69話 採取旅6日目 2
今回はガッツガッツ掘ってます。
完全なる採取回。
地層についてはかなり適当ですので、悪しからず。
あと、奴隷の子も出てきます。名前はまだない(ぁ
拠点から二キロ圏内にある三mほどの浅い洞穴二つが今回の採取ポイントだ。
ここで採取ができるかどうかが分からなかったので、ムルに見てもらおうと早速頼んでみた。
ムルは朝食を食べ終わって直ぐに「洞穴に案内してくれ」と言ってくれたので、急いで食事を詰め込んだ。
食べやすさを重視してパンにしたのが良かったのかも。
洞穴に着いたムルは、まず洞穴の入り口付近の強度を確かめることから始めた。
方法は手で触ったり軽く削ったりして何かを確認という流れだったんだけど、素人目には何が何だかさっぱりだ。
それが済んだ後、彼は魔石ランプを持って中へ入っていく。
私たちはその間外で待っていたのでどういう基準で選んでいるのかもわからなかったんだけど、数分で戻ってきた彼は私たちを見て大きく頷いて
「どっちの洞穴にも鉱脈はあった。入り口も頑丈で多少の衝撃では崩れないとは思うが、爆弾はフラバン程度で止めておいた方がいい。まあ、この規模で採掘をするなら爆弾は普通使わないが、どうする」
そう告げられた。
ムルの手には武器の代わりに自前のタガネと貸し出したツルハシ。
私と言えば、ムルと同じように武器を収納してタガネとツルハシを装備済み。
それと金網を編み皿のように加工して貰ったもの、丈夫な革袋など、必要になりそうな物はまとめて背負い籠に入れてある。
食事を食べたばっかりだけど、もう気持ちは採取に向いていて準備も気力も万端だ。
(どのくらい採取できるのかはわからないけど、後であれこれ出すの面倒だし、一生懸命というか夢中で採掘とか採取してる時に声かけられるの好きじゃないんだよね)
そんなことを思いながら、ポーチの中から魔石ランプを取り出していると、今まで黙っていたリアンが口を開いた。
どうやら考えがまとまったらしい。
リアンの性格を考えると質問する内容なんかをまとめてたんじゃないかなーって勝手に思ってる。
「いくつか質問があるんだが、爆弾はどういった状況下で使用するんだ?」
「硬い岩盤や地層にぶつかった時が一般的だ。他にも固い地盤に含まれる原石や大きな岩を爆破し小さくすることで、外に持ち出しやすくなるという利点がある。その反面、大きな原石があった場合それを砕いてしまう恐れもあるから地層の見極めは大事だな」
「なるほど、砕いた石は目視で選別するのか?」
「基本的に宝石の原石はパンニングで選別する。パンニングについて説明は」
硬い口調のリアンとぶっきらぼうというか淡々としているムルの口調はちょっと似ているなぁ、と思いながら口を開く。
脳裏に浮かぶのは夏によくやっていた遊びだ。
「パンニングってあれだよね、ちょっと深い皿に鉱石混じった砂とか入れて、水の中で揺らしてくやつ。宝石の原石は重たいから皿に残って、残った砂利の中から原石探す方法のこと……だった気がするんだけど合ってる?」
木皿に塗料を塗って均一の色に仕上げた物は家から持って来てたから、それを見せて軽く実演するとムルが口元を緩めて頷いた。
この方法はおばーちゃんの友達だっていうドワーフのおじさんから教わったのだ。
水晶石がある場所で色々実演してくれて、宝石がありそうな地層や場所の見分け方を教えてくれたのを覚えてる。
まぁ、ムルみたいに詳しく教えて貰ったわけじゃないから今回はかなりいい機会だったんだけど。
「良く知っている、というよりも随分と詳しいんだな。道具も使い方も全く問題ない。ただ、ここには川がないし、洞窟や洞穴の中に水があったとしても湧き水なんかを採取するつもりなら、対象の土砂を持ち帰って選別するのが一番だろう。パンニングは洗いながら洗浄するからどうしても洗った水は汚れる」
