第65話 採取旅 5日目 後
採取回…というか、採取と説明の回。
キノコは順調に集まっています。なので、今回はここ掘れワンワン!って感じで。
次回は、ちょっとシリアスというかしんみりした雰囲気を挟みたいなァ…なんて企み中。
『忘れられし砦』という場所は少しだけ家の周辺に似ている。
周囲が険しい山に囲まれている所は勿論、雑多に木々や草が生えていたり、丘のように木がない場所があったりとそっくりだ。
今向かっている鉱石が採れるという洞穴も、家の近くに似たような場所があったし。
(懐かしいな。鉄鉱石と結晶石くらいしか採れなかったけど、ここは粘土も取れるって言ってたっけ。粘土使った調合って何かあったかなぁ?)
地面から顔を出すキノコを見つけては採取用の籠に放り込み、使える薬草を発見したら採取して採取袋へ。
「ベル達は大丈夫かな?この辺に食べられる動物いると思う?私そういうのイマイチわからなくって……家にいる時は罠仕掛けてたけど、ベルみたいに自分から狩りに行ってれば―――あ、ミントその木の根元に食べられるキノコ生えてるよ。リアンは左前の岩の横に魔力草あるから採っておいてー。私ちょっとあっちにクイーンキノコっぽいの見つけたから採ってくる」
時々、一緒に行動しているリアンとミント、そして新人冒険者五人のうち実家が木材関係の仕事をしていてキノコや野草に詳しいラダットと実家が石材関係のムルの五人。
別行動しているベルとディル、そして狩猟をしていたというチコっていう新人冒険者の女の子はご飯のお肉を確保しに行っている。途中で採取できるものは採取してくるって言ってたけど…。
(ベルってば嬉しそうに大斧をぶん回してたし、獲物探すのに夢中になって忘れると思うんだよね。リアンも同じようなこと注意してたし)
鼻歌を歌いながら少し離れた場所に生えていたクイーンキノコを採取して戻ると、呆れたような感心したような表情の四人が私を見ていた。
「本当にクイーンキノコ採ってきた?!この距離でわかるなんて」
「結構わかりやすいと思うけどな、ほら、よく見ると土が盛り上がってるしクイーンキノコの色がちらっと見えたからそうかなーって。コツ掴めば誰にでもできるし、そんな驚くことじゃないよ。そういうラダットも色々見つけてくれてるし。そのキノコってスープに入れると美味しいよね」
「うん。倒木じゃなくて生木に発生するキノコだけど、乾燥させておけば長期間保存できるから冬場とか助かるって村でも人気のキノコだったんだ。そもそもキノコって乾燥すれば一冬持つから助かるよな」
「冬って芋系とか根菜類くらいしかないからキノコって貴重だもん。って、あれ?これってカムル草?薬草はわからないって言ってなかったっけ」
「ああ、カムル草は母さんがお茶にしてたから、葉っぱだけでも使えるかなって。キノコと一緒によく採って帰ってたんだ」
おお、と思わず小さく拍手するとほんのり頬を染めて照れ臭そうに笑っている。
私の家は村から遠かったし、同じくらいの年の子供とはあまり会わなかったし人もいなかった。
“友達”は憧れで絵本とおばーちゃんの話や優しいお客さんの話しか情報がないけど、多分、こういう感じなんだろうなーって思った。
ちょっと嬉しくなって、ミントとリアンに
「ねぇねぇ“友達”ってこんな感じのやり取りするんだよね?」
って聞いたんだけどミントは困ったような顔をして、リアンは初めて会った時と同じような冷たさ漂う無表情で私を見ている。
「忘れているようだが、現段階で“友人”と認識することは止めておいた方がいい。二匹の害虫とパーティーを組んでいる時点で関わるのも極力避けた方がいいことくらい君でもわかるだろう。まぁ、話が通じるという点では及第点だが人を見る目がなさすぎる」
バッサリ淡々と言い切ったリアンにミントがまぁまぁ、と宥めるように話しかけている。
隣にいたラダットが困ったように笑いながら小さく頷いた。
「友達って言ってくれるのは嬉しいけど、友達だって今の俺は言えないからギルドでパーティー解散の手続きしてから改めて友達として話してくれると嬉しい。な、ムル」
「そうだな。言い訳をするようだが、あいつ等とは同じ村の出身なんだ。元々、人の話を聞かない所はあったんだが、ギルドで魔術師と騎士の才能があることがわかってから都合の悪い言葉は聞かなくなった」
