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61話 採取旅 四日目 『忘れられし砦」 中

やっと書きあがりました!気づけば中編…あ、あれ?


今回は残酷表現が少々あります。あんまグロくはないですけどね。うん。




 偵察に行っていたディルが戻ってきたときにはもう、日は暮れていた。




暗闇が深まるにつれて、ゆらりと松明の炎が揺らぐ。


 空に無数の星が浮かんで月は細く嗤う様に浮いている。

遠くの山々から聞こえてくるのはウルフ系と思われるモンスターの遠吠えで、他の音は聞こえなかった。

 ディルはちらりと松明の明かりを持った二人の見張りを見てから声量を抑えて話し始める。



「見張りは見ての通りあの二人だけだ。あの場所から下って直ぐに砦跡と焚火が見える。盗賊の数はざっとだが弓持ち三人で後は近距離の武器ばかりが五人。探ってみたがおそらく盗賊は十人だろう。その十人の中に一番体格のいい中年男がいるがそいつが頭とみていい……―――― 事前の情報よりも人数が多いな」


「あら。『広まっている情報と現実が違った』なんて良くあることでしょう、細かいことを気にしないで頂戴な。そうねぇ……見張りは真っ先に片づけるとして残りは八人程度……数え忘れがいたとしても10人以上ということはないでしょうし」


「あの、盗賊たちがいる位置はどのような感じでした? 散っているようなら立ち位置も考えなければいけないですよね。ライムの事はリアンさんに任せるとしても、弓を優先的に潰さなければ危ないでしょうし」


「今回は全員が焚火をぐるりと囲んでいるようだから、生け捕りにするなら割と簡単だろう。もし必要なら俺が召喚獣を呼び出して眠らせるが」


「私としては全員と戦いたいところではありますけど、実験もしなければなりませんのよね?数人だけ切り離すというのは如何かしら。そうすれば実験台も確保できますし」


「実験台は三人いればいい。使うのは毒薬と麻痺薬を予定しているから最悪、一人でもいいか。毒消しはあるし、死ぬ前に効果が確かめられれば良いだけだからな。生け捕りが難しければ殺しても構わん」


「わかった。それなら…――――」



何やら難しそうな作戦会議を始めた四人の声を聞き流しつつ、何気なく周りを見回していると妙なものが見えた。

 一瞬見間違いかとも思ったんだけど、私たちが歩いてきた街道の方で明かりがゆらゆら揺れている。



(あれって誰かがこっちに来てるってこと、だよね?)



ディル達も見張りの盗賊二人もあの明かりには気づいていないようだ。

 じーっと目を細めて観察していると、明かりの数は二つで人影のようなものは五つあるように見えてきた。

知らせた方がよさそうだなと思って一番近い人の服の裾を引っ張ってみる。



「ねぇねぇ、リアン」

「―――なんだ、ライム。質問なら後でまとめてしてくれ」


「ねーねー、ベルー」

「なんですの、ライム。最も効率のいい狩り方を検討し終わってからになさい」


「あのさー、ミント」

「少し待ってくださいね、ライム。一番危険が及ばなそうな作戦考えますから」


「…えっとさ、ディル」

「いざとなればライムだけでも無傷で逃がしてやるから安心しろ」



 すいません、誰か仲間が話を聞いてくれるアイテム下さい。


 全員の服の裾を引いて注意を向けようと努力はしてみたけど、無意味だったらしい。

 近づいてくる明かりから体ごと振り向けば真剣でどこか楽し気な四人の仲間たちが和気あいあいと物騒な作戦を企てている真っ最中だった。

勿論、私は仲間外れ。



「……もうなんかどうでもよくなってきたんだけど、一応言っておく。四人とも、街道の方を明かり持った誰かが歩いてきてるけどいいの?」



不貞腐れついでにひんやり気持ちいい地面に横たわって、確実に近づいてくる明かりを眺める。

見張りの盗賊も気づいてないんだけど、あれ見張ってるんだよね?さっきからずっとこっちから見えない盗賊と話してるっぽいんだけど。


 なんだかなー、とボヤキながらもこの中では今一番自分が見張り役してない?なんて考える。

いや、実際なんか作戦会議は白熱してるし、見張り役の盗賊は盗賊でお酒片手に楽しそうに反対側の盗賊たちと会話中なんだもん。

 やれやれーと思いつつ暗闇でゆらゆらと揺れる明かりを眺めていて気付く。



(ランプとかじゃなくて松明っぽいなぁ。松明って熱そうだから持ち歩きたくはないんだけど平気なのかな?)