洗うことで余計な砂などが流れ出るから出来るだけ水量が多く水質がいい場所でやるのが一番だ、と真面目な顔で話している。
少量ならバケツ一杯の水で事足りるっぽいけど、綺麗にするならちゃんと道具がいるんだって。
「確かに普通の水が一瞬で泥水みたいになるよね。あと、底にちゃんと鉱石が残る様に力加減と揺すり具合のコツを掴まなきゃいけないのが大変。中腰で腕を小刻みに動かすから結構疲れるし」
「本当にな。俺も仕事を一通り覚えるように親父に言われてやらされた。暑い時期ならいいが川の水が冷たい時期にパンニングをするのはある意味自殺行為だと心から思った」
「私は暇つぶしの一環でやってたから嫌になったらやめたり休憩できたけど、仕事にするのは大変だよねぇ」
「ああ。だから基本的にパンニングや石の判別作業は奴隷にやらせる。奴隷なら採れた原石を盗むこともできないから確実だし力のない子供や老人でもできるのが一番の利点だ。危険度の高い作業は犯罪奴隷なんかを使い捨てにすることが多い」
「犯罪奴隷は良く鉱山で引き取られているが、なるほどな。人伝に聞いたことはあったが一定の需要があるのか」
感心したようなリアンにムルは無表情のままこくりと頷いて、奴隷の買い取り価格や待遇なんかを説明していた。
実は、宝石が高い理由に人件費や輸送費、商品にするまでの手間がかかることがあげられる。
希少性や美しさ、魔力を込めやすいから魔石代わりになるっていうのも関係してて高いっていうのも当然あるけど。
ベルにも聞いて欲しかったなー、なんて会話に耳を傾けているとディルが不思議そうに首を傾げているのに気付く。
視線は先程ムルが入った洞穴だ。
「ムル。俺が昔、ライムと水晶石を取った場所は砂と粘土が混じったような土だった。そのピッケルや平たい鉄の道具――…タガネといったか。そういう道具は本当に必要なのか?あの時は確か近くにあった丈夫そうな枝で掘った記憶があるんだが」
あまり武器になるものを持たせるのはな、と難色を示すディルにムルは考えてから口を開く。
「場所によっては粘土と細かい砂利が混じった場所に原石が埋もれていることもある。そういった場所で採取するならアイスピックのようなものを使った方が掘りやすいだろう。ただ、基本的に鉄鉱石を狙うならツルハシは必要だな。タガネは鉄鉱石とそうでない部分を切り離すのに有効だ」
「採取に必要、だという事はわかったがツルハシを使用している時は見張りを付けるぞ」
「構わない。というよりも手間をかけてすまない」
怒る気配が微塵もないムルが少し不思議で今まで黙っていたラダットにこっそり聞いてみる。
正直、ムルが何で謝ったのかわからないんだよね。
素直にそう聞けばラダットは驚いたように目を見開いて、直ぐにくしゃりと笑う。
「俺たちがこうやってある程度自由にさせて貰えてるのは君たちの裁量による所が大きいんだ。冒険者になって最低限のルールは教えられたけど、あの二人が取った行動はあの場で見捨てられても文句は言えないくらい酷いものだったから」
あの場というのは、多分盗賊と戦っていた時の事だろう。
『討伐の失敗は死を意味する』
そう、盗賊を討伐した夜にテントの中で聞かされた言葉を思い出した。
「そうなの?まぁ、関わりたいとは思えなかったし不愉快だったし癇に障ったのは確かだけど」
「はは。助けてもらう側なのにあの態度はないよね。俺もそう思うよ。実際、あのまま君たちが来てくれなかったら俺たち男は殺されて、チコやもう一人は凌辱された上に奴隷落ち、もしくはその場で殺されてたかな」
