350話 植物系?の魔物あれこれ
す、すんごく短い…久々に短いです。
ビックリぃ…
目の前に垂れた蔦は、まるで時間を速めた様に葉をだし、やがて蕾を膨らませた。
が、その蕾は次々に茶色く枯れて落ちていく。
呆然とその光景に見入っていると何かが私の前へ飛び出し、守るように立ち塞がった。
「青っこいの?」
声をかけると答えるようにカチカチという僅かな歯を鳴らす音。
しばらく見つめていると一つの蕾だけが大きく、まるで人の顔くらいの大きさへ。
「これ、なんだかわかりますか?」
「いや……初めて見る。魔樹自体は多いし討伐も礼も受け取ったことはあるけれど、こういう体験はない。敵意がないのは分かるけど……念のため、少し下がって。もし何かあっても直ぐ片付けるから」
小さな音もなく片手ナイフを手にしたアウルさんと蕾へ視線を向ける。
先端が僅かにほころんで、それっきり成長が止まったソレとゆっくり距離をとったけれど正体がわからない。
どうしたものかと思案するアウルさんの雰囲気に私は無意識に握っていたらしい採取用の鎌をポーチへ戻した。勝手に刈り取ると怒られそう。
「ラクサくん。これ、何か知ってる?」
目を離すことなくアウルさんから質問されたラクサは私の隣に立って、首を横に振った。
「いや、知らないッスね。こんなん、初めて見たッス」
どうしたものかと考えている最中に小さく息を飲む気配。
視線を向けるとクギが何かを確認するかのように、魔樹全体を確認しているところだった。念入りに確認しているのは木の根部分。
「クギ、何か心当たりがある?」
「リッカ先せ……じゃない、リッカから叩き込まれた中に一つそれっぽいのが」
「え、リッカから?」
「ダンジョンに行く以上、主人であるライム様に何かあったら困るから覚えておけって言われてダンジョンで遭遇する『珍しい』魔物やら植物、生態を持った生き物や状況に関すること……その中に【べギピラスの蕾】ってのがあった。植物学者の中でも根拠が定かじゃないけど、発生する条件の一つに『白・黒』の魔力を持つっていうのがあるらしい」
「白と黒の魔力……? ライムちゃんはそのどっちでもないよね。そもそも源色やら無色って呼ばれる魔力色の持ち主自体が珍しすぎるから調べられなかったのかな」
「ってことは、私、すごく運が良かったのかな。その【ペギピラスの蕾】って古代語直訳だと『欲望と願望の蕾』になるから物騒ではあるけど……噛みついてこなさそうだし、食べたら美味しいか凄い素材になる、とか」
人の顔くらいの大きさの蕾を観察していると、クギが覚えたという内容を口にしていく。所々自信がなさそうなところはあるけれど、おおよその概要はつかめた。
どうやらこの蕾は魔力を与えたものが与える『餌』と『想い』によって姿かたちを変えるという。
「魔力と餌……そして想いの三つが必要って『べビピラスの卵』に似てるなぁ」
「あ。それ伝説のやつッスよね。ドラゴンが生まれたり、やべぇ合成魔獣が生まれたりするっていう」
「そうそう。英雄にもなるし大罪人にもなる『審判の卵』って呼ばれるやつ。さっきの条件で行くとライムちゃんが餌をあげて魔力を込めないと生まれないってことか……どうする? 今の時点で共存獣いっぱいいるけど」
出てくるのが何なのかはわからないし、不要なら刈り取ってしまうのも手だと言われた。
素材に出来るかもしれない、という気持ちはあったけれど私としてはちょっと何が生まれるのか見てみたい気持ちが強い。
ちらっと私の行動をじっと見守ってくれているルヴ達へ視線を向ける。
「──仲間が増えても仲良くできそうかな?」
私の言葉に共存獣たちが一斉に声を上げたので私は迷うことなくアウルさんとラクサ、そしてクギに宣言した。
「ちょっと試してみます」
エサ、といわれてとりあえず思いついたのは自分が『初めて育てるのに成功したマトマの種』だった。
小さなそれを蕾がほころんでいる所へそっと指で押し込む。
「……今のなんスか」
「え? マトマの種だけど。生まれて初めて栽培に成功したやつ。凄く嬉しくて、一粒だけ残しておいたんだ。えーっと次………? なんだろ。あ。そうだ。これにしよう」
折角だし、と錬金金属のカケラを入れる。
これも工房で作った初めての錬金金属だ。
「……ライムちゃん、今のって金属片?」
「はい。初めて作った錬金金属のカケラですね。魔力たくさん使ったし、暑かったんですよねぇ。いい思い出です。今も時々錬金金属は作りますけどね」
あはは、と笑いながら少し考える。そして、最後に取り出したのは小さな瓶。
よし、と蕾に近づける直前に左右の肩を二つの手によって掴まれた。
「ちょっと待つッス! ソレ、なんすか」
「除草剤とか言わないよね? 流石にないと思うけどもっ」