才能があって喜ぶのはまぁわからないでもない。
だって私も錬金術師としての才能があるってわかった時は嬉しかったから。
でも、魔術師と騎士の才能ってそんなにいいものなのかな?って首を傾げているとリアンが教えてくれた。
「貴族以外の魔術師は比較的珍しいし、数が少ないから優遇措置も一般的な冒険者より多い。騎士については剣士の上位版の一つともいわれている。剣士も経験や訓練を重ねていけば騎士や熟練剣士、あと珍しい所で双剣士なんかになれるようだが……まぁ、目安程度に捉えておくべきだろうな。一般的に才能があっても実力の証明にはならない。あくまで“資質”があるということに過ぎないんだが、勿論例外もある。その例外は“資質”であり“才能”が必須になる召喚士と錬金術師だろう」
「ライムはどう考えているのかわからないですけど、リアンさんの言うことは割と一般的な認識なんですよ。魔術師の才能も騎士の才能も多少珍しくはありますけど、どちらも才能がなくても訓練次第でなれますからね」
ディルさんとか、魔術師ではないのに魔術使えてますよね?と指摘されて今更気づいた。
騎士と剣士の違いも正直よくわかってないので、とりあえず、まぁ…才能があるからって威張ったりするのは間違ってるんだなって認識でいようと思う。
「でも大して自慢にもならないような才能であそこまで偉そうにできるってすごいなぁ」
「はは。まぁ、村の中でも裕福な方だったから余計そうなのかも。ほら、あの二人って華やかだし容姿も整ってるからね」
ラダットの控えめで困ったような表情を眺めながらあの二人を思い出すけど、いまいちよくわからなくて助けを求める様にリアンとミントに視線を向ける。
「華やかで容姿が整ってるって思ったことないんだけど二人から見たらどう?」
「私も、その、申し訳ないのですがあのお二人の容姿について特に思うことはなくて」
申し訳なさそうに頬に手を当てるミントは普通にあの女の子より可愛いし綺麗だと思う。
綺麗な金髪と柔らかい声とか表情なのに芯があるっていうか兎に角いい子って感じ。
そういえばベルも美人だし、足とか綺麗なんだよね。
全体的にすらっとしてて髪も綺麗な赤だし、お嬢様ってだけあって仕草が優雅でついつい見ちゃう。
あのピンク髪の子も可愛いといえば可愛いのかもしれないけどミントやベル程素敵だとは思えないや、なんて呟けばリアンが呆れたようにラダットを見下ろしている。
「あの程度なら掃いて捨てるほどいるだろう。利用価値も低いし、何ら魅力を感じないな」
「りよう、かち」
「リアンさんらしい感想ですね、ちょっと安心しました」
思わず絶句した私と隣で感心したように小さく拍手するミント。
ラダットとムルはリアンの言葉に絶句した後、無言で目を逸らしていた。
そんな会話の後は無言で目的としている岩山と洞穴を目指して足を動かした。
◇◆◇
採取をしながら進んだので結構な種類のキノコや薬草が集まった。
予定していたキノコや薬草の他に予想外の収穫があったんだよね。
「まさかマルべの実があるとは思わなかったなぁ。沢山生ってたし、明日も採りに来ていい?籠たくさん持ってこないと。ミントもジャムにしたら教会のみんな喜ぶんじゃない?マルべの実って単品でも甘味強いから砂糖なくても美味しいと思うよ」
「そうします!でも、ああいったものを畑に植えられたら助かるんですけど」
「マルべの木は結構広がるからおすすめは出来ないけど、教会なら大丈夫じゃないかな。俺の村にあった教会は裏の林の一部を区切って沢山マルべの木とかレッドベリーの木を植えてたよ。なんでも非常食になるってことで結構有効に使ってたし」
ラダットの話を聞いて、若い苗木を数本持って帰ることになった。
苗木も傷まないようにトランクへ入れてしまえば荷物になることもないし、教会で沢山マルべの実が採れるようになればミント達も助かるだろう。
(私もちょこっと分けてもらえるかも、だし)
雑木林を進んで大体一時間くらい経った頃から少しずつ岩が増えてきた。
岩が増えると木々が減り、落ち葉も減ってむき出しの地面が見えているところも多くなってくる。
