがあって疲れていたらしく、ベッドへ入った瞬間に寝落ちすることになったのは言わなくても分かる筈。
ここまで目を通してくださって感謝です。
=新しいレシピ=
★【ゴロ芋スープの粉】
ゴロ芋+ミルの実+スライムの核+マタネギ+塩
ゴロ芋を使用して作られた簡易スープ。同量の湯を注ぎ混ぜると完成。
水気に注意。湿気に気を付ければ腐る事が無い。
ゴロ芋の味。
★【メイズスープの粉】
乾燥メイズ+ミルの実+スライムの核+マタネギ。
メイズの粉を使用して作られたスープ。同量のお湯を注ぎ、混ぜると完成。
水気に注意。湿気にさえ気を付ければ腐る事が無い。
メイズの味。
《 販売価格:各銅貨5枚から 》