チラリと“例の二人”がいる場所へ視線を向けたラダットは何処かスッキリした顔をしていて、私と目が合うと恥ずかしそうに笑った。
ラダットやムル、チコの三人は多分、私より暗黙の了解とか常識を知ってるんだろうなぁ。
そうなんだ、と頷いていると不愛想な声が聞こえてくる。
「状況判断はできるようで何よりだ。あの二人は今後も使い物にならないだろうから、距離を取って置け。パーティー解散の旨は出来るだけ大々的に、人が多いギルド内で宣言して行うといい――…別れた後に難癖付けられるのも嫌だろう。冒険者の中には屑も多い」
腕を組んでこちらを見ているのはリアンだ。
ムルもディルも私とラダットのやりとりに耳を傾けていたらしく、視線が集まっている。
「うん、ありがとう。ムルやチコはそういうこと苦手だから俺が暫く矢面に立つつもりなんだ。ギルドの人に色々聞いて教えては貰ったけど実際にこうやって君たちの動きを見てると、俺たちの認識が凄く甘かったって実感した」
「反省と学習ができるなら大丈夫だろう。ああ、錬金術の素材になるものをギルドまでの帰り道で覚えて置けば、多少の収入になる筈だ。もし、珍しいものや地域限定の素材が取れたら、モルダスかウォード商会に立ち寄ってくれ。きちんと査定して適正価格で買い取ろう」
ふっと口元を和らげたリアンにラダットとムルは顔を見合わせてクシャッと嬉しそうに笑った。
少し軽くなった空気にギスギスしているよりずっと気楽でいいや、と笑えば眼鏡の位置を直しているリアンに見咎められたけど、怖くないしいいもんね。
耳がちょっと赤くなってるから照れてるだけだろうし。
「じゃあ、早速鉱石掘りに行こうよ!今回は原石系もないだろうし、パンニングはしない方向で。ここで採れるのって水晶石と鉄鉱石くらいだよね」
「使うかどうかはわからないが粘土も採れるな。鉄鉱石がある地層の上が粘土層になっていた」
「粘土なら革袋に入れた方がいいかな。今の所使い道ないし、比較的ありふれた素材だからその辺でも採れるんだよね。モルダスの周辺にあるかどうかまではわからないけど」
「周辺で採取できるかどうかはわからないが粘土ならウォード商会でも取り扱っているぞ。鉄鉱石なんかも扱ってはいるが、粘土よりも取引単価が高い。狙うなら鉄鉱石だろうな」
話がまとまった所で私たちは入り口が比較的大きい方の洞穴へ足を踏み入れる。
奥行きが3m程しかないけれど、二人同時にツルハシを振るうくらいの空間がある上に、採石したような跡もあった。
「ここで誰かが採掘したことあるみたい。こんな風に綺麗な円形になってる洞穴って殆ど無いもん」
まぁ、つい最近掘ったものではないことは掘った跡を見ればわかるけれど。
薄暗い洞穴内を照らす為に魔石ランプを二つ用意して明るめの魔石を嵌めた。
明るくなった洞穴内を見回すと、確かにくっきりと三色の地層が確認できる。
一番目立つのは所々黒っぽい石が見える石に似た質感の地層。これが全体の三割。
茶色でぬるりとした質感の土の層が二割、残りは灰色がかった地層だった。
「こうやって見るとわかりやすい筈だ。鉄鉱石はこの黒っぽい石がある地層に含まれる。ただ、この黒いのはそういう色の石だから採石しても意味はない。鉄鉱石はもっとゴツゴツしていて、表面はつるっとして独特の光沢があるんだ。品質が低くてもこの石とは違うからわかりやすい」
判断がつかなければ持って来てくれ、そうムルは話をしながら濃い灰色の地層をコンコンと拳で叩いた。
次に、と濃い灰色のすぐ上にある茶色の地層を指さす。
「これが粘土層だ。大抵こういった粘土層の下に鉄鉱石がある層があることが多い。目安にするといいだろう。確実にという訳ではないが参考にはなる。ああ、平地や沼には鉄鉱石は無いから探すだけ無駄だ」