こうなれば地面にキノコは殆ど生えてないし、日当たりが良すぎるせいで木や倒木に生えている可能性も殆どないと判断して移動を優先した。
「う、っわぁ……すごい!」
雑木林を抜けると岩山の麓へ出た。
断崖絶壁と表現するのが相応しい、険しい岩山は見上げるほど高くて、当然ながら山の頂上が見えない。
おぉー、と口を開けて空を見上げて視線を下げると大小さまざまな穴が開いている。
穴というよりも無数の裂け目と言った方が正しいといえるような大きなものから、人ひとりがようやく通れる大きさ、腕が二本入りそうな小さなものなど幾つかの洞穴があった。
その前は10mほど岩が所々に落ちている以外、剥き出しの乾いた土と少しの雑草しかない。
ここを野営場所に、とも思ったんだけど…上から岩が落ちてきたら洒落にならなさそうなので口には出さなかった。
「あのさ、ここに夜採取しに来るって出来るかな…?夜しか採取できないものとかありそうじゃない?」
「図鑑に夜採取物の効能の変化というのもあるようだし、僕としても興味はあるな。今夜また来てみるか。僕と……ディル辺りでいいだろう。ベルとミントには少し負担をかけることになるが」
「私は構いませんよ。二~三日の徹夜には慣れてますし一日三時間ほど眠れれば最低限体は休ませられますから大丈夫ですけど気を付けて下さいね。ほら、厄介なモンスターが出るって噂もありますし」
「問題ない。ゴブリンは数が多くても的が増えるだけで大した影響はないし、レイスやドラウグルはディルがいれば魔術でどうにでもなるだろう。最悪、アイテムもある。どうにもならなければ逃げればいいし魔物除けは施しておくつもりだ」
淡々と夜の採取に向けて段取りを組み立て始めたリアンとミントを横目にラダットとムルへ視線を向ける。
二人も興味深そうにキョロキョロと辺りを見回していたけれど、熱心に木々と岩山のあたりを見比べていた。
「どうかしたの?なんか落ち着かないみたいだけど」
「熊やボア系のモンスターはいないみたいだよ」
「縄張りの印も形跡もないから野営しても問題はない。ただ、鉱石の類は少ないと思う。ここの火山は活性化しているわけじゃないし、今後もしばらく安心だろう」
熊やボア系のモンスターや動物の縄張りならば木の皮が剥がされていたり、足跡があったりすることは私も知っていたからなるほど、と頷けば岩山を見ていたムルが口を開いた。
「この岩山の感じからすると採れるとしても品質の低い鉄鉱石と結晶石、あとは磨き砂、粘土くらいだろう。活火山があった場所やある場所には鉄鉱石や銀鉱石なんかもある筈だ。鉄鉱石はあまり期待しない方がいい。磨き砂はかなり下の方にキラキラした層があるだろう?あのあたりで採れる。光っていないのはただの土と岩の塊だ」
ムルの節くれだった年の割に太くてしっかりした指が指し示す場所へ視線を向ける。
確かに、地面と接しているところから大体20センチくらいの所は陽の光を受けてキラキラと輝いていて、帯のようにずっと左右に伸びている。
光のベルトのようなそれを見ているとすぐにムルの指がつっと上に持ち上がった。
「その上の層がすこし黒っぽいだろう。高品質の鉄鉱石があるならもっと黒々としている。ここはかなり薄くて他の地層と色が変わらないから期待できない、ということになる。ここに原石なんかもよく紛れているが水晶石があるならあの洞穴の中だろう。ある程度の深さがなければ見つからないから、大きな裂け目を探すべきだ」
淀みのない説明を聞いて成程、と頷いているといつのまにかムルの話に耳を傾けていたらしいリアンが興味深そうに手帳に何かを書き込んでいる。
「見分けが難しいのは鉱石の類ではなく原石だ。原石は一見ただの石ころに見えるらしい」
「原石って宝石とかの?」
「ああ。宝石の原石は総じて黒く固い石に覆われている。それを落としてみなければどんな種類の宝石なのかもわからない。鑑定をもってしても『何らかの原石』ということしかわからないらしい」
「なるほどな。その原石とただの石や岩を見分けるポイントはあるのか」
「あるにはあるが、口頭では伝えられない。自分で実物を手に取ったり見たりして『石を見る目を磨く』しかない。人によっては二、三個見ただけでコツをつかむ奴もいるし、なん十個見てもわからないやつもいる。鑑定を持っていたとしても『何らかの原石』とさえ表示されないことも多数あるようだ。有名な鑑定士曰くただの石も『何らかの原料となる可能性がある岩石』だからな」
