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第88話 「後悔」と「怖れ」 「失われた右腕」の昔話。

ご覧になられる皆さまへ。


気付いたら、このエピソードメチャクチャ長いです。お時間のない方は読み飛ばしていただいても大丈夫です。



エリーゼは陣幕の中で苛立ちを覚えていた。


戦況が芳しくない。


今やティアとハティはそれぞれが一軍を率いる将。


ティアは「金の軍靴グリーブス」、ハティは「銀の腰鎧フォールズ」。


双方とも機動力の高い軍を率いて戦功を重ねてきた。

名実ともに国軍の主戦力。


しかし、今度の作戦はいつもと様相が違っていた。



出陣している彼らが苦戦を強いられている。


理由は足を引っ張るものが多すぎるが故だ。


外敵ではない、身内に問題を抱えているのだ。

例え彼らでも力を発揮するのは難しい。

何よりも他人を優先してしまう性格であるがために。


(どうか、無事に)


願わざるを得ない。

これは、いつでも、いくつになっても変わらないだろう。



わずかばかりの後、エリーゼのもとに、伝令がやってきた。


「王子殿下、帰還」

エリーゼはそこでやっと息をついた。

最悪の事態は避けられたのだから。

「まずは、殿下の治療を急ぎなさい」


「グリーブス、フォールズの両軍は?」

「いまだに、敵と交戦中のようです」

「何?」


嫌な予感がする。

先ほどまで撤退をしていたのだ。あの二人が帰らないのはおかしい。

何よりも王子は一人で帰ったというのか。


「再度、帰還の合図を送りなさい。伝令も出すように」

幕僚に指示を出す。

「私は王子殿下の見舞いに行きます」



歩きながらエリーゼは考えを巡らせていた。

名将アルフ・マックレンが守る砦とはいえ、数は3,000とそこまでの規模ではない。


そこで、王の三番目の子であるアドニスを主将として攻城軍が編成された。


要は武功を立てさせるためのお膳だてである。

国境に位置するこの砦の価値は「とれれば儲けもの」ぐらいである。


しかし、三番目とはいえ、王族。

点数稼ぎの出陣でも何かあってはことである。

そこで、王家も主力級の将軍が随行している。



本陣守備にエリーゼ。


攻城軍右翼にエリーゼの副官フリード・バッフェ、ルーク・バッフェ兄弟


攻城軍左翼にハティ・マクスウェル。


攻城軍中央に王子アドニス。

これにはティア・シュトゥーテ・フラインが随行している。


よほどのことでもなければ問題など起きようはずがない。



だが、作戦中に事件は起きてしまった。


軍略に明るくないアドニスが独断で突出してしまったのだ。


慌てたエリーゼはティアにアドニスを連れて帰るように伝令を走らせた。

同時に撤退の合図も送る。


ハティには退却のフォローをするように伝令を送った。


ハティも心得たもので、王子が突出した時点で動いていた。

本陣からはその動きが見えており、一時囲まれつつあったアドニスを救った。


弟が自身と同じ判断であることを心強く思っていた。



しかし、最悪なことにアドニスがさらに前進したのが見えた。


おそらく、これも独断であろう。

日ごろから変にハティを意識していたようであるから、それが災いしたのか。


戦況が混迷し始めていた。


幸いにもほどなくしてフォールズが殿しんがりを務める中、ティアのグリーブスが王子と共に戦線離脱していくのが見えた。


右翼に展開していたバッフェ兄弟が敵の牽制をして退却をサポートしている。


丘の上から確認できたのはここまでである。



日が傾き始めた。


王子の旗とグリーブスの旗が本営近くまで来たと伝令から伝えられた。

