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【書籍化中!】アルケミスト・アカデミー(旧:双色の錬金術師)  作者: ちゅるぎ
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352話 山頂パール 1

 おかしい。一話に納まらなかった。なんでだ。


 あらかた採取を終えて立ち上がったタイミングでアウルさんの声が聞こえた。


 魔力伝いに聞こえてくるその声は楽しそうなのに、どこかひっ迫した緊張感が感じ取れる。

『あ、ごめんね。罠があった所から離れてくれるかな。出来れば罠を避けて安全地帯に移動。片付いたら連絡するよ、このまま戦闘になりそうだ』

 顔を見合わせた私たちの反応を見越したように言葉が続く。

 魔力を介して伝えられる情報なので環境音は全く聞こえない。

『【沈まぬ太陽】の連中と遭遇したら、採取がまだあるからって離れて。間違っても同行はしないように。あいつら犯罪者だ──借り者の二人組は安全。ことが終わった後証言を頼む可能性が高いから、そっちは保護してくれると助かる』

『分かったッス。何があったのかは後で聞かせて貰えるんスよね?』

『詳細は必ず。わかりやすく伝えると【沈まぬ太陽】は闇ギルドに冒険者を売る人狩り。ラクサもライムちゃんも気を付けて。クギはもう奴隷だから安全、と言いたいけど殺される確率が高い。一人は毒を使うことが分かってる』

 毒。

 一口に言っても、多種多様な種類がある事は知っている。

 仲間であるリアンが好んで毒を使うからだ。無味無臭だったり、解毒剤が存在しないものも多くある事は知っていたのでポーチへ手を入れ【上級毒消し薬】などを確認。

『アウルさん。事前に渡した道具の中に布がありますよね?』

 実は罠を見つけて移動する最中にこっそり渡したのだ。

 ラクサにもクギにもしっかり渡してある。

『ん? ああ、あるね』

『毒消し効果がある教会特製の口布が入ってます。それをつけてください。あと、万能薬と毒消しが入ってますが、数がないので異変があったらすぐに教えてください。いくつか【上級毒消し薬】や【上級万能薬】があります。こっちはまだ作れないので、おばーちゃんが遺した薬になりますけど』

『わかった。毒は食らわない。オランジェ様の薬は流石に高すぎて無理だ』

『あと、魔力回復する乾燥果物なんかもその中に入ってます。予防薬も入れてあるので、万一に備えて飲んでおいてください。予防薬は即死効果がある薬でも一分程度なら効果を遅らせることが出来ます』

 これはリアンと薬屋をしているハイエルフのニヴェラばーちゃんと共同で改造開発したものなので、レシピ帳にはない。

『リアンが手伝ってますが、リアンの魔力は青だからアウルさんなら問題ないと思います』

『わかった。助かるよ』

 それっきりだったけれど、割と十分だった。

 警備結界を展開したままだったので、その場で戻ってきた共存獣たちへ水や餌を食べさせていく。長引くとどうしても飲み食いさせられない場面も出てくるので。

「ルヴ、ロボス。これからここを離れるからアウルさん以外の人が近づいてきたら警戒してね。青っこいのは【山頂パール】のところへ案内。番頭長は警戒。ポーシュはどこにいるかな……一度草原にでる?」

「いや、それだと時間がかかるだろ」

 クギの言葉でそうだよね、と呼びに行くのを却下。

 小さくロボスが鳴いたので、ロボスにポーシュを連れてきてほしいと告げるとひと吠えして駆けていく。

「よし。じゃあ私たちは採取しちゃおう」

「……この状況で採取するのかよ」

「私たちの目的は採取だからね。それに、最初に会った時に『採取しに来た』って伝えたんでしょ? なら、ちゃんと採取してないと不思議がられるんじゃないかな。冒険者狩りをしているならこっちが気付いていることに、勘づかれない方がいいんじゃないかなって」

 採取は大事だ。何せ、卒業にも関係してくる。

 今ここに居るのは学院行事。リアンじゃないけど、最大限の成果を上げるべきだろう。

 それに危ないとわかっている人達と長い時間を共にする気はない。長くいればいる程、護衛をする人に負担がかかるから。

「そうッスね。クギ、オレっちは警戒に当たるッス。オレっちが行くんで採取方法を詳しく教えてくれれば、と言いたいところなんすけど……手分けした方が良さそうッスね。まず、崖の上に登ってそっから降りるッスよ」