「あはは。除草剤だと枯れちゃうかもしれないから殺虫剤にしました! 半端に残ってて」
二人が動かなくなった隙にエイッと瓶ごと蕾に突っ込んだ。
手に付着すると火傷するからね。
「瓶は暇つぶしに自分で作った魔石ガラス瓶なので問題なし! じゃあ、サクッと魔力注いでみます。他にも採取しなくちゃいけないし」
何が生まれるのかはわからないけど、なんか生活に役立つ生き物だと嬉しいなと思いながら魔力を込める。
途中で『想い』を込めることが必要だと言われたことも思い出して「元気で長生きで一緒に暮らしていこうね」とありったけの魔力を注ぎ、中級魔力回復薬を二つ追加で開けた。
意外と魔力を吸われる。
体力を少し削った所でぴたりと魔力の吸収が止まった。
しばらくすると蕾と魔樹を繋いでいた茎部分が切れ、手の中へ納まる。
「……むしれた。と、とりあえず魔樹には魔力注いで補給しておくかな」
追加で魔力回復薬を飲み、魔力を注ぐと今度は魔実レシポムが落ちてきて、慌てて補充をしてお礼を伝えた。大盤振る舞いすぎる。
クギが呆れたような雰囲気を醸し出しつつも、しっかりレシポムを回収してくれたのでお礼を言った所で、ゴソゴソと蕾が動き始めた。
「あ。なんか動いた。蕾が動くってちょっと気持ち悪いかもしれない」
「いまさらッ?! ってかどんなのが出てくるんスか?! マトマの種と金属片と殺虫剤って異色の組み合わせどころじゃねぇ!」
「オジサン、ソロ冒険者しててあらかたの物は見たつもりだったけど流石に……うん、さすがに色々凄いなって思ったよ。トライグルこわい」
何やら賑やかな左右を囲む二人とは違って、ルヴたちは落ち着いていた。
じーっと蕾を見ていて、ゆるりと尻尾を振っている。青っこいのはずっと蕾を見たままホバリング中だ。
蕾は、少しずつ、色を変えて花になっていく。
手の中で咲いたのは黄色と緑の花だ。私の髪色に似ていた。
「あ……ベル、大丈夫かな」
花の中央。
大人の拳くらいあるツルっとした独特のフォルムを見て真っ先に浮かんだ心配がそれだった。
「テントウムシ?」
「赤くて星が七つあるから、害虫食べてくれるテントウムシだね」
「てんとうむし? これ、レディエンファーだよね? 幸運虫の」
どうやら地域によって呼び方が違うようだった。
でも、おおよそ害虫駆除してくれる農家の味方でもあり幸運を運ぶと言われていることは間違いないようだ。
じっと見ているとモゾ、と動き出して真っ黒な瞳が私を見た。そしてどうするのかな、と思えばパッと背中から羽を……出したのはいいけれど、どこからどう見てもその姿は私の知っているテントウムシではない。
「……今度はトンボ虫だ」
「とんぼ? レリベライだよね。こう、飛ぶのが早いやつ。夏から秋によく見かける」
「オレっちはヤンマウィッチだと思うんすけど」
初めて見るわ、と覗き込んでいると開いた花の中へ青っこいのが降りる。
そして小さな触角のようなものを動かし、意志を伝えているようにも見えた。
この行動は数秒のみで、直ぐに青っこいのは私の頭上へ。
カチカチと数回促すような音が聞こえたとおもうと目の前にいた謎の虫はトンボの形になって私の頭へ。
虫二匹が頭に乗った状態なのだけれど、重さはあまりない。
「えーっと……番頭長ね。君の名前。よろしく」
私の声に反応したのか目の前に正体不明虫が飛んでいる。名前を名前と認識したらしく、私の周りを三回回って、頭の上へ落ち着いた。
気持ち悪い虫って感じではないから、きっとベルも大丈夫だろうと自分に言い聞かせて次の採取地へ視線を向ける。
早めに採取をしたい。材料は多ければ多いほどいいので。
「ばんとうちょう……ネーミングセンスが独特すぎるっていわれるでしょ」
「あはは。私は分かりやすい名前を付けてるだけで普通ですって」
やだなぁ、と笑えばアウルさんが曖昧な笑顔を浮かべて頷いた。なんか誤魔化された気持ち。
ラクサは頭を抱えて何やらうずくまっていた。
その横には気の毒そうな雰囲気を醸し出しているクギ。
「おいてくよー? アウルさんやルヴ達と先に進むからね」
「ライムの所為っスよぉおお!!! なんスか、番頭長って!!!」
「分かりやすくていいと思うけど……あ。あっちにムカカの木がある! ムカカも欲しい」
あれ! と指させばラクサは諦めたらしく、周辺の警戒をしながら付き合ってくれた。
ただ、その道中に気づいたんだけどしばしば青っこいのと番頭長が薬草やら花やらを採ってきてくれる。
その出所はどうやら滝のある方らしい。
「……現物があればとってきてもらえたりするのかなぁ」
「それは確かにあるかも。けど、次の場所に向かわないと……ねぇ。今、番頭長、何か咥えて来てるんだけど」
「あ。ほんとだ。なんか咥えてる。肉食なのかな」
