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第95話 彼女が「魔女」と呼ばれた日。差し出された土だらけの手。


ん~?平原の天馬?


「わははははっ」

ティアさまが謎の自走する植物に追われて走り回っている。

「グスがぁ、『私を捕まえてごらんなさぁあい』だ!」


あ~、砂中の銀のぎんが


「ふふ、うふぁわはははは」

蒸し風呂どころか溶鉱炉のようにアツアツの砂の中で笑うエリーゼさん。

「フフ、風呂上がりのエール(ビール)が楽しみね。ロウリュウまだかしら」


ふたりはアンジェさんのお仕置き中だ。


他のみんなどこに逃げた?

僕に見送られることもなくさ。



そう言う僕は、とんでもなく気まずい状況。


サクッ、サクッ、サクッ……


エルフの集落にあるハティさんの家。

そこの近くにある畑を耕作している。


ああ、見つけてぇよぉ、地中の芋を……


いや、いいんだ。

畑づくりは楽しい。


すぐ隣には、「生き物を喰う農作物」が植えてあるけれどさ。


それよりも、問題は――――


「ふふふふふふふ」


僕の畑仕事を楽しそうに見ているアンジェさん。


樹木の上。木の枝に腰かけて楽しそうに見ている。


「あ―――――」


目が合うと、はにかんで手を振る。

僕も手を振り返す。


正直、美少女にこんなふうに好意を寄せられるって幸せだと思う。

微笑んでもらえてさ。

でも――――――


ねたんでやる。そねんでやる……」


木の陰でブツブツと怨嗟の念を送るハティさん。


「この間男めっ」

……誤解がトンデモナイ。


「きぃぃぃっ、許せないぃぃぃ」

ギリギリと歯噛みする。


それを引っ叩いてエリーゼさんが連れて行く。

いや、さっきまで灼熱の砂の中に埋まってなかった?

なんか、いい体してるなぁ……


「この機に『ティア』に乗り換えなさい」

ん?どういうこと?


「どうせ、口約束なんでしょうから」


「なぁ~にぃ~がぁ?」

アンジェさんが樹上で睨み付ける。

それにエリーゼさんが舌を出す。

仲が良いんだなぁ。


「ロッシェ……」

声に振り返ると笑顔のアンジェさん。


怖い。いや、本気で怖いんだけれど!

いつの間にぃぃぃ。


「お茶にしない?」


言われて僕は、休憩をとることにする。



「はい、『ロッシェ』、熱いから気をつけてね」


アンジェさんが僕にお茶を勧めてくる。

「いただきます」


僕は受け取って、お茶をすする。

とてもおいしい。

変な渋みがない。

甘くもある。


「ふふふふふ」

嬉しそうに笑うアンジェさん。


天気は良い。

美少女と共にするお茶は格別だ。

……中身は千年を生きるおばあちゃんだとしても。


「ロッシェ、ロッシェ、お菓子もあるよ」

そう言って、焼き菓子を差し出す。


「え?」

「はい。『あ~ん』」


摘んで僕の口に入れようとする。


遠雷が響いた。

生き物の逃れる音と、剣戟。

たぶん、どなたかが、マジギレ寸前。


「あの~」

「なに?」


小首をかしげるアンジェさん。

正直、幼い外見以上に儚い雰囲気がある。

可愛らしいというより「綺麗」って感想が出る。


「僕、『ハル』なんですけれど」

「うん。知っているよ?名前、間違ってた?」


「いえ、確かに『ロッシェ』ではありますが」


「ふふ。そうだよね。ごめん、ごめん。あんまり『あの人』そっくりだからさ」


「ロッシェが、この『棒』を大切にしてくれていて、本当に嬉しいんだ」

そう言って、僕の手にする「土寄せ棒」を愛おしそうに撫でる。


あれ?アンジェさんは触っても大丈夫なの?



街を歩いている私の足元に石が転がった。

あきらかにこちらに向けて投げられたもの。


その軌跡をたどって顔を上げる。

すると、子供の泣き顔とぶつかる。


「魔女め!」


その言葉に驚いた。

誰のことを言っているの?


「みんなを返せ」


憎しみを込めた言葉とまなざしに私を指していることだけはわかった。

何のことを言っているの?


知らない、知らない、本当に知らない。


子供の言葉に堰をきったように人々から罵詈雑言を浴びせられる。


わからない、わからない、何で、何でそんなことを言うの?


私は逃げかえるように王城へ戻った。

王に尋ねた。

私が何をしたのか問うた。

そして説明を受けた。


―――そうか、そういうことか。


そこで腑に落ちた。

政治的な理由。


多くを救い、少なきを切り捨てた。


戦では敵を倒したが、味方が少なからず犠牲となった。


疫病が起き、その原因がわからず矛先を探した。


「守護者」などと呼ばれているが、全てを救えていない私がいる。


そして彼らには……どうしようもない不満があり、その捌け口が私だった。


ただ、自分とは違う存在を悪く言っていれば憂さが晴れる。

そして、ちょっと気分が良くなるというだけのこと。



その日を皮切りに、私は街を歩くことが少なくなった。


いろいろな人と話すこともある。

楽し気に接することもある。


でも、上っ面だ。


心の底では噛み合わないことがわかっている。

腹の内で黒い靄がかかっているのがわかる。

少しでも離れれば、「表向きだけ」とか「王様に罰せられちゃかなわない」とか聞こえる。


誰も私のことなんか好きじゃないとか、だから嫌われるんだよとか。

みんなが嫌っているのが分かる気がするね、とか。


じゃあ、みんながみんなお前のこと好いているのか?

そういうお前を私は嫌なのだから、お前は少なからず皆に好かれているわけではない。


こんなくだらないことをしらみつぶしにしている暇はない。

だけれど、腹が立つことには変わらない。


あのさ、人の人生は長くても100年。

それに対して犬や猫は15年。

そうみると、十分の一程度しかいっしょにいられない存在。


それぞれに突出した能力はもち得ているけど、知能にも差があり、言葉も通じない。

そんななかで、愛情や心の通い合いはあるように思える存在。


それと君たちは共存しているよね?


私の言っている意味がわかるかな?


私たちエルフの寿命は3000歳がほとんど。

人の寿命は長くて100年。


君たち人間が、犬たちと共に歩むのとそう変わらないの。


――――でもね、でもね。


私たちはそんな風に見てない。

言葉が通じる。

知能もそこまで変わらない。

時には優れた者もいる。

姿もそう変わらない。


時には恋愛対象にだってなるんだ。


私の同胞にも、君たちをバカにする者はいる。

でも、私はそんな風には見ていない。


それなのになんで君たちは私たちに……


――――――私にそんな敵意を向けるの?



放っておこうかと思うことも多々あった。

でも、できなかった。


そうして過ごすうちに、森を巡り、時に同類に会って情報交換をした。


(海……また見てみようかな)


200年前くらい前に見に行った海。

潮騒は森とは違った感じだったから、気分転換になると思った。


少し疲れていたんだ。私。


そんな時に彼に会った。


もう少しだけやってみようかって思えるくらい、元気をもらえた。



「おい、チビ助」


ぶっきらぼうな男。

日に焼けた顔。

青年と言ったほうがいいけれど、ちょっとだけ年がいった感じ。


「何よ……」

私は警戒して言う。


「ガキがそんなしみったれた面してんじゃねぇよ」


ソイツはそう言って作業の手を止める。


「腹ぁ減ってねぇか?」


これが、「ロッシェ」と私の出会いだった……



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