徐々に近づいてくる炎は頼りなくて小さくはあったけれど、確かに存在しているようだ。

見間違いじゃなかった!と少しだけ喜んでいると大体作戦が出来上がったのか満足そうな四人の声。



「さて、大体行動も決まった。そうなれば実行するタイミングが重要になってくる訳だが……ライム? 君はそんなところに伏せて何をしてるんだ」



隠れているのだからそのまま寝るんじゃないぞ、なんて呆れたようなリアンの声が降ってくる。


 私は地面に寝転がってるけど四人は立って木の陰に隠れている。

伏せてる私より四人の方が見つかりそうもないのってなんだか悔しい。

私だってかくれんぼは得意だったよ、ディルと二人でしかやったことないけど。



「何って見張りと観察。あ、やっぱり五人いる」


「?何がいるって―――ッ!?ライム、どうしてもっと早く言わないんだっ」


「ええぇぇえ……理不尽!私ちゃんと言おうとしたよっ?!」


「あ、それでさっき服の裾を引っ張ってたんですね。ごめんなさい、どうやったら効率的かつ確実に仕留められるのか考えるのに一生懸命で」


「ミントってホントにシスターだよね?シスターのイメージがなんか凄く変わったんだけどさ、こっち来てから」



なんか神聖で神秘的なイメージが漠然とあったんだけど、シスターって結構な勢いで物騒な集団みたいに思えてくる。

 会ったことのあるシスターって皆綺麗だったり優しかったりして戦いとかそういうのに無縁そうに見えるんだけど。

 私も眼鏡かけなきゃダメかもしれない。

エルが眼鏡をかけると歪んでるのがはっきり見えるようになるって教えてくれたし。



「ちょっとそこの三人、少し黙りなさいな。ばれてしまいますわよ?で、ディル、偵察はできまして?」


「―――…いや、偵察するよりも動きを見た方がいいだろうな。あの見張り達も直ぐに気づく筈。どういった行動をとるのかで俺たちも動きを変えた方が安全だ」


「それもそうですわね。皆さんに確認したいのですけれど……あのお馬鹿な新人冒険者が窮地に陥った場合はどうしますの?」



「自己責任ということで放置だ」


「実力を把握するのも大事ですよね、静観します」


「手助けする理由がないし興味もない」



「助けてって言われたら助ける方向で頑張る――…って、全力で見捨てる気満々じゃない?ど、どうしたの?」



清々しさすら感じる切り捨て具合に驚けば、皆顔を見合わせて呆れたような顔でそれぞれこちらへ向かってくる五人組を指さした。



「え、でも、彼らは合流地点で絡んできた新人冒険者ですし」


「助けても間違いなく面倒なことになる。見捨てた方が学習するんじゃないか」


「リアン。学習する前に死にますわよ、多分」


「実力が足りなくて死ぬのは当事者の問題だから気にしなくてもいい」



四人の目には堂々と「面倒」って文字が書いてある気がした。


 うわぁ、と思わず引き攣った顔を向けるとリアンが何かを思いついたように目を瞬かせる。



「―――…いや、待て。考え方によっては丁度いいんじゃないか?どうせ大したこともできないだろうし、捨て駒…いや、囮として利用させてもらえば」


「ねぇ、いま捨て駒って言わなかった?囮も割と酷いけど捨て駒って」


「ライムは細かい表現を気にしすぎだ。大事なのはいかに安全性を確保し最大の利を得るか、だぞ」



やれやれと出来の悪い生徒を見るような目で見下ろされてなんだか納得はいかなかったけど、とりあえず頷いてはおいた。


 ちらっと振り返るともう、数キロ先の地点まで揺らめく橙色の明かりを持った五つの陰が確認できる。

私が振り返ったタイミングで見張りの野盗も気づいたようだ。

慌てた様子で一人が丘の向こう側へ消え、残された護衛はサッと武器を構えいつでも矢を撃てる体制で息をひそめている。

 つられて緊張し始めた私を見かねたのかベルが小声でただ一つだけ指示をくれた。



「いい?ライム、貴女はリアンの傍にいて、指示通りにアイテムを投げて」



そうすれば間違いなく安全で、そして確実だから。

 自信に満ちて揺るがない声に私の緊張がゆるゆると解けていく。



(なんだろーなぁ……この面々といると生き残れる気しかしない)