「崩れてきたりはしないのか?」
全体を見ると、丁度私たちがツルハシを振るいやすい位置に目的の層がある。
有難いんだけど粘土と一緒に取れる可能性があるから、帰ったら洗わなきゃ駄目かもしれない。
(鉱石だけじゃなくて植物系の素材もそうだけど汚れがついてると品質がガタ落ちするんだよね)
そうっと粘土の層に指を滑らせる。
手袋は外したよ、勿論。
指の腹にしっかり粘土がついていて、少しだけ掘ってみる。
柔らかくて水分も割と多いみたい。
まぁ、10センチ位しかないから掘るなら園芸用の小さいシャベルにしよう。
ポーチからシャベルを取り出した所でムルの声が洞穴内に響いた。
「砂や砂利で出来た層がないから大丈夫だ―――……ただ、中には砂や砂利で出来た層が多く危険な場所もある。砂や砂利の層がある場所で採掘や採石は避ける方が懸命だ。どうしても掘りたいなら死んでもいい犯罪者奴隷を連れていけ。そういう地層がある山の麓には大抵奴隷屋があって犯罪奴隷を扱っている。足元は多少みられるが、奴隷商の方も犯罪奴隷は早急に処分したいだろうから二束三文で売っていることが多い」
「チラッと聞いたことがあるんだけど脆い地層に宝石が多いっていうのは本当?一度でいいから宝石見つけてみたいんだよね」
小さくてもいいから宝石の細工をしてみたい。
細工した宝石に錬金術で色んな効果を付加できるって聞いたことあるからやってみたいだけなんだけどね。
高く売れそうだし、上手になればお金に困ったら金策として役立ちそう。
「多いかどうかはわからないが奴隷代も馬鹿にならないから、専門に掘る奴は少ない。採掘量が少ないという点でチャンスはあるが、勧められないな。どうせ掘るならちゃんとした強固な地層で掘るべきだ。崩落なんかしたら外にいても危ない――…どの道、2つの洞穴では原石の類はあまり見込めないだろう」
宝石によっては衝撃に弱いものもあるから見極めはある程度できるようになった方がいいかもしれない、なんて言われるけど今の私たちに地層を見極める術はないんだよね。
顔を見合わせる私とリアンにムルは少し考えて口を開いた。
「あとで手紙を渡す。シュツルの街に行ったらサスキー鉱石店に行って手紙を渡してくれればいい」
「本当?助かるよ!あ、もしモルダスに来たら私たちの工房に来てね。冒険者の役に立つようなアイテムも頑張ってそろえる予定だし。ね、リアン」
「そうだな。店を始めるのはもう少しかかりそうだが。開店したらギルドを通して知らせよう」
「じゃあ、俺の家にも話しときます。まぁ、役に立てるかどうかはわかんないんですけどね」
どうしてそんなに良くしてくれるのだろうと思って聞いてみると二人は
「命の恩人だからな」
「襲撃に失敗したとわかった瞬間『あ、死んだ』って思ったし実際、君たちの介入がなけば死んでたからこの位はね」
と特に気にした風もなく返された。
リアンもディルも頷いていたので、彼らの言い分は割と一般的らしい。
それからは時間が惜しいという事でムルの指示のもとツルハシを岩壁に突き立て、少しずつ気長に削っていく。
硬いものと硬いものがぶつかり合う音が交互に響く中で、面白いぐらいに掘れていく岩。
金属独特のツルリとした光沢の黒い石のようなものは何十回もピッケルを振るってようやく出るかどうかって所だ。
後ろの方で時々音が止みリアンとムルの声が聞こえてくる。
ムルがリアンにツルハシの持ち方や振るい方を指南したり、崩した石の塊について細かく解説しているらしい。
(にしても、結構掘り甲斐があるなぁ。岩の硬さもだけど程よい硬さって感じ)
手ごたえのある掘り心地に鼻歌を歌いつつ、一定の間隔で掘っていく。
掘り進めながらわかったこともあった。