この本陣が敷かれている野営地は丘の上にある。


敵砦との間には平原が広がっている。


最後に撤退が確認されたのが2時間前。


王の軍旗が本営近くまで下がったと確認されて1時間。



再度攻勢にでるか、配置を変えるか。

軍議をするためにも、帰還兵にまず補給などをしなくてはならない。


時間で言えば、何事もなかったかのように王弟の帰還の足は問題がない。


しかし、なぜかグリーブス、フォールズ共に帰還しない。


何かをかけたがえたかのようなズレが重なり始めている。





帰還したアドニスを見舞ったエリーゼであったが、頭を抱える事態となった。


王子が治療のために本国へ帰還すると言い出した。

盤面をひっかきまわしてくれた元凶が帰ってくれるのはありがたかった。


だが、問題はその続きであった。

負傷の責任をハティたちに転嫁し始めたのだ。


曰く、負傷してまで戦端を開いたのに、グリーブス、フォールズともに続かず足を引っ張ったため、戦闘継続は困難と判断して転進した。


曰く、王弟が勇猛に戦っているにもかかわらず、惰弱な両名は一軍を率いる責任を果たすことなく身命を惜しんだ。

故に、両名は責務を果たすべく、砦を落とすまで陣営に戻ることを許さない。


曰く、帰国に際してはエリーゼが護衛として同道するように。


無論、エリーゼは承服するわけもなく、険悪な状況となった。


日が落ちてからの戦闘は敵味方がわかりづらいので困難を極める。


戦闘継続が難しいので日没後は互いに陣に戻ることが多い。



しかし、それを許されないのでは両隊を平原のどこかで休ませなければならない。

補給物資の輸送をしなければならなくなる。


(問題ばかり起こしてくれる)



エリーゼは苛立ちが募るなか、次の動きを頭の中で構築していた。


弁を弄して翌日の昼まで帰還を伸ばしつつ、事態の収拾に努めることとした。


日が傾き始めたとはいえ、日没までまだ時間がある。


グリーブス、フォールズに増援を送ることを決め、砦を落とす作戦を幕僚たちと共に練り始めた。



その時であった。


砦近くに展開していたグリーブス、フォールズ両軍の近くで爆発が起き、戦場混乱のさなかにあるという急報が入った。



その後も矢継ぎ早に戦場の混乱ぶりが伝えられる。


グリーブス、フォールズ共に潰走した形跡がある。


何名かが前線に取り残された様子がある。


また、混戦の最中、何者かが無茶苦茶な魔術行使をしたらしい。


爆発が立て続けに起こって、生存確認もままならい。


エリーゼは急ぎ増援を送り、敗走した兵の救出と情報収集に動き出そうとした。


しかし、これをアドニスがとどめた。


明らかな腹いせであっただろうが、王族の命に背くことは難しい。


下手をするとせっかくとりつけた猶予も反故にされかねない。

エリーゼは秘密裏に私兵を出し、情報の収集を命じた。





同時刻、夜闇の中を本陣へ向かう一団があった。

ボロボロになったティアを護送する騎馬団である。


「アンタ、ホントにあのティア・シュトゥーテ・フラインだよな」

「そうだ」


「ホントに、ホントだな」

「しつこい!そうだと言っている」


「なら、間違いなく俺をあの姉ちゃんのところへ案内してくれよ?」

「わかっている」


「ホント、頼むぜ。ここで借りたもん返さなかったら、一生後悔しそうだからよ」

「お前は、ハティのなんだというのだ」


「何だって言われても……ねぇ、答えづらい質問だな」


「二回も半殺しにされた野郎ですよって言ったらどうです、お頭」

「てめぇっ!それ言うなってんだろ」

その怒声に周囲から笑い声が上がる。


(なんだ、この下品な輩は……)