「に、肉食昆虫ではあるッスけど……アレ【リージ・ラルス】ッスよ。全身の毛が毒なんで、とりあえず防水袋に入れて密閉するッス。あーっと、使える所って」
慌ててベルに貰った『錬金術素材大辞典(魔物)』を開く。
結構な分厚さがあって、他にも植物や鉱石があったからそれを先に読み込んでるんだよね。魔物系の素材ってテストに出にくいらしいから。
「尻尾の魔金属部分が『金属』『毒物』のカテゴリになるみたい。あと、魔石」
「了解ッス。んじゃ、尻尾の金属部分と魔石を渡すんで。オレっち、一応いま金符の効果で毒は一時的に効果ないンで」
「それなら私も平気だけど……対策はいろいろしてるから」
「ライムは雇い主。オレっちは雇われ。オッケー?」
「はーい……毒、後できついし、体調に不安があったら素直に言って。いっぱい薬あるよ。番頭長、そこに獲物を置いて戻ってきてー!」
声を張り上げるとその場でピタッと止まって雑に死体を落とす。
結構な音がしたけれど、気にせずコチラへ向かってくるが青っこいのが立ち塞がる。
まるで点検するように番頭長の周りを飛んだあと、私の頭へ。
番頭長も後を追うように頭に止まった。
「どうやら『番頭長』が毒を持ってないかチェックしていたみたいだね。すごいな。虫系の共存獣が此処まで賢いなんて知らなかった」
「私何も教えてないんですけど、本当に賢いんですよね。えらいえらい」
よしよし、と頭を撫でてクズ魔石をあげると二匹は喜んで魔力を吸い始めた。
ラクサやアウルさん曰く、番頭長は青っこいのに試されたのではないかという。
ルヴ達もずっと番頭長の動きを見ていたのに、戻ってきた時にはそれぞれリラックスした様子だったので恐らく、その推測は正しい。
「……放っておいたら私より賢くなってたりして」
思わず零れ落ちた言葉に残りの三人も何とも言えない表情で黙り込んだ。
小声で「俺もヤバイかも」なんて呟いていたからこの時の私達はみんな同じ気持ちだったに違いない。
出てきました。新規のやつが増えていく…恐ろしい場所です。だんじょん。
あ。アルケミスト・アカデミーの4巻が発売(いずみノベルズさんから電子書籍とPODで)されてます。
そちらと、こちらのなろう版では内容がちょい違うのでもしよければ、セール中などに1~3、とかってみていけそうだったら是非4もお手元へ。
以下、新しく出てきたやつ。
基本的に下書きみたいな感じなので、エッセンス的にどうぞ
【トンボ虫】
ライムの祖母がトンボ、と呼んでいたためライムや周辺の村々などは「トンボ」と呼んでいる。他の地域では『レリベライ』が一般的。統黄国ではヤンマと呼ばれ、ウィッチがつくと魔物化したヤンマという意味に。後ろに下がらないことから勝ち虫と呼ばれるが地域によっては嵐や気候の変化を感じて集団で移動することから『不吉の兆し』とされることも。
【テントウムシ】
ライムの祖母がテントウムシ、と呼んでいたことからライムや周辺の村々、統黄国では「テントウムシ」と呼ばれる。他の地域ではレディエンファー、幸運虫とも。
【ナナホシトンボ】名前:番頭くん
初めて世界に爆誕したトンボ×テントウムシの魔物。
全体的に赤く、黒い星印が七つある。羽根は金属特有の光沢をもち、目は黒。
虫に対する攻撃がすべて特大ダメージに変化する。攻撃は噛り付くがメイン。その内レベルが上がると魔術を使うようになるかも……?
自分より数十倍大きな虫相手でも確実に弱点を狙って攻撃し、そこから『殺虫液』を流し込めるのでほぼ無敵。金属を混ぜられたことで体自体も非常に堅い。肉食昆虫。
【べビピラス】
古代語直訳で『欲望と願望の蕾』と呼ばれる。
魔樹から生み出される特殊な蕾で魔樹の樹齢が1000年以上。かつ、魔力を注いだ人間の魔力色が白・黒・源色のどれか。白と黒の場合0・5%の確率。源色の場合は1%の超低確率で発生。※後で確率は下げるかも
【魔力栽培果実】魔力で育てられる果実の総称。
魔実アリル、魔実ピーチェなど様々な種類があるが、天然の物のみがこの呼称を使われない。魔力を帯び、変質した果実であるためか味・見た目が通常とは異なる。また、産出地はダンジョンが一番多いが一般の果樹園などでもみられる。基本的に魔力を帯びた木は『魔力を帯びやすい』状態になり、翌年は実をつけないことも多い。
【キノコ葡萄】
木の幹部分に直接実が生る珍しい果実。視の大きさは直径五センチほどで、大きいものだと八センチにもなる。味は甘みの強い葡萄。水葡萄とは違った濃厚な甘さ。皮をむいて食べるが、薄い殻のようになっている。
【レシポム】
テニスボール大の大きさっで皮の色は緑。柑橘類のような香り。
実の中は白くクリーム状。爽やかな酸味と濃厚な甘みがある。完熟前は赤い。