鉱石がある場所や鉱石にツルハシの先が当たると音が変わり、手ごたえも明らかに“硬く”なる。
それ以外の所は分厚い氷を砕いているような感覚だ。
硬いは硬いんだけど、手が痺れるような感覚はなく振り下ろしたツルハシが吸い込まれるように岩壁に全部衝撃が入っていく。
(魔力込めたらどうなるんだろう)
掘りやすくなるかな?と思って試しにツルハシの先に魔力を流すイメージをした。
魔力を流すのは私でもできるんだよね、ただの木の棒で調合してたからかもしれないけど。
「あ、掘りやすくなった」
嬉しくてツルハシを振るえば面白いほどにガンガン掘れる。
時々ちらっと見える鉄鉱石や水晶石っぽいもののお陰で疲れなんて微塵も感じない。
一か所じゃなくて左右にも動いて同じくらい掘り進んでいると、戸惑ったようなディルの声が聞こえてきた。
振り返るとディルが物言いたげに私の持つツルハシと先ほどまで向かい合っていた岩壁の間をうろうろ彷徨っていた。
不思議に思いつつツルハシを下ろせば、言いにくそうに丁度掘っていた壁の辺りを指さす。
「掘り進むのはいいんだが凄いことになってるぞ。一度外に持ち出した方がいいんじゃないか」
ソレ、と指さされたのは掘りまくって出た大量の岩や石たち。
適切に見分ける為に一度袋に入れて外に運び、陽の下で選別をする必要があるんだけど運び出すことをすっかり忘れていた。
あ、と動きを止める私にディルとラダットは苦笑し、リアンは呆れたように溜息を吐く。
ムルは無表情だったけれど、一言リアンに断って出口へと歩き出した。
慌てて持ってきた丈夫な布に削り取った岩や石をスコップで詰め込んでいるとムルが戻って来たらしい。
でも、足音が二人分だったので作業をやめて振り向くと体を小さく丸めている例の子がいた。
「砕いた石や岩を詰めて運ぶ作業は奴隷に任せて好きな所を掘るといい」
ムルの声にリアンは頷いて私は少し、躊躇した。
(だって、男の子ひょろっひょろだし、力もなさそうなんだよね。絶対私の方が力あるよ)
男の子はぼさぼさの髪を分けて左目だけを出していた。
右側の黒く変色した部分を隠すような髪型だ。
左手の手首を右手で抑えている所を見るとこれも隠そうとしているのだろう。
靴を履いていないから右足首は出ているけど…、右の足を少し下げている。
濃い灰色の下に隠れていた瞳も灰色だった。
ツルハシを地面に置いたままムルの横に立つ不健康極まりない体つきの男の子を見ていると彼は私の視線に気づいたのか少しだけ視線をこちらに向ける。
「ッ……!」
息を飲んでその場に膝をつき頭を地面に擦り付ける様にひれ伏したのを見て慌てて近寄ろうとしたけれど、ディルに肩を掴まれて動けなくなった。
「おい。顔を上げて立て」
ディルの声は冷たくて威圧感たっぷりで、聞いたことのないものだった。
驚いて顔を上げると無表情のディルが例の奴隷の子を見下ろしている。
ディルって目で感情が何となくわかるんだけど、今はそれが全く分からない。
リアンやベルも似たような顔をすることがあって、それは大体商人や貴族の立場にいる時だったように思う。
ぎゅっとディルの服の裾を掴むと一瞬視線が私に向けられてゆるりと細められる。
でも、男の子を見る時の目は完全に物を見る目だった。
「お前は砕いた岩や石を袋に詰めて外の入り口に運べ。入り口に運んだら、袋の中の石や岩をその場に出して、空になった袋を持って戻り、同じように袋に詰めて入り口に運ぶ。俺かそこにいる眼鏡がいいというまで続けろ」
彼がこくりと頷いたのを確認してディルは私の肩を叩く。
リアンが小声で
「誰が眼鏡だ。もう少し言いようがあるだろう」
なんて憤慨していたけど、一番的確な表現だと思う。
◆◆◇