ティアはうんざりした顔で周囲を見渡す。


そして、事の顛末を思い出し、情けなさに首を垂れる。


涙をこらえるしかできなくなった。



あの時、第三王子と共に出陣した。


先鋒としてハティが出て交戦していた。

ハティは敵の先鋒を蹴散らして、武威を示した。


それがいけなかった。

王子は、敵は弱小と侮ってしまったのだ。


王国でも屈指のハティ率いる「腰鎧」だからこそ簡単にこなせたように見えるのだ。


しかしその実、数段階に分けての攻撃、城よりの援護からの切り離しなどの工作を綿密に行った上でのことだ。



それを王子は「ハティには負けられん」などと功を急いてしまった。


ハティ隊の横を抜けて突出してしまったのだ。


諫める間もなかった。


そして、瞬く間に城から出た敵の増援に囲まれる憂き目にあった。


追いすがったティアの金の軍靴グリーブスとハティの銀の腰鎧フォールズで敵の囲いを切り崩すことに成功した。



しかし、それを好機ととらえた王子は勝手に前進を始めた。


これにはさすがのハティも我慢の限界を迎えたようだった。

「高ッ鼻!あれを連れて本陣に戻れ」

ハティの声が響く。


内心、「何を!」と言い返そうとしたが、第三王子が優先である。


「撃たれないようにこちらで請け負う」


ハティの目は油断なく王子に向かう兵へ向けられていた。


第三王子に向けられた敵兵は“ルーンナイト(魔術騎士)”クラスばかりであった。


“アークナイト(上位騎士)”同様の上級騎士クラスで魔術まで扱える兵。

弓兵ではなくても魔術による遠距離攻撃や範囲攻撃ができる。


足手まといの的を早々に離脱させるという判断は間違っていなかった。


「わかった。が……今の言葉覚えてろよ!」

ティアは怒鳴りつけるように捨て台詞を吐くと、王子のもとへ駆けた。


王国随一の軽騎兵団の速力である。

瞬く間に王子の横に着けた。


「王子殿下は一度本陣へ戻りください。これは転進です。恥ではございません」

そう慰めを述べた後、続ける。


「王子殿下のご活躍によって敵は城外へと引きずり出されました」

さらに言い募る。


「殿下の策にはまった敵めを屠る大役、このティアにお譲りいただきたいのです」

くどくどと説得を試みる。


彼女自身思いつく限りの言葉を並べたので内容はよく憶えていない。


「今回は王子殿下の勇猛さを示したことで良しといたしましょう」

ティアの説得により、やっと第三王子が首肯した。



内心ティアは張り倒したくなっていたのだが、本陣近くまで護送した。



だが、憤懣やるかたないこの凡夫は散々文句を吐き捨た。

自身の傷ともいえぬ負傷をティアたちの落ち度として責めを負わせると喚く。


そうして、陣営の中へ消えていった。


ここでティアの我慢が限界を迎えた。

「クソッ、奴らぶっ殺してやる!」




「ハティ!」

ティアの声が響く。

「なぜ、戻った?王子殿下は?」


瞬く間にティアは戦場を駆けるハティの馬と並走する。

「ちゃんと送り届けた」

「ならば、お前も休めばよかろう」


「そうも言ってられないだろう、それに……さっきの『高っ鼻』とは何だ!」

「それを言うために来たのか!?」


「お前が進退窮まって途方にくれてないか来てやったのだよ!」

「そういう物言いが『高っ鼻』だというのだ」



敵の一団が向かってくる。


二人は距離を取り、間に敵の隊を挟むように駆ける。


すれ違いざまに敵の騎兵を斬り倒し、抜けると同時に互いの隊列を入れ替え、反転する。


交差するように展開しながら敵を襲う様は、二頭の大蛇が獲物を襲うさまに似ていた。



状況が好転しつつある。


敵砦から、太鼓の音が響き、敵が反転し、退いて行く。

城門へ向かって脱兎のように駆ける様は、敗走にも見えた。


(せめて、もうひと当て!)


王子の捨て台詞が頭にこびりついている。


頭に血が上っていたティアの視野はめずらしく狭くなっていた―――――


「止まれ!」

ハティの声と同時であった。


先頭を駆けるティアの足元より光が放たれる。


(魔術陣?)


