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第64話 採取旅 5日目 中

お待たせしました。採取に……あれ、行ってない?

どういうことなの。


……ってことで、冒険者5人組に関するお話です。





 食後、ディルが立ち上がり地面に何かを書き込み始める。


複雑な文字を描き終えたディルが呪文を唱えながら模様に手を翳す。

すると、徐々に書かれた模様が光を発して――…あっという間に、全体が輝いた。

 眩しさで目を閉じていた私が顔を上げた時にはもう、土色の煉瓦でできた建物がそびえたっていた。



「入り口は一つしかないからここに結界を張っておけば出られない。見た所魔道具や俺が張った結界を破る力を持っているわけでもなさそうだから、ここに入れて置けば問題ないだろう」


「……家が生えた」

「……生えてきましたね」



呟けば隣にいたミントが私と同じような顔で首を縦に振ったのが見えた。


 難し気な文字が書かれた場所から凄まじい地鳴りと一緒にニョキニョキと建物が“生えて”くる光景を私は死ぬまで忘れない自信がある。

入り口が一つしかないように見えるその建物の周りを好奇心に負けた私は、ぐるっと歩いてみたんだけど窓は無かった。

天井部分も同じように煉瓦で覆われているようで、中は暗く洞窟みたいにひんやりしている。

 まるで煉瓦の箱みたいだなーなんて思いながらミントの横に戻った。



「ねぇ、ミント。私、魔術っていうのがよくわからないんだけど家を出せるのって一般的なのかな」


「私もよくは知らないので何とも言えないですが一般的ではないと思います。シスターの中には魔術を使える方もいましたけれど、魔力は温存するべきだと教わっているようでしたし、水や火を出すのに魔術を使うというのはあまり聞いたことがないですし」


「そっかー。ミントが知らないなら一般的じゃないんだね、きっと」



ちょっと触ってみようよ、とミントの手を引いて二人でコンコンと煉瓦の壁を叩いたり、中を覗いてみたりした。



「物置や収穫した野菜を置いておくのに便利そうですね」


「日も当たらないし土で出来てるからかひんやりしてるもんねー。でも日が照ってきたら暑くなったりしないかな?」


「そればかりは体験してみなくてはわからないですけれど……私はテントの方が気楽ですね」


「同じく。なんだろう、圧迫感が凄いよね」



うんうん、とお互いに頷いて他愛のない話をしているとディルが冒険者五人の荷物を持って、建物の中へ入っていく。

 手ぶらで戻ってきたディルは淡々と報告を始めた。

なんだろう、すっごい手慣れてる気がするんだけど……気のせいかな?



「とりあえず水も用意はしておいた。荷物の中に魔石ランプはあったし光が差し込まなくても問題はないだろう」



喚き声が聞こえる方へ視線を向けてディルが目を細める。

 面倒だな、と言わんばかりの表情に私とミントもつられて賑やかな五人組に視線を向ける。

遠目からでもわかるのは、今現在彼らが絶賛仲間割れ中だということくらいだ。



「ディル、先ほどのは魔術陣ですわよね?魔術は言語魔術と書現しょげん魔術の二種類―――魔術陣は書現魔術の一つとされていると聞きましたけれど、貴方、書現魔術の方も習得しているなんてどうなっていますの?学園に通う必要などないようにしか思えませんわ」


「いや、そういう問題じゃないだろう。魔力は大丈夫なのか?普通これだけのものを作り出せばかなりの魔力を消費するはずだが」



感心したように土の煉瓦を叩くベルとディルに詰め寄るリアンを眺める。



「魔力は三分の一も使ってない。必要最低限の魔力で作ったからな」



それに採取中は魔力の使用は控える、と続けて私に笑いかけた。

 昔、よく採取に付き合わせていたから“魔力”が採取する物に影響を与える可能性を忘れていなかったらしい。



「とりあえず、彼らをあの場所へ移しませんか?」



ミントの言葉に私だけじゃなく三人も我に返って、それぞれやるべきことの為動き始める。

 私がしなきゃいけないのは採取に持っていくための道具をトランクから出すことだ。

あのトランク私しか開けられないし。



(にしても、昨日から水とか何も口にしてない筈なのに元気だなぁ)



 例の冒険者たちは野営場所とさっき地面から生えてきた家の真ん中辺りに、まとめて縛っている。

 逃げられないように、とミントが一列に冒険者を並ばせて隣の人と手首や足首を縛っていたのには驚いたっけ。


ほんわかした笑顔で


「こうすれば自分で動こうとしても隣の人と同時に手足を動かさなければ動けないんです。あ、勿論簡単にほどけない縛り方しているので安心してください!逃げられることはないと思います」