ディルに促されてツルハシを持ってはみたものの視線はどうしても奴隷の子に向いてしまう。
彼は一生懸命石や岩を集めて袋に入れているんだけど、素手なんだよね。
細かい石のかけらやなんかが沢山落ちているのに素足だし“奴隷”はこういう扱いでいいのかもしれないけれど、居心地が悪いったらない。
「―――…ねぇ、そこのスコップ使って袋に入れると楽だから使っていいよ。あと、ちょっと足だして。靴持ってないからこれで我慢してくれる?で、手袋はこれ使って。安いの沢山買ったからあげる」
ポーチから薄いブラウンウルフの鞣し皮の手袋を渡す。
(中古で安売りしてたから買ったんだけど、サイズが大きくてちょっと持て余してたんだよね。あの時は失敗したなーって思ったんだけど、役に立ちそうで良かった)
目を丸くしているのをいいことに手を取って手袋をはめてやる。
多分だけど奴隷の人ってされるがままだろうから、私が脱がさないと脱げないだろう。
足には古い布をグルグルっと巻き付けて直接足に石や岩が当たらないようにした。
歩きにくいとは思うけど何も無いよりはマシな筈だ。
布も古着屋で買った物だ。
私が持ってるのは古いシーツを細長く裂いた物。
正方形型のもあるけど、これは調合の時の濾し布として使う。
何回も洗って使うこともあれば、一回しか使わないで捨てちゃう場合もあるし沢山あって困りはしないんだよね。
錬金術ってこういう細かい消耗品が多いから意外と出費も多かったりする。
「足の布がボロボロになったら教えて。まだ沢山ぼろ布あるし。流石に靴はないから冒険者ギルドに行った時に買おう。あんまり高いのは買えないけど――……で、水袋も貸してあげる。無くなったら言って」
問答無用で彼にスコップを持たせて、ポーチからベルトを出し、勝手に彼の腰に巻く。
うん、ほっそい!私より細い。
ちょっとだけ羨ましい。一応、女の子だしね私も。
辛くなったら休んでいいから、と言ってからツルハシを持って採掘を開始。
ディルやリアンだけじゃなくてムルやラダットからも物言いたげな視線を送られてるけど、気づかない振り。
(距離感が分からないんだもん、仕方ないよね。そもそも、奴隷って言ったって普通の人間と変わらないし。面倒な作業やってくれるなら助かるし、お給料払ってる訳じゃないからこの位いいんじゃないかな)
そんなことを考えながらツルハシを振り下ろし、岩を砕いて、岩の中に隠れている鉄鉱石や結晶石を探していく。
掘り進めるごとに色んな発見があって、それがまた楽しくて。
結晶石は時々、大きな塊で採れることがあった。
岩と岩の間に偶然出来ていたらしくちょっと空洞になった空間にひっそりとあることが多いんだけど、ソレは色々と次元が違った。
「ねぇねぇ見てこれ!すっごいの見つけた!!」
ほらほら、と作業を止めて監視をしているディルと手持無沙汰なのが嫌だったらしく、奴隷の子と一緒に岩や石を外に運んでいたラダット、悪戦苦闘しながらツルハシを振るうリアンと交代で採掘をしていたムルに声をかける。
真っ先に寄ってきたのはムルだった。
私が指さす方を見て、目を見開き、そして感心したように何度も頷く。
「これは……凄いな。俺もこんなクラスターを見た事が無い。恐らくそうお目にかかれるものじゃないだろう」
ムルの言葉が聞こえたのかリアンも軽く息を切らしながらこちらへ歩いてきた。
リアンはいつも着ている上着は脱いで、シャツとズボンといった軽装になっている。
私は元々薄着だから問題ないけど、水分を取ったり時々用を足しに行ったりして体調管理はしっかりしてるよ。体調崩したら採取どころじゃなくなるしね。
「これは……一つ一つの品質が凄い。宝石部門に持ち込めば間違いなく高値で売れるぞ」