淡々と話すムルと絶句するリアンという珍しい光景を眺めながら、ちょっと思い出したことがあった。
昔、よくおばーちゃんに『原石あて遊び』なるものをさせられたっけ。
原石とそれに非常に似たただの岩を見比べて当てるというもの。
(最初は二択だったのに最終的に十個に一つとかになったんだっけ。時々一つも原石が入ってないことあったし)
「多分だけど私『原石』わかるよ。おばーちゃんに見分けられるように練習させられてたみたいだし」
「は?!」
「いや、実はおばーちゃんの仕分け作業とか手伝ってたんだ。鉱石とか適当に現場から持って帰ってきて、家で仕分けしてたんだよ。普通の岩とかもかなり混ざった状態だったから自然と勘みたいなのでわかるようになった」
ぽかんと口を開けた珍しい表情のリアンと感心した顔で私を見るミント。
私としては何でリアンがそんな顔をするのかわからなかったのでスルーした。
なんとなくだけど……リアンっておばーちゃんに夢見すぎな気がする。
孫の私から見ると結構おおざっぱで適当だったし。
「まぁいいや、とりあえず磨き砂と粘土を採取しよう。磨き砂って今後使いそうだし多めに持って帰ろうよ。劣化しないし」
「あのキラキラした所を削ればいいんですよね?私も手伝います」
「あ、俺も手伝う。こういう作業好きなんだよ。ムルは?」
「俺は水晶石と粘土を。粘土は重いし、良質なものは少し掘らなければならないから力仕事だ」
動かないリアンを放置して私はポーチからたくさんの採取袋を取り出して渡していく。
鉱石や石なら汚れるだろうけど、直でポーチに入れるのはやっぱり抵抗あるしね。
私たちが行動開始してそれぞれ一つ目の採取袋が一杯になったころ、ようやくリアンが正気に戻った。
いつも通りに見えたけど、私の目を見ない所を見るとまだ動揺してるらしい。
隣に座り込んで無言で採取を始めたリアンに思わず
「リアンって結構打たれ弱いっていうか変な所で動揺したりするよねー」
「放っておいてくれ。僕は逞しい君と違って繊細なんだ」
「逞しい?え、私ってそんなに強そう?」
「……なんでそこで喜ぶんだ。普通怒る所だろう」
「え?!ミント、逞しいって誉め言葉じゃないの!?」
「ライムが褒められてるって思うならそれでいいと思いますよ」
サクサクと小さなシャベルで壁面を削る私たち。
地味な作業だけど磨き砂って結構使用頻度高いくせに高かったはずだから一生懸命採取しようと思う。
とりあえず、明るいうちはここで採るだけ採っちゃって、夜にまた来ることになった。
夜の採取って昔おばーちゃんとしてたっけ。懐かしいなぁ。
◇◆◇
真ん中にして遠慮のない言葉の応酬を繰り広げるライムとリアン、そしてそれをフォローしたり宥めたりしながらも楽しそうに笑うミント。
そんな三人のやりとりを眺めていたラダットとムルは顔を見合わせて
「本来のパーティーってあんな感じなんだろうな、羨ましい」
「俺たちの所じゃ考えられないな」
「うん。今度パーティーを組む時はああいう風に遠慮せず意見を言い合える仲間を探そう。パーティ制度は色んな特技や考え方を持った人が支え合うためにあるって聞いたっけ」
なんてちょっと切ないやり取りをしていたことにライムとリアンは気づかなかった。
ミントだけがその小さくも切ない言葉を聞いていたのはまた別の話。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
相変わらず更新が遅くて申し訳ないで………ん?ブックが200超えてる、だと?!
まじですか。すげぇー……あ、ありがとうございます!引き続き頑張ります。
=素材=
【オオベリー/マルべの実】
大きくても2mほどの樹になる果実。木は灰色がかっていて、葉は薄く鮮やかな黄緑~緑。
ハート型ににた葉をつけている。どの山にも生え、繁殖力はそこそこ。
レッドベリーに似た形状ではあるが、一粒が大きく小さくても直径3㎝ほど。
熟すと黒に近い赤になるが、とても甘くて美味しい。現代で言う桑の実。