って言われた時はどう返していいのかわからなくて、結局お礼を言った。


 今まで友達とかいなかったからどう返すのが正解なのかわからないんだよね……どうしたらいいんだろうか。

ミントも時々難しい、と考えつつ足を動かしていると無駄に元気な怒鳴り声が聞こえて思わずため息が漏れた。



「ねぇ、ライム。確か痺れ薬持っていましたわよね?」


「痺れ薬?それなら二つあるけど」



ポーチから痺れ薬を取り出して見せればベルはにっこり笑って、どちらの効果が高いのか聞いてくる。

 どちらも同じだと伝えると左の痺れ薬を手に取ってにっこり笑う。

布で口と鼻を覆いなさい、と言い残して機嫌よく先頭へ走っていく綺麗な赤髪を見送った。



「何でかな…ちょっとあの人たち可哀そうになってきた」



まぁ、ご飯食べさせる気はないんだけどね。

作ったご飯に文句言いそうだし、そもそもあの人たちどうにも好きになれなさそうだし。

 一番初めに五人組の所に辿り着いたベルがくるっと振り向いて手招きしているのが見える。

私の名前を呼んでいるのが聞こえたので慌てて走って近づけば先に到着していたディルやミントが私を庇う様に左右に立った。



「警戒しなくても大丈夫じゃない?動けないだろうし」


「護衛としてライムの傍にいるだけだ。あの二人は刺されても死なん」


「それに、痺れ薬を使う前に色々と言いたいことがあるらしいですし、このくらいの距離が一番いいんですよ。あ、でも口布はしっかりしてくださいね」


「口布って顔にグルグルって巻けばいいんだよね?目は出しておけばいいの?」


「口と鼻を覆えばいい。あの痺れ薬は嗅がせるだけで問題ないものだし、風下にいるわけでもないからあまり心配しなくても大丈夫だ」



「……ディル、なんか詳しいね」



薬屋さんでもする気?なんて視線を向けると「そうか?」なんて首を傾げている。

ミントも頬に手を当てて首を傾げ「一般的な痺れ薬なので知ってるかと思ったんですけど」なんて言っている。



(まさかとは思うけどディルとミントにも非常識って思われたりしてないよね?)



チラッと二人を見てみると優しく笑いかけられた。

 私も笑い返したんだけど、ディルは顔をそらしてミントには頭を撫でられる。



(なんか優しいし大丈夫かな。うん。非常識だと思ったら言ってくるだろうし)



大人しく撫でられつつ、ベルとリアンがいる方へ視線を向けてみた。

そこにはいい笑顔を浮かべたベルが腕を組んで仁王立ちし、無表情のリアンは御者の人が持っている短い棒のようなもので掌を叩いている。

 隣でミントが「あら、リアンさんは短鞭たんべんも持っていたんですね」なんて感心してるんだけど、ミントってちょっとずれてる気がしてきた。


 そんな二人を前に拘束された冒険者達の反応は大きく二つ。


俯いて視線を逸らすか、睨みつけてくるかだった。

人数で言えば3対2。

睨みつけている2人は見覚えのある顔だった。



「あなた達!こんなことしてただで済むと思ってる訳じゃないわよねぇ?!解放されたらすぐにギルドに訴えてやるんだから!私は魔術師なのよっ!」


「ねぇ、やめようよ」



真っ先に噛みついたのは合流地点で近寄ってきたピンク髪の子だった。

 サラサラだった髪は土と血で汚れてベタベタだし、顔も盗賊たちに殴られたのか腫れている。

その隣にいた薄茶色の髪と緑色の目をした大人しそうなショートヘアーの子が、自分たちを見下ろすベルとリアンを気にしながら控えめに口を挟むけれど、直ぐに睨みつけられて口を噤む。



「弓使い風情が魔術師の私に意見するなんて身の程を知りなさいッ!いい、私は希少な魔術師でアンタたちとは違うんだから黙って従っていればいいの!大体、ここまで無事だったのは一撃で敵を倒せる私の魔術とラギのお陰でしょう?!あなた達がしたのはせいぜいテント立てたり火を熾したり、獲物を解体するくらいで何の役にも立たなかった癖に」



甲高くて大きい声に私は思わず耳をふさいだ。

 キーキーしてて煩い上に思い当たる節が私にもある。



(私って料理と採取しかしてないし、あの子のいう役立たずに該当してる気がする)