「グリーン、スモーキー、イエロー、パープル、ローズにこっちはルチルか。レインボークリスタルではなさそうだが一つのクラスターにほぼすべての色があること自体珍しい。国王に献上できる。ライム、俺なら傷つけずにこのクラスターを掘り出すことができるがどうする?自分で掘り出すか?」
そう聞くムルの目が輝いているので私は苦笑しながら首を横に振った。
見つけられただけで充分だし、私が探しているのは錬金術に使える鉄鉱石だ。
そう伝えるとムルは腕まくりをして上着を脱ぎ、タガネとハンマーを持って慎重に、でも慣れた様子で採掘を始める。
リアンはソレを横で興味深そうに観察。
ディルやラダット、そして奴隷の子にもクラスターを見せたんだけど三人とも驚いているようだった。
「でも、よかったの?あんなの滅多に見つからないんでしょ?自分で掘りたかったんじゃ」
「あんなに大きくて立派なのは掘ったことなくてちょっと怖いし、私ちっちゃい石とか綺麗なのを単体で見つける方が好きなんだよね。そうだ、ラダットとムル、あとチコって子にも良さそうな水晶石見つけたら首飾り作ってあげるよ……格安で!」
「あはは。やっぱりお金は取るんだね。でも、うん。頼もうかな……御守りとして持ち歩く冒険者は多いみたいだし」
そんな会話をして私は別の場所を掘り進めていく。
大体、三十分くらい経った所でムルが私を呼んだ。
近づくと産まれたばかりの赤ん坊くらいの大きさのクラスターを大事そうに持ったムルが満足げな顔で私を見ている。
「無事に掘り出せた。ライム、柔らかい布を何枚か出してくれ。折れないとは思うが傷つかないように梱包してから仕舞うといい」
ポーチから古い布を取り出して一生懸命巻き付けているとリアンも手伝ってくれた。
トランクに仕舞う方がいいだろう、とのことだったので一度作業を中断して外に出る。
奴隷の子には引き続き作業を続けてもらうことになったからこっそり乾燥果物を口に入れてあげた。
「ライム。このクラスターの所有者は発見者である君になる。素材に使うのもいいがウォード商会に売ってくれないだろうか。年に一度国王に宝石や珍しく価値のあるモノを献上しているんだがなかなかいい品が見つからない。これは珍しい上に自国で採れたモノだから王もお喜びになると思うんだ。勿論、きちんと査定して…―――」
「いいよー別に。それあっても使い道ないし、綺麗だけど大きすぎて邪魔だもんね。場所取るし。大き過ぎてどうやって砕いて使ったらいいのかさっぱりだもん。いらないよー」
「………は?」
リアンの間の抜けた声と顔を見て、首を傾げると背後でラダットやムルも同じような顔をしていた。ディルだけは苦笑を浮かべただけだったけど。
「え、ちょ、ライム!?」
「正気……か?」
「なんというか、相変わらず、だな」
私としてはなんでリアンがそんなに持ち上げるのかが分からない。
水晶石は思い出の石だし、綺麗なものも宝石も好きだけど目の色を変えるほどじゃないんだよね。
「私としてはこの場所を人に漏らさないでもらえる方が嬉しいよ。ちょっとだけど鉄鉱石は取れるし、水晶石も結構出るし、掘りやすくて楽しいし。大き過ぎる水晶石って調合に使いようがないから邪魔なんだよね。手の平より少し大きいくらいならいいんだけどさ」
あ、見つけた時は嬉しかったよ。
そう告げると何故か皆絶句してしまう。
後でベルやミント、チコにも同じような反応を返されたけど私としてはただの綺麗すぎる水晶石だ。
「そんなことより、もう戻っていい?あの辺り掘ってみたいんだよね。まだ小さいのありそうだからタガネで掘ろうかなぁ」
似たような透明度の水晶石が取れれば、失敗を恐れずに加工できるし、もしかしたらいい商品になるかもしれない!