 崖の上、で私たちは切り立った崖へ視線を向ける。

 岩肌はごつごつしているので足をしっかりかけて登れば問題ないだろう。

「オレっちはライムと一緒に登って、飛び道具に対応するッス。クギは下からくる奴らに対処。ルヴが先に気づくと思うンで」

 こくりと頷いたのを確認したラクサはふぅっと息を吐いて崖の上を見る。

 私たちは移動を始めていたけれど、崖はどこも一筋縄ではいかなそうだった。

「……落ちることはなさそうだけど間違った所に足をかけないようにしなくちゃだね」

「そうッスね。上に丈夫な木でもありゃいいんスけど、諦めまショ」

「ん。あ、そうだ。ちょっと考えてたんだけど……これ渡しておくね」

 取り出したのは中粘度の魔力接着剤。

 クギには薄いけど丈夫な革を渡して、私も付け替えた手袋へ接着剤をつけていく。

「これって魔力接着剤ッスよね?」

「うん。これをこうやって指の腹部分と掌、あとは靴のつま先部分に塗って、脆い所とかには魔力接着剤を直接塗って固めて登るといいかなって」

 普通の環境ならしないけどダンジョンは環境破壊に類する行為が禁止されていない。その場限り、と聞いているので今回使うことにした。まぁ、しっかりとした生態系が出来上がっているのが気になるところではあるけどね。

「魔力接着剤って魔力を通したり魔力を切ることで接着できるでしょ? 崖を登る前にある程度慣れておけば落ちる確率が減るかなって思うんだよね。最悪、戦う時も服と崖を直接くっつけて戦えそうだし」

「癖はありそうだけど、まぁできなくもない……か?」

 少し試すぞ、と近くにあった木で接着力や魔力を通して、くっつけ、再び魔力を流して剥がすという行動を繰り返すクギ。

 私は思いついた時に何度か練習してみたけど、感覚は大事なので黙って見守る。

 クギの横で同じように試していたラクサが感心したように息を漏らした。

「よく思いついたッスね」

「素材辞典を見て高所採取でどうにか安全にって考えてたんだ。たまたま色々な種類の接着剤があるって教えてもらって……やってみたら便利だったんだよね」

 素材の事を知らないと新しいものは作れない。

 だから新しい素材になりそうなものは、一通り試してみるのだ。長所短所特徴を。

 くっつくのに、割とペリっと剥がれるのは中粘度だった。でも、やや硬度が足りなかったから別の粘度をもつ接着剤も混ぜている。

 いくつかダメにしたけど、こうやって安全に登れるなら無駄にはならなかったかな。

「ん。これなら何とかなりそうだ」

「じゃあ早速崖登りだね。青っこいの、案内お願い!」

 ついていくよ、と言葉をかけると承知したと言わんばかりに飛び上がり、そしてクルクル回り始める。まるで此処から登るといいよ、と教えてくれているようだ。

「ありがと。先に上で待機と索敵を頼んでいいかな?」

 いいよ、というように8の字飛行をした青っこいのが気持ちよさそうに飛んでいく。

 あっという間に見えなくなった小さな体を見上げているとラクサが隣へ。

 私に倣うように岩壁に手を添えている。

 脆い部分は下の方にはないようだけれど途中、地層が変わっている部分がある。

「中腹辺りは色が違うから注意しなくちゃだね」

「あの辺は崩れそうなンで、注意しないとまずそうッス」

「ロープが垂れてる所まで行けたら、かなり安定するとは思うけど……うーん、ポーシュには下で待機してもらって万が一落ちてきたら受け止めてもらおうかな。受け止めるの上手なんだよね」

 二階から飛び降りてキャッチするっていう訓練をこっそりしていたのだ。冬に。

 あまり高い所から落ちすぎると受け止める方も衝撃が強くなるのでこっそり崖登り用の熊手も用意しておく。

 落ちた場合、岩壁に引っ掛けて速度を緩めるのだ。

 まぁ、岩壁から離れたら使えないんだけどね。

 ふっと息を吐いたところでロボスとポーシュが戻ってきた。

 水を飲ませオヤツを食べさせつつ、お願いを口にする。

「ポーシュ。もし私たちが上から落ちてきたら受け止めてくれる? ポーシュが怪我をしない範囲でだけど」

 どうだろうか、と聞けば彼女は頷いて優しく髪の一部をはみはみ。

 お礼を言えば嬉しそうに顔を寄せてくれた。

 耳は周囲の様子を窺っていてくれるので警戒もしてくれているらしい。

「ありがと。じゃあ、ロボスは下で警戒と待機。ルヴは崖の上まで行って、上から妨害されない様に警戒をお願い。ルヴが一番この中で戦いなれていて、広範囲の魔術も使えるようになってるから」