帰ったら毎日素振りだけでもするべきだろうか、なんて考えていると隣にいる金髪の剣士が「まぁ、そうだよな」なんて呟いているのが聞こえた。


 金髪君の発言で今まで黙っていた二人の男の子達が物凄い表情で、我慢の限界だとでもいう様に舌打ちをし、自分を見下ろしているベルとリアンを見上げて―――

風を切る音が聞こえそうな勢いで頭を下げた。



「助けてくれてありがとうございました!」


「馬鹿が迷惑かけて悪かった……ッ!」



呆気にとられる私たちを余所に今までオロオロしていた大人しそうな女の子も慌てたように頭を下げた。



「あ、あの!私も…私も、助けてくれてありがとうございました。あのままだったら私……盗賊の慰み者にされていました。無事だったのは皆さんが助けてくれたおかげです」



絞り出すような声に私は思わずベルを見た。


 リアンは先ほどから無表情で短い鞭をペシペシしてるんだけど、ベルは浮かべていた笑みを消して値踏みするように冒険者たちを眺めたままだ。

地面に頭をこすりつける様にして謝っている三人と“みっともない”とか“誇りはないのか!”とか怒鳴りつけている二人を比較するように何度か見比べた後、ベルは笑った。



「――…とりあえず、そこの煩いの黙らせましょうか。落ち着いて話もできないしこれ以上時間を無駄にしたくないのよね」



そう言うや否や、ぼろ布に痺れ薬をたっぷりとつけたベルがピンク髪と金髪の口と鼻に思い切り押し付けた。

 数秒後、声もなく痺れその場に転がったのを見下ろしたベルは、面倒そうにつま先でピンクの子のお腹を蹴飛ばし、頭に足を乗せてグリグリと踏みつけている。



「あ、あのぅ……ベル、さん?ちょっと、それは流石に」



逆らい難い雰囲気を纏うお嬢様仕様のベルに口元どころか顔全体が思いっきり引きつるのがわかった。

 そっとディルが私の視界を遮る様に一歩前に出てくれた時は素直に感謝した。

夢に出てもおかしくない迫力だったし。



「靴が汚れたから礼儀も常識もないお馬鹿さんで綺麗にしてるだけなんだけど、なかなか汚れが落ちないのよねぇ。素材が悪いとやっぱり汚れは落ちないみたい」


「もう、ベルさん。駄目ですよ、そんなことしちゃ。靴だって安くはないんですからちゃんとした布で手入れしないと……!」


「いや、ミントもうそういう問題じゃない気がするんだけど」



何か問題でもありましたか?なんてキョトンとした顔を向けるミントにちょっとした戦慄を覚えつつ、目の前のマントを引っ張った。



「あの、ディル……このままじゃいつまでたっても採取に行けないと思うんだけど」


「それもそうだな。リアン、こいつらはどうするんだ?」


「―――…まずそこのピンクと金髪の頭が軽い二人は話していた通り転がしておくとして、この三人だな。魔力に余裕があるなら“浄化”だけ頼む。いくつか質問させてもらうが素直に答えてくれれば色々融通してやらないでもない」



どうする、と淡々と話すリアンに頭を擦り付けていた三人が勢いよく顔を上げた。

 すっと目を細めたのが見えたので多分“鑑定”しているんだろう。



「なるほど、な。おい、所持金はいくらだ?」



唐突な問いかけに三人は顔を見合わせたものの直ぐに口を開いた。

 私やミントにとっては妥当でリアンやベル、ディルのお金持ちからすると少ない金額にリアンが何か考えるそぶりを見せて次の質問をした。



「食料は持っているのか」


「あ、はい…といっても合流地点で携帯食料の乾パンを2つ買っただけですけど」


「俺たち三人で2つです。量が結構あったし、二日で合流地点に戻る計算してたので」


「あとは野営の時に拾ったクミルの実がいくつかあるだけです」



その答えを聞いて深いため息をついたリアンは、面倒そうに息を吐いて私の名前を呼んだ。

 まさかここで呼ばれるとは思わなかったので驚いて返事をしたんだけど、声が裏返った。

いや、だってびっくりしたし。



「その反応はどうなんだ?まぁいい。ライム、パンに余裕はあるか?」


「え?ああ、うん。あるよ。元々多めに作ったし、一袋くらいなら」


「一袋は確か十個入りだったな―――…それなら銀貨1枚で売ってやるがどうする」



リアンの言葉に冒険者三人は顔を見合わせて、直ぐに頷いた。

普通ならパン2つで銅貨1枚って値段なので驚いていると呆れたようにリアンが説明を始める。



「いい加減に君は、錬金術で作ったものに対する価値を改めるべきだな。売ってやるパンは錬金術で作ったパンで、そこいらのパン屋では買えないものである事、そして本来ならば自分たちで調達すべきものを融通してやるということも考慮してこの値段だ。値切りたいなら乗ってやってもいいが納得できる交換材料を出すように」



