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第82話 夢の中へ


「あれ?ハル、なんでいるの」

コレットがハルの姿を見て尋ねる。

「う、うん。実はハティさんに連れてこられたんだ」

「え?」

「あ、アンジェさんは助けたよ…たぶん、無事だと思うけど」

歯切れが悪い。


「フィンたちと戻る途中だったんだけれど、急にハティさんが『僕に救いを求める(ロリ)がいる』って叫んで」

「あ、ああ、そうなんだ……」


「なぜか僕を掴んで走り出したんだ」

「で、そのままフィンたちを置き去りにしてきたの?」

「うん」


ハルが周りを見る。

自分たちは城内にいて守られている。

参戦していない。


「まさか、こんな大変なことになっているなんて」

「そうなの。先生とガレットさまが行ったのに」

コレットが不安そうにする。


「大丈夫だよっ、エリーゼさんもガレットさんもメチャクチャ強いんだからっ!きっと敵と行き違いになったんだよ」

「そう、だよね」


「とにかく、僕たちはできることをやろう!炊き出しの手伝い、一緒にやろうよ。ハルさん特製のコテージパイ・ジャガマシマシで全回復だよ」

ハルが声を上げる。


「うん」

コレットが頷く。

(ハルも、怖いのに……)

彼の心のビジョン……

彼女の前では嘘はつけない。


「よぅし、ハルさん、頑張っちゃうぞぉ」



その晩、異変が起きた。

「……?」

早くに気づいたのはコレットだった。


「ハティさん」

コレットはハティを呼ぶ。

「なんだい?眠れないの?」

(ああ、不安そうなコレットも可愛いなぁ)

戦中なのにハティはブレない。


「いえ、嫌な感じがするんです」

ハティがハッとして自分の胸に手をあてる。

(ふぇっ!?コレットに嫌われたぁ)


「いえ、ハティさんじゃなくて……よくわからないんですけれど、西側の川の方から変な靄みたいなものが……」

言葉にハティが目を閉じて鼻をひくつかせる。


彼も気づいたようだ。


「コレット、よく教えてくれたね。君は城でも安全なところ……ティアの部屋に行くんだ」

ハティはそっとコレットを促す。


振り返る一瞬だが、かつて白狼将軍と呼ばれた戦人いくさびとの顔が見えた。

(このお顔をしてたら、カッコいいんだけれど)

コレットは残念で仕方なかった。



「オウル、バルドールよ。よろしいですか」

城の代官でもある彼の部屋を訪ねる。


昼間の攻防で疲れ果てている彼は、ベッドから半身を起こして迎えた。

「霧が出ています。ここではよく起きることですか?」

「……はい。山間ですし、城の近くを川が流れているので」

「確かに日中は温度が高かった。だが、夜の今もそこまで冷え込んではいない」

「それが、何か」

いらだたしげにバルドールが言う。


彼とて連日の夜襲に応じていて疲労と睡眠不足のピークに達しているのだから仕方がない。


「今日に限って霧が発生するのが、おかしいと言っているのです。このタイミングで」

ハティは言葉が足りない。

だが、状況の異変については伝わったようだ。


鈍った頭でバルドールが言った。

「では……」


外ではゴウッと風が鳴る。


城を霧が包んだ。


ややあってハティが閉じていた目を開く。


周囲の景色は一変していた。



森の中、それも故郷の森。

離れたところにあばら家がある。


(ああ……)


自身の手を見る。小さな子供の手。


(そういうことか)


粗末な、洗いざらした着物。

腰帯には短刀がある。


遠くでは、懐かしくも自分を呼ぶ声がする。


夕餉の時間だと呼ぶ声。


大したものなどないのだが、わずかばかりの糊口を湿らす夕餉を摂り、風呂とは名ばかりの水浴びを共にし、物語を読み聞かせてもらい、眠りにつく。


辛い一日をようやく終わらせる安堵の時を告げる声。


この景色こそ、彼には温かくて抗いがたい誘惑。


だから即座に彼は鞘を払い、短刀を掲げて額にあてる。


「ノウマク・サンマンダバサラダン・センダ・マカロシャダ・カンタヤ・ウンダラタ・カーンマン」

真言を口にする。


眦から涙がこぼれる。


次いで、九字の印を切る。

「臨める兵、闘う者、皆、陣をはり列して前に在り」


ダークブラウンの瞳が琥珀色に輝く。

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前」


(この礼は高くつくぞ!何者であったか思い出させてくれたな)


裂帛の気合と共に周りの景色が切り裂かれる。



ハティが再び目を開くと、先ほどまでの部屋であった。

目の前にバルドールが伏せている。

呼吸を確かめると眠っているようだ。


(これは、してやられたな)


連日の夜襲。

日夜関係なく防戦を迫られることで気力、体力共に疲弊したこの状況で催眠の魔術を使う。


ハティが来なくても使っていただろうが、彼が来たことで一瞬でも気のゆるみが生じたのは確かだ。


(ならば、次の手は決まっている)


ハティは部屋を後にした。



僕は妙な風に違和感を覚えた。

部屋から恐る恐る状況を確認する。


廊下で寝ている人たちがいる。


なんだ、何が起きているの?

みんな疲れて寝ちゃった?そんなバカな……


誰か、誰かを起こさないとっ!


この城で一番力のある人。


そうだ!ティアさま。


ティアさまは頭がいい。きっとこの状況を打破できるだろう。


悪いけれど残念魔人さんは呼ばない方がいい。

昼間の怒りっぷりだとこの城ごと吹っ飛ばしかねない。


愛用の土寄せ棒を手に廊下に出る。


僕はティアさまの部屋へと向かった―――――



ジャガイモ仲間の皆さんへ


日々お疲れ様です。

学生さんは春休みでしょうか?

新生活に向けて胸がおどりますね。

社会人の皆さんは日々お疲れ様です。

鬱々と過ごされている方も、このお話を読んで少しでも気を紛らわせていただけると幸いです。


さて、夢の中の皆さん、動いているのはハティとハルだけ。

どうなるのでしょうか?

次回はムフフな定番展開です…

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