っていうかなんか盗賊に申し訳なさすら感じてきた。





◇◇◆





 惨劇のお手本ってここにあったのか、って思わず呟く。




グッと無意識に握りこんだ手のひらから伝わる杖の感覚に支えられるように、私は一方的すぎる狂気の光景をただ視界に入れている。



 野太く正気を失ったような絶叫と悦に満ちた愉し気な高笑い。


命乞いをする情けなくも必死な声と穏やかで慈しむ様に絶望へ突き放す声と行動。


淡々と紡がれる呪文と光と何かの咆哮と声にならない絶望と表情すら作り忘れている抜け殻のような人。



「実験台を確保したとはいっても、あまり派手にやられると目的の採取素材に影響を及ぼしかねないんだが」



前に絵本か何かで見た地獄よりも恐ろしい光景に絶句していると、リアンが何か違和感を覚えたのか振り返った。



「随分と静かだがどうかしたのか?君には誰も近づけさせないから、警戒を解いて普通に話しても問題ないぞ」



きょとんとした顔でこっちを見ているリアンの足の下には茨鞭でぐるぐる巻きにされ、うめく何とか生きている野盗が三人。

 二人は意識を失っていて一人はまだかすかに意識があるようで呻いている。



「コレがうるさいなら黙らせるが」



慌てて首を横に振れば、何故か少し残念そうに表情を曇らせる。

まともな振りしてるけどリアンも大概だと私は思うよ。



(まともだったら、楽しそうに盗賊の指と腕と足と心を物理的にも精神的にも折るってできないと思うんだ)


今現在も傷口を足でぐりぐりと刺激したり、無意味に別の鞭を取り出して遠くから攻撃してるのを私は知っている。



「それにしても“商品”が殆ど死んでいるとは思わなかった」



やれやれと呆れたような顔で殺戮されている盗賊たちが囲んでいた焚火の奥に視線を向ける。

砦の壁があったのであろうそこは殆どが崩れているものの、部屋の隅だったであろう形跡が少し残っていた。


 その後ろには横転し、ボロボロに討ち捨てられた馬車。

周辺には人だったものが転がっている。

 皆、両手両足と首に妙な線が入っていた。



「えっと……商品って」


「ん?ああ、ライムは奴隷を見たことがなかったのか。あのあたりで折り重なっているのが奴隷だ。見分け方は簡単で、種族問わず、両手両足と首に奴隷紋を入れるから判断はしやすい。今回の奴隷は商品の質もあまりよくなかったようだし、廃品間際といったところだろう。何せ若い奴隷が殆どいないし、女奴隷も二人しかいないようだからな。魔獣やモンスターを扱う奴隷商でなかったことは喜ばしい。ややこしくなるからな……盗賊の手先になっていたら戦い方も変わってくる」



リアンの視線を辿るとピクリとも動かない、裸の女の人が二人地面に横たわっている。

髪はぼさぼさでかなり汚れているのが遠目でもわかったけれど、まだ息があるようで盗賊の咆哮を聞いては時々びくりと動く。



「!ねぇ、あの人たち生きてるよ!助けてあげないと…っ」



リアンの背から出ようと足を踏み出せば直ぐに腕を掴まれ、ぐっと黒い布で視界を遮られた。

 ふわり、とリアンの匂いが濃くなったことで体が反射的に固まる。



「手遅れだ。助からないし助けない方が彼女らの為になる。君も、あまり見ない方がいい。彼女らは恐らくミントかベルが楽にしてやるだろうからな……ここにいる奴隷は殆ど捨て値で取引される予定のものだったんだろう。身体欠損または何らかの病を持っている者が多い」


「病気って…どんな?」


「そこまではわからないが、死体が焼かれているのはそういうことだろう。奴隷紋が見えるのはあれ自体が魔力を帯びていて、僕たちのような錬金術師や召喚師だと魔力を可視化してとらえる癖のようなものがついているからだ。一般的な人間や騎士、冒険者では焼かれてしまえば判別は付けられないだろうしな」



後で完全に焼き切れるかディルに確認するか、と息を吐くリアンから動揺は一切伝わってこない。


 私はリアンのマントの中でぼんやりと立ち尽くすしかなかった。

なんというか衝撃的すぎる光景と色んな声やら音やらを受け止める余裕は割と、ない。

死体とか血がぶしゅーって出てるのは私も解体するから慣れてるし、わかるんだけどそれが人間で、しかもなんか一方的すぎる過激なお仕置きによって引き起こされてるとかちょっと受け入れがたい現実だと思う。