 信頼しているよ、と頭を撫でると誇らしそうに胸を張った。顎の下を撫でた所で、私の頬をひと舐めしてパッと崖の上へ。ルヴの足の速さはかなりのものだ。登っている間にあっという間に到着するだろう。

 ルヴは完全に他の共存獣に指示を出したりまとめたりするリーダー役だ。

 ロボスは基本的に色んな共存獣と相性がよく、周りをよく見ている。

 元は女王蜂に仕えていた青っこいのは指示を受ける方が動きやすいみたいだし、ポーシュも御者というヒトから指示を受けて動くことが多い種族であることから、ルヴの指示にも従っているようだ。

 共存獣ギルドの人が言っていたけれど、ルヴが一番レベルが高い。このまま順調に育って行けば第三形態への進化もあるだろうと言われている。

 各共存獣が持ち場に着いたのを確認し私は崖に向かい合い、手と足をかけて登り始める。

 隣をラクサが同じペースで登ってくれていて非常にやりやすい。

「しっかし、ライムはいい主人してるんスね。ぶっちゃけ、あんま指示だしとか苦手なタイプだと思ってたんスよ。ほら、工房ではリアン主体でアレコレ進んでるッポイし」

 崖の下部は割と登りやすいので会話する余裕はお互いにある。

 私たちがある程度登ったところでクギが下から登ってくるのが見えた。

「工房では役割がだいたい決まってるからね。工房運営に関する事はお金が絡むからリアンが主体になるんだ。私もベルも一通り計算とかそういう作業は出来るんだけどね。流行や店内装飾関係はベル、私は調合関係が主体になってるからベルとは次に作るアイテムを決めるとかそういう作業も結構してるよ。ラクサがアイテム作成で立てこもってる時にそういう話してる」

 気まずいだろうしね、と言えばラクサは違いないと頷いた。

 岩壁を登る機会がめっきり減っていたので勘を取り戻すのに少しかかるかも、と考えつつ手足を動かして登っていく。

「リアンやベルには言ってないんスけど、他工房の話聞きます?」

「え? クローブとマリーポットがいる工房の話? 聞きたいっ」

 驚きつつ感情のまま返答する私にラクサはどこか得意げな笑みを向けて力強く頷いた。

 地面からはおよそ三メートルほど。

 背中で風を少し感じるなーと思いながら、上へ。

 ロープはまだ見えない。

「二つの工房で手を組んで採取に行くことが定番になってるらしいッスよ」

 不安定な浮遊感を味わうことがないよう、しっかりと指先に力を込めて登っていく。

 下から私たちを見たらどんな風に見えるんだろう、なんて少しだけ考えて口元が緩む。

「人数が多い方が採取効率いいもんね」

「そうッスね。採取以外でも意見交換を頻繁にしてるらしいッス。どうやら『ライム達の工房は一つで完結しているけど、自分らにはそれだけの力がないから』って。あっちの工房生たちは借金返済して卒業することを最大の目標にしてるッス」

「私たちも『借金完済・錬金術師合格で卒業』ってことで今、座学にも取り掛かってるし……リアンは復習する必要ないレベルだし、ベルも勉強できるから私だけが必死になってるんだけどさ」