なんて意気込んで、トランクを閉め、再び洞穴に戻った。
結果としては、良さそうな小指の第一関節くらいの色付き結晶石が結構取れて、大きくても人差し指くらいのカッコいい六角柱のモノが掘れただけで、大きなクラスターは見つからなかった。
その後はいくら掘っても出てこなかったから丁度いいポイントに当たったらしい。
「っはぁあぁ…!掘った掘ったぁ!午後は選別作業だよねー。楽しみだなぁ…って、何で二人はそんなに疲れてるの?」
「………放っておいてくれ、色々と」
「規格外だ。幸運な人間もいるとは聞いていたがこれはもう、強運だぞ。なんでジェムクラスの結晶石がこんな場所でゴロゴロ見つけられるんだ」
項垂れるようにしゃがみ込むリアンとムルを横目に、私は洞穴から出て昼食の準備を始めることにする。
ディルが汚れたからと言って浄化の魔術をかけてくれたから安心だ。
今度から絶対採取の旅をする時はディルを誘おう。
午後からは張り切って選別するぞー!なんか、大量に掘っちゃったし。
ここまで読んでくださってありがとうございました!
誤字脱字変換ミスなどがあれば教えてくれると嬉しいです。
多分、サイレント修正は翌日とかにこっそり。
=アイテムなど=
【マイトボム】マイマイ石+火薬+紙。
石のように固い筒状の貝の殻を利用して作る爆弾。
綺麗に洗ったマイマイ石を良く乾かしてから使うのがポイント。
採石場などで良く用いられ、戦闘で使われることは稀。
【結晶石】白~透明の鉱物。周囲の森を探せば容易に見つかる。
加工がし易いので庶民の宝飾品として広まっており、価格もお手頃。
稀に色の付いたものが発見されるが、大体は魔力が満ちた鉱山の奥で見つかる程度。
色つきのものは魔石として高値で取引される。
錬金術の素材になると魔力の影響を受けて、込められた属性に応じた淡い色がつく。
その為、無色透明な石に属性の付いた効果はついていないのが
【磨き砂】一ミリ~五ミリの黄金色の砂。
金属以外のものを吸着、削り取る性質を持つ。インゴットや宝石の原石を研磨する際に用いられる。火山や河口、岩山などで採取できる。宝石の原石を研磨すると、細かい粉になる。その粉に水などを加えるとパックになるとか。
【鉄鉱石】鉄を多く含んだ鉱石。
良質なものは活火山や活火山後などで採取できる。良質なものほど黒に近く、鈍く光る。
特有の光沢をもっているので見つけやすい。不純物が多い場合でも精製すれば品質を上げることができるが、不純物の含有量によって鉄部分はかなり少ない、ということも
【未確定の原石】石ころ~拳大と大きさはさまざま。
何らかの原石が含まれる鉱石の塊。採掘場所や採取、見極めにはコツが必要。
【グリューヴルム鉱石】宝石名はカラーライト。
現代で言うフローライト、または蛍石。基本的に無色透明。魔力に反応して光る。
この世界では加熱処理することで初めて色が発現するので、運試しの原石とも呼ばれる。
加熱処理をしても魔力を通せば光る性質は変わらない。
少し脆いため、特殊なコーティング薬を使って磨く。