「あー、気分が悪くなったなら目を閉じて耳を塞いでおけ。どうせ、野営はここでする羽目になるからな」


「やっぱりここで寝るんだね」


「それはそうだろう。採取すべき素材はここにあるんだからな。ここでは、キノコの類と湧き水、あとは魔力草を多めに採取するんだったか。岩の隙間が小さな洞窟のようになっている個所もかなりあるようだから鉱石の類や粘土のようなものも採取できるかもしれないぞ」


「そうだ、うっかり忘れてたけど採取しに来てたんだった!うわ、どうしようちょっと楽しくなってきたよ、リアン」



脳裏に浮かぶのは沢山の美味しいキノコとよく使う水素材や魔力草の採取方法やら保存方法、そして調理法と調合手順。

 どうしよう、何から作ろう?なんて考えて居ると呆れたような生暖かい視線を感じて顔を上げる。



「……えっと、なにかあった?素材のこと?調理法?」


「いや、君は―――…ライムは本当に錬金術が好きなんだな」


「嫌いだったら態々住み慣れた家を出て勉強しに来ないよー。本当はおばーちゃんに教わりたかったけど、もういないし、そもそも自力だと限界があるんだよね。素材もそうだけど、手元にある資料って皆難しくってよくわからなかったし…杖を手に入れる前までは失敗ばっかりだったから、不安と期待が半々って感じだったなー。教えてもらって、ちゃんとしたアイテムが作れなかったらどうしようって考えたこともあったけど、何度か成功したことと初めてアイテムを作った時の事が忘れられなくって」



必死で窯の中を眺めながら魔力を注ぎ、混ぜて、混ぜて、混ぜて。


 ようやく出来上がった不格好でよくある“アイテム”を喜んで受け取ってくれた初めての友達ディルの顔。

達成感と錬金術に関しては厳しかったおばーちゃんに初めて褒められた思い出。

私の手によって形を変えて新しいものに変わっていく素材たち。

 素材を採取する工程も楽しくて、嬉しくて、驚きと発見で満ちていて。



「私、おばーちゃんみたいに立派な錬金術師になるのが夢なんだ。とりあえず、第一目標は賢者の石。次は私にしか作れないアイテムを作り出すことなの」



小さい目標も夢もいっぱいあるけど、これだけは絶対に叶えたいんだよね。

 今まで誰かに打ち明けたことのなかった夢を言葉にする気恥ずかしさとちょっとした高揚感を誤魔化す様にリアンに笑いかける。

リアンは少しだけ驚いたように私を見て、すぐに視線をそらした。



「―――…いいんじゃないか、君らしくて。僕の第一目標も賢者の石だから、まぁ、協力できるようだったら協力するとしよう」


「うん。ベルにも今度聞いてみようかなー」


「いや……やめておいた方がいい。ベルにも色々あるだろうし、あれでも貴族だからな。言えないこともある筈だ」



突然歯切れ悪くなった言葉にどういう意味か、聞こうとしたんだけど結局言葉は音にならずに消えた。

 っていうのも、視界を覆っていたリアンのマントが外されて静かになった凄惨な現場がお目見えしたからなんだけどね!



「とりあえず、戦闘が終わったみたいだから君はディルと野営の準備を。僕とベル、ミントはちょっと実験をしてから手伝うよ」


「……えっと、ハイ。そーですね、離れてます全力で」



いい笑顔でぐりぐりと靴のかかとで痛々しくも生々しい傷を抉っていくリアンに背筋が軽く冷えた。


(いや、怖いからね、ふっつーに!)


遠くから近づいてくる、ベルとミントはお互いに体にまいていた黒い布を外して一か所にまとめている。

じっとりと重たく湿った音を立てて地面へ置かれる布が一体“何”で濡れたのかは詮索しないでおこうと思う。

あと、夜でよかったと心から思った。



「真っ暗万歳。じゃなかった……ええと、あのー、この状況で何なんだけど、夜ご飯肉鍋とかでも大丈夫、だったりする?」


「運動して腹も減っているだろうし、いいんじゃないか?コメ料理なんだろう、今夜は。楽しみにしている」


「……あ、うん」



意外と図太いというか耐性があることにちょっと驚きつつ、私は三人の仲間たちと合流すべくどこか鉄臭い空気を振り切るように足を動かした。


 怖い夢を見ない様に寝る前には全力でおばーちゃんに祈っておこうかな。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

ブックマークが150を超えました!え、何この数字怖い(震え

いや、あの、怖いですが嬉しいです。

頑張って書き続けますのでお付き合いいただければ嬉しいなーなんて……ハイ。


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