そう認識したと同時に足元から火柱が上がる。

その閃光と熱、衝撃で意識が遠のいた。



「う……」

土埃と黒煙の中、ティアは目を開ける。


自身が炎に包まれる瞬間、何者か馬ごと体当たりしてきた。


おかげで、自分は消し炭にならなかたのだが―――――


黒煙の向こうに見知った鎧の者が横たわっている。

ハティだ。

あれは、ハティであったのか。


自分の馬も、ハティの馬も体を引き裂かれて死んでいた。


「……ハティ?」

ハティの無事を確認する間もなく、遠くから敵兵の雄たけびが聞こえる。


まんまと罠にかかった間抜けどもを仕留めにきたということか。

煙る戦塵に敵兵の姿が映り始める。



周りを見渡すと、フォールズ、グリーブスの多くが例の魔術の犠牲になっていた。


私たちは知らぬ間に罠に引き込まれていたいたのだ。


そして、有効範囲内に収めたところで発動したということになる。



体を起こそうとしたとき、ハティから離すかのように引き起こされた。

抵抗しようとその主を見やれば自軍の副官である。


「ジャンヌ!ハティが」

ジャンヌは力を緩めず、冷たい顔でかぶりをふった。


「だめだ、死んでない。連れていく!」

それでもジャンヌは離してくれない。


「ハティっ!逃げるぞ!」

彼の方に行こうとするのをジャンヌが押しとどめる。


「行きますよ、お嬢様」


「なんで!?彼をおいておけない」

「いけません。自軍の被害は致命的です。動ける者を集めながら退きませんと」

冷徹な言葉に腹が立った。


「どう思われようと構いません。まずは主の命を守ることが大事です」

至極真っ当で、当然で……でも、嫌な言葉だった。


僅かな口論の間にも敵影が迫ってくる。

時間がないのはわかる。


「ハティ、聞こえないのか!逃げよう!退くんだ!」

彼が体を起こす。


「ほら、生きてる!ジャンヌ、手を貸して」


「お断りします」

きっぱりと彼女は言い放ち、ティアの手を引いて彼と反対の方に足を進める。


そこで気づいた。

「ジャンヌ、あなた…」


彼女の背が血で濡れている。

破片のようなものがいくつも刺さっている。

足の運びもぎこちない。


ティアは深呼吸をする。

今、するべきことは何か。


「ハティ、退くぞ!ついて来い!」

呼びかけるが、彼は聞こえなかったかのように背を向け立ち上がった。


「ハティっ、逃げるの!みんなが!」

一瞬だが、ハティと視線が合ったように思えた。


だが、彼は落ちている剣を拾うと彼女とは反対の方に歩き出した。



「違う、そっちじゃない。何で!?」


敵の姿が見えるところまで近づいてきた。


ジャンヌは強引に引っ張る。

彼女の方が重傷なのに、抵抗をさせてくれない。


「逃げてっ、だめ!死なないで!」

叫ぶが、彼の姿が敵兵の中に消えていく。





その後、乱戦となった。


爆音や怒号が響き渡るなか、私たちはよろけながらも走りづづけた。


なぜか私の方へ向かう兵は少なかった。


自軍もそうだが、フォールズのメンバーも回収した。


動けない者を見捨てることに胸が痛んだが、それでも助けられる者を優先した。



彼から離れてからは敵の追撃はほとんどなかった。

遠くでは魔術の炸裂する音や怒号が聞こえる。


残った仲間と必死に駆けて戦場から離れた。


そしてガレット率いる傭兵団“黒金の鷹”に遭遇した。


こいつらの荷馬車に乗せてもらい、本営に引き上げている。


ジャガイモ仲間のみなさんへ


祝日の夜、いかがお過ごしですか?

いろいろ大変なことがあると思いますけれど、何とか週末を「スン」と過ごしていただけると幸いです。


さて、世の中は三連休のようです。

ここまで、結構ヘビーなお話でしたので…

明日のお昼にはゲリラ的に「あの人」の過去のお話を投稿しようと思います。

いや、まったく本編と関係ないですよ?


よろしければご覧ください。


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