さぁ、どうする?と何処か楽しそうに口元を釣り上げたリアンは完全に悪役顔だった。

ポーチから念のためにと持ち歩いているパン入り袋を取り出しつつドン引きしていると、気の弱そうだった女の子がおずおずと口を開く。



「あ、あのぅ……私、弓が得意なので狩りと解体は得意です。この辺りには鳥も結構いるみたいですし」


「ライム、鳥肉は必要か?」


「へ?あー…あれば助かるけど。まだ在庫はあるよ。でも、ベルが狩ってくれるの期待して少なめに買ったからお肉食べたいなら―――」


「大きさと量にもよるが五羽食用の鳥を狩れば銅貨2枚分値引きしよう。五羽以上なら君が僕らと行動する間スープと肉をつけてもいい。ライム、料理はできそうか?手間なら無理にとは言わないが」


「別にいいよー。スープは倍量作ればいいし、この辺り色々食材あるみたいだから余裕も出来そうだし」



言い出した女の子はリアンが意外とすんなり納得したので驚いていたけれど、銅貨2枚が浮く上にうまくすれば自分の食事を確保できることがわかって意気込んでいる。



「もちろん、武器を使う必要がある以上ベルとディルに行動を共にしてもらう。君たちを信用したわけではないからね」



頷いた女の子は当然だと思っているようで素直にうなずいた。

 続いて声を上げたのは灰色の髪と青い目の大人しそうな男の子。



「俺は家が材木扱ってたのでキノコとか食べられる野草には詳しいんだ。ただ薬の材料とかはわからないから役に立つかどうかはわからないけど」


「リアン!採用しよう!キノコは多い方がいいよ!!」


「わかった、わかったから落ち着け。首が締まってる―――じゃあ、採取に同行するように。ただ、逃げようとしたり攻撃しようとした場合は問答無用で対処する。売値は減らせないが、代わりに食事の保証はしよう」


「それでいいよ。っていうか、俺らが手も足も出なかった盗賊瞬殺してるの見てるし、今更刃向かうような真似はしないよ。あいつ等はどうか知らないけど俺も命は惜しいし」



苦笑する男の子をジィッと観察していたリアンがチラリと視線を隣へ移す。

 赤茶色の短い髪とオレンジ色の目をした体格のいい男の子を眺めた後、口を開いた。



「賢明な判断だな―――…君は何かあるか?」



リアンは鑑定しているから何ができるのか大体予想できるのだろう。

何処か楽しそうにも見える。



「……実家は石材を扱っていたから鉱石や原石なんかの見分けはつく」


「取れ高次第、と言いたいがこの辺りでは難しいだろうし、君は僕らに“鉱石の見分け方”や“知識”を知っている限り教えてくれ。勿論、この辺りで採れるもので構わないし、何を教えたらいいのかわからないなら僕らの質問に答えてくれるだけでいい」



報酬は食事でどうだ?とリアンから提案したことで少し驚いたけれど、異論はないのかこくりと頷いた。


 チラッとベルにがっしりと片方の足首を引きずられていくピンク髪と金髪の姿が視界の端に映ったけど、私たち四人と残った三人は綺麗に視なかったことにした。

突っ込んじゃいけないこともたくさんあるって、私今回の旅で十分すぎるほどに学習したと思うんだよね。


でも、これでようやく採取を始められそうだし、気合入れて採るぞー!!

目指せ冬の備蓄分確保!






ここまで読んでくださってありがとうございました!

引き続き絶賛誤字脱字変換ミス受付中です。


…読み直して違和感があればこっそり修正やら加筆させていただいてます。


ブックマークや評価、なんか急に伸びて驚きましたがありがとうございます。

凄くうれしいです。がんばります!


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― 新着の感想 ―
書籍読んでたら続きが読みたくて読み返してます 窓のない家の入り口塞いで閉じ込めちゃうと窒息か、熱中症になってしまう気がします
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