 ボソッと呟けばラクサが笑う。

 手が空いた時に得意分野から覚えるようにしているけれど、苦手分野が本当にキツイ。

「ははっ。確かに座学頑張ってるッスよね。けどまぁ、合格して卒業するころには間違いなく歴史に名前が残るッスよ? 間違いなくどの錬金術師の店より評判いいッスもん」

「だといいな。でも、学生の店だから入りやすいんじゃないかな。あと三年の期間限定でしょ? 今のうちにって感じなんだと思う」

「たしかに敷居は低いッスよね。金のない駆け出しでも主婦でも子供でも入れるし……伝説の三人組~みたいに語り継がれる未来があったり」

「まっさかぁ! でもまぁ、ベルもリアンもなんか貫禄あるからなぁ……ほら、表彰されても『当然ですけど?』みたいな顔してるだろうし」

「ライムはそのままでいて欲しいッスねー……けど、ぶっちゃけると本当にライム達の工房って異常なんスよ」

 ラクサの言葉の意味が分からず首をかしげる。

 凹凸のあるタイプの岩だから会話する余裕はあった。

「異常って……別に普通に回復アイテムとかあると便利なもの売ってるだけだよ」

「どう考えてもレベルが違いすぎるッス。学生のうちにオリジナルアイテムが並ぶなんて尋常じゃねぇんスよ? 便利って一口に言ってもライム達の『便利アイテム』は危機的状況下では命綱になりかねないモノばっかだし」

 まったく、と呆れ混じりに話すラクサは楽しそうだった。

 私達の事を非常識呼ばわりする彼だけど、自身が細工師の中でもかなりの『実力者』であることをあまり自覚していない。

 露店で作品を売る細工師の腕はピンキリ。

 繊細だったり頑丈だったり珍しかったりする細工はよくあるし、キレイなものを作り出す人もたくさんいる。

 でも、ラクサの作る物は実用性とデザインが断トツだった。

 日常で使えるお洒落で便利な細工。時に武器や防具、お守りとして大事なものを守る為に施される細工は、多くの人に長く使ってほしいという想いで成り立っている。

 簡単に、でも直ぐに対応できるようラクサ自身が工夫して考えてオリジナルの細工を作り上げていることを私たちは身近で見て知っているのだ。

 そうじゃなきゃ、ベルやリアンがラクサを重宝するはずがない。

 普段通りの話をしながら岩壁の中腹付近まで来たところで一度休憩。

 体を岩壁にくっつけて、杭などを使って確実に固定したうえ、接着剤も使用する。

 そうしてから指先をいたわる為に軽くもみほぐして息を吐く。

「ふー……ロープが見えてきてるからあと少しだね。あの辺り群生してるっぽいし」

 群生している山頂パールは非常に珍しいから、ダンジョン特有なんだろう。

 上に行くにつれ魔力が濃くなっているのも珍しいし。

「群生……って、そこまでわかるってもはや化け物ッスよ」

 体力回復効果のあるお菓子をラクサとクギへ渡す。

 群生ってどこだ、と目を細める姿に笑う。

「そういえば──アウルさんはどうなったんだろ」

 視線を下に向けるとラクサやクギも同じように崖下を見ている。実は時々、爆発音が聞こえて来ていたのだ。

「上からは何も見えないね。大丈夫かな」

「あの人の事より、相手の方が生きてるか心配ッス。俺程度じゃ瞬殺ッスもん」

 気にしなくていいッス、と笑うラクサに思わずクギを見ると深く頷いていた。

 そっか、と納得して早く登り切ろうと再び岩壁へ手を伸ばす。



 読んでくれてありがとうございました!

 やっと目的の採取ですね。長いなぁ(遠い目

 結構悩んだ山頂パール。色々こねくり回しました。

 中々感想に返信が出来ておりませんがしっかり目を通しております!(本当にスイマセン)

 遅くなっても必ずお返事はしますので、お待ちいただけるとありがたいです。 


 あ、web版は中々更新できなかったのですが、無事にアルケミスト・アカデミー 五巻が発売されております。電子書籍でいずみノベルズさんからばっちりな表紙と共に。webとはまた違う内容になってます。

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― 新着の感想 ―
錬金術師サマ()が驕り高ぶってるのが今の現状でライムたち3人の工房にどれだけの人が救われたのかって改めて考えると凄いことだよねぇ
更新ありがとうございます! ライムが生き生き採取してて何よりですね(笑)山頂パールたくさん取って帰ろう♪ そういえば、今頃リアンは謎解きしてるんでしょうか。ベルが斧振り回してるのは容易に想像がつくんで…
更新ありがとうございます。 やはり例の冒険者たちは犯罪者でしたか。錬金術師で珍しい二色の髪のライムは価値が高すぎる。戦闘できないのもみえみえで、この国だと貴族や権力者との関係性もわからないし狙い目です…
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